文献情報
文献番号
202024018A
報告書区分
総括
研究課題名
国際的な動向を踏まえた乳及び乳製品の衛生管理及び試験法確立のための研究
課題番号
H30-食品-一般-009
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
- 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
- 中山 達哉(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
- 窪田 邦宏(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
- 山崎 栄樹(国立大学法人 帯広畜産大学 畜産衛生学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
11,399,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国の乳及び乳製品については、昭和26年に発令された「乳および乳製品の成分規格等に関する省令」(乳等省令)に基づき、細菌数と大腸菌群が微生物規格に設定されているが、EU等では牛乳の製造工程管理をHACCPで行うと共に、腸内細菌科菌群を衛生指標として製品等の検査が実施されている。本研究では、乳及び乳製品の微生物規格及び衛生管理の実態について、国際動向を把握すると共に、乳及び乳製品の衛生実態を管理する上で用いうる知見と共に、微生物規格を検討する上での基礎知見の集積を図ることで、現行規格の妥当性を科学的に評価することを目的とした。
研究方法
国際動向に関する調査では、インターネットによる情報収集を行い、選択された文献について調査を行なった。大規模製造施設の衛生管理に関する研究では、苦情が寄せられた牛乳製品の製造施設における衛生管理実態を把握するため、牛乳製造工程を通じた微生物動態に関する研究を行った。小規模製造施設の衛生管理に関する研究では、衛生管理上特に重要と思われる原材料乳における衛生指標菌の動態等について解析した。市販のバター製品45検体における細菌数、腸内細菌科菌群、大腸菌群、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の検出状況について、公定法、ISO法並びに簡易培地を用いた検討を行った。更に、国際的な食品中の微生物規格の設定及び改訂の手順とその根拠についての調査を実施した。
結果と考察
大規模製造施設の衛生管理に関する研究では、腐敗変敗等の苦情が寄せられた牛乳製品の製造施設における製造工程管理の実態を確認し、製造工程並びに施設環境拭取り検体の衛生指標菌試験及び菌叢解析を行ったところ、生乳受入れから加熱殺菌に至る工程での微生物増殖の可能性が示された。充填工程ではマガジンラック等の清浄度は十分とは言い難く、製品への微生物交叉汚染の防止に資する改善策としてこれらの洗浄消毒方法を改めて検討する必要性を示す根拠を得た。小規模製造施設の衛生管理に関する研究では、多様な性状の生乳に対する加熱処理後の衛生指標菌検査において、大腸菌群数と腸内細菌科菌群数の動態に良好な相関が見られた。市販バター製品の衛生指標菌汚染実態調査及び簡易培地の検討では、市販のバター製品45検体を対象とした衛生指標菌調査を行ったところ、供試製品検体に微生物規格違反検体は見られず、衛生状態は概ね良好であった。細菌数試験法間の成績比較を通じ、バター製品では簡易培地について公定法と大きな差は見られなかった
結論
今年度の本研究により、国内で苦情事例の見られた牛乳製造施設の調査を行い、充填工程での施設設備の洗浄消毒の徹底等微生物学的重要管理点が明らかとなった。また、製品の差別化のため小規模製造施設で用いられている様々な入手元の原材料乳について、性状や含まれる細菌菌叢が極めて多様であることが明らかとなり、小規模製造施設で製造された製品に対する衛生検査指標として腸内細菌科菌群を用いることの妥当性を示す結果であると思われた。それらを関連団体等に情報提供することで、実用上の重要な情報となり、乳及び乳製品の更なる衛生向上に貢献しうる。国際動向に関する研究では、乳及び乳製品について規定されたEC規則2073/2005内の微生物基準の遵守に当たっての留意事項や、基準の適用を支援する決定樹についての詳細が明らかとなり、EUにおいて乳及び乳製品を製造する上での微生物規格への実際的な対応を理解する上で有益であると考えられた。これらの知見から、EU内と国内の牛乳製造施設の衛生管理実態の共通点、相違点が明らかとなり、今後の乳及び乳製品の衛生管理手法及び規格を考える上での重要な情報となり得ると思われる。簡易培地は近年食品製造工程でのHACCP管理における活用が期待される代替法のひとつであり、今年度実施したバター製品では、公定法との間に大きな差は見られなかった。一方、前年度までに実施した低温殺菌牛乳及びアイスクリーム類では簡易培地の製品によって公定法と差が見られるものがあったことから、代替試験法については製品によって導入検証が必要であることが明らかとなり、関連業界における簡易培地導入時の注意喚起として有用な知見となると思われた。
公開日・更新日
公開日
2021-09-29
更新日
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