水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化に関する研究

文献情報

文献番号
202027001A
報告書区分
総括
研究課題名
水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化に関する研究
課題番号
H30-健危-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 修(東北大学 大学院工学研究科)
  • 柳橋 泰生(福岡大学 工学部)
  • 藤本 尚志(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 高梨 啓和(鹿児島大学 学術研究院理工学域工学系)
  • 越後 信哉(京都大学 大学院工学研究科 )
  • 清水 和哉(筑波大学 生命環境系)
  • 浅田 安廣(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,185,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では「水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化」に資する成果を得ることを目指し,流域での障害生物の発生状況やそのメカニズムの把握,流域スケールでの生物障害発生の広域モニタリングシステムの開発,流域連携による水供給システムの生物障害適応性の強化方策の例示に関連する研究を実施した。
研究方法
機械学習手法のひとつであるサポートベクターマシン(SVM)を用いて,ダム湖での藍藻類の発生を事前に予測するための統計モデルを構築した。中国において2020 年以降に報告された導水事業による水質改善や環境影響に関する報告内容を整理した。PCRによるカビ臭原因物質合成酵素遺伝子検出に基づくカビ臭産生藍藻類の簡易同定を検討した。単藻培養した一部の藍藻株を用いて培養実験を行い,培養温度と各増殖過程でのカビ臭原因物質産生能の変化について評価した。2-MIB吸着競合影響評価指標の探索ならびに複数種の粉末活性炭混合注入による2-MIB除去効果への影響評価を行った。溶存有機物(DOM)の精密質量スペクトルの差異解析により,地点間・季節間での比較が可能か琵琶湖・淀川水系の水試料を用いて評価した。機器分析による水質管理を可能とするために,原因物質の構造や分析条件を検討した。カビ臭原因物質合成酵素遺伝子の異なる環境因子における発現量変化,カビ臭原因物質産生量,開発したカビ臭物質産生藍藻類のwhole-cell qPCR法を用いた半定量技術・定量技術,そして細胞密度との比較を実施した。
結果と考察
予測モデルの入力データとして水質データ,気象データ,及び水理学的データを使用し,予測日から1週間後に藍藻類が発生するか否かを予測することを試みた結果,Microcystis属及びAnabaena属に関し高い予測性能を示すモデルの構築に成功した。導水事業に係る研究は様々な観点から実施されており,近年で研究対象水域が拡大し,手法も多様なものとなっており,導水事業に関連して,ウォーターフットプリントの算定,太陽光発電システムの導入,マイクロプラスチックによる汚染等の研究も実施されていた。日本でカビ臭産生藍藻類として代表的な5属について簡易同定可能なPCR系を構築し,その有用性を示した。カビ臭発生水源より単離した2-MIB産生株を用いて,2-MIB産生に及ぼす温度の影響が大きいことが明らかとなった。原水ごとに2-MIB除去率と水質指標との関係性について傾向が異なることを示した。そして,カビ臭が発生する時期を踏まえた上で,適切な指標を水源ごとに選択する必要があることが示された。また,粉末活性炭の中で2-MIBの除去性が高い種を混合して使用することで,2-MIB除去率の向上と総使用量を低減することが可能であることを示した。DOMの精密質量スペクトルの差異解析により,比較的濃縮操作の自動化が簡単な固相抽出であっても倍率を上げれば十分乾燥濃縮と同等の傾向が得られることが明らかとなった。一方で同一地点での季節間の変化は,濃縮方法により差異解析の結果に明瞭な違いが現れ得ることが示された。水道水生ぐさ臭原因物質の構造を推定した結果,原因物質の構造を4つの異性体まで絞り込むことに成功した。また,GC-MSを用いて分析する際の条件を検討し,汎用的・標準的な分析条件を確立した。環境因子の中で窒素濃度,水温によるカビ臭原因物質産生への影響が大きいことが示された。whole-cell qPCR法によるジェオスミン産生株と2-MIB産生株の半定量・定量法を開発した。
結論
SVMを用いて開発した予測モデルにより,藍藻類発生に関しては高い予測性能が得られた。中国では直近1年間で30件を超す水質改善等に関する研究報告が行われており,それらの研究は,様々な水域について各種手法を用いて実施されていた。新たに構築したPCR系で水源試料でのカビ臭産生藍藻類を簡易同定可能となった。2-MIB産生に及ぼす温度の影響について明らかとなった。競合物質による2-MIB除去率への影響を把握可能な指標を水源、時期ごとに選択する必要があることが示された。複数種の粉末活性炭の混合注入により,活性炭総使用量を低減できることが示された。地点間の差は固相抽出であっても乾燥濃縮であっても類似した差を見出すことができた。比較的濃縮操作の自動化が簡単な固相抽出であっても十分乾燥濃縮と同等の傾向が得られることを示した。水道水生ぐさ臭原因物質の構造について,4個の異性体に限定することができた。また,浄水場への導入が進んでいる汎用型GC-MSを用いて,簡便な分析方法を提案した。環境因子(窒素,水温)がカビ臭物質産生藍藻類の増殖と同物質の産生量に与える影響について明らかとなった。また,新たに開発したwhole-cell qPCR法の有用性が示された。

