文献情報
文献番号
202026004A
報告書区分
総括
研究課題名
血液中の核酸をバイオマーカーに用いた化学物質の高感度な有害性評価に資する研究
課題番号
H30-化学-一般-002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
小野 竜一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 第五室)
研究分担者(所属機関)
- 平林 容子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
- 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
- 落谷 孝広(東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
17,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日常生活に欠かすことのできない様々な物質がヒトの健康や環境に害を及ぼす危険性があり、それを把握することは、健康危機を適切に管理・回避し、安全な生活を維持するために必須である。
本研究では、ヒトに対する予測性の向上を目指した全身を網羅した次世代型安全性評価法の確立および毒性データの集積を目的としている。
最近の知見により、血液中には、細胞より分泌された小胞として知られるエクソソームが循環していることが明らかとなり、特にヒトにおいて腫瘍細胞種特異的なエクソソームをバイオマーカーとした診断精度は90 % を超えるとの報告がある。また、炎症や化学物質誘発性の臓器障害に対する特異的な血液中のバイオマーカーとして、エクソソームの内部に含まれるマイクロ RNA (miRNA) やメッセンジャー RNA (mRNA) が同定されつつある。
そこで、化学物質等による有害事象に応答して、組織・臓器から血液中に放出されるエクソソームに含まれるRNAなどの核酸分子は、毒性評価の為の新規バイオマーカーとしての有用性が期待されることから、本研究では、化学物質ばく露後のマウスの血液中のエクソソームRNAの網羅的解析により、標的臓器を特定し、更に毒性発現機序の解明を目指す事で、化学物質の「次世代型」有害性評価による迅速化、高度化および標準化を行うことを目的とする。
本研究では、ヒトに対する予測性の向上を目指した全身を網羅した次世代型安全性評価法の確立および毒性データの集積を目的としている。
最近の知見により、血液中には、細胞より分泌された小胞として知られるエクソソームが循環していることが明らかとなり、特にヒトにおいて腫瘍細胞種特異的なエクソソームをバイオマーカーとした診断精度は90 % を超えるとの報告がある。また、炎症や化学物質誘発性の臓器障害に対する特異的な血液中のバイオマーカーとして、エクソソームの内部に含まれるマイクロ RNA (miRNA) やメッセンジャー RNA (mRNA) が同定されつつある。
そこで、化学物質等による有害事象に応答して、組織・臓器から血液中に放出されるエクソソームに含まれるRNAなどの核酸分子は、毒性評価の為の新規バイオマーカーとしての有用性が期待されることから、本研究では、化学物質ばく露後のマウスの血液中のエクソソームRNAの網羅的解析により、標的臓器を特定し、更に毒性発現機序の解明を目指す事で、化学物質の「次世代型」有害性評価による迅速化、高度化および標準化を行うことを目的とする。
研究方法
本研究においては、化審法における優先評価化学物質を迅速に安全性評価するために、血液中の核酸をバイオマーカーに用いた化学物質の高感度な有害性評価系の開発を行う。
国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部においては、化学物質のマウスへの投与実験および採血、エクソソーム RNAの次世代シーケンサーによる網羅的解析を行なう。
国立がん研究センター研究所・分子細胞治療研究分野(現 東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門)においては、マウス血液からのエクソソームRNA 採取の標準化プロトコールの作成を行なう。
国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・安全性予測評価部においては、本研究において得られるベンゾトリアゾール構造を持つ5物質のばく露に特異的なエクソソーム RNA を層別化した結果と、ベンゾトリアゾール類の毒性情報、および、国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センターによる病理学的解析結果を利用することで、化学物質の毒性予測評価が可能であるかの検証を行う。
