文献情報
文献番号
202026012A
報告書区分
総括
研究課題名
バイタルサインの統合的評価をエンドポイントとした新規急性経口投与毒性試験方法の開発-統計学による半数致死量から診断学による概略の致死量への転換-
課題番号
19KD1002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究分担者(所属機関)
- 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科 動物生殖科学分野)
- 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
21,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
急性毒性試験は時代と共に簡便化され、使用する動物数が削減された。しかし、試験のエンドポイントは動物の「死亡」のままであり、死因、標的臓器等その内容は一切考慮されていない。そのため、ヒトの中毒治療に有用ではないとの批判がある。一方、動物福祉の観点から「死亡」をエンドポイントとすることに強い批判がある。本研究は、ヒトの安全性確保に主眼を置いた上で、Reductionと Refinementにより動物福祉の課題を解決する新規急性経口投与毒性試験方法の開発を目的としている。急性毒性試験のエンドポイントを「死亡」からより精緻な「複数のバイタルサイン」に置き換え、化学物質の毒性強度の指標を「統計学」を背景とした「半数致死量(LD50)」から「診断学」を基盤にした「概略の致死量」へ転換を図る。具体的には、1匹の動物から多項目に亘る毒性徴候を精緻に測定し、計算科学によって化学物質の急性毒性の強度と毒性標的の合理的判定基準を作成(スコア化)することで、ヒトが急性曝露された際の危険度をより正確に予測する。これにより、毒劇法の指定に関して、中毒事象を含むより現実に想定される事故等に即した規制が可能となることが期待される。
研究方法
一般状態、心電、心拍、血圧、体温、呼吸、脳波などのバイタルサインを指標とし、動物数の削減とヒトの安全性確保の向上を目指す。バイタルサインの測定には、近年、著しい技術革新により小型化された簡便な無線装置を含むITデバイス、新素材センサーを利用する。本研究は、(A)今までの情報や経験から選択したバイタルサインの諸項目の、急性毒性指標としての妥当性、再現性、信頼性、を確認する研究、(B)選択したバイタルサインの諸項目を正確に、実験動物から測定するためのデバイスの改良の二つの柱からなる。(A)として(1)急性毒性発現における遺伝子発現変動解析、(2)急性毒性試験における行動解析、(B)として、(3)バイタルサインセンサーの開発、(4)バイタルサインの統合的解析方法の開発、の4課題を分担研究として設定した。
結果と考察
バイタルサインセンサーの開発では、CNTヤーンを用いて心電の測定は可能となったが、脳波については現在のところ明確なデータが得られていない。ラット用に独自に開発したパルスオキシメーターでは24時間以上連続して心拍数、SpO2、呼吸数の計測に成功した。神経毒性物質であるTTXの急性毒性発現時の海馬及び肝の遺伝子発現データを取得し、その臓器連関解析において海馬及び肝臓ではストレス関連遺伝子の発現が高い一方、Na+チャネルなどTTXが直接関与することが示唆されるシグナルネットワーク関連遺伝子の発現変動は認められなかった。肝臓では糖新生に係るシグナルネットワークが見出された。マウス及びラットを用いて本研究の基盤となる行動(ハイスピードカメラを含む)、体温、心拍、血圧等のVS測定装置のセットアップを行い、先行研究において、データが豊富であるモデル化学物質を使用して基礎データの取得に成功した。バイタルサインの統合的評価のためのソフトウエア開発においては、昨年度選定したAcute Toxicity Vital Signs Score(ATVSS、仮称)の定義に利用可能なアルゴリズムのうち、教師あり深層学習について、判別性能の評価を行った結果、本研究の目標実現に有効な手法であることが判明した。
結論
バイタルサイン測定には、現在は商業的に入手可能なバイタルサイン測定装置と新規開発のCNTセンサー並びにパルスオキシメーターを並行して使用し研究を進めており、一定の成果がみられたが、新規経口投与毒性試験の実用化のためには、これらの機器を統合して実験者の利便性を高め、かつ、廉価な装置として開発する必要がある。バイタルサインを含む「一般状態観察」は毒性試験の基本技術であるが、研究者の感覚に多分に依存するため、習得に多くの経験を要し、伝授が難しい技術である。毒性試験の実践的経験が減少する昨今、若手研究者がGLP試験に求められる水準の技術を習得することが困難な状況である。本研究では熟練者が有する「暗黙知」を数値化により「形式知」に変換することで、次代の研究者の教育に寄与できる。
公開日・更新日
公開日
2021-11-02
更新日
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