公開日・更新日

公開日
2022-05-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-05-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202027001B
報告書区分
総合
研究課題名
水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化に関する研究
課題番号
H30-健危-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 修(東北大学 大学院工学研究科 )
  • 柳橋 泰生(福岡大学 工学部)
  • 藤本 尚志(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 高梨 啓和(鹿児島大学 学術研究院理工学域工学系)
  • 下ヶ橋 雅樹(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 越後 信哉(京都大学 大学院工学研究科)
  • 清水 和哉(筑波大学 生命環境系)
  • 浅田 安廣(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
秋葉道宏(平成31年1月1日 役職変更:国立保健医療科学院 統括研究官→国立保健医療科学院 生活環境研究部 部長) 下ヶ橋 雅樹 (平成30年10月14日 国立保健医療科学院 退職) 越後信哉(平成31年4月1日 所属変更:国立保健医療科学院→京都大学大学院工学研究科)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では「水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化」に資する成果を得ることを目指し,流域での障害生物の発生状況やそのメカニズムの把握,流域スケールでの生物障害発生の広域モニタリングシステムの開発,流域連携による水供給システムの生物障害適応性の強化方策の例示に関連する研究を実施した。
研究方法
流域での障害生物の発生状況把握とその予測を試みるために,まずカビ臭が発生した全国水源での原因調査を実施した。続いて,藻類発生予測モデルについて統計モデルを用いて検討した。最後に障害生物の発生メカニズムを把握するために,藻類の単離株を用いて,環境要因とカビ臭産生能の関係性について評価した。異臭味問題(カビ臭,生ぐさ臭),藻類異常発生時の溶存有機物(DOM)組成の変化に着目し,それらをモニタリング可能な手法について検討した。障害生物発生時の浄水処理での適用性強化へ向けて,ろ過障害等を引き起こす微生物の浄水場での挙動把握,粉末活性炭によるカビ臭原因物質除去に対する原水水質の影響評価を行った。国内外での生物障害事例とその対策に関して整理すると共に,カビ臭に対する適用性の強化について検討した。
結果と考察
全国カビ臭発生水源より単離した藍藻株等について,カビ臭原因物質産生藍藻類ライブラリーを構築し,その有用性を確認した。SVMを用いた藻類発生予測モデルをダム湖における1週間後の藻類異常発生予測に適用したところ,藍藻類発生に関しては高い予測性能が得られた。環境因子(水温)がカビ臭物質産生藍藻類の増殖と同物質の産生量に与える影響が大きいことを示した。
