半揮発性有機化合物(SVOC)によるシックハウス症候群への影響評価及び工学的対策の検証に関する研究

文献情報

文献番号
202027010A
報告書区分
総括
研究課題名
半揮発性有機化合物(SVOC)によるシックハウス症候群への影響評価及び工学的対策の検証に関する研究
課題番号
19LA1007
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境研究部 建築・施設管理研究領域)
研究分担者(所属機関)
  • 林 基哉(北海道大学大学院)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 伊藤 加奈江(戸次 加奈江)(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 東 賢一(近畿大学医学部環境医学・行動科学教室)
  • 篠原 直秀(国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門)
  • 荒木 敦子(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
  • アイツバマイ ゆふ(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,440,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来のシックハウス症候群はVOCs(揮発性有機化合物;Volatile Organic Compounds)、アルデヒド類が原因とされてきたが、近年それより沸点が高く吸着性の強い可塑剤・難燃剤成分のSVOC(半揮発性有機化合物;Semi Volatile Organic Compounds)の健康被害が懸念されている。特に、SVOCの中でもフタル酸エステルはプラスチックの製造工程で柔軟性や成形性を高める可塑剤の代表成分であり、リン酸エステルは難燃性を持たせた可塑剤であることから、建材や様々な生活用品の製造に幅広く使用され、蒸気圧が低い物性を持つことから、環境中では物体表面やダスト表面に付着して存在しているとされるものの、そのメカニズムは明らかでない。また、可塑剤として多く使われてきたDEHP、DBP、BBPのようなフタル酸エステル類は内分泌かく乱作用や喘息、アレルギー症状との関係が報告されており、リン酸系難燃剤についてはアレルギーとの関連性や発がん性を有する他、神経系への影響や生殖毒性を有することも報告されているため、特に小児への曝露が学習や行動への障害との関連性も危惧されている。本研究では、こうした健康影響との関連が懸念されるSVOCに関する
(1) 経口も含めたSVOCへのばく露によるシックハウス症候群の誘発可能性の定量的な評価、
(2)上記の定量評価を踏まえた工学的対策の検討
を目的として、医学、分析化学、建築工学、環境工学、衛生学、疫学、リスク科学などの観点から以下に示す6項目の研究を進める。
1)ハウスダストにおけるSVOC(フタル酸及びリン酸系)成分に関する分析法の確立及び室内汚染実態の調査(稲葉、戸次)
2)空気中SVOC濃度と建築・居住環境の調査(林、欅田、金)
3)ダスト及び尿中SVOC濃度分析による室内からの児童曝露推定と健康影響(荒木、アイツバマイ、研究協力者:岸玲子)
4)建材からハウスダストへのSVOC移行・吸脱着に関するメカニズム解明(篠原)
5)SVOCの多経路多媒体曝露を考慮した居住者の健康リスク評価(東)
6)建築・生活環境を考慮した工学的・衛生学的対策の検討(金、欅田)
研究方法
本年度は2年目として下記の細部項目を遂行した。
1) ハウスダスト及びアンケート調査対象住宅の建築・居住環境の把握
2) ハウスダスト中フタル酸エステル類およびフタル酸エステル代替物質分析
3) ハウスダスト中のリン系難燃剤に関する汚染実態調査
4) ハウスダスト中および尿中代謝物を用いた曝露評価と摂取量計算 -リン酸トリエステル類
5) 7歳児のフタル酸エステル類および代替化合物の曝露実態の解明 -フタル酸エステル類および代替化合物の尿中代謝物分析
6) 建材から放散するSVOCの現場測定
7) 実住宅における室内空気中SVOC濃度の測定
8) SVOCの多経路多媒体曝露を考慮した居住者の健康リスク評価
結果と考察
ダスト中のフタル酸類20成分及びリン系化合物14成分の分析方法を確立し、全国の一般家庭162軒から採取したハウスダストにおける各成分の濃度分析を行い、曝露レベルを調査した。また、北海道スタディに参加する児童から提供された尿中の代謝物濃度やハウスダスト中SVOC成分の解析や、健康影響に関するデータを収集することで曝露推定と健康影響評価を実施し、室内のSVOC曝露評価における基礎データを蓄積している。
また、これらSVOCの分析データと建築・居住環境アンケート結果との相関分析を行った。本研究では、ハウスダストを介した曝露評価のみでなく、壁面や床面におけるSVOCの吸着量を調査し、吸脱着メカニズムを明らかにすることで建材から室内へのSVOC汚染を算出・予測するための基礎データを蓄積している。
結論
SVOCの定量評価を始めとする調査結果を基にシックハウスに関わる建材、換気、空調、生活リテラシーなどを考慮した対策検討と保健衛生面から対策検討を行うことで、工学的・保健衛生的観点から、ヒトと環境を総合的に考慮した対策の提案に繋げていく方針である。

