化粧品の眼刺激性試験代替法に関する調査研究

文献情報

文献番号
199700453A
報告書区分
総括
研究課題名
化粧品の眼刺激性試験代替法に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉村功(東京理科大学)
  • 高松翼(日本化粧品工業連合会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化粧品の眼粘膜刺激性評価におけるインビトロ代替試験法の利用の可否を判断するために多施設の協力で実施されたバリデーションの結果の解析を進めるとともに、必要な場合には追加的検討を行い、可能ならば代替試験法を組み込んだガイドライン案や公定法案を作成することを目的とした。また、ガイドラインの作成に当たっては国際的ハーモナイゼーションのとれた方法が望ましいことから、本分担研究では昨年度に引き続き化粧品の眼刺激性試験代替法についての欧米の状況を中心に調査した。
研究方法
研究班ではデータ解析グループ、ガイドライン検討グループ、論文作成グループ、及び海外情報収集グループを、それぞれ4ー5人程度で組織した。また、必要に応じて、合同会議を開催し、有機的な関連を持って眼刺激性試験代替法の評価とそれを含むガイドライン案の作成を行った。各代替法について、ドレイズスコアと直線的な関係を持つ変数変換を調べた。その上で最も当てはめがよい回帰直線を推定した。さらに残差解析を行って回帰式の妥当性を検証した。ただし、ED50を指標とする代替法については、ホッケースティック型の関数を考えた上で、斜辺部分のデータのみで回帰直線を推定した。また、代替法によるドレイズスコアの予測モデルを構成し、それによって無刺激性物質を無刺激と確実に判定できるかどうか、強刺激性物質を強刺激と確実に判定できるかどうかを検討した。ここでは無刺激をドレイズスコアが5以下であることとし、強刺激をドレイズスコアが50以上であることとした。上記の二つの検討においては、界面活性剤、多価アルコール、有機酸塩の19物質からなる物質群、及び39物質からアルコール、酸、アルカノールアミンを除いた25物質からなる物質群、という二つのデータセットを構成し、物質を限定することで予測モデルの性能が変わるかどうかを吟味した。
結果と考察
回帰式の推定については、残差平方和などいくつかの規準で妥当性を検討した上で、各代替法にたいして自乗或いは常用対数変換を行うことにした。その上で重み付き最小二乗法でドレイズスコアに対する回帰直線を推定し、信頼区間を求めた。これらの結果に基づき、予測性能の評価を行った。その結果以下の結果を得た。1) 代替法の予測性能は二つのデータセットの間でほとんど違いがない,2) 全施設で得られた代替法の中央値とドレイズスコアを対応させた場合と、各施設ごとに両者を対応させた場合とで、予測性能はほとんど変わらない、3) Tween 20、SLS、Triton X-100 を代替法での判断指標とし、ドレイズスコアの 5、25、50 を境界値として判定した場合、間違いの生じない代替法は無かったが、ずれが1段階までの代替法は、SIRC-NR、HeLa-MTT、CHL-CV であった。4) 代替法によるドレイズスコアの予測モデルは、SIRC-NR、HeLa-MTT、CHL-CV においてかなり良い結果を与えている。これらはすべて細胞毒性試験である。CAMやMATREXなどモデルとして意味がありそうな試験の性能が意外に悪かった。4) に挙げた三つの試験法でも、回帰直線上のMAS 0, 15, 25, 及び50をそれぞれ無刺激性(0以下)、軽度刺激性(0<MAS<15)、中程度刺激性(15<MAS<25)、及び強刺激性(50<MAS)の識別点として判定した場合、一つあるいはそれ以上の物質で、無刺激と強刺激の判定が代替法とドレイズスコアで食い違っていたが、その食い違いは大きなものでなく、食い違った物質数も多くはなかった。すなわち、どれか一つで完全に代替ができる試験法は無かったが、適用対象とする物質の分類を研究することでこの欠点を補える可能性は残っている。なお、SIRC-CV, SIRC-NR, HeLa-MTT, CHL-CVでは、回帰直線の信頼限界を
考慮し、十分大きな安全係数をとることにより、それ以上のIC50であれば実質的に無刺激(MAS<5)と見なしても良い閾値を示すことは可能であった。現時点のデータで見る限り、インビボ動物試験をインビトロ代替法で完全に置き換えることはできない。すなわち、安全係数を考慮し、代替法で明らかに無刺激性と見なしても良いと判定された物以外は、無刺激性と判定されたからといって、それだけでインビボ動物試験をしなくて良いとは言えない。刺激性が中程度の物質については、代替法からの予測値と実際のドレイズスコアの値との差は小さくない。その一因は、これらの物質ではドレイズスコアのばらつきが大きいことであるが、だからと言って代替法の結果の方を信じるべきだという理由もない。これについては、今後実際のデータをさらに蓄積して検討することが必要である。
