インシリコ予測技術の高度化・実用化に基づく化学物質のヒト健康リスクの評価ストラテジーの開発

文献情報

文献番号
202026009A
報告書区分
総括
研究課題名
インシリコ予測技術の高度化・実用化に基づく化学物質のヒト健康リスクの評価ストラテジーの開発
課題番号
H30-化学-指定-005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山田 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 古濱 彩子(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 石田 誠一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
26,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、数万種に及ぶ既存化学物質のヒト健康リスクを効率的に評価するために、in silico手法の高度化と実用化に基づく評価のストラテジーを開発する。遺伝毒性に関しては、Ames QSARモデルのさらなる予測性の向上のために、安衛法により実施されたAmes変異原性データからトレーニングベンチマークデータセットの整備を行う。さらに、in vitro/in vivoの代謝の相違を反映した代謝予測シミュレータを開発し、Mode of Actionに基づくin vivo遺伝毒性の予測性の向上を目指す。反復投与毒性に関しては、国内外の毒性データを一元化した毒性データベースを構築してカテゴリーの拡大・精緻化を図ると共に、体内動態やAOP等の情報を統合した予測モデルの高度化を進め、OECDにおける統合的アプローチの国際的な調和の動向を取り入れた評価ストラテジーを開発する。
研究方法
Ames QSARでは、前年度までに構築した安衛法Ames試験詳細データベースを用いて第2回Ames/QSAR国際チャレンジプロジェクトを始動した。In vivo遺伝毒性予測性の向上のために、in vitro陰性でin vivo陽性物質について代謝に関する文献データを収集・解析し、代謝予測に速度論的因子を導入したモデルの構築を行った。反復投与毒性については、国内外の毒性データを統合したデータベースを完成させるとともに、その利用として神経毒性を対象に種々の解析を行い、カテゴリーの作成を行った。さらに、生殖発生毒性データベースと既知の毒性情報を元に、関連するキーイベント候補を抽出して、新しいAOPの構築を試みた。体内動態予測について化学物質の分配係数、代謝パラメータ既報値等から成るデータベースを用いて、推計パラメータによるPBPKモデルでトキシコキネティクスを推定した。
結果と考察
1589物質の予測に挑戦する第2回Ames/QSAR国際チャレンジプロジェクトを始動した。更に、安衛法Ames試験結果の詳細データベース更新を進めた。そのデータベース情報から被験溶媒や構造に関する解析とAmes試験を実施し、QSAR予測に資する知見の充実を図った。In vivo遺伝毒性予測性の向上については、in vitro/in vivoの遺伝毒性試験結果の相違を、代謝の観点から検討した遺伝毒性予測モデルを構築した。In vitroモデルでは、実験的な速度論的データを付与した。更にin vitro/in vivoモデルで、付加体の生成量を推定、学習データより陽性となる閾値を設定し、偽陽性の減少を達成した。反復投与毒性については、作成した統合データベースは、ケミカルスペースの拡大を達成し、毒性情報から化学構造を検索でき、カテゴリーアプローチに有用であることを示した。神経毒性物質について、毒性の発現に寄与すると考えられる鍵となる部分構造と体内動態に寄与する物理化学的・生物薬学的パラメータ領域を検討し、一貫性のある神経毒性の評価に資する精度の高い情報の提供を可能とした。生殖発生毒性については、特定された標的のうち、ゴナドトロピン放出ホルモン受容体結合阻害による妊娠損失と、ヒストン脱アセチル化酵素阻害による発生毒性の新しいAOPを開発した。化学物質の体内動態予測システムの基盤整備では、分配係数と代謝パラメータ値の物質特性との相関性を解析し、これらの推定法を得た。次いで、PBPKモデルで化学物質の体内動態を推定するとともに不確実性等も定量的に解析し、体内動態推定結果の信頼性を評価した。
結論
Ames変異原性については、QSARモデルの向上を目指した第2回国際チャレンジプロジェクトを始動することができ、今後のさらなる予測性向上と変異原性評価への実利用が期待できる。In vivo遺伝毒性については、代謝の速度論的関数、付加体の生成量の閾値の導入による新しいQSARモデルを開発した。In vitro陰性、in vivo陽性遺伝毒性データの合理的解釈の可能性を示した。反復投与毒性については、カテゴリーアプローチの適用範囲拡大に有用な統合データベースを完成させ、その利用として、神経毒性を対象にカテゴリーを作成し、一貫性のある神経毒性の評価に資する精度の高い情報の提供を可能とした。生殖発生毒性について昨年度に特定された標的のうち2つについてAOPを開発することに成功し、このアプローチの妥当性を検証することができた。体内動態予測システムの基盤整備では、収集した分配係数と代謝パラメータのデータの利活用により推計値を用いた信頼性の高いPBPKモデルの構築の可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2021-08-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-08-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202026009B
