超低出生体重児の慢性肺疾患発症予防のためのフルチカゾン吸入に関する臨床研究

文献情報

文献番号
200818001A
報告書区分
総括
研究課題名
超低出生体重児の慢性肺疾患発症予防のためのフルチカゾン吸入に関する臨床研究
課題番号
H18-小児・一般-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学総合医療センター 小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 平野 慎也(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 中山 雅弘(大阪府立母子保健総合医療センター 周産期病理学)
  • 中村 友彦(長野県立こども病院総合周産期母子医療センター)
  • 森 臨太郎(大阪府立母子保健総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究・予防・治療技術開発研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
29,990,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ステロイド吸入によるCLD発症予防効果と安全性をRCTで検証し、疫学調査と胎盤病理と動物実験とシステマテイックレビューに基づいてCLDの予防・治療ガイドラインを提言する。
研究方法
A.全国265NICU施設に調査用紙を郵送し、1995年・2000年度出生児調査と比較検討。
B.東京女子医大/埼玉医科大学総合医療センターNICUのCLD児の予後を検討。
C. 25NICU施設にてフルチカゾン吸入多施設ランダム化二重盲検比較試験を実施。
D.早産胎盤の中でCAMを合併した20症例の胎盤と臍帯の病理学検討。
E.妊娠ラットの羊膜腔内に大腸菌由来リポ多糖を注射し絨毛羊膜炎モデル作成。
結果と考察
A. CLD発症率の上昇と発生頻度の施設間較差が認められた。3回の国際蘇生法連絡委員会新生児部会と国際ワークショップにて研究成果を報告し、新生児蘇生では低めの吸入酸素濃度を用いるという国際的なコンセンサス形成に貢献した。
B. CLDあり児は、呼吸器合併症だけではなく、MRやADHDなどの神経障害が多く、総合発達評価でも異常を示す傾向があった。
C.最終登録数は288例、エントリー数は211例であった。治療群には107例、対照群には104例が割り付けられ、両群の背景では在胎期間、RDSの発症頻度に差はなかった。現在outcomeをフォローアップ中である。
D. CLD児の臍帯血で認められる高IgMの標的分子がAnnexin A2であり, IgM抗体が線溶系を傷害することが示された。
E.出生後0、7、14日で、各種臓器を病理学的に検討した。ヒトPVLに類似した大脳白質病変を作成することができ、CLD児の発達障害が胎児期の炎症に起因することが示された。
F.上記結果とシステマティックレビューからCLD予防・治療GL案を作成した。
結論
胎盤病理検査と動物実験より子宮内感染症がCLD発症の重要な因子であることが判明した。神経障害も子宮内感染症が関与している事が示されたので妊娠分娩管理が重要と考えられる。疫学調査・胎盤病理・動物実験結果とシステマティックレビューを踏まえたCLD予防・治療ガイドライン試案に、フルチカゾンRCTの解析結果が加われば完成度が高まると期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-11-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200818001B
報告書区分
総合
研究課題名
超低出生体重児の慢性肺疾患発症予防のためのフルチカゾン吸入に関する臨床研究
課題番号
H18-小児・一般-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学総合医療センター 小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 平野 慎也(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 中山 雅弘(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 中村 友彦(長野県立こども病院総合周産期母子医療センター)
