高齢者への薬剤情報提供の推進に関する研究

文献情報

文献番号
199700460A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者への薬剤情報提供の推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
上田 慶二(東京都多摩老人医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 内山充(薬剤師研修センター)
  • 三宅浩之(日本医薬情報センター)
  • 漆畑稔(日本薬剤師会)
  • 糸井欣三(東京都老人医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品を適正に使用して安全に所期の目的を達するには、患者に医薬品の情報を的確に提供し、理解を図ることが重要である。また高齢者においては多疾患の合併により複数の医療機関を同時に受診したり、多剤を併用したりすることが多く、薬歴の管理が必要であるので、「お薬手帳」を用いていかにして高齢者に理解しうるようなお薬の情報を提供するべきであるかを検討するとともに、「健康手帳」と併用する方策についても検討することを目的とした。
研究方法
本研究班の5名の委員及び若干名の協力者は、厚生省医薬安全対策課職員とともに、平成9年10月13日、同年12月15日および平成10年3月30日に研究班会議を開催し、研究方法ならびに成績の検討を行った。主な研究成績は、高齢患者へ提供する情報のあり方に関する研究および「お薬手帳」の利用状況の調査、「お薬手帳」と「健康手帳」の併用状況の調査であり、モデル手帳およびモデルビニールケースはそれぞれ1万4000部作成して試用した。
結果と考察
高齢患者へ提供する情報のあり方に関する研究として、高齢患者には簡潔、かつ平易な用語による医薬品の情報提供が必要であるので、東京都多摩老人医療センターにおいて薬剤科と診療科担当医師が協議し、890品目についての説明文書を作成した。診療上医師の診察時の薬物療法についての説明と調剤薬局薬剤師による解説との間に整合性がある必要があり、医薬品の説明文書の作成に当り、医師と薬剤師の協議が必要であると考えられた。高齢者において頻用される抗がん薬、向精神薬、プラセボは、その説明文のあり方について特に医師と薬剤師の協議が重要な医薬品と思われるのでその文例を作成した。また、「お薬手帳」の利用状況の調査としては、本研究班においてサンプルとなる「お薬手帳(B6版)」(平成8年度本研究において使用したものと同一品)を作成し、(社)日本薬剤師会を通じて11の市町の調剤薬局へ配付し、試用した。また東京都多摩老人医療センターにおいても継続して「お薬手帳」の試用を続けた。(社)福井県薬剤師会による調剤薬局のアンケート調査によると、アンケート回答は50薬局より回収され、504例の試用例についての反応や感想が示されたが、大部分の例において喜ばれており、福井医科大学の医師からも賛成の意見が寄せられている。東京都多摩老人医療センター医師に対するアンケート調査において外来を担当している医師34名についての調査では、外来診療時に「お薬手帳」が役立つとする意見が81%を占め、その理由として他の医療機関での処方内容が分かること、重複投与の防止が出来ること、副作用の防止が出来ることや薬効、副作用や注意すべきことのコメントが記入出来ることなどが挙げられていた。以上より「お薬手帳」の利用が医薬品の適正使用に役立っていることが示された。「お薬手帳」と「健康手帳」の併用の状況については、東京都多摩老人医療センター外来例における併用状況の調査を行い、健康保険の規定により「健康手帳」に処方した医薬品の名称と用法・用量の記入による診療報酬が設定されたが、日常診療上「健康手帳」がどのように活用されているかを調査した。70歳以上の210例の外来患者の調査では外来診療時に健康手帳を持参した例は24.29%であり、そのうち健康手帳に処方を記載している例は5.88%にとどまった。今後更に「健康手帳」の活用の方策を検討する必要があると考えられる。今回の研究においては、「お薬手帳」のモデル試用に際して、「お薬手帳」とともに「健康手帳」や診察券、保険証などを収納しうるビニール製のポケット
付ケースを作成して同時配布し、「お薬手帳」と「健康手帳」を併用する方策を講じ、試用者の間で好評であった。
結論
高齢者への薬剤情報の提供の手段としてB6版の高齢者用の「お薬手帳」を試作し、(社)日本薬剤師会を通じて11市町の調剤薬局にて試用するとともに、東京都多摩老人医療センターにおいても試用したが、高齢患者に対して調剤薬局ならびに他の医療機関において有益であることが証明された。また、(社)日本薬剤師会などの公益法人を介して配付する体制の確立により、今後大量に安価で配付することが可能となることも示唆された。提供する医薬品情報について高齢者が理解し易い表現を用いるとともに、医師と薬剤師が協議して作成した医薬品説明文を作成し使用したが、有用であることが認められた。
「健康手帳」と「お薬手帳」の併用の方策を検討したが、「健康手帳」を医療機関に持参する例が少ないため、両者を収納しうるビニールケースなどの使用が有用であることが証明された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)