文献情報
文献番号
202026006A
報告書区分
総括
研究課題名
家庭用品化学物質が周産期の中枢神経系に及ぼす遅発性毒性の評価系作出に資する研究
課題番号
H30-化学-一般-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科・動物生殖科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 掛山 正心(早稲田大学人間科学学術院)
- 冨永 貴志(徳島文理大学香川薬学部)
- 中島 欽一(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科)
- 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 五十嵐 勝秀(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 今村 拓也(広島大学大学院・統合生命科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
14,475,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
家庭用品は、それに求められる機能が多様であり、種々の化学物質が使われている。その中にはフタル酸やビスフェノールAといった低分子化学物質に代表される物質や、核内受容体や神経伝達物質受容体などに対して低濃度で作動性を発揮すると考えられる物質等が含まれている。この様な特性を有する物質には、申請者らの今までの研究から、周産期にある動物の中枢神経系にシグナル異常を引き起こし、成熟後に遅発性の有害影響を誘発することが示唆されるものもある。世代や性別を問わず、妊婦(胎児)や小児を含む国民が広く日常的に長期に渡って接する家庭用品に関しては、この観点からの有害性評価の確立をすることには大きな意義があると考えられる。
研究方法
本研究は、先行研究にて開発した評価系による独自の知見を応用することで、家庭用品に含まれる化学物質について、妊婦(胎児)や小児を上記の様なシグナル異常に脆弱な集団と位置づけ、生活環境レベルでの低用量ばく露による遅発性の中枢神経系への影響を検討する。近年の使用量が増加傾向にある物質の中から、中枢神経系の発生発達に関わる受容体に対して標的性があることが知られている物質を含む、塗料剤(研究1年目:トリブチルスズ化合物類を予定)、ゴム製品老化防止剤(研究2年目ビスフェノール系化合物類を予定)、及び防虫加工剤(研究3年目:ピレスロイド系化合物類を予定していたが有機リン系化合物に変更した)を対象とし、周産期マウスへの経胎盤投与や経乳投与を行い、成熟後に、個体・器官(システム)レベル、組織・細胞レベル、分子レベルに生じた影響を実験的に捉える。具体的な毒性評価指標は、先行研究において遅発性毒性が明らかとなった既知化学物質の結果を基準として、定量的に評価する。
結果と考察
(1)発生-発達期にかけてのアセフェートの低用量長期飲水投与による成熟後の行動影響の性差検討から、オープンフィールド試験では、雄における中央滞在率がコントロール群に対して高用量群で有意に減少したが、雌では有意差はみられなかった。一方、条件付け学習記憶試験では、雄における条件付け試験の際、コントロール群に対する低用量群のフリージング率が有意に減少していた(種村、平舘)。(2)発生-発達期にかけての塩化トリブチルスズ低用量長期飲水投与による成熟後の神経幹細胞動態影響解析からは、新生ニューロンマーカーDcx陽性細胞数の減少傾向が明らかとなり(中島)、機能ノンコーディングRNA候補としてpancRNAトランスクリプトームからはカリウムチャネル関連のGOタームが挙げられた(今村)。(3)膜電位感受性色素を用いてのビスフェノール類の脳回路機能の網羅的影響解析からは、ビスフェノール類として、ビスフェノールA(BPA)とゴム老化防止剤であるMBMTBPおよびBBMTBPを海馬スライス標本に灌流し回路機能の変調を定量的に検出した結果、BPAよりもMBMTBP,BBMTBPの方が有意に回路動作の変調が検出された(冨永)。(4)発生-発達期における化学物質暴露影響評価に関する国際的なガイドラインの作出に向けた取り組みとして、経済開発協力機構(OECD)の Developmental Neurotoxicity (DNT)との調整にくわえて、JaCVAM(日本動物実験代替法評価センター)の発達神経毒性試験資料編纂委員会からの推奨の結果を踏まえ、「神経行動毒性試験バッテリー」について、その汎用性・網羅性・迅速性といった実用性の高さをもって、標準プロジェクト化のための調整を行った(菅野、種村)。(5)血液や唾液中の液性因子への影響評価としては、引き続き検討例を増やした(掛山)。(6)DNAメチル化に影響を与えるかを判定するレポーター細胞システムの構築は、マウス神経芽細胞腫由来細胞株Neuro-2aにPiggyBacシステムによってゲノムに組み込む形で導入し、本レポーター細胞の妥当性ついて評価した(五十嵐)。また、(7)発生-発達期暴露による遅発性(成熟後)の行動様式の影響と海馬における遺伝子発現様式についてのデータベース化については、先行研究による成果を併せて、20種(化学物質・用量・投与様式)についてデータベース化を進めた(菅野、北嶋、種村)。
結論
家庭用品に使われる一部の化学物質について、マウスでの発生ー発達期(周産期を含む)におけるデータが収集できた。発生-発達期(周産期を含む)を対象とした国際的ガイドラインへの提言のためにも、家庭環境レベル、生活環境レベルにおける化学物質暴露による神経行動毒性の強度を明らかにするために、引き続きデータを収集するとともに、機能変調に対応する神経科学的物証を捉える必要があると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2021-11-02
更新日
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