ヒトにおける薬物間相互作用の予測に関する研究

文献情報

文献番号
199700462A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトにおける薬物間相互作用の予測に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 寛(千葉大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山雄一(東京大学薬学部)
  • 澤田康文(九州大学薬学部)
  • 東純一(大阪大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
実験動物とヒトの間には種差が存在し、動物実験で得られた結果は必ずしもヒトにおける結果を必ずしも反映しない事がある。薬物相互作用もその例外ではなく、ヒトにおける薬物相互作用を予測するためヒトの組織またはヒト酵素・受容体などを異種細胞に発現させた系が必要であることが認識されつつつある。本研究では、ヒトにおける薬物相互作用を予測するためヒト肝ガン由来細胞株であるFLC細胞、ヒト肝ミクロソーム、アフリカツメガエル卵母細胞、尿中の6β-水酸化コルチゾール/コルチゾール比等を用い、1)CYP1Aの誘導、2)mechanism-based inhibitionの定量的予測、3)ニューキノロン系抗菌剤と非ステロイド性抗炎症剤の相互作用、4)in vivoにおけるCYP3Aの誘導と阻害の評価等について検討を行った。
研究方法
1)ヒト肝ガン由来細胞株であるFLC細胞およびHepG2細胞を一定の細胞密度で播種し、24時間培養した。その後、培地中にプロトンポンプ阻害薬を添加し、一定時間後に酵素活性、タンパク量およびmRNA量を測定した。酵素活性はCYP1Aの指標であるethoxyresorufin O-deethylation (EROD) 活性を測定し、CYP1A含量はイムノブロットにより測定した。また、 RT-PCR法によりβ-actin mRNAを内部標準としてmRNAの発現量を検討した。2)見かけ上の酵素不活化速度定数 (kobs)、ハイブリッドパラメーターである Kinact、K'appを算出するため、阻害剤 (erythromycin) の濃度を変化させヒト肝ミクロソームと erythromycin を適当な時間 preincubation した後、triazolamを加え反応初速度を測定した。個々の阻害剤濃度存在下においてkobs を求め、ここで得られた kobs の値と阻害剤初濃度から最大値(Kinact) および K'app を求めた。次に、生理学的薬物速度論モデルに基づいて、triazolam およびerythromycin についてのmass-balance 式をたて体内動態パラメータの報告値と in vitro 試験で得られた Kinact および K'app の値によりerythromycin の血中濃度、活性型酵素量 (Eact)、および triazolam の血中濃度の経時変化のシミュレーションを行った。3)GABAA 受容体介在性応答に対するニューキノロン系抗菌剤であるエノキサシン (ENX) と非ステロイド性抗炎症剤であるフェルビナク (FLB) との抑制作用を動物種間において比較検討を行った。マウス、ラット、ウサギ、イヌおよびサルの脳より抽出した mRNA をそれぞれアフリカツメガエル卵母細胞に注入し、ENX と FLB の存在、非存在下における GABA 誘発電流を膜電位固定により記録した。4)健常成人志願者を対象にCYP3A4を誘導又は阻害する薬物を投与しその際の尿中6β-水酸化コルチゾール/コルチゾール比を HPLCで測定した。また、リファンピシンとイソニアジドを併用している結核患者112名を対象に肝機能異常の出現と NAT-2 遺伝子多型の関係を検討した。
結果と考察
1)オメプラゾール (OM)およびランソプラゾール (LAN) に関しては、濃度依存的なEROD活性の上昇が認められたが、パントプラゾール (PAN) に関しては、EROD活性の上昇はわずかであった。また、OMおよびLANの暴露によりCYP1A1含量の増加がみられたが、PANの暴露によるCYP1A1含量の増加は極めて低いものであった。さらに、OMおよびLANの暴露によりCYP1A1 mRNAは著しく増加した。これに対し、PANの暴露によるCYP1A2 mRNAの誘導は低いものであった。CYP1B1 mRNAに関しては、プロトンポンプ阻害薬による増加は最も高い細胞株であっても4倍程度であった。