カビ臭産生藍藻類を迅速かつ簡便に検出可能な手法として,whole-cell PCR法ならびにwhole-cell qPCR法を開発した。生ぐさ臭原因物質の分子式とその構造を推定した結果,原因物質の全体構造として4個の異性体が示された。また,汎用型GC-MSを用いた生ぐさ臭原因物質の簡便な分析方法を提案した。DOMの精密質量分析により,微生物の異常増殖等DOMの極端な変化を検知できる可能性を指摘した。また,試料採水地点,時期,濃縮方法ごとのDOMの精密質量スペクトルの差異が明らかとなった。
PMA処理を適用した16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングによる微生物相解析の結果,浄水場処理工程水における主要な生菌を抽出することに成功した。粉末活性炭による2-MIB除去について,その除去率は水源ごと,また同水源でも季節ごとに異なることが示された。また除去率低下に寄与する競合物質の一部として,フルボ酸(1 kDa未満)が示された。
全76件のカビ臭発生事例調査結果から国内におけるカビ臭発生と気温,降水量,日照時間との関連性について示した。中国での導水事業等による水環境改善に関する様々な水域で実施された多様な手法について取りまとめた。新たに構築したPCR系を用いたカビ臭原因物質産生藍藻類の簡易同定法を適用することで,水源試料でのカビ臭産生藍藻類を簡易同定可能であることを示し,本手法の監視手法としての有用性について指摘した。複数種の粉末活性炭の混合注入による2-MIBの除去効果について,2-MIB除去効果の向上と活性炭総使用量を低減できることが示され,その有用性について指摘した。
結論
カビ臭原因物質産生藍藻類ライブラリーを構築し,その有用性を示した。SVMを用いて開発した予測モデルにより,藍藻類発生に関しては高い予測性能が得られた。水温は,カビ臭産生種への影響が大きい重要な環境因子であることが示された。
whole-cell PCR法ならびにwhole-cell qPCR法を開発し,カビ臭産生藍藻類を迅速かつ簡便に検出可能となった。生ぐさ臭原因物質について,その全体構造として4個の異性体を示した。また,浄水場への導入が進んでいる汎用型GC-MSを用いた同物質の簡便な分析方法を提案した。次に,精密質量分析による溶存有機物(DOM)の特性解析について,手法を検討するとともにDOMの極端な変化を検知できる可能性について示した。
浄水場処理工程水中の生菌の挙動を評価可能な手法を示した。粉末活性炭による2-MIB除去について,その除去率は水源ごと,また同水源でも採水時期で異なることが示された。また,除去率低下に寄与する競合物質の一部が明らかとなった。
カビ臭発生に関する国内事例と国外事例に関する報告を取りまとめた。カビ臭に対する適用性の強化について水源での監視の観点から,新たに構築したPCR系を用いたカビ臭原因物質産生藍藻類の簡易同定法の有用性を示した。また,浄水場での対策強化として,複数種の粉末活性炭の混合注入について検討し,2-MIBの除去効果と活性炭総使用量の視点から,その有用性について指摘した。