報告書区分
総合
研究課題名
インシリコ予測技術の高度化・実用化に基づく化学物質のヒト健康リスクの評価ストラテジーの開発
課題番号
H30-化学-指定-005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山田 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 古濱 彩子(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 森田 健(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
  • 笠松 俊夫(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
  • 石田 誠一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、数万種に及ぶ既存化学物質のヒト健康リスクを効率的に評価するために、in silico手法の高度化と実用化に基づく評価のストラテジーを開発する。遺伝毒性に関しては、Ames QSARモデルのさらなる予測性の向上のために、安衛法により実施されたAmes変異原性データからトレーニングベンチマークデータセットの整備を行う。さらに、in vitro/in vivoの代謝の相違を反映した代謝予測シミュレータを開発し、Mode of Actionに基づくin vivo遺伝毒性の予測性の向上を目指す。反復投与毒性に関しては、国内外の毒性データを一元化した毒性データベースを構築してカテゴリーの拡大・精緻化を図ると共に、体内動態やAOP等の情報を統合した予測モデルの高度化を進め、OECDにおける統合的アプローチの国際的な調和の動向を取り入れた評価ストラテジーを開発する。
研究方法
Ames QSARでは、安衛法Ames試験結果の詳細データベースに詳細な試験条件を加え、一部の試験結果の再評価を行い、信頼性が高いデータベースの構築を実施した。このデータベースを活用して、第2回Ames/QSAR国際チャレンジプロジェクトを始動した。In vivo遺伝毒性QSARについては、In vitro染色体異常試験とin vivo小核試験陽性物質およびAmes試験陰性でげっ歯類トランスジェニック突然変異試験陽性物質を対象としてデータを評価し、in vitro/in vivoにおける遺伝毒性試験結果の相違をモデルに反映した。反復投与毒性については、国内外の毒性データを統合したデータベースを構築するとともに、その利用として溶血性貧血と神経毒性を対象に種々の解析を行い、カテゴリーの作成を行った。さらに、生殖発生毒性データベースと既知の毒性情報を元に、関連するキーイベント候補を抽出して、新しいAOPの構築を試みた。体内動態予測について化学物質の分配係数、代謝パラメータ既報値等から成るデータベースを新たに作成し、推計パラメータによるPBPKモデルでトキシコキネティクスを推定した。
結果と考察
Ames QSARでは、第1回Ames/QSAR国際チャレンジプロジェクト Phase IIIを実施し、成功裡に終了させた。続いて、新しいデータセットの予測に挑戦する第2回Ames/QSAR国際チャレンジプロジェクトを始動した。更に、安衛法Ames試験結果の詳細データベース更新を進めた。被験溶媒や構造に関する解析とAmes試験を実施し、QSAR予測に資する知見の充実を図った。In vivo遺伝毒性予測性の向上については、in vitro/in vivoの遺伝毒性試験結果の相違を、代謝の観点から検討した遺伝毒性予測モデルを構築した。In vitroモデルでは、実験的な速度論的データを付与した。更にin vitro/in vivoモデルで、付加体の生成量を推定、学習データより陽性となる閾値を設定し、偽陽性の減少を達成した。反復投与毒性については、作成した統合データベースは、ケミカルスペースの拡大を達成し、毒性情報から化学構造を検索でき、カテゴリーアプローチに有用であることを示した。統合データベースの利用として、溶血性貧血と神経毒性を対象に、想定される機序に基づいてカテゴリーの構造領域を定義して、当該毒性を予測評価するカテゴリーアプローチの基盤を構築した。さらに、分子キーイベント(MIE)情報やAOPに基づいた毒性予測モデルの開発に資するため、MIEのin vitro試験データを用いた肝毒性予測モデルを作成し、高い感度を達成した。次いで生殖発生毒性について、グルタチオンの減少を伴う精巣および精子形成障害、ゴナドトロピン放出ホルモン受容体結合阻害による妊娠損失、ヒストン脱アセチル化酵素阻害による発生毒性の新しいAOPを開発した。化学物質の体内動態予測システムの基盤整備では、作成したデータベースをもとに分配係数と代謝パラメータ値の物質特性との相関性を解析し、これらの推定法を得た。次いで、PBPKモデルで化学物質の体内動態を推定するとともに不確実性等も定量的に解析し、体内動態推定結果の信頼性を評価した。
結論
本研究では、国衛研が整備してきた信頼性の高い毒性試験データと、長年にわたって蓄積してきた安全性評価の専門的知見などその強みを活かして、メカニズムに基づくin silico有害性予測技術の高度化を達成した。収集した毒性等情報はデータベース化され、評価支援ツールに実装される。本研究成果は、OECDにおける最新動向も反映しており、段階的かつ効率的なヒト健康リスク評価並びに化学物質管理の実現のために、合理的かつ透明性のあるin silico予測手法を導入した評価・審査の体制の発展的構築に貢献できる。

