全国調査に基づく高齢者骨折の発生及び治療実態に関する研究

文献情報

文献番号
200821024A
報告書区分
総括
研究課題名
全国調査に基づく高齢者骨折の発生及び治療実態に関する研究
課題番号
H18-長寿・一般-036
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
萩野 浩(社団法人日本整形外科学会 骨粗鬆症委員会)
研究分担者(所属機関)
  • 阪本桂造(昭和大学医学部)
  • 遠藤直人(新潟大学医学部)
  • 井樋栄二(東北大学医学部)
  • 原田 敦(国立長寿医療センター)
  • 中野哲雄(公立玉名中央病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
4,780,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における高齢者骨折の発生および治療状況を明らかとし、その予後、骨代謝異常を検討すること。
研究方法
1.大腿骨近位部骨折の治療状況調査:2007年1年間に受傷し、国内の整形外科関連施設(3,249施設)で加療を受けた大腿骨近位部骨折の全患者について調査した。

2.大腿骨近位部骨折の術前待機期間に影響する要因の検討:全国の800施設を対象に、最も術前待機期間に影響する要因についてアンケート調査を行い、待機期間に影響した具体的な要因をサンプリング調査した。

3.大腿骨近位部骨折の年齢階級別発生率調査:鳥取県内で2004-2006年に発生した大腿骨近位部骨折の全数調査を行い、性・年齢階級別および骨折型別の発生率を算出した。

4.脊椎・上肢骨折予後調査:全国の整形外科7施設を対象に、新規脊椎骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折例を対象に、受傷後1年時点での日常生活動作について調査した。

5.高齢骨折患者の骨代謝動態の検討:全国3地域で発生した65歳以上の新規骨折(大腿骨近位部骨折173例、脊椎骨折78例)を対象として、骨代謝を評価した。
結果と考察
1.62,890例の症例が登録され、男性では80-84歳が、女性では85-89歳が最も多かった。受傷原因は立った高さからの転倒が78.4%と大半を占め、屋内で受傷していた。術前平均待機期間は5.0日、初期治療施設の平均入院期間は42.3日で、両者には正の相関が見られた。

2.アンケート調査では81.6%より回答が得られ、術前待機期間に最も大きな影響を与える要因は、合併症のため、手術室が確保できない、麻酔医の都合の順で、サンプリング調査では3,005例が登録され、手術室の確保困難と麻酔医の都合がその理由に多かった。

3.発生率(/10万人・年)は85歳以上の男性が934、女性が2,444に達し、過去の調査に比較して有意な経年的上昇傾向が観察された。この発生率に基づくと、わが国で2007年1年間に約16万例の大腿骨近位部骨折が発生したと推計される。

4.脊椎圧迫骨折は97例、橈骨遠位端骨折は34例、上腕骨近位部骨折は41例が登録された。受傷12カ月後のADLがほぼ自立していたものはそれぞれ68%、83%、67%であった。

5.ビタミンDレベルは大腿骨近位部骨折および脊椎骨折症例で一般人口よりも低値であったが、地域差は明らかでなかった。尿中NTX 値はいずれの骨折例でも高値であった。
結論
わが国の高齢者骨折に関して、その発生頻度と経年推移、身体機能・生命予後、骨代謝異常、予防治療の実態が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2009-05-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200821024B
報告書区分
総合
研究課題名
全国調査に基づく高齢者骨折の発生及び治療実態に関する研究
課題番号
H18-長寿・一般-036
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
萩野 浩(社団法人日本整形外科学会 骨粗鬆症委員会)
研究分担者(所属機関)
  • 阪本桂造(昭和大学医学部)
  • 遠藤直人(新潟大学医学部)
  • 井樋栄二(東北大学医学部)
  • 中野哲雄(公立玉名中央病院)
  • 原田 敦(国立長寿医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者骨折の発生頻度、治療状況、予後、骨代謝異常、再骨折防止のための治療状況を明らかとすること。
研究方法
1.大腿骨近位部骨折(HF)の治療状況調査
調査対象期間に全国約3,500の骨折治療施設で加療を行った全骨折の登録を行った。

2.HFの術前待機期間に影響する要因の検討
全国の800施設を対象に、最も待機期間に影響する要因について調査を行った。

3.HF発生率調査
鳥取県内で全数調査を行い、性・年齢階級別発生率を明らかとした。

4.定点観測によるHF患者の長期予後調査
全国の定点観測施設で過去に登録された11,199例について、受傷後平均7年時点での調査を行った。

5.定点観測による脊椎・上肢骨折予後調査
全国の整形外科7施設を対象に、受傷後1年時点での日常生活動作について調査した。

6.高齢骨折患者の骨代謝動態の検討
65歳以上で発生した新規骨折を対象として、骨代謝動態を評価し全国地域別比較を行った。

7.骨折患者に対する再骨折予防の実態調査
全国の整形外科医2,157人へ、骨折後の患者に関する再骨折予防の現状について調査した。
結果と考察
1.35歳以上の153,807例の解析を行った。術前待機期間は平均 5.0日、入院期間は平均42.3日で、経年的に短縮していたが、都道府県によって異なり、両者には有意な正の相関を認めた。 入院日数(1999年→2007年)および術前待機期間(2003年→2007年)は経年的に短縮していた。