公開日・更新日

公開日
2022-05-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202027001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国水道水源で発生するカビ臭原因物質産生藍藻類のライブラリーと遺伝子検査による簡易同定法を構築し、カビ臭発生水源での原因調査を行い、水道事業体に情報提供を行った。また、浄水場での粉末活性炭によるカビ臭原因物質の除去を低減する物質の一部を明らかにした。そして効率的な除去方法を提示した。成果は、水道協会雑誌に掲載され、有効賞を2件受賞した。更に異臭味の一つである生ぐさ臭の原因物質を特定した。これは、分析方法、要検討項目の基準項目の設定に向けた成果となっている。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
・気候変動影響と適応策に関する情報の視覚化として水道における適応策に係るInfographicを作成し、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)にて公表した(2022年6月8日HP上で公開)。
・環境省「令和4年度気候変動適応における広域アクションプラン策定事業」でのアクションプラン策定に向けて、国民生活・都市生活分野(水道)の適応オプションに関する妥当性・限界等に関するヒアリングを2022年8月24日に実施した。
その他行政的観点からの成果
・環境省中央環境審議会地球環境部会気候変動評価等小委員会、平成31年3月28日、令和2年3月25日、9月9日、11月27日、令和4年6月17日
・気候変動の影響観測・監視の推進に向けた検討チーム(2期)令和2年7月30日、12月14日
・気候変動適応に関する研究機関連絡会議、令和2年3月27日、令和3年3月30日
・環境省気候変動の影響に関する分野別ワーキンググループ(水環境・水資源分野)委員、令和4年10月17日、令和5年2月21日
・令和4年度第1回和光市環境審議会会長、令和5年2月24日
その他のインパクト
水道工学オンライン講座を開催した。日本水道協会水道技術管理者研修会特別講演、国立環境研究所気候変動適応センター気候変動適応研修(中級コース)、利根川・荒川水系水道事業者連絡協議会講演会、千葉県企業局主催の水道技術研修、国立保健医療科学院水道工学研修にて研究成果内容について講演した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
47件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件
水道工学オンライン講座1件、講演5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
井上拓也,浅田安廣,秋葉道宏 他
全国の水道原水中における 2-メチルイソボルネオールの粉末活性炭への非平衡吸着
水道協会雑誌 , 89 (6) , 2-10  (2020)
原著論文2
江﨑敦,浅田安廣,秋葉道宏 他
形態学的特徴と遺伝子解析に基づく全国水道水源でのカビ臭原因物質産生藍藻類の存在調査
水道協会雑誌 , 90 (5) , 2-12  (2021)
原著論文3
Shinfuku Y, Takanashi H, Akiba M, et al
Exploration of an Odorous Aldehydes and Ketones Produced by Uroglena americana Using High Resolution Mass Spectrometry, GC-Olfactometry, and Multivariate Analysis
Chemosphere  (2020)
10.1016/j.chemosphere.2020.127174
原著論文4
Shinfuku Y, Takanashi H, Akiba M, et al
A Method to Purify a DNPH-derivatized Sample Using Solid Phase Extraction
Environmental Science , 33 (5) , 70-78  (2020)
https://doi.org/10.11353/sesj.33.70
原著論文5
Shen Q, Shimizu K, Akiba M, et al
Effects of elevated nitrogen on the growth and geosmin productivity of Dolichospermum smithii
Environmental Science and Pollution Research , 28 , 177-184  (2021)
10.1007/s11356-020-10429-4
原著論文6
Shen Q, Shimizu K, Akiba M, et al
Temperature affects growth, geosmin/2-methylisoborneol production, and gene expression in two cyanobacterial species
Environmental Science and Pollution Research , 29 (8) , 12017-12026  (2022)
10.1007/s11356-021-16593-5
原著論文7
矢野留実子,平健司,浅田安廣他
かび臭産生糸状藍藻類の遺伝子学的試験法の検討
水道協会雑誌 , 91 (3) , 2-12  (2022)
原著論文8
神里良太,浅田安廣,秋葉道宏他
粉末活性炭の短時間接触による 2-メチルイソボルネオール 除去に対する競合吸着有機物の特性評価
水道協会雑誌 , 91 (12) , 4-13  (2022)
原著論文9
Zhang J, Akiba M,Shimizu K, et al
Development of a Quantification and Detection Method for 2-MIB-producing Cyanobacteria
Turkish Journal of Fisheries and Aquatic Sciences , 23 (4)  (2022)
原著論文10
Miao H, Akiba M, Shimizu K, et al
Development of Rapid PCR Methods for the Detection and Quantification of Geosmin ‐ Producing Dolichospermum spp.
Water, Air, & Soil Pollution , 233 (9)  (2022)

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
202027001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,185,000円
(2)補助金確定額
10,125,000円
差引額 [(1)-(2)]
60,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,917,879円
人件費・謝金 303,339円
旅費 222,992円
その他 681,137円
間接経費 0円
合計 10,125,347円

備考

備考
自己負担金額:347円

公開日・更新日

公開日
2022-02-10
更新日
-