新型毒性試験法とシステムバイオロジーとの融合による有害性予測体系の構築

文献情報

文献番号
202026001A
報告書区分
総括
研究課題名
新型毒性試験法とシステムバイオロジーとの融合による有害性予測体系の構築
課題番号
H30-化学-指定-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構)
  • 相﨑 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
  • 夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬研究センター バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
33,100,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関変更 研究代表者 菅野 純 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部(~令和3年3月31日) --> 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部(令和3年4月1日~)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、化学物質曝露が実験動物に惹起する遺伝子発現を網羅的にネットワークとして描出する技術と、バイオ・インフォマティクス技術とを実用的に統合し、従来の毒性試験に不確実係数(安全係数)を組み合わせる評価手法を補強するとともに、さらに迅速、高精度、省動物を具現化した新たな有害性評価システムとして従来法を代替することを目標とする。
研究方法
Percellome絶対量化法(BMC Genomics.7,64,2006/特許441507/細胞1個当たりのmRNAコピー数として発現値を得る方法)を用いて化学物質の反復曝露に対するマウス肝の遺伝子発現の反応を解析した結果、①曝露の度に短期的に変化を示す「過渡反応」と、②曝露を重ねるに連れて発現値の基線(ベースライン)が徐々に移動する「基線反応」の二つの成分があり、単回曝露影響を単純に積算した変化とは異なることを明らかにした。この、過渡反応と基線反応の関連性を観測可能な新型反復曝露実験(4~14日間の反復曝露を行い、次の日に単回曝露を実施し2、4、8、24時間後に肝の網羅的遺伝子解析を行う)をメトトレキセート及び、サリドマイドについて実施した(国立医薬品食品衛生研究所の「動物実験の適正な実施に関する規程」を遵守)。また、先行研究で新型反復曝露実験を実施した際の溶媒影響についてのヒストン修飾解析を次世代シーケンサーを用いて行った。なお本研究解析に用いるアルゴリズムは、Percellome技術やシステムバイオロジーに基づいて開発し、独自開発の解析プログラムに実装した。
結果と考察
『短期間「新型」反復曝露実験による反復曝露毒性予測技術の開発』は、メトトレキサート及び、サリドマイドについて実施した。前者は、発現変動する遺伝子数が少なかったが、特徴的な変化として、ヘモグロビン関連遺伝子(Hba-a1/Hba-a2、Hbb-b1/Hbb-b2等)及びヘプチジン(Hamp2)の発現への影響が認められ、メトトレキサートによる酸化的ストレス低下のシグナルが、ヘモグロビン合成抑制に働き、鉄欠乏状態類似の状況を誘発し、ヘプチジンの発現を代償性に誘発した可能性が示唆された。後者は、反復曝露による2時間目のシグナル系遺伝子の過渡反応の抑制傾向及び、NRF2系を介した酸化的ストレス系の基線反応の増強を確認した。『毒性発現のエピジェネティクス機構解析』においては、化学物質の反復投与時のヒストン修飾における溶媒の影響の程度を網羅的に評価するために、コーンオイルを14日間反復投与した際のエピジェネティクスを解析した。その結果、ヒストン修飾の変化の多くは溶媒影響ではないことを確認した。『システム毒性解析の人工知能(AI)化』においては、Percellomeデータから有意に変動した遺伝子を網羅的に抽出するAIシステムの開発を継続し、予測精度の向上を実現した。解析ソフトウェアの中核として遺伝子発現クラスタリング用のAGCTと転写制御領域の解析用のSHOEを改良した。『Percellome専用解析ソフトウェアの開発・改良』では、独自開発したBaselineComparisonを用いて「反復曝露基線反応データベース」を構築し、データベース全体を参照してこの性能評価を行うと共に、新型反復曝露プロトコルの妥当性を確認した。『Percellomeデータベースを利用した解析パイプライン』では、各種の解析ツールの構成を試行し、マウス肝発がん性が報告されているエストラゴルの解析を進めた結果、これが特異性の高いPPARαリガンドであるという妥当な結論が導出された。
結論
先行研究の13化学物質に加え、本研究の2化学物質の新型反復曝露時の過渡反応と基線反応の関連性解析を進めると同時に、化学物質ごとの遺伝子発現変動情報も蓄積した。
反復曝露による基線反応成立のエピジェネティクス機構解析においては、溶媒として用いるコーンオイル自体の反復投与によるヒストン修飾を解析し、溶媒によるエピゲノム影響を正確に把握した。これらの情報を照合した結果、遺伝子発現変動情報とエピジェネティクス情報との関連性につき新規性の高い解析結果が得られている。
システム毒性解析の人工知能化については解析パイプラインの機能強化とともに、遺伝子発現データからの候補遺伝子抽出工程のAI化研究を進め一層の精度向上を実現した。
Percellome専用解析ソフトウェアの開発・改良では、反復曝露基線反応データベースを構築し、基線反応による化学物質クラスタリングなどのデータベース全体を対象とする解析を行って本データベースの性能や新型反復曝露プロトコルの妥当性を確認した。Percellomeデータベースを利用した解析パイプラインでは、エストラゴルに関する解析を行い、実用的な解析パイプライン構築を進めた。