公開日・更新日

公開日
2021-08-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-08-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202026009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エームス変異原性では、他に類を見ない大規模データを用いた予測モデル改良の国際プロジェクトを主導し、QSAR研究に大きなインパクトを与えた。In vivo遺伝毒性では、キネティクスを導入した予測モデルを開発し、新しい概念のQSARを提唱した。生殖発生毒性では、最新研究に基づくAOPを複数作成し、毒性学の知識の拡大に貢献した。いずれも国立医薬品食品衛生研究所が蓄積してきた化学物質の毒性試験データを活用することによって達成され、in silico毒性学の発展に大きく寄与するものである。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
第806回食品安全委員会(2021年3月)に食品安全委員会評価技術企画ワーキンググループから、“食品健康影響評価において(Q)SARを活用して変異原性を評価する場合の手引き”が報告された。試験データを得ることが困難な場合に、(Q)SARを用いて化学物質の変異原性を予測評価するための我が国で初のガイダンスであり、本研究で得られた知見がガイダンス作成に役立てられた。
その他行政的観点からの成果
エチレングリコールメチルエーテル誘導体の精巣毒性をリードアクロスにより予測評価するケーススタディを2018年にOECD IATA Case Studies Projectに提出し、専門家レビュー後の2019年に、我が国からの評価文書としてOECDに正式に承認された。さらに、米国ICCVAM Read-Across Work Group、EU ToxRiskプロジェクトでも同ケーススタディを紹介し、その後のリードアクロス適用のための基本原則の確立のための国際的な議論に継続して参加している。
その他のインパクト
2019年第6回アジア変異原学会日本環境変異原学会第48回大会及び第50回日本環境変異原ゲノム学会において、エームス変異原性QSARのワークショップを開催し、産官学の枠組みを超えてQSARを実運用するための知見の蓄積と共有化を図った。2021年にはAsiaToxIXのPredictive and Computational Toxicology及び第34回日本動物実験代替法学会のComputational toxicology の有効利用の実際と将来展望において本研究事業全体の成果を紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
38件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
食品安全委員会“食品健康影響評価において(Q)SARを活用して変異原性を評価する場合の手引き”(2021年3月)
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Honma M, Kitazawa A, Cayley A, et al.
Improvement of quantitative structure-activity relationship (QSAR) tools for predicting Ames mutagenicity: outcomes of the Ames/QSAR International Challenge Project.
Mutagenesis , 34 , 3-16  (2019)
10.1093/mutage/gey031
原著論文2
Petkov PI, Schultz TW, Honma M, et al.
Validation of the performance of TIMES genotoxicity models with EFSA pesticide data.
Mutagenesis , 34 , 83-90  (2019)
10.1093/mutage/gey035
原著論文3
Morita T, Shigeta Y, Kawamura T, et al.
In silico prediction of chromosome damage: comparison of three (Q)SAR models.
Mutagenesis , 34 , 91-100  (2019)
10.1093/mutage/gey017
原著論文4
Petkov PI, Kuseva C, Kotov S, et al.
Procedure for toxicological predictions based on mechanistic weight of evidence: Application to Ames mutagenicity.
Computational Toxicology , 12 , 100009-  (2019)
10.1016/j.comtox.2017.02.004
原著論文5
本間正充
化学物質毒性ビッグデータベースと、インシリコによる毒性予測
学術会議叢書 IT・ビッグデータと薬学 , 25 , 89-100  (2019)