  • 森 臨太郎(大阪府立母子保健総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究・予防・治療技術開発研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ステロイド吸入による慢性肺疾患(CLD)発症予防効果と安全性を多施設共同試験で実証するとともに、疫学調査と胎盤病理研究と動物実験とシステマテイックレビューに基づいてCLDの発症予防・早期治療法を提言する。
研究方法
A.全国265施設のNICU代表に調査用紙を郵送し、1995年・2000年度出生児調査と比較検討
B.2000年出生児のCLD全国調査と3歳時と6歳時予後全国調査のデータベースを結合しCLDを合併したELBWの長期予後を分析
C.Neonatal Research Network JAPAN(NRN)を母体としてCLD発症予防のためのステロイド吸入RCTを開始
D. NRNの有用性の検証
E.RCT参加症例の胎盤の病理学的検討
F.妊娠ラットの胎児の腹腔中へLPS注入してCLDモデル作成
G.疫学調査・胎盤病理検査・動物実験の結果とシステマテイックレビューからCLD予防・治療GL案を検討
結果と考察
A.1995、2000、2005年のCLD発生状況と関連因子の全国調査で、700g未満のELBWや早産の生存例が増加によるCLD発症率の上昇を認めた。出生前ステロイドとnCPAPと吸入ステロイドはCLD減少の因子で、SPO2の目標値/アラーム設定高値は増加因子であった。子宮内感染症などの炎症による早産児での発症率が増加した。
B. ELBWの3歳時の発達評価では、CLDあり児は、反復性呼吸器疾患、気管支喘息、在宅酸素療法、脳性麻痺、視力障害、聴力障害の頻度が高かった。CLDではCPなどの運動障害よりもMRやADHDなどの問題を見る症例が多く、より年長になって遅れが目立った。
C.D. NRNのインターネット上に構築された24時間稼働の無人運転によるデータセンターシステムの有用性が実証され、このシステムを使用してRCTを開始し平成21年3月末現在162症例(目標の81%)が登録された。
E. CAMとCLDの関連性、CLD児の高IgMの標的分子がAnnexin A2であり、患者のIgM抗体が線溶系を傷害し、Ureaplasmaは胎盤におけるCAMと密接に関連し特徴的な二層性パターンの病理所見を呈すること等を世界で初めて示した。
F.妊娠ラットの胎児の腹腔中にLPSを注入してCLDモデルの作成に成功した。
G.疫学調査・胎盤病理検査・動物実験の結果と文献のシステマテイックレビューからCLD予防・治療GL試案を作成した。
結論
疫学的研究と胎盤病理研究とモデル動物実験とシステマティックレビューからCLD予防・治療GL試案を作成した。今後、フルチカゾン吸入RCTの完了を待って完成させたい。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200818001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)研究目的の成果:本研究にて成功した慢性肺疾患動物モデルは慢性肺疾患の防止策や治療薬の開発に貢献できる。
(2)国際的・社会的意義:CAMと慢性肺疾患の関連性、CLD児の高IgMの標的分子がAnnexin A2であり、患者のIgM抗体が線溶系を傷害し、Ureaplasmaは胎盤におけるCAMと密接に関連し特徴的な二層性パターンの病理所見を呈すること等を世界で初めて示した。
臨床的観点からの成果
(1)我が国では人工呼吸中の肺保護戦略の普及にもかかわらず2005年出生児ではCLD発症は1995, 2000年の調査に比較して減少していない事が判明した。慢性肺疾患予防・治療ガイドラインを活用すれば慢性肺疾患の減少・軽症化が期待される。
(2)NRNの24時間稼働の無人データセンターシステムが、各臨床サイトのインターネット接続環境やコンピュータシステムの多様性にもかかわらず実用可能であることが実証されたので、今後の多施設共同ランダム比較試験の推進に貢献できる。
ガイドライン等の開発
疫学的研究と胎盤病理研究とモデル動物実験とシステマティックレビューから慢性肺疾患の予防と治療ガイドライン試案を作成した。今後、フルチカゾン吸入RCTの完了を待って完成予定である。
その他行政的観点からの成果
現時点では無し。
その他のインパクト
以下の3回の公開シンポジウムを開催した。
1.「慢性肺障害児に対する人工呼吸器のモード」 第9回新生児呼吸療法モニタリングフォーラム 2007年2月21日 大町市 参加者670名
2.「CLDをどう予防、治療するか?」第10回新生児呼吸療法モニタリングフォーラム 2008年2月22日 大町市 参加者720名
3.「CLD分類に関する国際ワークショップ」「高頻度振動換気法開発の歴史」第11回新生児呼吸療法モニタリングフォーラム 2009年2月19日 大町市 参加者790名