公開日・更新日

公開日
2021-08-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-08-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202026001B
報告書区分
総合
研究課題名
新型毒性試験法とシステムバイオロジーとの融合による有害性予測体系の構築
課題番号
H30-化学-指定-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構)
  • 相﨑 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
  • 夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬研究センター バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関変更 研究代表者 菅野 純 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部(~令和3年3月31日) --> 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部(令和3年4月1日~)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、化学物質曝露が実験動物に惹起する遺伝子発現を網羅的にネットワークとして描出する技術と、バイオ・インフォマティクス技術とを実用的に統合し、従来の毒性試験に不確実係数(安全係数)を組み合わせる評価手法を補強するとともに、さらに迅速、高精度、省動物を具現化した新たな有害性評価システムとして従来法を代替することを目標とする。
研究方法
Percellome絶対量化法(BMC Genomics.7,64,2006/特許441507/細胞1個当たりのmRNAコピー数として発現値を得る方法)を用いてマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現データ(Percellomeデータ)を取得し、化学物質の反復曝露によるマウス肝の遺伝子発現変動を解析した結果、①曝露の度の「過渡反応」と、②曝露を重ねるに連れて発現値が徐々に変動する「基線反応」の二つの成分があり、単回曝露影響を単純に積算した変化とは異なることを明らかにした。この、過渡反応と基線反応の関連性を観測可能な新型反復曝露実験(4~14日間の反復曝露を行い、次の日に単回曝露を実施し2、4、8、24時間後の肝の網羅的遺伝子解析を行う)を実施した(国立医薬品食品衛生研究所の「動物実験の適正な実施に関する規程」を遵守)。また、新型反復曝露実験のヒストン修飾解析を次世代シーケンサーを用いたクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-Seq)法により行った。なお本研究解析に用いるアルゴリズムは、Percellome技術やシステムバイオロジーに基づいて開発し、独自開発の解析プログラムに実装した。
結果と考察
『短期間「新型」反復曝露実験による反復曝露毒性予測技術の開発』は、イミダクロプリド、ジエチルニトロサミン、クロルピリフォス、5-アザシチジン、メトトレキサート及び、サリドマイドの網羅的遺伝子発現データから、反復曝露に共通の要素と各物質に固有な要素を抽出した。『毒性発現のエピジェネティクス機構解析』においては、バルプロ酸ナトリウムとクロフィブラートの反復曝露時のChIP-Seqによるヒストン修飾解析結果を得た。また溶媒影響を確認するためにコーンオイル14日間投与後のChIP-Seq解析を実施し、影響が僅少なことを確認した。『システム毒性解析の人工知能(AI)化』においては、有意に変動した遺伝子をPercellomeデータ中から網羅的に抽出するAIシステムを開発し、高い予測成績を得た。また解析ソフトウェアの中核として遺伝子発現クラスタリング用のAGCTと転写制御領域の解析用のSHOEを改良し、Garuda Platformのソフトウェア等、複数の解析ツールを使った統合パイプラインを構築・強化した。『Percellome専用解析ソフトウェアの開発・改良』では、反復曝露における基線反応の解析ソフトウェアBaselineComparisonを開発し「反復曝露基線反応データベース」を構築した。『Percellomeデータベースを利用した解析パイプライン』では、解析パイプライン整備の一環として汎用性が高いと考えられる解析プロセスを構築し実行した。平成30年度はバルプロ酸ナトリウム、令和元年度はペンタクロロフェノール、令和2年度はエステラゴルの曝露による肝の遺伝子発現解析を実施した。
結論
新たに6化学物質の新型反復曝露時の網羅的遺伝子発現データを取得、過渡反応と基線反応の関連性の解析を進めると同時に、化学物質ごとの遺伝子発現変動情報も蓄積した。
反復曝露による基線反応を説明するエピジェネティクス機構の解析では、バルプロ酸ナトリウム、及びクロフィブラートの反復曝露によるヒストン修飾データを取得した。また溶媒として用いるコーンオイル自体の反復投与によるヒストン修飾を解析し、溶媒によるエピゲノム影響を正確に把握した。これらの情報を照合し、遺伝子発現変動情報とエピジェネティクス情報との関連性につき新規性の高い解析結果が得られた。
システム毒性解析の人工知能化については解析パイプラインの機能強化とともに、遺伝子発現データからの候補遺伝子抽出工程のAI化研究を進め、高い判定予測成績を実現した。
Percellome専用解析ソフトウェアの開発・改良では、新型反復曝露実験における基線反応解析ソフトウェアを作成、さらに反復曝露基線反応データベースを構築して、基線反応による化学物質クラスタリングや基線反応の類似解析等を実現した。Percellomeデータベースを利用した解析パイプラインでは、実際のデータ(バルプロ酸ナトリウム、クロフィブラート、エストラゴル)を用いて、本研究で開発した解析パイプラインの性能検証を実施し、実用的な解析パイプライン構築を進めた。以上の研究成果により、毒性学とシステムバイオロジーの融合が深まり、有害性予測体系の構築が大幅に進展した。

公開日・更新日

公開日
2021-08-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-08-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202026001C

収支報告書

文献番号
202026001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
33,100,000円
(2)補助金確定額
32,421,000円
差引額 [(1)-(2)]
679,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 16,000,121円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 16,421,876円
間接経費 0円
合計 32,421,997円

備考

備考
自己資金977円を加え、研究費を支出した

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-