文献情報
文献番号
202027021A
報告書区分
総括
研究課題名
クリーニング店に持ち込まれる衣類の微生物汚染に起因する感染事故リスクとその防止法の検討
課題番号
20LA1008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
林 俊治(北里大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 内藤 由紀子(北里大学 医療衛生学部)
- 伊藤 道子(北里大学 看護学部)
- 中村 正樹(北里大学 医療衛生学部)
- 今西 市朗(北里大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
5,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
クリーニング業は不特定多数の顧客より衣類の洗濯を依頼される業種である。これらの衣類には様々な微生物が付着しており、病原微生物に汚染された衣類によって感染事故が発生するリスクがある。そこで、クリーニング業に関連する法令があるのだが、クリーニング業を取り巻く状況に変化があり、現行の制度では対応しきれなくなっている。したがって、病原微生物に汚染された衣類による感染事故を防ぐために有効な制度を新たに作る必要があり、そのための基礎となるエビデンスを作るのが本研究の目的である。
研究方法
汚染された衣類が持ち込まれることによって感染事故が起きる危険性を明らかにするために以下の検討を行った。
【クリーニング業の実態調査】クリーニング引き受け店およびクリーニング工場を訪問し、店舗および工場の運営状況を見せてもらい、持ち込まれる衣類の微生物汚染についての意見の聴取を行い、問題点を抽出した。
【衣類の細菌汚染調査】洗濯前の衣類を収集し、それらに付着している細菌の種類と量を細菌学的に解析した。さらに、これらをクリーニングした後にも同様の解析を行った。細菌汚染調査を行った衣類のカテゴリーは以下の通りである。通常の衣類(通常のオフィス等の従業員が職場で着ている衣類)、下着(インナーシャツ、パンツ、靴下)、医療従事者の衣類、動物と接触した衣類。
【クリーニング機器の細菌汚染調査】クリーニング機器から排出される廃液に含まれる細菌の種類および量を細菌学的に解析した。
【汚染衣類に起因する感染事故の実例の文献調査】医中誌などのデータベースを用いて、衣類の細菌汚染に起因する感染事故に関する文献を収集した。
【クリーニング業の実態調査】クリーニング引き受け店およびクリーニング工場を訪問し、店舗および工場の運営状況を見せてもらい、持ち込まれる衣類の微生物汚染についての意見の聴取を行い、問題点を抽出した。
【衣類の細菌汚染調査】洗濯前の衣類を収集し、それらに付着している細菌の種類と量を細菌学的に解析した。さらに、これらをクリーニングした後にも同様の解析を行った。細菌汚染調査を行った衣類のカテゴリーは以下の通りである。通常の衣類(通常のオフィス等の従業員が職場で着ている衣類)、下着(インナーシャツ、パンツ、靴下)、医療従事者の衣類、動物と接触した衣類。
【クリーニング機器の細菌汚染調査】クリーニング機器から排出される廃液に含まれる細菌の種類および量を細菌学的に解析した。
【汚染衣類に起因する感染事故の実例の文献調査】医中誌などのデータベースを用いて、衣類の細菌汚染に起因する感染事故に関する文献を収集した。
結果と考察
【クリーニング業の実態調査】クリーニングの引き受け店やクリーニング工場の従業員は、病原微生物に汚染された衣類が持ち込まれることによる感染事故の危険性を感じているが、それに対する積極的な対策は不十分である実態が判明した。
【洗濯前の衣類の細菌汚染調査】洗濯前の衣類の細菌汚染調査において、調査した衣類の全てから細菌が検出された。検出された菌種のほとんどは、ブドウ球菌属、コリネバクテリウム属、バシラス属などのグラム陽性菌および真菌類であった。グラム陰性菌が検出されることは稀であった。例外として、パンツからは糞便由来のグラム陰性菌が検出されることがあった。検出される細菌の量という点では、ヒトの皮膚に接する衣類の方が多くの細菌に汚染されていた。特に、靴下から大量の細菌が検出された。
以上の結果より、洗濯前の衣類は必ず細菌に汚染されているものであり、その取扱いについては注意を要することが判明した。病原性という点で危険なのは、ブドウ球菌属の中の黄色ブドウ球菌である。本菌はヒトに直接感染する他に、食品を汚染して食中毒を起こす。黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌属も免疫抑制状態の患者には日和見感染を起こす。バシラス属の多くは非病原性であるが、今回の研究で衣類から検出されたバシラス属の中にはセレウス菌が比較的高率に存在していた。セレウス菌は食中毒の起因菌として重要なうえに院内感染を起こすことでも知られている。以上より、衣類を汚染している細菌の中には明らかな病原菌が存在するということを認識する必要がある。
