創傷皮膚科学の樹立による褥瘡の病態解明と診療体系に関する研究

文献情報

文献番号
200821041A
報告書区分
総括
研究課題名
創傷皮膚科学の樹立による褥瘡の病態解明と診療体系に関する研究
課題番号
H19-長寿・一般-012
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
磯貝 善蔵(国立長寿医療センター 先端医療部・先端薬物療法科)
研究分担者(所属機関)
  • 石川  治(群馬大学大学院医学研究科)
  • 古田 勝経(国立長寿医療センター・薬剤部)
  • 米田 雅彦(愛知県立看護大学・栄養代謝学)
  • 渡辺 研(国立長寿医療センター・運動器疾患研究部)
  • 森 將晏(岡山県立大学・保健福祉学部)
  • 藤井 聡(名古屋市立大学大学院薬学研究科・病態解析学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
8,710,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
褥瘡の病因は圧迫による虚血性皮膚潰瘍と定義されるが、その臨床的病態は多様で複雑である。しかし既存の学問体系では褥瘡病態は解析が難しく、予防や治療の選択が困難であった。そこで褥瘡の詳細な臨床的所見を皮膚科学に基づいて記述する記載潰瘍学と創表面蛋白解析を組み合わせた創傷皮膚科学という新しい学問分野を樹立し、褥瘡の多様な病態を客観的に解析することを目的とした。
研究方法
各分担研究者が研究課題に対して適宜主任研究者と協議して研究を推進した。石川らは褥瘡臨床のデータベースを検討し、記載潰瘍学を修正するとともに褥瘡の部位による差異を検討した。創表面からの蛋白解析では渡辺、米田らが創面からの検体を用いて複数の創傷治癒関連分子の検出をおこなった。特に外用治療選択で重要な肉芽組織の水分量を調節する分子群と肉芽形成に重要なTGF-bの活性を制御する分子群に注目した。藤井は古田らが提唱してきた創傷における外用剤の薬理学の研究を製剤学的なアプローチからおこなった。さらに森の分担した病理学的研究においては褥瘡の臨床所見と表面蛋白解析の関連性を結びつける免疫組織化学的な研究をおこなうとともに、細胞分裂に注目した研究をおこなった。古田は上述した記載潰瘍学、創面蛋白解析を用いて外用薬を評価した。
結果と考察
記載皮膚科学に基づいて褥瘡臨床的所見を記述し、仙骨部と踵部の異なる病態を明らかにした。さらに浮腫性の肉芽組織のおける形態学的な所見との関連性を見出した。浮腫性肉芽ではTGF-b活性を制御する分子であるLTBP-1の断片が創表面から有意に検出され、肉芽形成過程でのTGF-bの細胞外マトリックスからの遊離が示された。一方、平坦で乾燥する肉芽組織では断片化されないファイブロネクチン分子が検出された。外用軟膏基剤の変更では臨床的な所見の変化とともに、ヒアルロン酸結合分子のパターンが変化することを見出した。これらから創面の臨床的評価と創傷治癒関連分子を組みあわせることによって褥瘡の多様性をより客観的に示すことができた。また薬理学的な見地から治療に用いられるヨード製剤の差異を科学的に証明した。褥瘡の多様性を解析し、病態に応じた医療と介護を提供するための学問的基盤が確立した。
結論
褥瘡の病態を記載潰瘍学と創表面蛋白解析を用いて解析し、代表的な病態を客観的に記述、分類できるようになり、創傷皮膚科学の基盤が完成した。

公開日・更新日

公開日
2017-10-03
更新日
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