危険ドラッグ及び関連代謝物の有害作用解析と乱用実態把握に関する研究

文献情報

文献番号
202025004A
報告書区分
総括
研究課題名
危険ドラッグ及び関連代謝物の有害作用解析と乱用実態把握に関する研究
課題番号
H30-医薬-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 栗原 正明(国際医療福祉大学 薬学部)
  • 浅沼 幹人(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経機構学分野)
  • 北市 清幸(岐阜薬科大学 医療薬剤学大講座 薬物動態学研究室)
  • 嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
2,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
危険ドラッグとしてフェンタニル類縁化合物や合成カンナビノイドなどが流通している。フェンタニル類縁化合物については、海外では流通が拡大しており、わが国でもその活性や毒性評価に基づき、適切な規制を進める必要がある。現在までに実施された包括指定を参考に、フェンタニル類縁化合物についても包括指定対象範囲を設定することが急務である。同様に、危険ドラッグ使用による健康被害を迅速に予測するために、簡便な細胞毒性の評価法および危険ドラッグ検出に関して更なる検討が必要である。本研究では、フェンタニル類縁化合物の包括指定の妥当性を検証する目的で、フェンタニル活性予測と毒性の検出手法に関する研究を実施した。毒性評価については、モノアミン系培養神経細胞を利用した評価法について検討した。また、合成カンナビノイドについては、薬物使用の指標となる代謝産物の検出効率化を目指し、細胞を利用した検出法について検討した。さらに、危険ドラッグおよび大麻の乱用状況に関する実態調査結果の解析を実施した。
研究方法
フェンタニル類縁化合物の行動薬理学的解析および細胞による毒性評価を行い、有害作用の発現強度と化学構造の関連性について検討した。コンピュータシミュレーションによる危険ドラッグの有害性予測に関する研究としては、フェンタニル類縁化合物について、オピオイドμ受容体を標的にしたドッキングスタディを行い、ドッキングスタディの評価関数と実際の活性値との相関を調べた。検出系の研究としては、危険ドラッグ曝露早期の細胞内での酸化ストレスを広く評価するために、モノアミン系培養神経細胞を用いて、細胞内活性酸素種生成を蛍光物質dihydroethidine (dHEt)によって解析した。また、合成カンナビノイドの代謝経路を参考に、ヒトおよびラット肝ミクロソームを使用して、主要な代謝物の検出について検出条件の検討を行った。疫学調査:音楽系の野外フェスティバルをフィールドとして、危険ドラッグならびに大麻乱用実態に関する携帯端末を活用したオンライン調査結果の解析を実施した。
結果と考察
フェンタニル類縁化合物の行動薬理学的解析の結果、オピオイド受容体を介して強力な中枢興奮作用を示すことが確認された。また、CHO-μ細胞による解析から、作用発現については、μ受容体活性が重要であることが明らかになった。また、フェンタニル類縁化合物による中枢興奮作用とμ受容体活性化強度において有意な相関性が確認されたことから、フェンタニル類縁化合物の中枢興奮作用はμ受容体活性化強度の解析から予測できると考えられる。同様に、コンピュータシミュレーションにより、オピオイドμ受容体を標的にしたドッキングスタディを行った。その結果、ドッキングスタディの評価関数と実際の活性値は各種計算条件を変更することで相関性の向上が見られた。オピオイドμ受容体作用強度を指標にQSAR解析およびドッキングスタディを適切に利用することにより、フェンタニル類縁化合物の包括規制への展開が効果的であると考えられる。また、モノアミン系培養神経細胞と蛍光物質dHEtを利用して、危険ドラッグの細胞毒性を評価したところ、高感度で毒性検出が可能であった。さらに、合成カンナビノイドについて、ヒトおよびラット肝ミクロソームによる代謝実験において、主要な代謝物の検出が可能であった。ヒトにおける代謝挙動の推定において、培養細胞による解析は有用であることが示唆された。疫学調査:音楽系の野外フェスティバルをフィールドとして、危険ドラッグおよび大麻乱用に関する実態調査結果(437名分)の解析を行った。大麻の生涯経験率は12.6%、使用経験のある大麻の形状は、乾燥大麻に加えて、大麻ワックス、大麻クッキーなどの加工品が増加していた。また、大麻乱用経験者において、飲酒率が高い傾向にあった。また、大麻使用経験の有無に関わらず、医療用の使用に関しては肯定的であった。
結論
本研究より、フェンタニル類縁化合物は主にオピオイドμ受容体に作用することから、CHO-μ細胞を利用した蛍光強度解析データは、有害作用の推測に利用できる可能性が示唆された。また、コンピュータシミュレーションによるQSAR解析を併用することにより、フェンタニル類縁化合物の有害作用の推測が可能となり、適切な包括指定対象範囲を設定することが可能であると考えられる。また、培養細胞を利用した合成カンナビノイドの代謝物検出ならびに細胞毒性の検出法の妥当性が示された。本研究の評価システムは、危険ドラッグの中枢作用および有害作用発現の迅速な評価法として有用であり、得られる科学データは規制根拠として活用できると考えられる。同時に、様々なイベントを通じて、危険ドラッグや大麻などの薬物依存症からの回復へ向かうための対策が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2021-07-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202025004B
