百日咳とインフルエンザの患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策の推進に資するエビデンス構築のための研究

文献情報

文献番号
202019037A
報告書区分
総括
研究課題名
百日咳とインフルエンザの患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策の推進に資するエビデンス構築のための研究
課題番号
20HA1010
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 元(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大塚 菜緒(国立感染症研究所細菌第二部)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
百日咳はワクチン未接種の乳幼児が罹患すると重篤化し易く、死亡例も報告されているが、平成30 年1月からサーベイランスが全数把握となった。これまで我々は、サーベイランスデータの詳細な解析から国内の百日咳の疫学的特徴の把握や対策として就学前児へのDPTワクチン追加接種について研究を行ってきた。本研究では、これらの結果に基づき、さらなる追加接種に関する評価を実施するとともに、成人・妊婦等へのDPTワクチン接種に関する検討を行い、国内における百日咳、特に重症化する乳児の罹患予防に向けた施策について必要なエビデンスを構築することを目的とする。また、研究期間を通して百日咳菌の検査法の評価や臨床分離株の抗原産生パターンや抗体の質・量、追加接種によるジフテリア、破傷風、さらには4種混合ワクチンを視野に入れた研究を継続し、百日咳の予防に資するエビデンスを構築していくことを目的とする。
インフルエンザについては、患者及び病原体の両面からサーベイランスの精度を高め、発生動向調査上の変化や疾病負荷を正確に捉える体制の構築が適切な対応に重要である。平成28年4月に施行された改正感染症法において、各自治体はインフルエンザ病原体定点の整備を行っているほか、検体採取時期について患者発生動向情報を用いることが規定されるなど、患者・病原体双方の総合的なサーベイランスの向上が求められている。これまでに沖縄県宮古島において患者情報と検査結果ともに収集できるインフルエンザサーベイランスの構築を行い、情報収集を開始している。本研究では今後3年間このサーベイランスを持続し、より正確な定点サーベイランスの評価を実施することを目的としている。
研究方法
百日咳の疫学情報に関しては発生動向調査にて届出のあった百日咳患者について、百日咳届け出ガイドライン(初版)に基づいた疫学的な情報の整理を実施した。2016年に百日咳の新規血清診断法として「ノバグノスト百日咳/IgA、IgMキット」が健康保険適用され、現在臨床で広く使用されている。本キットは、抗百日咳菌IgA, IgM抗体価を測定するものだが、測定抗体価が百日せきワクチン接種の影響を受けないことを一つの利点としている。本研究では5~6歳の健常小児にDPTワクチンを接種し、その前後での抗体価の変動について本キットを用いて調査した。インフルエンザについては、2020年は患者数が激減したため、2019年の情報を用いて、ワクチン接種歴、発症日、転帰等の地域における季節性インフルエンザサーベイランスの情報を用いて毎週のワクチン効果の分析を実施し、シーズン中に迅速な当該シーズンのワクチン効果を算出できるか検討した。
結果と考察
新型コロナウイルス感染症流行下の百日咳サーベイランスの結果は例年同様百日咳含有ワクチンを4回接種しているにもかかわらず感染している学童が多くなっていたが、新型コロナウイルス感染症が流行した4月以降は学童の患者が激減し、それに伴い6か月未満の患者数も減少した。これまでの6か月未満の患者の感染源調査、並びに今年度の結果から学童の患者数を減らすことが重症化しやすい乳幼児の患者数を減らす可能性があることを示唆し、就学期前のDPT追加接種を推奨する意義を示す結果と考えられた。また、合併症、転帰について過去2年の結果と比較し割合に大きな変わりはなかったが、成人の肺炎の割合のみ増加を認めた。これは新型コロナウイルス感染症により肺炎の検査頻度が高くなった影響が可能性として考えられたが、これまで見逃されていた百日咳菌による肺炎があったことを示唆し、成人における百日咳の疾病負荷がこれまで過小評価されてきた可能性がある。新規血清診断法である抗百日咳菌IgA, IgM抗体価は、ワクチン接種の影響を受けにくいことが確認された。ただし、抗IgMを指標とした場合は、DPT接種前でも18.6%の被験者が百日咳陽性値を示した検体が一定数認められたことから、小児百日咳診断への本測定法の適用は見直しの必要性が示唆された。
インフルエンザに関しては、地域のワクチン効果の分析に必要な流行状態の指標として、定点当たり10以上から4週間の分析でその後大きく変化しない統計学的に有意な結果が得られた。この結果から、シーズン中であっても、国内サーベイランスを目安として早期のワクチン効果情報が得られる可能性が示唆された。
結論
2020年に流行した新型コロナウイルス感染症により、百日咳、インフルエンザ、ともに大きな影響があった。しかし、いずれの疾患も患者情報並びに検査結果を丁寧に連携させることで、正確な流行状況や適切な介入策を提言、実施することが可能であることが明らかになった。引き続き両疾患における患者の疫学・検査情報の連携強化による感染症対策の推進に資するエビデンスの構築を進めていく。

公開日・更新日

公開日
2023-02-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-02-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202019037Z