ガイドライン案の作成において基礎とした情報及び議論の結果を以下に整理した。
1) 3次にわたるバリデーションの結果、代替法の内には細胞毒性試験のように、バラツキが小さく、
施設内及び施設間の再現性が良く、被験物質の物理化学的特性を理解した上で利用するならば、ドレイズスコアーとの対応も良い方法がある。
2) ドレイズ試験結果は大きくばらつくことから、ドレイズスコアーをgolden standardとし、それ
と正確に対応しなくてはならないという考えは受け入れられない。代替法の評価においては比較対象であるドレイズ試験そのものの信頼性も考慮に入れる必要がある。
3) 安全係数を考慮した上で代替法で無刺激性と見なしても構わないと評価された検体が、ドレイズ
試験で5以上のスコアーとはならないこと、及び代替法で強刺激性と判定されたものが、ドレイス試験で無刺激性とはならないことをsuccess criterieaとしたところ、SIRC-CVやCornePack等の細胞毒性試験がこの基準をパスした。
4) 細胞毒性試験においては、様々な培養条件により被験物質のIC50値が変化するが、被験物質間の
相対的関係は余り変わらないことから、実際の評価においてはIC50値という絶対値で評価するとともに、標準物質との比較においても評価することが適切である。標準物質としては、入手の容易さ、データの豊富さ、化学的安定性、代替法やドレイズスコアーの安定性、適切な刺激強度等の観点から、無刺激性の標準物質として10% Tween 20, ドレイズスコアー(MAS) 25程度の刺激性の標準物質として10% SLS、及びMAS 50程度の刺激性の標準物質としてTriton X-100が適切である。
5) データ解析班では上記標準物質を識別の基準とし、被験物質の刺激強度の分類を行い、CHL-CV法
を除く血清添加培養液を用いた細胞毒性試験において、5以下、5-25, 25-50, 50以上の4段階評価において、評価は多くは一致し、誤評価は少ない。評価が2段階以上ずれた物は22品目中0個(SIRC-NR、HeLa-MTT、及びCHL-CV) あるいは1個(SIRC-CV)であった。即ち、標準物質との比較によりある程度の刺激性のランク付けが可能である。
6) 化粧品の眼刺激性評価においては、眼刺激の回復性や刺激性の濃度依存性の評価が重要であるが、
これらはいずれの代替法でも評価できない。
7) 動物使用数や動物に与える苦痛を最小限にする。
8) 従来の方法と比べ、眼刺激性評価において劣るものであってはならない。
9) 代替法を用いて評価を行った経験は少ない。また、バリデーションで使用した被験物質は化粧品
原料の全ての種類の物質を網羅したものではない。従って、直ちに、全面的に置き換えるのは危険である。
10) 施設の能力や経験、方針に応じて選択できる柔軟な評価スキームとすべきである。
これらをもとに代替法を組み込んだ眼刺激性評価ガイドライン案を作成した。
1993年のEU COSMETIC DIRECTIVE第6次改正により、実験動物を用いて安全性を評価した化粧品原料および最終製品の販売を、1998年1月1日より禁止することがARTICLE 4.1.iに規定された。しかし、Scientific Committee on Cosmetologyの上申書に基づいてEUはARTICLE 4.1.iの施行を2000年6月30日まで延期することを1997年4月17日に決定した(COMMISSION DIRECTIVE 97・18・EU)。この決定の内容は2000年1月1日までに再検討され、動物実験代替法の開発に十分な進捗が認められない場合には再度の延期もありうる。米国においては動物実験代替法に関する大きな動きはなかった。
結論
バリデーション結果の統計解析の結果及びそれに基づく考察を基に、代替法とドレイズ試験を組み合わせた眼刺激性評価ガイドライン案を作成した。これは現時点で動物使用数を最小にし、動物に与える苦痛を最小限にするものである。また、これにより刺激性物質の濃度依存性や刺激からの回復性が検討可能である。今後、これを英訳し、欧米に提示し、意見を求め、可能ならば国際的なハーモナイゼーションを図る必要がある。また、代替法とドレイズ試験を同検体について行ったデータを蓄積し、その結果を基に見直す必要がある。

公開日・更新日

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