報告書区分
総合
研究課題名
危険ドラッグ及び関連代謝物の有害作用解析と乱用実態把握に関する研究
課題番号
H30-医薬-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 栗原 正明(国際医療福祉大学 薬学部)
  • 浅沼 幹人(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経機構学分野)
  • 北市 清幸(岐阜薬科大学 医療薬剤学大講座 薬物動態学研究室)
  • 嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新規精神活性物質(日本では、危険ドラッグと呼ばれている)の世界的流通が問題となっている。合成カンナビノイドおよびカチノン系化合物は、依存性や細胞毒性等の強力な有害作用を示すため、包括指定等による規制がなされた。近年、フェンタニル類縁化合物などの包括指定対象外の薬物の流通が台頭しており、現行の包括指定対象範囲については、再評価を行い範囲拡大等の対応が急務である。同様に、救急医療の現場での対応を考えた場合、危険ドラッグの検出に関しては、更なる検討が必要である。本研究では、フェンタニル類縁化合物の包括指定の可能性、カチノン系化合物検出手法に関する研究を実施した。合成カンナビノイドについては、生体からの検出を目論み、代謝物の検出およびその機能解析を行った。また、危険ドラッグの乱用状況および周知に関する調査を実施し、危険ドラッグ対策手法策定に関する考察を行った。
研究方法
危険ドラッグの行動薬理学的解析および細胞による毒性評価を行い、有害作用の発現強度と化学構造の関連性について検討した。コンピュータシミュレーションによる危険ドラッグの有害性予測に関する研究としては、危険ドラッグの作用点を標的にしたドッキングスタディを行い、ドッキングスタディの評価関数と実際の活性値との相関を調べた。検出系の研究としては、危険ドラッグ曝露早期の細胞内での酸化ストレスを広く評価するために、モノアミン系培養神経細胞を用いて、細胞内活性酸素種生成の解析を実施した。また、合成カンナビノイドの代謝経路を参考に、ヒトおよびラット肝ミクロソームを使用して、主要な代謝物の検出について検出条件の検討を行った。疫学調査:音楽系の野外フェスティバルをフィールドとして、危険ドラッグならびに大麻乱用実態に関する携帯端末を活用したオンライン調査結果の解析を実施した。
結果と考察
本研究より、危険ドラッグの中枢作用を推測する指標として、運動調節機能評価が利用できることが明らかになった。また、危険ドラッグが作用する薬物受容体について、その受容体発現細胞による解析データから得られる活性強度に基づいて、中枢作用の発現予測が可能であった。危険ドラッグの作用する薬物受容体などの機能タンパク質に着目して、その活性強度から中枢作用を予測できる可能性が確認できた。行動薬理学的手法による中枢作用の評価と培養細胞による機能タンパク質活性予測から構成される解析システムは、中枢作用発現の迅速な評価法として有用であり、得られる科学データは規制根拠として活用できると考えられる。また、コンピュータを用いた化学計算によるインシリコ評価法を用いて危険ドラッグの活性予測を行い、危険ドラッグの包括規制の範囲を決める評価法の開発を行った。QSAR及びドッキングスタディの適用により、予測活性値を得られることが確認された。今後、評価化合物を増やして検討を行うことにより、フェンタニル類縁化合物等の包括規制への展開が期待される。また、危険ドラッグについて、培養神経細胞でのHMGB1の発現および核外移行や蛍光物質dHEtを用いた活性酸素種生成の評価解析は、神経炎症や酸化ストレスについての鋭敏な検出法となると考えられる。同様に、有用な神経毒性発現の蓋然性のスクリーニング方法として期待できる。合成カンナビノイドの代謝プロファィルの解析と異性体を含む合成カンナビノイドの解析については、LCMS-IT-TOFによる測定法が有用であることが明らかになった。合成カンナビノイド測定系を用い、複数の合成カンナビノイドにおけるヒト肝ミクロソームにおけるin vitro代謝経路の解明が可能となった。摂取された合成カンナビノイドおよびその代謝物の識別技術確立のために有用な情報であると考えられる。危険ドラッグの成分分析では異性体等の構造類似化合物の可能性を考慮しつつ化合物を同定する必要があり、技術革新をさらに進めていく必要がある。危険ドラッグに関する実態調査では、危険ドラッグ流通規制が功を奏し、危険ドラッグ使用者の減少が確認された。一方、大麻乱用の拡大については、注視していく必要がある。今後は一般住民調査のような代表性のある調査データと組み合わせた上で、乱用実態を捉えることが必要である。
結論
本研究において、危険ドラッグの作用する薬物受容体などの機能タンパク質の活性強度から中枢作用(有害作用)を予測できる有害作用評価システムのプロトタイプを構築できた。本評価システムは、危険ドラッグの中枢作用および有害作用発現の迅速な評価法として有用であり、得られる科学データは規制根拠として活用できると考えられる。現在のところ、危険ドラッグに加え、大麻乱用の拡大が懸念される。今後は、危険ドラッグの有害作用評価法を主軸に、大麻の有害作用および検出システムについても検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202025004C

収支報告書

文献番号
202025004Z