公開日・更新日

公開日
2022-05-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2022-05-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202027010B
報告書区分
総合
研究課題名
半揮発性有機化合物(SVOC)によるシックハウス症候群への影響評価及び工学的対策の検証に関する研究
課題番号
19LA1007
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境研究部 建築・施設管理研究領域)
研究分担者(所属機関)
  • 林 基哉(北海道大学大学院)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 伊藤 加奈江(戸次 加奈江)(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 荒木 敦子(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
  • アイツバマイ ゆふ(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 東 賢一(近畿大学医学部環境医学・行動科学教室)
  • 篠原 直秀(国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来のシックハウス症候群はVOCs(揮発性有機化合物;Volatile Organic Compounds)、アルデヒド類が原因とされてきたが、近年それより沸点が高く吸着性の強い可塑剤・難燃剤成分のSVOC(半揮発性有機化合物;Semi Volatile Organic Compounds)の健康被害が懸念されている。特に、SVOCの中でもフタル酸エステルはプラスチックの製造工程で柔軟性や成形性を高める可塑剤の代表成分であり、リン酸エステルは難燃性を持たせた可塑剤であることから、建材や様々な生活用品の製造に幅広く使用され、蒸気圧が低い物性を持つことから、環境中では物体表面やダスト表面に付着して存在しているとされるものの、そのメカニズムは明らかでない。また、可塑剤として多く使われてきたDEHP、DBP、BBPのようなフタル酸エステル類は内分泌かく乱作用や喘息、アレルギー症状との関係が報告されており、リン酸系難燃剤についてはアレルギーとの関連性や発がん性を有する他、神経系への影響や生殖毒性を有することも報告されているため、特に小児への曝露が学習や行動への障害との関連性も危惧されている。本研究では、こうした健康影響との関連が懸念されるSVOCに関する
(1) 経口も含めたSVOCへのばく露によるシックハウス症候群の誘発可能性の定量的な評価
(2) 上記の定量評価を踏まえた工学的対策の検討
を目的として、医学、分析化学、建築工学、環境工学、衛生学、疫学、リスク科学などの観点から以下に示す6項目の研究を進めた。
1)ハウスダストにおけるSVOC(フタル酸及びリン酸系)成分に関する分析法の確立及び室内汚染実態の調査(稲葉、戸次)
2)空気中SVOC濃度と建築・居住環境の調査(林、欅田、金)
3)ダスト及び尿中SVOC濃度分析による室内からの児童曝露推定と健康影響(荒木、アイツバマイ、研究協力者:岸玲子)
4)建材からハウスダストへのSVOC移行・吸脱着に関するメカニズム解明(篠原)
5)SVOCの多経路多媒体曝露を考慮した居住者の健康リスク評価(東)
6)建築・生活環境を考慮した工学的・衛生学的対策の検討(金、欅田)
研究方法
2年間の研究は以下内容で遂行した。
1) ハウスダスト採取住宅の建築及び居住環境の調査
2) 一般住宅のハウスダスト中フタル酸エステル類及びフタル酸エステル代替物質分析
3) 一般住宅のハウスダスト中リン酸エステル類の分析
4) 室内空気中SVOC濃度の実態
5) 居住環境とハウスダスト中SVOC濃度の相関分析
6) SVOCの多経路多媒体曝露を考慮した居住者の健康リスク評価
7) 7歳児のフタル酸エステル類および代替化合物の曝露実態および児のアレルギーとの関連の解明-フタル酸エステル類および代替化合物の尿中代謝物分析
8) ハウスダスト中リン酸トリエステル類濃度を用いた摂取量およびアレルギーとの関連
9) ハウダスト中SVOCとシックハウス症候群に関するデータ解析
10) 建材から放散するSVOCの移行と吸脱着
結果と考察
結果としては、ダスト中のフタル酸類20成分及びリン系化合物14成分の分析方法を確立し全国の一般家庭162軒から採取したハウスダストにおける各成分の濃度及び曝露レベルを調査した。
また、北海道スタディに参加する児童から提供された尿中の代謝物濃度やハウスダスト中SVOC成分の解析、健康影響に関するデータを収集することで曝露推定と健康影響評価を実施し、室内のSVOC曝露評価における基礎データを蓄積した。
これらSVOCの分析データと建築・居住環境アンケート結果との相関分析を行った。本研究では、ハウスダストを介した曝露評価のみでなく、壁面や床面におけるSVOCの吸着量を調査し、吸脱着メカニズムを明らかにすることで建材から室内へのSVOC汚染を算出・予測するための基礎データを蓄積した。
結論
SVOCの定量評価を始めとする調査結果を基にシックハウスに関わる建材、換気、空調、生活リテラシーなどを考慮した対策検討と保健衛生面から対策検討を行うことで、工学的・保健衛生的観点から、ヒトと環境を総合的に考慮した対策の提案に繋げていく。

