非定型BSE等動物プリオン病のヒトへの感染リスクの推定と低減に資する研究

文献情報

文献番号
202024037A
報告書区分
総括
研究課題名
非定型BSE等動物プリオン病のヒトへの感染リスクの推定と低減に資する研究
課題番号
20KA1003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
堀内 基広(北海道大学 大学院獣医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 新 竜一郎(宮崎大学 医学部 感染症学講座 微生物学分野)
  • 小野 文子(岡山理科大学 獣医学部)
  • 飛梅 実(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 萩原 健一(国立感染症研究所 細胞化学部)
  • 古岡 秀文(帯広畜産大学 畜産学部)
  • 宮澤 光太郎(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門ウイルス・疫学研究領域感染生態ユニット)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
26,168,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 牛海綿状脳症 (C-BSE) は世界的に公衆衛生上の脅威となったが、飼料規制等の管理措置により発生は収束している。一方、非定型BSEの存在が明らかとなり、非定型BSE (L-BSEとH-BSE) が高齢牛で孤発してC-BSEの起源となる可能性も指摘されている。ヒツジのスクレイピーは、病原体 “プリオン” に多様性があり、ヒトに感染しうるプリオン株の存在は否定できない。鹿科動物の慢性消耗病 (CWD) は、2016年以降、北欧でも発生が報告され、感染拡大が懸念されている。このようにC-BSE発生収束後も、動物プリオン病は発生しており、ヒトの健康危害への懸念が絶えない。プリオン病は致死性の神経変性疾患で治療法がないため、C-BSE再興の防止、並びに非定型BSEを含め動物プリオン病のヒトへの感染リスクの低減を目的とした管理措置は重要である。最近、非定型スクレイピーがC-BSEの起源となることが報告された。従って、動物プリオン病の病原体の性状が変化してヒトへ感染することを想定した対策が必要となる。各種動物プリオン病の高精度検出・性状解析法の整備、各種動物プリオン病のヒトへのリスク、および、ヒトに感染性を有する病原体に変化する可能性に関する知見は、適切な管理措置の根拠となる。そこで本研究では、1) 各種動物プリオン病の高精度検出系の整備、2) 非定型BSE感染ウシおよびサルの病態解析、3) プリオンの異種間伝達によりヒトへの感染リスクを伴うプリオン株の出現、に関する研究を進め、動物プリオン病の病原体がヒトへ感染するリスクの低減に貢献する。
研究方法
1)ヒツジスクレイピーを高感度・高精度に検出するRT-QuICの構築:定型スクレイピーとして我が国で発生し、マウスへの伝達性およびPrPScの生化学性状から性状が異なる4株 (SB, Y5, S3, B3)、および英国由来の非定型スクレイピーを使用した。RT-QuICの基質として、計16種を使用した。

2)L-BSEプリオン経口感染ウシの末梢組織におけるPrPScの蓄積評価:L-BSE感染ウシ脳乳剤(50g)を経口投与88ヶ月後に斃死し、WB法により中枢神経系におけるPrPScの蓄積を確認した個体の筋組織およびリンパ組織におけるPrPScの蓄積をPMCA法を用いて検出を試みた。

3)非定型BSEを実験接種したカニクイザルの病態解析:H-BSE脳内接種サルおよび経口投与サルの臨床症状の観察、運動機能、および高次脳機能解析を実施した。脳内接種サルを、接種後4年10ヶ月、および5年4ヶ月で、および経口投与サルを接種後4年10ヶ月の時点で安楽死させ、中枢神経系組織を病理学的および生化学的に解析し、感染成立の有無を調べた。

4)異種間PMCAによるヒトへの感染リスクを伴う株の出現:4個体分のCWD感染シカ脳乳剤をシード、ウシPrP過発現マウス脳乳剤を基質としてPMCA法を行った。増幅したPMCA産物のバンドパターンおよびPK感受性をWBにより解析した。
結果と考察
1)定型スクレイピープリオン検出用のRT-QuICに使用する基質として、マウスPrPとシカPrPのキメラrMo/CerPrPが有用であり、非感染脳乳剤存在下でもある程度の感度で、性状の異なる定型スクレイピープリオンを検出できることから、定型スクレイピープリオン検出用のRT-QuICは構築できた。

2)H-BSEプリオンを脳内接種したカニクイザルの臨床症状、運動機能、および高次脳機能を継続するとともに、接種後4年10ヶ月、5年4カ月に安楽死して病理学的ならびに生化学的解析を行ったが、伝達を示す証拠は得られなかった。従って、C-BSEおよびL-BSEと比較して、ヒトへの感染性は低いと考えられる。

3)PMCA法を用いて、L-BSEプリオン経口感染ウシの筋組織の一部および回腸パイエル板に微量のPrPScが蓄積することを明らかにした。L-BSEのリスク管理措置としても、回腸遠位部の特定部位への指定は有効であると考えられる

4)異種間伝達を模した異種間PMCAによりCWDおよびH-BSE感染脳乳剤からC-BSE様プリオンが出現することが示された。従って、直接ヒトへの感染性を示さない動物プリオンも他種動物へ伝達することでヒトに感染し得るプリオンが生じるリスクは無視できないと考えられる。
結論
・定型スクレイピープリオン検出用のRT-QuICを構築した
・H-BSEプリオンはカニクイザルに伝達しない可能性が示唆された
・L-BSE経口感染ウシの筋肉および回腸パイエル板にプリオンが存在した
・CWDプリオンからC-BSE様プリオンが出現することを明らかにした

公開日・更新日

公開日
2021-10-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202024037Z