規制薬物の分析と鑑別等の手法の開発のための研究

文献情報

文献番号
202025011A
報告書区分
総括
研究課題名
規制薬物の分析と鑑別等の手法の開発のための研究
課題番号
19KC1002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 花尻 瑠理(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部第3室)
  • 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 緒方 潤(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 小林 典裕(神戸薬科大学 生命分析化学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,麻薬・向精神薬取締法,覚せい剤取締法,大麻取締法及びあへん法などで厳しく規制される薬物及び植物の効果的な鑑別法を薬物取締行政に提示するために実施する.令和3年3月時点で,医薬品医療機器等法下,指定薬物として規制されている薬物は2392種類となった.また,指定薬物から麻薬に規制強化された薬物は64種類にも及ぶ.これら薬物は,所持・使用が禁止されているが,構造類似体が多く存在し,また,ほとんどの薬物において代謝物情報が未知であるため,特に,生体試料中薬物の鑑別は困難を極めている.そこで,この研究では,主に生体試料中規制薬物及び代謝物の迅速で高感度,かつ選択性の高い鑑別法開発に焦点をあて,新規に開発された質量分析装置等を用いた検討を行う.また乱用される植物について,成分分析及び遺伝子分析による鑑別法の開発を行う.以上,本研究は,法規制薬物及び植物について効果的な鑑別を行うための手法を確立することを目的としている.
研究方法
国庫帰属品の大麻濃縮物をLC-QTOF-MSで分析した.大麻含有食品中のカンナビノイド成分の定量をQuEChERS法及びGC-FIDを用いて検討した.CBDの分解反応におけるGC注入口の影響について検討した.1H-qNMR法により大麻草由来CBD製品中のカンナビノイド成分の定量を検討した.大麻草由来の高純度CBD製品より,Δ9-THCを合成し,その副生成物のΔ8-iso-THCの同定を検討した.カチノン類とフェンタニル誘導体について標準品の合成を行なった.大麻草のSTR及びSNPsマーカーを用いたDNAアレルパターンによる識別法の検討として,核ゲノムDNA上のSTRマーカーを用い,検討を行った.特異モノクローナル抗体を活用する法規制植物成分オンサイト分析法ついて,シロシン及びシロシビンに特異的な抗体を産生するハイブリドーマ株を新規に樹立し,得られるモノクローナル抗体を用いたELISAによりマジックマッシュルーム中シロシン/シロシビンの測定が可能であるか検討した.
結果と考察
法規制薬物の鑑別に関する研究では,国庫帰属品の大麻濃縮物をLC-QTOF-MSで分析した結果,6製品はΔ9-THCが主カンナビノイド成分であり,CBG, CBC, CBD, CBL,Δ9-THCV, Δ9-THCB, Δ9-THCP等が検出された.2製品はCBDを主カンナビノイド成分とし,CBC, CBG, CBL,Δ9-THC,CBDV, CBDB, CBDP等が検出された.大麻含有食品中のカンナビノイド成分の定量をQuEChERS法及びGC-FIDを用いて検討した.その結果EN抽出塩による方法は添加回収試験の結果は良好で,10種類の食品でのΔ9-THCの回収率は95.2~113.5 %,標準偏差は0.5~1.7 %であった.本法を用い押収品のΔ9-THC含有食品13検体を分析した結果,Δ9-THCの含有量は0.33~7.14 mg/gで全てからCBC及びTHCVが,11検体からCBGが検出された.CBDの分解反応におけるGC注入口の影響について検討した結果,CBD異性化の抑制には,GC注入口のスプリット比を高く,注入口温度を低くする,カラム接続部のリークの確認及びTMS誘導体化が有効であった.1H-qNMR法により大麻草由来CBD製品中のカンナビノイド成分の定量した結果,粉末状製品5種のCBD含量は97.41~99.51%,タブレット製品2種は2.97~3.71%であった.高純度CBD製品よりΔ9-THCを合成し,副生成物のΔ8-iso-THCを同定した.NMRスペクトルの解析により,Δ8-iso-THCの1,3,6位は全てR配置であり,既知のtrans-iso-Δ7-THCと同一の立体構造であることが示唆された.麻薬として規制されているフェンタニル誘導体,ValerylfentanylおよびCrotonylfentanyl,カチノンN-Ethylhexedroneを合成した.法規制植物の鑑別に関する研究では,大麻種子96粒27集団を用い核ゲノムDNA上のSTRマーカー12種によるDNAジェノタイピングを行い,STR遺伝子座を調査した結果,STRマーカーによる識別法は高い分離能力を示した.特異モノクローナル抗体を活用するオンサイト分析法で,シロシン及びシロシビンに特異的な抗体を産生するハイブリドーマ株を新規に樹立し,得られたモノクローナル抗体を用いたELISAでは充分なアッセイ感度が得られた.シロシン対照試験の結果より,特異性が高く擬陽性が出にくい測定法が確立できたと考えられた.
結論
本研究は,厚生労働省の薬物取締行政に直接貢献する研究であり,国の乱用薬物対策に即したものである.また今後出現しうる新規の乱用薬物の鑑別についても有用であると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2021-10-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202025011Z