原著論文6
本間正充
毒性試験の未来を考える ─(定量的)構造活性相関による化学物質の変異原性評価.
国立医薬品食品衛生研究所報告 , 137 , 20-31  (2019)
原著論文7
Honma M
An assessment of mutagenicity of chemical substances by (quantitative) structure-activity relationship.
Genes and Environment , 42 , 23-  (2020)
10.1186/s41021-020-00163-1
原著論文8
Honma M, Kitazawa A, Kasamatsu T, et al.
Screening for Ames mutagenicity of food flavor chemicals by (quantitative) structure-activity relationship.
Genes and Environment , 42 , 32-  (2020)
10.1186/s41021-020-00171-1
原著論文9
Yamada T, Tanaka Y, Hasegawa R, et al.
Male-specific prolongation of prothombin time by industrial chemicals.
Fundamental Toxicological Sciences , 5 (2) , 75-82  (2018)
10.2131/fts.5.75
原著論文10
Jojima K, Yamada T, Hirose A.
Development of a hepatotoxicity prediction model using in vitro assay data of key molecular events.
Fundamental Toxicological Sciences , 6 (8) , 327-332  (2019)
10.2131/fts.6.327
原著論文11
山田隆志,足利太可雄,小島肇,他
AOP(Adverse Outcome Pathway; 有害性発現経路)に基づいた化学物質の安全性評価へ向けたチャレンジ.
YAKUGAKU ZASSHI , 140 , 481-484  (2020)
10.1248/yakushi.19-00190-1
原著論文12
山田隆志
IATAの実践および毒性データベースとin silicoツールの利用から学んだ知見.
理論化学会会誌 フロンティア , 2 (3) , 133-139  (2020)
原著論文13
P.I. Petkov, H. Ivanova, M. Honma, et al.
Differences between in vitro and in vivo genotoxicity due to metabolism: The role of kinetics.
Computational Toxicology , 22 , 100222-  (2022)
10.1016/j.comtox.2022.100222
原著論文14
Watanabe-Matsumoto S, Yoshida K, Meiseki Y, et al.
A physiologically based kinetic modeling of ethyl tert-butyl ether in humans–An illustrative application of quantitative structure-property relationship and Monte Carlo simulation.
Journal of Toxicological Sciences , 47 (2) , 77-87  (2022)
10.2131/jts.47.77
原著論文15
Yamada T, Miura M, Kawamura T, et al.
Constructing a developmental and reproductive toxicity database of chemicals (DART NIHS DB) for integrated approaches to testing and assessment.
Journal of Toxicological Sciences , 46 (11) , 531-538  (2021)
10.2131/jts.46.531

公開日・更新日

公開日
2021-08-11
更新日
2022-06-23

収支報告書

文献番号
202026009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
26,800,000円
(2)補助金確定額
26,399,000円
差引額 [(1)-(2)]
401,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,636,000円
人件費・謝金 9,867,936円
旅費 27,954円
その他 13,867,729円
間接経費 0円
合計 26,399,619円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-