文献情報
文献番号
202024017A
報告書区分
総括
研究課題名
植物性自然毒による食中毒対策の基盤整備のための研究
課題番号
H30-食品-一般-008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
登田美桜(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部第三室)
研究分担者(所属機関)
- 南谷 臣昭(岐阜県保健環境研究所 食品安全検査センター)
- 近藤 一成(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,070,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
自然毒のうち「植物性自然毒」に焦点をあて、それを原因とする食中毒事件の発生予防と原因究明に役立てる研究の実施を目的とした。食中毒の発生時に植物性自然毒が原因として疑われた場合には、当該地域の地方衛生研究所(以下、地研)が中毒残品の化学的分析と遺伝子解析により原因となった植物種/毒成分の同定を行う。そのため本研究では、全国の地研に設置されている分析機器を考慮して化学分析(研究課題1)と遺伝子解析(研究課題2)による同定のための標準法の開発を目指す。さらに、過去に発生した植物性自然毒による食中毒事件の情報を調査・解析することにより、今後の重点的な予防策の検討や食中毒調査の改善に資する資料の作成を目的とする(研究課題3)。
研究方法
化学分析(研究課題1)では、昨年度に開発した有毒植物28群の44成分を対象とする液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)による多成分同時同定法について、3食品への添加試料を用いて試験室間の妥当性確認を実施するとともに、実際の有毒植物を試料とした場合の実用性も確認した。また、有毒キノコの毒成分について逆相クロマトグラフィー(RPLC)によるLC-MS/MS分析条件を検討した。遺伝子解析(研究課題2)では、有毒植物5種とそれと誤認しやすい植物を対象に、野外で簡便に利用可能なLoop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法を応用した植物種の同定法の開発を検討した。情報研究(研究課題3)では、過去の食中毒事件の報告をもとに、原因となった有毒植物ごとに症状の傾向を解析するとともに、食中毒調査における問題点についても検討した。さらに、有毒植物による食中毒の発生予防のための資料として市民向けパンフレット及びポスターを作成した。
結果と考察
研究課題1:昨年度に開発した多成分同時同定法について、3種類の食品(ホウレンソウ、ギョウザ、カレー)への添加試料を用いた試験室間の妥当性確認により標準法としての適用性を評価したところ、一部の成分を除き概ね良好な結果が得られた。また、実際の有毒植物6種(バイケイソウ、スイセン、チョウセンアサガオ、トリカブト、ジャガイモ、イヌサフラン)を試料とした場合への適用性も評価し、いずれの評価でも良好な結果が得られた。有毒キノコの成分分析では、中毒事例や死亡事例が多い5キノコ群、9成分を対象として、逆相クロマトグラフィー(RPLC)によるLC-MS/MS分析条件を検討した。成分の分離度や感度を考慮して、分離条件とSRM条件を最適化することにより、定量限界を10 ng/mL以下に設定することが可能であった。
研究課題2: LAMP法を用いた有毒植物5種(トリカブト、イヌサフラン、バイケイソウ、スイセン、チョウセンアサガオ)の同定法について、実際の食中毒を想定した加熱・消化処理した植物試料も標的有毒植物のみで増幅を示し、また試料調製から2時間程度で結果判定が可能であったことから、有毒植物が疑われる食中毒の迅速かつ簡便な原因特定に有用と考えられた。さらに、昨年度に構築した植物性自然毒データベース「MushPlant」の改良・更新を行った。
研究課題3:近年に食中毒の原因となることが多い有毒植物8種類について、それらを原因とする食中毒の症状を解析し、傾向をまとめた。さらに、有毒植物による食中毒の症状が多様なことから食中毒調査時に的確な症状の聞き取りができていないという問題点の解決を目指して、食中毒調査の経験者と医師の助言をもとに「食中毒症状調査票(植物性自然毒)」を作成した。また、食中毒の主な発生原因である食用植物と有毒植物の誤認について市民に注意を呼び掛けるパンフレット及びポスターを作成し、誰でもダウンロードして利用出来るようウェブ上に公開した。
研究課題2: LAMP法を用いた有毒植物5種(トリカブト、イヌサフラン、バイケイソウ、スイセン、チョウセンアサガオ)の同定法について、実際の食中毒を想定した加熱・消化処理した植物試料も標的有毒植物のみで増幅を示し、また試料調製から2時間程度で結果判定が可能であったことから、有毒植物が疑われる食中毒の迅速かつ簡便な原因特定に有用と考えられた。さらに、昨年度に構築した植物性自然毒データベース「MushPlant」の改良・更新を行った。
研究課題3:近年に食中毒の原因となることが多い有毒植物8種類について、それらを原因とする食中毒の症状を解析し、傾向をまとめた。さらに、有毒植物による食中毒の症状が多様なことから食中毒調査時に的確な症状の聞き取りができていないという問題点の解決を目指して、食中毒調査の経験者と医師の助言をもとに「食中毒症状調査票(植物性自然毒)」を作成した。また、食中毒の主な発生原因である食用植物と有毒植物の誤認について市民に注意を呼び掛けるパンフレット及びポスターを作成し、誰でもダウンロードして利用出来るようウェブ上に公開した。
結論
化学的分析と遺伝子解析ともに、地研で広く利用可能な病因植物種/毒成分をマルチに同定できる標準法が確立されたことにより、散発的に発生するため対応に混乱が生じやすい植物性自然毒による食中毒に対して、発生時の迅速な原因究明につながることが期待される。特に遺伝子解析による同定法は、ウェブ上に公開したことで、全国地研がいつでも同定法の情報を容易に入手し、利用できる体制が構築された。さらに、今年度に作成した「食中毒症状調査票(植物性自然毒)」は、食中毒調査における問題点を解決し、従来の調査票と合わせて利用することで今後の有毒植物による食中毒の調査をより効率よく効果的にするものである。作成した有毒植物の誤認について注意喚起するパンフレット及びポスターは、ウェブ上で公開することで広く利用可能となり、知識普及と食中毒の発生予防の一助になると期待される。
公開日・更新日
公開日
2021-12-03
更新日
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