医薬品・副作用用語の国際的統一に関する研究

文献情報

文献番号
199700461A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品・副作用用語の国際的統一に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
本間 光夫(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各国各組織間における医薬品情報の交換には関連用語の統一が不可欠であることから、平成6年ICH(日米欧3極医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議)運営委員会で国際間共通の医薬規制用語集であるMedDRAの作成が採択された。平成9年最終合意に達し、5階層構造を有する「MedDRA2.0版」が完成した。MedDRAの使用言語は英語であることから、国内での利用のため、日本語版の作成が急がれた。厚生省と日本製薬工業協会より要請を受け、(財)日本公定書協会が作成した日本語版原案について、翻訳の正確性、妥当性を検討、評価し、その活用の具体的方法と問題を提案することを目的とする。
研究方法
1.各階層用語48,281語につき、(財)日本公定書協会に設置された専門家29名より成る「MedDRA用語検討委員会」の作成した日本語版原案の日本語訳を検討、評価した。2.訳語が2つ以上あって意味が同じものについては、5階層上下の関連から最も適切な1語に限って選ぶことにした。3.同じ用語、同義語の場合は、それぞれの専門領域で汎用性の高い用語を選ぶことにした。4.基礎領域で使用される用語より、臨床用語を優先することにした。5.カタカナ表記の末尾の表音、人名や地名のカタカナ表記、(~症)、(~性)、(~法)などの使い方は医学用語辞典、各専門学会用語辞典、ICD-9に拠することにした。6.英語に付記されている[NOS]、[NEC]はそのまま訳語に付記することにした。7.GOT(AST)、GPT(ALT)など英語版に略語が使用されていて、日本語でも同じ略語が使用されているときは、英語の略語を使用することにした。日本で略語の形で使用されていないものは、原語を翻訳することにした。8.ローマ数字は原則として使用せず、アラビア数字または漢字数字を使用することにした。9.訳語は簡潔、的確を心がけ、格助詞、接続詞、副助詞は可能な限り使用しないことにした。10.MedDRA英語版に必要と思われる病気、重要と考えられる症状が欠落していても、また英語に相当する適切な日本語がない場合でも、英語版の加筆削除は行わず、英語による原語に死語はつくらないことにした。11.英語表現の違いをすべて異なる日本語で表現するよう努めたが、実臨床面では必ずしも使い分けされておらず、同一の日本語訳も存在させることにした。12.意味不明の用語は選び出し、日本語版の維持・管理組織を通して国際維持・管理組織に問い合わせることにした。
結果と考察
1.MedDRAの用語48,281語について、汎用されている専門用語(日本語)に翻訳した。2.基本語(PT)は英語の原語に対応した単一の適切な日本語を可能な限り使用できた。3.下層語(LLT)に使用されている英語は多岐にわたり、それぞれの違いをすべて異なる日本語で表現することは出来ず、同一の日本語訳も存在している。4.いくつかの基本語はその上位語に使用されている英語に違いがあっても、日本語の訳語は同一の用語にしなければならないものがあった。5.基本語の用語が異なった英語を使用しているのに、対応する下層語の日本語が同じものがあり、下層語からリンクしている基本語をえらぶのに問題を生じる恐れがあり、この点も含め、MedDRAの利活用を図るためには説明書が必要となる。6.基本語は異なる用語であっても、それぞれにリンクする下層語の日本語訳がほぼ同じものがあった。
医薬品の安全性を確保するため、世界規模での多数の規制当局間、各製薬企業間、および規制当局と企業間との情報交換の必要性が認識されてきた。製薬企業は実地医家、医療従事者から副作用と疑われる症例の報告を受け、それらを各必要機関に伝達するが、国内、国際データベースに副作用の疑いのものでもそのまま額面通りに入力されてしまう。データベースは、さらに治験、市販後調査、安全性定期報告、副作用モニター報告などで対象母集団にも違いがある。その結果対象患者の複雑な背景因子の影響も加わり、紙による情報伝達は速度、精度の面から限界に達し、直接データベースでの伝達を可能にする電子伝達の要求が高まってきた。電子伝達は、構造化されたデータが重要で、それには、所定のデータベースと規制用語が必須条件となる。データは報告者の使用用語を尊重して入力するため、使用用語が共通の標準化されたものでなければ、効果的な情報交換の確保はむずかしい。医学用語は、これまで疾病用語集と薬物有害反応(副作用)用語集とに分かれていた。しかし、これを一本化し、単一の医学用語集が開発されることになった。1989年英国医薬品庁が副作用オンライン情報システムの開発に着手した。これには階層性多軸構造で医薬品規制すべてに関係する医学用語集が必要とされた。3年間の使用経験により、医薬品規制の国際用語集のベースになり得ることが分かった。この用語集の検討のためにパソコン版としたものがMEDDRAと呼ばれた。それぞれの国で使用されてきた独自の副作用用語を組み入れて作成したものをMedDRAと名称を変更し、辞典として1本化された。我国ではこの辞典を使用して、?市販後調査副作用報告?治験の副作用報告?安全性定期報告?添付文書の副作用用語?厚生省への申請資料の作成に利用されるものと考えられる。MedDRAは、国際社会における各組織間の医薬品情報を迅速に精度よく効率的に交換することを可能とするものであり、厚生省の指導の下、その普及が望まれる。正しく使用するために、全基本語は実用的で国際的に合意された定義に基づき使用される必要がある。
結論
医薬品の安全性、有効性を確保するためには得られた情報の評価、解析、提供が必要である。これを国際的に展開するためには、情報そのものはもとより、これを評価し解析した結果を迅速、正確に交換・提供する手段・方法が必要不可欠である。その意味で、平成6年ICH運営委員会において、国際間共通のMedDRAの作成が採択されたことは、医薬品が国際流通する今日、的を得たものである。しかしながら、MedDRAは英語であり、日本を含めた世界の各国・各企業間の迅速、高精度の情報交換には日本語の翻訳版が必要である。そのため今回MedDRA日本語版の作成を行った。これにより前記の目的達成に支障はなくなったわけであるが、今後はMedDRAの日本国内での普及が望まれるところである。益々国際化する医薬品業界にあって、その有力な武器の一つであるMedDRAが利活用されることを期待したい。

公開日・更新日

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