新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の倫理的法的社会的課題(ELSI)に関する研究

文献情報

文献番号
202019039A
報告書区分
総括
研究課題名
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の倫理的法的社会的課題(ELSI)に関する研究
課題番号
20HA2011
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
武藤 香織(国立大学法人東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 幹人(早稲田大学 政治経済学術院)
  • 藤田 卓仙(慶應義塾大学 医学部)
  • 東島 仁(千葉大学 国際学術研究院)
  • 磯部 哲(慶應義塾大学 大学院法務研究科)
  • 山本 龍彦(慶應義塾大学 大学院法務研究科)
  • 井上 悠輔(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
COVID-19対策で生じた倫理的法的社会的課題(ELSI)の論点のマッピングと課題整理を行い、対策の長期化に備えて幅広くELSIを検討抽出する。
研究方法
7つのサブテーマごとに研究活動を行った。
結果と考察
生命・公衆衛生倫理班:1)「順位付け」には議論の場の不明瞭さ、基準の社会への周知不足があり、基準から離れた運用が不透明になされた疑いも残る。「トリアージ」の言葉の遣われ方は引き続き検討を要する。2)約70自治体で「コロナ条例」が制定され、多様な「住民の責務」規定が存在した。差別禁止を謳う条例には個別具体的な状況への対応策に欠く等の課題もある。3)主要紙の世論調査のメタ分析からは、市民・事業者の行動制限に関する罰則に否定/消極的な人々が増える一方、感染者のふるまいに厳しい視線が向けられる等「犠牲者非難」の構図を指摘できる。
 法令・制度班:1)組織法・医療提供体制では、対策の意思決定と専門的知見の反映、国と地方/地方公共団体間の関係、医療リソースの適正配分に課題があり、比較法研究も有用である。2)介入手段では、検疫の法的根拠の明確性と規制の実効性の確保、入院や自宅・宿泊療養の際の患者等の人権保障と間接強制制度の関係、予防接種の被接種機会の平等と自己決定の実質的確保のあり方等課題が多く、法治主義や人権保障への深刻な懸念もある。3)情報の適切な管理と利活用、公表措置の合理性確保とプライバシー保障や不当な差別・偏見防止のあり方が課題であり、国境や公私を超えた利活用では開かれた討議と信頼できる監督が不可欠である。
 リスク・コミュニケーション班:1)6か国間の調査では、国内の感染者状況とその不確実性、政府の対応がリスク認知・不安感と関わると示唆された。国に関係なく「感染した事実」より「感染を防止する努力を講じないこと」への忌避感が存在し、差別意識につながっていた。日本での情報への疲弊感の原因について、情報行動やメディア情報内容が推測される。2)市民対話では、俯瞰のための対話(論点整理会議)、全体を素描する対話(一般市民型)、個別を素描する対話(当事者型)を実施し論点を類型化したほか、手法を「スケッチ・ダイアログ」として整理し汎用化した。 
偏見・差別班:自治体の公式ウェブサイトで公表された感染者の情報の調査では、一類感染症の情報公表に係る基本方針で公表しないとされる、国籍・職業・居住市町村の公表が多く、勤務先名称などから個人特定につながる可能性も懸念されたほか、雛形や内容にばらつきが存在した。プライバシー侵害を回避しつつ蔓延防止に必要な情報を再考し、情報公表できる仕組みの構築が急務である。女性の感染や療養に関して、第6波ではケア労働従事者と高齢女性の感染が目立った。感染制御とケア労働の責務を負う女性のため、相談支援体制・ピアサポートを通じた知恵の創出と分かち合いが必要である。
 デジタル技術班:ドイツ・韓国・シンガポール等の接触確認アプリの導入・活用状況の調査や、200業種におよぶ業種別ガイドラインの中身の適切性や利便性の評価を行った。市民による健康証明パスポートへの受容状況や課題把握のため対話ツールを作成、市民参加型ワークショップを開催し、不利益を被る人が出ないような設計が必要等の意見があった。アプリの相互運用性の課題、技術自体への理解の不十分さ、プライバシーに関する不安や政府などへの不信感が大きいと示唆された。 
患者・市民参画班:脆弱性が高い人々の参画の必要性を指摘する声明の一例として、国際赤十字・赤新月社連盟・国連人道問題調整事務所・世界保健機関「COVID-19:社会的弱者と周縁化された人々を包摂する リスク・コミュニケーションとコミュニティエンゲージメント(RCCE)の進め方」を翻訳した。日本では感染者や家族は、脆弱性が高いと同時に対策の当事者でもあり、声を施策に活かすため、認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパンの協力を得て、語りを体系的に収集する取組みを支援した。
 地域包括ケア班: 1)障害者や高齢者への地域生活支援や介護派遣事業の実態把握では、感染対策の工夫と困難、施設のクラスター発生時の対応、対面サービス、お見舞い・面会、ワクチン接種、ケア従事者の確保、偏見・差別、誹謗中傷等に焦点をあてた。また、感染拡大が障害者・福祉サービス従事者や責任者・事業所経営に与えた影響を明らかにした。2)陽性者確認数が少ない地域の住民行動に関するインタビュー調査では「正確な情報への距離」「地元出身者と地域外出身者の区別」「非日常のコミュニティの特性」の3つの中核カテゴリを抽出し、これらが「感染以前の恐怖感の強さ」を構成・強化すると明らかにした。
結論
領域横断的なELSIの論点整理と課題抽出を通じて、COVID-19対策における基礎資料とした。

公開日・更新日

公開日
2022-08-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-08-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202019039C

収支報告書

文献番号
202019039Z