発表件数

原著論文(和文)
56件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
31件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
シンポジウム名 1.「慢性肺障害児に対する人工呼吸器のモード」 2.「CLDをどう予防、治療するか?」 3.「CLD分類に関する国際ワークショップ」「高頻度振動換気法開発の歴史」

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shoichi Ezaki, Keiji Suzuki, Masanori Tamura,et al.
Resuscitation of Preterm Infants with Reduced Oxygen Results in Less Oxidative Stress than Resuscitation with 100% Oxygen
Journal of Clinical Biochemistry & Nutrition , 44 , 1-8  (2009)
原著論文2
田村正徳
出生前診断された高度な肺低形成を伴う横隔膜ヘルニアの出生前後ノプロトコールとその問題点
日本小児外科学会雑誌 , 44 (4) , 646-647  (2008)
原著論文3
Ezaki S, Ito T,Tamura M,et al.
Association between Total Antioxidant Capacity in Breast Milk and Postnatal Age in Days in Premature Infants
Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition , 42 (2) , 133-137  (2008)
原著論文4
江崎勝一、三浦真澄、田村正徳、他
新生児心肺蘇生法における酸素投与の功罪-酸素投与に対する抗酸化力とフリーラジカルへの影響
日本周産期・新生児学会周産期シンポジウム , 24 , 27-32  (2006)
原著論文5
Wakabayashi T, Tamura M, Nakamura T.
Partial Liquid Ventilation with Low-Dose Perfluorochemical and High-Frequency Oscillation Improves Oxygenation and Lung Compliance in a Rabbit Model of Surfactant Depletion.
Bio Neonate , 89 , 177-182  (2006)
原著論文6
広間武彦、中村友彦、木原秀樹、他
「NICUにおける呼吸療法ガイドライン」作成のためのアンケート調査結果
日本未熟児新生児学会雑誌 , 18 , 61-66  (2006)
原著論文7
木原秀樹、中村友彦、広間武彦
ポジショニングが早産児の睡眠覚醒状態や脳波に及ぼす影響
日本周産期新生児医学会雑誌  , 42 , 40-44  (2006)
原著論文8
木原秀樹、中村友彦、広間武彦
無気肺に対して気管支洗浄に積極的な呼吸理学療法を施行した早産児3例とECMO療法中の3例
日本未熟児新生児学会雑誌 , 18 , 59-64  (2006)
原著論文9
Hiroma T, Baba A, Nakamura T,et al.
Liquid Incubator with Perfluorochemical for Extremely Premature Infants.
Bio Neonate , 90 , 162-167  (2006)
原著論文10
木原秀樹、中村友彦、広間武彦
NICUにおける呼気圧迫法(squeezing)による呼吸理学療法の有効性と安全性の検討
日本周産期新生児医学会誌 , 42 , 620-625  (2006)
原著論文11
Nakata S, Yasui K, Nakamura T,et al.
suppresses lipopolysaccharide and alpha-toxin-induced interleukin-8 release from alveolar epithelial cells.
Neonatology , 91 , 127-133  (2007)
原著論文12
Naito S, Hiroma T, Nakamura T.
Continuous negative extrathoracic pressure combined with high-frequency oscillation improves oxygenation with less impact on blood pressure than high-frequency oscillation alone in rabbit model of surfactant depletion.
BioMedical Engineering OnLine , 6 , 40-  (2007)
原著論文13
Babasono A, Kitajima H, Nakamura T,et al.
Risk facotors for nasocomial infection in the neonatal intensive care unit by Japanese nosocomical infecton surveillance.
Acta Med Okayama , 62 , 261-268  (2008)
原著論文14
木原秀樹、中村友彦、廣間武彦、他
NICUにおける呼吸理学療法の有効性と安全性に関する全国調査の結果―第2報―
日本未熟児新生児学会雑誌 , 21 , 57-64  (2009)
原著論文15
Mori R, Fujimura M, Shiraishi J,et al.
Duration of inter-facility neonatal transport and neonatal mortality
asystematic review and a cohort study. Pediatrics International , 49 (4) , 452-458  (2007)
原著論文16
森 臨太郎
新生児心肺蘇生法における根拠に基づく医療の有用性と限界
周産期医学 , 37 (2) , 203-207  (2007)
原著論文17
Kenyon S, Ullman R, Mori R,et al.
Care of healthy women and theirbabies during childbirth: summary of NICE Guidance.
BMJ , 335 , 667-668  (2007)
原著論文18
Mori R, Shiraishi J, Negishi H,et al.
Predictive value of Apgarscore in infants with very low birth weight.
Acta Paediatrica , 97 (6) , 720-723  (2008)
原著論文19
平野慎也、藤村正哲、楠田 聡、他
超低出生体重児の脳室内出血および動脈管開存症の発症予防(ランダム化比較試験)
日本小児臨床薬理学会雑誌 , 20 (1) , 98-102  (2007)
原著論文20
南宏尚
超低出生体重児における新生児慢性肺疾患は減っていない-何が問題なのか?
近畿新生児研究会会誌 , 17 , 1-4  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-