2.アンケート調査では合併症がある、手術室が確保できない、麻酔医の都合が術前待機期間延長の理由で、サンプリング調査では、手術室の確保が困難と麻酔医の都合がその理由として多かった。

3.発生率は85歳以上では男性が934、女性が2,444に達し(10万人・年)、過去の調査に比較して有意な経年的上昇傾向が観察された。

4.2,968例の解析の結果、43.5%が死亡し、生存者に占める非自立症例の割合は骨折後1年の時点に比べて22.4%増加していた。

5.脊椎骨折97例、橈骨遠位端骨折34例、上腕骨近位部骨折41例が登録され、受傷12カ月後のADLがほぼ自立していたものはそれぞれ68%、83%、67%であった。

6.ビタミンD値はHFおよび脊椎骨折で一般人口よりも低値であったが、地域差は明らかでなかった。尿中NTX 値はいずれの骨折例でも高値であった。

7.骨折後の骨粗鬆症治療薬の投与は50.7%で行っていた。
結論
わが国の高齢者骨折に関して、その発生頻度と経年推移、身体機能・生命予後、骨代謝異常、予防治療の実態が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2009-05-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200821024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国における大腿骨近位部骨折の10年間にわたる経年的な発生動態と予後が明らかとなった。このような長期間にわたる全国規模での調査はこれまで行われていないため、わが国におけるその実態が初めて明らかとなり、諸外国での現状との比較による治療上の問題点が判明した。また骨折に至る骨代謝動態の調査結果から、ビタミンD不足が背景にあることが、全国の異なる地域での同時比較から初めて明らかとなった。
臨床的観点からの成果
本研究結果から、まず高齢者骨折の予防のための対策として以下の点が判明した:1)屋内での立った高さからの転倒を防止する、2)ビタミンD不足が背景にある高齢者で骨折発生のリスクが高いため、その補充を行う。3)冬季に骨折発生が多く、その対策を行う。次に上肢や脊椎の骨粗鬆症関連骨折後の機能予後が明らかとなり、このうち脊椎骨折発生後の生活機能低下が上肢骨折に比較して大きいことが判明し、本骨折の予防が高齢者生活機能維持の上で重要であることが示された。
ガイドライン等の開発
本研究結果は大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン作成に寄与している。なかでも術前待機期間に関する全国調査の結果から、手術室使用の問題、麻酔の問題、合併症の問題、抗凝固療法の問題が存在することが示された。そこで同ガイドライン改訂に当たり、術前待機期間短縮を図るため、術前の待機期間に関するクリニカルクエスチョンが強化された。また、抗凝固療法実施例に対する対応が盛り込まれる予定である。
その他行政的観点からの成果
本研究によって大腿骨近位部骨折の発生・治療状況、また年齢階級別発生率が明らかとされ、その経年的推移の詳細が示された。その結果、今後わが国で発生する本骨折の発生数予測や治療費概算が可能となり、高齢者骨折に対する施策に資する。また、欧米に比べてわが国では大腿骨近位部骨折例の入院期間が長期に及ぶが、その一因として長い術前待機期間がある。本研究ではわが国における術前待機期間に及ぼす要因が明らかとなり、その対策を明らかとすることで、入院期間短縮を図るための施策に資する。
その他のインパクト
新聞報道:2008年11月23日付 徳島新聞、2008年11月24日付 神奈川新聞、2008年11月26日付 埼玉新聞、2008年11月30日付 千葉日報、2008年11月29日付 下野新聞、2008年12月1日付 河北新聞、2008年12月2日付 佐賀新聞、2008年12月3日付 四国新聞、2008年12月5日付 静岡新聞、2008年12月5日付 南日本新聞、2008年12月9日付 山形新聞、2008年12月18日付 沖縄タイムズ、2008年12月19日付 高知新聞

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sakamoto K, Nakamura T, Hagino H, et al
Japanese Orthopaedic Association's 3-year project observing hip fractures at fixed-point hospitals
J Orthop Sci , 11 , 127-137  (2006)
原著論文2
Hagino H, Furukawa K, Fujiwara S,et al
Recent trends in the incidence and lifetime risk of hip fracture in Tottori, Japan
Osteoporos Int , 20 , 543-548  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-