「患者向け説明文書」のパイロット・スタディーによる具体的検討

文献情報

文献番号
199700459A
報告書区分
総括
研究課題名
「患者向け説明文書」のパイロット・スタディーによる具体的検討
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 隆一(医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構)
研究分担者(所属機関)
  • 柴川雅彦(国立循環器病センター)
  • 桑原健(国立大阪病院)
  • 老田章(国立循環器病センター)
  • 内山英二(国立療養所札幌南病院)
  • 石川洋一(国立東京第二病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、薬理作用の強い医薬品の実用化や高齢者社会の進展に伴う他科受診の一般化、それに伴う多剤併用の増加等により、医療現場においても医薬品の副作用あるいは相互作用など、患者への適切な情報伝達の必要性が高まってきている。
この現状に対応して、従来よりもきめ細かな服薬指導と、患者への適切な情報伝達をおこなうため、患者が理解しやすく、かつ十分な内容をもった「患者向け説明文書」を作成し医薬品の適正使用を推進することを目的とする。
この「患者向け説明文書」によって具体的に以下の効果が期待できる。
1)医薬品の作用等を理解することで服薬のコンプライアンスを高める。
2)医薬品服用時の指示の失念、思い違いを防止できる。
3)適切な情報が患者の介護者にも伝達できる。
4)他科受診の際に、医薬品の併用による副作用を防止できる。
5)患者自身による副作用初期症状の早期発見が期待できる。
6)患者等の注意喚起をすることによりメディケーションの一助となる。
研究方法
前年度に行ったパイロットスタデイーの回答を詳細に検討し、その検討結果を基に症例数を拡大してパイロットスタデイーを実施する。その結果を基に、医薬品の適性使用を目的とした患者への情報伝達に役立つ「患者向け説明文書」の記載方法及び使用方法についての指針等を作成する。
症例数を拡大するため、前年度に作成した「患者向け説明文書」試案9品目に加え、新たに15品目の「患者向け説明文書」試案を作成する。品目については、情報伝達の必要性の高い薬効分類から、幅広い症例に対応できるように選択する。説明文書の内容については、製薬企業と協議の上、患者により判りやすい内容記載、不安感を与えない副作用の伝達等の検討課題をふまえて作成する。
パイロットスタデイーは国立医療機関13施設に協力を依頼し、薬剤師が服薬指導を行っている入院患者に対して実施する。患者には、「患者向け説明文書」および一般的使用上の注意を記載した「くすりを飲むときの注意」(前年度作成分を一部修正)を手渡しする。そして試行した患者及び治療に関与した医療関係者に対してについてのアンケート調査を実施し、結果の分析評価を行う。
結果と考察
「患者向け説明文書」については薬効分類上14分類について合計24品目作成し、これを基に国立医療機関13施設においてパイロットスタデイーを実施した。アンケートについては対象患者766名、医療関係者213名(医師84名、薬剤師62名、看護婦等67名)から回答を得た。
患者に対してのアンケート結果からは、「患者向け説明文書」の「必要性」について前回と同様(90.2%)の患者から必要であるとの回答を得、「内容すべてに目を通した」(90.1%)、「関心のあるところを読んだ」(8.7%)と、内容に対する関心の高さが数字に表れた。内容の項目においては、「薬の作用は何か」(69.9%)、「副作用について」(67.6%)等に関心が集まっていた。「副作用について」の項目の、内容の理解度については、「よくわかる」(59.8%)、「わかる」(29.8%)との回答を得たが、説明内容については「ちょうど良い」(75.7%)「もう少し説明してほしい」(20.8%)の様に、より理解しやすい記載方法への要望も見られた。
医療関係者に対してのアンケート結果では、「内容についての印象」の設問については「よくわかる」(28.2%)、「わかる」(59.3%)、「患者向け説明文書は必要か」の設問については「全部の薬に必要」(20.5%)、「主な薬について必要」(67.8%)との評価を得た。説明内容についてで「副作用について」の項目では、「ちょうど良い」(68.3%)「多すぎる」(27.8%)「少なすぎる」(3.9%)との評価を得た。「患者向け説明文書を渡すことについて」の設問については「必要である」(65.6%)「どちらともいえない」(32.1%)と、患者からの要望と比較するとやや消極的な回答を得たが、「実際に「患者向け説明文書」を渡した患者で、副作用と思われる症状が出た方がいましたか」の設問で、「いた」(6.3%)との回答を得、「患者向け説明文書」の必要性を感じさせた。
今回のパイロットスタデイーの結果から、患者にとって「患者向け説明文書」は重要な役割を持ち、患者からも必要との要望が高いことが判明した。しかしながら、副作用等についての伝達には、患者に不安を与えずに、副作用の初期症状等を判りやすく記載する十分な注意が必要であること、臨床の場に立つ医療関係者の指導に基づいた使用が必要であることも示唆された。
結論
前年度及び、今年度のパイロットスタデイーの結果から、患者にとって「患者向け説明文書」は医薬品の適性使用において非常に有効な情報伝達手段であり、患者からも必要とする要望が高いことが証明された。特に医薬品の作用、副作用については患者の関心が高く、患者自身による副作用初期症状の早期発見への有用な手段となると考えられた。
この患者及び臨床の場に立つ医療関係者からの評価をふまえて「患者向け説明文書」の標準的な考えを示す「患者向け説明文書の在り方」を作成した。「患者向け説明文書の在り方」には、その「基本的考え方」、「基本的形式(項目)」、「使用方法について」を記載した。
またこの内容に基づき「患者向け説明文書」の試案を、情報伝達の必要性が高い薬効分類14分類について合計24品目作成した。
この「患者向け説明文書の在り方」を基に「患者向け説明文書」の作成が行われ、医薬品の適性使用推進において重要な役割を果たしていくことを期待する。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)