OMおよびLANは、ヒトin vivoにおいてCYP1Aを誘導することが報告されており、今回得られたin vitroでの結果は、ヒトin vivoでの知見とよく一致した。一方、PANによるEROD活性、CYP1A1含量およびCYP1A1 mRNA量の増加はOMおよびLANに比較して低いことより、PANによるCYP1A1の誘導作用はOMおよびLANに比較して低いことが示唆された。PANについては、ヒトのin vivoにおいてCYP1Aの誘導が若干認められるものの、極めて低いことが報告されている。今回のin vitroでの結果は、EROD活性およびCYP1A1タンパク含量の変動は極めて低く、mRNAの増加も少ないことを示しており、in vivoでの知見を裏付けるものであった。
2)Triazolam のα-および 4-水酸化代謝ともに erythromycin 濃度および preincubation 時間に依存した阻害の増強が観察された。得られたkinact とK'appと他の mechanism-based inhibitor についての報告値を比較した結果、erythromycin の K'app はmechanism-based inhibitor として比較的よく知られている furafylline と同程度であるが、Kinact は 1 order 低い値を示し、弱い inhibitor であることが明らかとなった。一方、生理学的速度論からの解析ではerythromycin の投与に従い、活性型酵素量は次第に減少していくこと、そして、triazolam を投与すると erythromycin を投与していない control と比較して、血中からの消失に遅延が認められ、AUC は約 1.8 倍に増加する事が示された。
In vivoでerythromycin をtriazolamを併称した際の triazolam AUC 上昇率は 約2 倍と報告されていることから、本研究で得られた1.8 倍の予測値と比較的良く一致している。この事から、少なくともerythromycin - triazolam の相互作用に関しては、本方法により in vivo での AUC 上昇率の定量的な予測が可能であることが明らかとなった。
3)10 mM のENX は GABA 応答を濃度依存的に抑制し、さらに、10 mM のFLB はENX による抑制作用を増強した。一方、ENX 非存在下において FLB はGABA 応答を変化させなかった。これらの結果は in vivo における ENX と FLB との相互作用による毒性作用発現の様相と良く一致し、アフリカツメガエル卵母細胞を用いた in vitro 系が毒性作用の比較検討に有用であることを示していると考えられた。
4)CYP3A4の誘導剤の投与により、尿中の6β-水酸化コルチゾール/コルチゾール比は有意な増加を示し逆に阻害剤の投与によりこの値は有意な低下を示した。これらの結果より尿中の6β-水酸化コルチゾール/コルチゾール比はCYP3A4のin vivoにおける有用な指標になるものと考えられた。一方、結核患者におけるリファンピシンとイソニアジドの併用において認められる肝機能異常の出現と NAT-2 遺伝子多型には明らかな相関関係が認められたことより、NAT-2 遺伝子の解析が肝障害の予防に有用である可能性が示唆された。
結論
1)ヒト肝癌由来細胞株であるFLC細胞およびHepG2細胞を用い、プロトンポンプ阻害薬であるOM、LANおよびPANの酵素誘導作用を比較した。その結果、CYP1A1の誘導作用は酵素活性、タンパク含量およびmRNAのいずれに関してもPANはOMおよびLANに比較して低いことが示唆された。この結果はin vivoで報告されている知見と一致しており、これらの細胞株がヒトにおけるCYP1Aの誘導を評価するうえで有用なin vitro評価系である可能性が示唆された。
2)今回示した方法論により、mechanism-based inhibition の場合について、in vitro 試験から in vivo の相互作用の予測が可能であることが示唆された。
3)アフリカツメガエル卵母細胞を用いた in vitro 系はニューキノロン系抗菌剤と非ステロイド性抗炎症剤との薬物相互作用の検討に有用であることが示された。
4)CYP3A4を誘導または阻害する薬物の投与により尿中の6β-水酸化コルチゾール/コルチゾール比はin vivoにおけるCYP3A4の指標として、NAT-2 の遺伝子解析がリファンピシンとイソニアジドの併用患者における肝機能異常の予防に有用となる可能性が示された。

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