感染症法に基づく消毒・滅菌の手引きの改訂に関する研究

文献情報

文献番号
202019038A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症法に基づく消毒・滅菌の手引きの改訂に関する研究
課題番号
20HA2010
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
花木 賢一(国立感染症研究所 安全実験管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 森川 茂(岡山理科大学 獣医学部 微生物学)
  • 西村 秀一(国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部 ウイルス疾患研究室)
  • 早坂 大輔(国立大学法人山口大学 共同獣医学部)
  • 黒崎 陽平(長崎大学 高度感染症研究センター)
  • 河合 康洋(国立感染症研究所 安全実験管理部 第一室)
  • 高木 弘隆(国立感染症研究所 安全実験管理部)
  • 伊木 繁雄(国立感染症研究所 安全実験管理部)
  • 原田 俊彦(国立感染症研究所 安全実験管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
56,340,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は①新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する消毒・滅菌方法の条件を実験的に明らかにすること。②マスクや防護服といった個人防護具(PPE)の再利用に資する新たな消毒方法を確立すること。そして、それらを基に③「COVID-19の消毒・滅菌の手引き」を作成すること。併せて、④主に文献調査を行って、「感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き」に収載されていない消毒・滅菌方法を追加、改訂することを目的とする。
研究方法
 薬剤等は次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、次亜塩素酸水、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(SDIC)、塩化ベンザルコニウム(BZC)、塩化ベンゼトニウム(BZN)、ドミフェンブロミド(DB)、加速化過酸化水素(AHP)、過酸化水素、6種の有機酸、等を用いた。紫外線は、光源としてLEDランプと水銀ランプを用いた。
 空中浮遊ウイルスに対する消毒ガス(オゾンガス、二酸化塩素ガス、次亜塩素酸ガス)の有効性は、密閉空間中に低濃度の消毒ガス存在下、ネブライザーでウイルスのエアロゾルを発生させて一定時間経過後、ゼラチン膜フィルターで空中浮遊ウイルスを捕集して感染価を測定して評価した。N95マスク等を再利用するための消毒は、チャンバー内に静置したマスクを種々の濃度の過酸化水素水を用いてミストを発生させ、任意の時間暴露することにより行った。チャンバー内には2種のインジケータを設置して除染効果を判定した。環境中ウイルスの生残性は、プラスチック、ステンレス、木材等の基板にウイルス液を接種し、温湿度統御下または非統御下で一定時間静置し、ウイルスは培地に再溶解させて回収して感染価を測定して評価した。文献調査はWHOをはじめとする海外機関が公開しているバイオセーフティ指針等、SARS-CoV-2に有効とする物資リスト、高病原性ウイルスを対象とした消毒・滅菌法に関する学術論文から情報収集を行った。
結果と考察
 ウイルス液の溶媒を生理食塩水ヘ置換すると、NaClOと次亜塩素酸水は既報よりも低濃度でSARS-CoV-2に対して十分な不活化効果を発揮した。有機酸の内、クエン酸は家庭用洗浄剤として市販されており、安全に取り扱うことができるSARS-CoV-2の消毒剤として推奨できる物資と考えられた。紫外線による殺ウイルス効果は、単波長のLEDランプが多波長の水銀ランプと同等であることが確認された。動的光散乱法解析では、BZCとBZNは製品評価技術基盤機構がSARS-CoV-2の不活化に有効とした濃度0.05%以上と近似する結果(0.065%以上)がSARS-CoV-2と同属のマウスコロナウイルスを用いた試験で得られた。また、口腔殺菌消毒剤の成分である第四級アンモニウム塩(QAC)において、0.065%のDBはBZC、BZNと同等に有効であった。QACは季節性インフルエンザウイルスに対して十分な不活化効果が確認されたが、A/H3N2に対しては有効性が低くなる傾向がみられた。空中に浮遊するインフルエンザウイルスとコロナウイルスは低濃度オゾンでは湿度依存的に、低濃度二酸化塩素では比較的高い湿度で湿度依存的に、低濃度次亜塩素酸ガスでは湿度非依存的に不活化できることが明らかになった。過酸化水素蒸気によるN95マスク等の消毒は、7.5%の過酸化水素水を蒸気発生源とした場合には30分以上、30%の過酸化水素水を蒸気発生源とした場合には15分以上、蒸気に暴露することで除染効果が得られること、48時間の強制換気後により残留過酸化水素は1 ppm以下になることが確認された。環境中のSARS-CoV-2の生残性は、20℃,40%RHと比較して30℃,80%%RHでは100倍程度早く失活した。そして、48時間で感染性は検出限界になることが明らかとなった。諸外国の消毒用物資に関する公表は、有効性が期待される成分や市販製品を広くリスト化するなど、一般消費者にとって身近で具体的な情報であった。
 NaClOをはじめとする塩素系消毒薬はウイルス液に含まれる培地成分、アミノ酸に影響を受けて有効性を過小評価していたこと、クエン酸がSARS-CoV-2の消毒に用いる物資となること、DBがBZC、BZNと同等のコロナウイルスに対する有効性が確認されたこと、空気中のウイルスの不活化に用いるオゾン、二酸化塩素、および次亜塩素酸ガスの使用条件、PPEの消毒に用いる過酸化水素ガスの条件、環境中のSARS-CoV-2の生残性は夏季に48時間以内と短いこと等を明らかにした。
結論
 これらの知見を基に「COVID-19の消毒・滅菌の手引き」案、「感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き」の改訂のための案を提案したい。

公開日・更新日

公開日
2022-06-15
更新日
2023-05-30

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-06-15
更新日
2023-05-30

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202019038C

収支報告書

文献番号
202019038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
23,780,000円
(2)補助金確定額
2,110,000円
差引額 [(1)-(2)]
21,670,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,110,000円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 0円
合計 2,110,000円

備考

備考
新型コロナウイルスの消毒に有効な物資とその使用条件を詳細に検討するため、動的光散乱法解析装置の導入を計画した。しかし、英国製である同装置の製造遅延、新型コロナウイルスワクチンの品質管理に使用されるための需要増により、納期が当初確約の令和3年2月から同年4月へと遅れた。また、本研究が承認された昨年11月以降では納期1ヶ月以上または未定の汎用理化学消耗品が多くあり、消毒薬の有効性に関する検討を満足に行うことができなかった。

公開日・更新日

公開日
2022-06-20
更新日
-