国民一般に対する医薬品の適正使用の普及啓発に関する研究

文献情報

文献番号
199700463A
報告書区分
総括
研究課題名
国民一般に対する医薬品の適正使用の普及啓発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 幹夫(千葉大学薬学部名誉教授)
研究分担者(所属機関)
  • 望月真弓(千葉大学大学院薬学研究科助教授)
  • 大森栄(千葉大学医学部附属病院薬剤部副部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の適正使用の実現は、医療関係者や企業の努力のみで実現できず、患者側の医薬品の本質や危険性一般についての基本的理解や、患者側の医薬品に関する正確な理解に基づく服用遵守を含めた患者と医療関係者との連携確立等が最終的な治療の成否への鍵を握っていると考えている。また、「医者からもらった薬がわかる本」のベストセラー化等に見られるように、患者側に医薬品の内容を知り、正しく安全な使用をしたいという要望があることを物語っている。さらに、患者が求める医薬品情報の検索作業はすでに開始されているものの、これを更に拡大し、情報を集め、伝達システムを構築しようとする研究はスタート地点にたったばかりである。これらの背景を踏まえ、本研究では、国民一般が納得のうえ薬物療法を受けるために必要な知識を得るため、国民一般が活用できる必要な資材等の開発、その内容や国民一般への普及等の在り方を検討することにより、国民一般の医療への主体的、積極的な参加に資することを目的とした。
研究方法
1.平成8年度で収集したアンケート調査結果のさらに詳細な解析を行い、各施設または団体から得られた患者向け情報提供のための成果物について内容を検討した。2.千葉大学1・2年生230名を対象に医薬品に対する知識ならびにイメージ、提供手段等に関するアンケート調査を実施した。3.上記2にて実施したアンケート結果を集計・解析した。4.以上を進める上で、都合4回の会議を実施した。
結果と考察
平成9年度には平成8年度に実施した各医療機関や薬剤師関連職能団体、製薬企業からの患者に対する情報提供に関するアンケート結果をさらに詳細に解析した。その結果、患者教室については、糖尿病教室が最も多く、病院薬局73施設のうち60施設が実施していた。続いて、喘息教室が多く11施設、循環器疾患(高血圧、心臓病等)が6施設の順であった。そのほか、腰痛、腎移植、肝臓病、透析など慢性疾患の教室が1~2施設ずつあった。お薬相談コーナー等は、病院薬局では73施設中57施設、保険薬局では15施設中14施設が設置していると回答しており、どちらも高い設置率であった。
また、薬剤師会として2箇所が設置していた。患者を意識した情報提供においてパソコン通信を利用して行っているとした施設または団体は12.3%であり、今後の進展が待たれる状況にあった。このような電子媒体を使用した活動をしていない理由は、予算面と時間的余裕の面の2つが主な意見としてあげられていた。この他の情報提供手段としては、患者向け冊子、糖尿病薬、喘息用吸入薬等の使い方に特に注意を要する医薬品の個別使用説明書などが主なものであった。以上より昨年の結果も併せて勘案すると患者向けの情報提供については、各医療機関、団体、企業もかなり努力をしており、充実した活動がなされていると考えられた。問題は、患者として医療機関から医薬品の情報を入手することのない、国民一般が医薬品についてどの程度の知識を有し、また、どこから得ているかである。これについて、千葉大学の薬学部、工学部、理学部、教育学部、法経学部、園芸学部、文学部、看護学部の1・2年生230名を対象に医薬品に関する一般的知識、およびイメージ、情報の入手先などに関するアンケート調査を行った。その結果、高校までの教育で医薬品について学んだという意識を持っている学生は極めて少なく10%にすぎなかった。また、医薬品の情報源としては、テレビが最も多く42%、続いて新聞が36%、医師が35%、書籍が30%、薬剤師が26%であった。薬について知りたいこととしては、副作用が最も多く約80%にものぼった。効果、飲み合わせも70%であった。今後の医薬品情報の提供手段としてよいと考えているものとしては、テレビが70%、続いて医薬品に対するイメージは、病気を治すために役立っているとする反面、薬はできるだけ使わない方がよいとする回答がほぼ同数、約70%ずつ存在した。副作用がこわいとする回答は25%であった。今回の結果から、本人が病気を有しない場合、国民一般の医薬品の適正使用に関する知識の向上は、テレビ、新聞等のメディアを使用することが効率的であること、最近ではインターネットも有用な手段であることが分かった。数年前から、高校の保健体育の教科書に医薬品に関する項が設けられたが、これについては十分な成果がでているとは評価できなかった。薬はできるだけ使わない方がよいというような先入観が一般に存在し、必要時に必要量を使用することの意味を啓発することも重要であると考えられた。また、副作用がこわいとしている学生も1/4ほど存在し、この点も含めて、薬は正しく使うことにより、より大きな恩恵が得られることも説明していく必要があると思われた。なお、医療従事者間では常識となっている、食後、食間、食前、頓服などの用語について正しく理解されていた学生は半数にも満たず、このような用語を医薬品の交付時に使用していくことの是非についても考える必要がある。
結論
国民一般に対する医薬品の適正使用の普及啓発においては、自身が患者として医療機関を受診している場合、自身の薬についての知識は、病院薬局、保険薬局などから入手できる用意が十分になされている。しかし、自身が健康であり薬を使用する必要性のない場合には、テレビなどの媒体によって提供される情報に限定される。したがって、このような媒体を通じて正しい薬の知識を得てもらえるよう工夫することは極めて重要であるが、最近ではインターネットの急速な普及もあり、手元に残せる情報としてこれらの活用も考えていくべきである。なお、薬の使い方に関する医療用語を患者に分かりやすい表現に変える必要性もある。

公開日・更新日

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