国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部においては、化学物質のマウスへの投与実験および採血、エクソソーム RNAの次世代シーケンサーによる網羅的解析を行なう。
国立がん研究センター研究所・分子細胞治療研究分野(現 東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門)においては、マウス血液からのエクソソームRNA 採取の標準化プロトコールの作成を行なう。
国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・安全性予測評価部においては、本研究において得られるベンゾトリアゾール構造を持つ5物質のばく露に特異的なエクソソーム RNA を層別化した結果と、ベンゾトリアゾール類の毒性情報、および、国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センターによる病理学的解析結果を利用することで、化学物質の毒性予測評価が可能であるかの検証を行う。
結果と考察
肝臓障害の陽性コントロールとして行った四塩化炭素の投与実験において、肝毒性を検出する新規バイオマーカーとして、エクソソーム中のsmall RNAの網羅的スクリーニングを行い、1318個の新規バイオマーカー候補を得た。
また、毒性評価を行うベンゾトリアゾール類5種類をばく露したマウスのエクソソームRNAの次世代シーケンスによる網羅的遺伝子発現解析を行い、ベンゾトリアゾール類5種類のそれぞれに特異的なバイオマーカー候補となる476個の新規small RNAの単離に成功した。さらに、これらを含むエクソソームRNAの網羅的発現データをクラスタリングすると、ベンゾトリアゾール5種類を第一群と第二群からなる2種類に層別できることを明らかにした。
また、ベンゾトリアゾール類5種類をばく露したマウスの肝臓における病理学的解析を行った結果、第一群のみ肝臓における異常所見がみられ、第二群では、肝臓での異常所見は見られなかった。
よって、エクソソームRNAによる層別化の結果は、病理所見における肝臓障害の有無を毒性予測できたと考えられる。
また、毒性評価を行うベンゾトリアゾール類5種類をばく露したマウスのエクソソームRNAの次世代シーケンスによる網羅的遺伝子発現解析を行い、ベンゾトリアゾール類5種類のそれぞれに特異的なバイオマーカー候補となる476個の新規small RNAの単離に成功した。さらに、これらを含むエクソソームRNAの網羅的発現データをクラスタリングすると、ベンゾトリアゾール5種類を第一群と第二群からなる2種類に層別できることを明らかにした。
また、ベンゾトリアゾール類5種類をばく露したマウスの肝臓における病理学的解析を行った結果、第一群のみ肝臓における異常所見がみられ、第二群では、肝臓での異常所見は見られなかった。
よって、エクソソームRNAによる層別化の結果は、病理所見における肝臓障害の有無を毒性予測できたと考えられる。
結論
本研究において作成した、マウスにおける網羅的エクソソームRNA解析の最適化プロトコールを用いることで、肝臓障害のコントロール物質としての四塩化炭素、および、ベンゾトリアゾール類5種類のばく露により生じた肝臓障害をエクソソームRNAを指標とした次世代型安全性評価法により、迅速かつ高感度に毒性を予測評価することに成功した。
エクソソーム RNA をバイオマーカーに用いた次世代型の安全性評価法は、微量血液で高感度かつ迅速な安全性評価を可能とすることから、動物愛護の 3R に資する評価系となることが期待される。
また、既存の安全性評価法と比較しても、短期、小規模動物試験で可能であり、高いスループット性を発揮するものであり、今後の化学物質の毒性データの集積に貢献すると考えられる。各種化学物質の毒性データが集積されることに伴い、血液1滴からの高感度かつ迅速な毒性予測が実現できる。また、長期反復毒性試験の大幅な短期化にも貢献することが期待される。
エクソソーム RNA をバイオマーカーに用いた次世代型の安全性評価法は、微量血液で高感度かつ迅速な安全性評価を可能とすることから、動物愛護の 3R に資する評価系となることが期待される。
また、既存の安全性評価法と比較しても、短期、小規模動物試験で可能であり、高いスループット性を発揮するものであり、今後の化学物質の毒性データの集積に貢献すると考えられる。各種化学物質の毒性データが集積されることに伴い、血液1滴からの高感度かつ迅速な毒性予測が実現できる。また、長期反復毒性試験の大幅な短期化にも貢献することが期待される。
公開日・更新日
公開日
2021-08-02
更新日
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