公開日・更新日

公開日
2022-05-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-05-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202027010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
①ダスト中のフタル酸類20成分及びリン酸類14成分の分析法を確立。全国の住宅162軒から採取したハウスダストを2粒径(100um未満、100-250um)に分け、各成分の曝露レベルを調査。
②北海道スタディに参加する児童からの尿中代謝物濃度やダスト中SVOC成分の解析、健康影響データから曝露推定と健康影響評価を実施。
③SVOC濃度と建築・居住環境調査結果との相関分析を実施。
④建材から室内へのSVOC汚染を算出・予測するための基礎データとして室内表面材からの吸脱着メカニズムを調べた。
臨床的観点からの成果
該当無し
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
①研究メンバーは厚生労働省シックハウス検討会(東)、エコチル調査・曝露評価専門委員会(欅田)、ISO/TC146/SC6国内審議委員会委員(金)、シックハウスマニュアル作成(荒木)など多様な分野で活躍。シックハウス検討委員会やWHOなどに情報提供、対策マニュアル作成などの資料とする。
②保健所職員や行政を対象に国立保健医療科学院で行っている研修「環境衛生監視指導」、「住まいと健康」、「建築物衛生」などを通じて現場対策に関わっている専門家に情報提供と人材育成に活用する。
その他のインパクト
日本建築学会、空気質小委員会に「SVOC汚染と測定法検討WG(主査:研究代表-金勲)」の設置承認を得ており、R2年4月からR5年6月現在まで活動を続けている。R5年3月には測定法に関するWG調査報告書を纏めた。学界、研究界を始め建設会社など実務者を交えた意見交換と対策検討、情報発信が可能となった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
4件
総説・著書
その他論文(英文等)
5件
総説・著書
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
講演

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ketema R.M., Ait Bamai Y., Miyashita C., Saito T., Kishi R. Ikeda-Araki A.
Phthalates mixture on allergies and oxidative stress biomarkers among children: The Hokkaido study
Environment International , 160: 10708  (2022)

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
202027010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,100,000円
(2)補助金確定額
9,099,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,187,740円
人件費・謝金 482,138円
旅費 0円
その他 1,769,149円
間接経費 660,000円
合計 9,099,027円

備考

備考
自己資金27円

公開日・更新日

公開日
2022-02-07
更新日
-