【洗濯後の衣類の細菌汚染調査】洗濯後の衣類からは芽胞形成菌であるバシラス属しか検出されてこなかった。クリーニングの工程の過程で他の菌種は死滅したものと考えられる。バシラス属による汚染を除けば、洗濯後の衣類はある程度清潔なものと考えてよい。つまり、クリーニングの引き受け店やクリーニング工場において、洗濯前の衣類と洗濯後の衣類が接触するようなことはあってはならない。
【クリーニング機器の細菌汚染調査】業務用の洗濯機からは芽胞形成菌であるバシラス属しか検出されてこなかった。バシラス属は環境中での生存能力が非常に高く、洗濯機の中でも生存が可能である。したがって、業務用の洗濯機は定期的に洗浄することによってバシラス属による汚染を低減させる必要がある。
【衣類の消毒】衣類によっては、消毒が必要な場合もある。今回の検討で検出された細菌のうち、ブドウ球菌属やコリネバクテリウム属は各種の消毒薬に感受性である。しかし、バシラス属は消毒薬に対して非常に抵抗性であり、加熱や紫外線照射といった消毒方法に対しても抵抗性である。したがって、バシラス属を衣類から除去することは難しい。
【汚染衣類に起因する感染事故の実例の文献調査】文献検索の結果、衣類の細菌汚染に起因すると思われる感染事故が国内でも起こっていることが判明した。
【洗濯前の衣類の細菌汚染調査】洗濯前の衣類の細菌汚染調査において、調査した衣類の全てから細菌が検出された。検出された菌種のほとんどは、ブドウ球菌属、コリネバクテリウム属、バシラス属などのグラム陽性菌および真菌類であった。グラム陰性菌が検出されることは稀であった。例外として、パンツからは糞便由来のグラム陰性菌が検出されることがあった。検出される細菌の量という点では、ヒトの皮膚に接する衣類の方が多くの細菌に汚染されていた。特に、靴下から大量の細菌が検出された。
以上の結果より、洗濯前の衣類は必ず細菌に汚染されているものであり、その取扱いについては注意を要することが判明した。病原性という点で危険なのは、ブドウ球菌属の中の黄色ブドウ球菌である。本菌はヒトに直接感染する他に、食品を汚染して食中毒を起こす。黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌属も免疫抑制状態の患者には日和見感染を起こす。バシラス属の多くは非病原性であるが、今回の研究で衣類から検出されたバシラス属の中にはセレウス菌が比較的高率に存在していた。セレウス菌は食中毒の起因菌として重要なうえに院内感染を起こすことでも知られている。以上より、衣類を汚染している細菌の中には明らかな病原菌が存在するということを認識する必要がある。
【洗濯後の衣類の細菌汚染調査】洗濯後の衣類からは芽胞形成菌であるバシラス属しか検出されてこなかった。クリーニングの工程の過程で他の菌種は死滅したものと考えられる。バシラス属による汚染を除けば、洗濯後の衣類はある程度清潔なものと考えてよい。つまり、クリーニングの引き受け店やクリーニング工場において、洗濯前の衣類と洗濯後の衣類が接触するようなことはあってはならない。
【クリーニング機器の細菌汚染調査】業務用の洗濯機からは芽胞形成菌であるバシラス属しか検出されてこなかった。バシラス属は環境中での生存能力が非常に高く、洗濯機の中でも生存が可能である。したがって、業務用の洗濯機は定期的に洗浄することによってバシラス属による汚染を低減させる必要がある。
【衣類の消毒】衣類によっては、消毒が必要な場合もある。今回の検討で検出された細菌のうち、ブドウ球菌属やコリネバクテリウム属は各種の消毒薬に感受性である。しかし、バシラス属は消毒薬に対して非常に抵抗性であり、加熱や紫外線照射といった消毒方法に対しても抵抗性である。したがって、バシラス属を衣類から除去することは難しい。
【汚染衣類に起因する感染事故の実例の文献調査】文献検索の結果、衣類の細菌汚染に起因すると思われる感染事故が国内でも起こっていることが判明した。
結論
洗濯前の衣類は様々な細菌に汚染されているものである。さらに、衣類の細菌汚染に起因する感染事故が起きる可能性が十分にある。したがって、そのような感染事故を防ぐための法整備やガイドラインの作成が望まれる。
公開日・更新日
公開日
2022-06-24
更新日
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