文献情報
文献番号
202026017A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの物理化学的性状を考慮した肺、胸腔及び全身臓器における有害性の評価ならびに新規in vitro予測手法の開発
課題番号
20KD1003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
内木 綾(名古屋市立大学大学院医学研究科 実験病態病理学)
研究分担者(所属機関)
- 戸塚 ゆ加里(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所・発がん・予防研究分野)
- 梯 アンナ(大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
23,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素線維は生体内で分解されないため、吸入されると肺、胸膜等に沈着し持続的な異物炎症を誘発する。そのため、吸入暴露による実用的な健康影響評価手法を開発することは極めて重要である。申請者らはこれまでに、ナノサイズの繊維・粒子体の有害性試験法として、簡便な経気管肺内噴霧投与法(TIPS法)を用いた試験デザインを開発し、4種のMWCNTについて肺と胸膜中皮における障害性と発がん性を明らかにしてきた。本研究では、物性の異なるCNTsをモデル物質として、TIPS投与によるラット肺・胸膜中皮発がん性の有無、および発がん性の程度を規定する毒性機序を詳細に解明する。それにより求められたTIPS投与によるCNTのAdverse Outcome Pathway (AOP)を、吸入暴露試験に代替しうるナノマテリアルの健康影響評価試験法の考案に活用することを目的として行う。
研究方法
肺発がん性が検出されたMWCNT-7、NWCNT-Nを陽性対照として、肺発がん性が未知であるフラーレン(FL)、フラーレンウィスカー(FLW)について、TIPS投与による肺腫瘍性病変の発生を解析した。酸化ストレスによるDNA損傷の指標として、8-OHdGの定量解析を行った。また、これまでにCNTの吸入暴露およびTIPS投与による肺・胸膜中皮発がん性試験において、次世代シークエンサー(NGS)を用いた全ゲノム解析を行った研究は皆無である。本研究では、CNT発がんに特徴的な変異シグネチャーの検出を目指して、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)肺標本を用いて、MWCNTsにより発生した肺腺癌と周囲正常肺組織からDNA抽出を開始した。
結果と考察
MWCNT-7、MWCNT-Nでは肺腺腫、肺癌の発生頻度が有意に上昇した一方、FLおよびFLW投与群では腺癌の発生を認めず、肺発がん性を示さないことが明らかとなった。短期試験(1週)では、MWCNT-7、MWCNT-NだけでなくFLWにおいても、肺好中球浸潤の誘導、有意な肺重量および肺胞マクロファージの増加を認めた一方、肺における活性酸素種の蓄積やCcl2、Ccl3mRNA発現上昇は、MWCNT-7、MWCNT-Nでのみ確認された。104週における肺の8-OHdG発現は、肺発がん性を認めたMWCNT-NおよびMWCNT-7で対照群と比較して有意に増加していた。これらのことから、酸化的ストレスによるDNA損傷はCNTによるAOPとして重要で、発がん機序に強く関与すると考えられた。また投与後104週のみならず、1週においても活性酸素種の蓄積が観察されることから、酸化ストレスは発がん性の短期予測指標になりえる可能性が示唆された。
FFPE肺組織からゲノムDNAを抽出した結果、分解が進んでおり全ゲノム解析に至らなかった。抽出したゲノムDNAの分解・切断が進んでおり、DIN値が極端に低かった原因として、臓器の固定に使用したホルマリンの影響が大きいと考えられた。現在、NGS解析が可能な、状態の良いゲノムDNAを得る方法を検討している。
FFPE肺組織からゲノムDNAを抽出した結果、分解が進んでおり全ゲノム解析に至らなかった。抽出したゲノムDNAの分解・切断が進んでおり、DIN値が極端に低かった原因として、臓器の固定に使用したホルマリンの影響が大きいと考えられた。現在、NGS解析が可能な、状態の良いゲノムDNAを得る方法を検討している。
結論
TIPS法を用いて、FLおよびFLWのF344ラット肺発がん性について検討した。陽性対照のMWCNT-7、MWCNT-Nでは肺腺腫、肺癌の発生頻度が有意に上昇した一方、FLおよびFLW投与群においては、腺癌の発生は認めず、肺発がん性を示さないことが明らかとなった。MWCNT-7 およびMWCNT-N投与群では、気管支および肺胞上皮細胞において、酸化的DNA損傷が有意に検出され、肺発がん性に寄与するものと考えられた。投与後1週後においても、活性酸素種レベルの上昇と肺発がん性に相関関係が見られたことから、活性酸素種はCNT発がんの短期予測指標になりえる可能性があると考えられた。
今後、さらにNGS解析が可能な、状態の良いゲノムDNAの抽出方法を検討し、抽出方法が確立し次第、再度NGSによる全ゲノム解析を行う予定である。
本研究の結果、MWCNTに固有のシグネチャーが同定できた場合には、ヒト中皮腫のシグネチャーとの類似性などについて検討し、これら新規マテリアルがヒト発がんに寄与するのかどうかについて検討を行う。また、次年度以降ではMWCNT暴露動物の非腫瘍部分を用いた変異シグネチャーの解析も予定しており、得られるデータは発がんメカニズム解明やリスク評価などに有用な情報となると思われる。
今後、さらにNGS解析が可能な、状態の良いゲノムDNAの抽出方法を検討し、抽出方法が確立し次第、再度NGSによる全ゲノム解析を行う予定である。
本研究の結果、MWCNTに固有のシグネチャーが同定できた場合には、ヒト中皮腫のシグネチャーとの類似性などについて検討し、これら新規マテリアルがヒト発がんに寄与するのかどうかについて検討を行う。また、次年度以降ではMWCNT暴露動物の非腫瘍部分を用いた変異シグネチャーの解析も予定しており、得られるデータは発がんメカニズム解明やリスク評価などに有用な情報となると思われる。
公開日・更新日
公開日
2021-10-14
更新日
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