食品由来薬剤耐性菌のサーベイランスのための研究

文献情報

文献番号
202024015A
報告書区分
総括
研究課題名
食品由来薬剤耐性菌のサーベイランスのための研究
課題番号
H30-食品-一般-006
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国立感染所研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 菅井 基行(国立感染症研究所薬剤耐性研究センター)
  • 大西 真(国立感染症研究所)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 小澤 真名緒(農林水産省 動物医薬品検査所 検査第二部)
  • 小西 典子(東京都健康安全研究センター 微生物部 食品微生物研究科)
  • 富田 治芳(群馬大学大学院医学系研究科 生体防御機構学 細菌学分野)
  • 浅井 鉄夫(岐阜大学大学院連合獣医学研究科)
  • 石井 良和(東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
36,501,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AMR National Action Plan(NAP)では、ヒト、動物(家畜含)、食品、環境を含めたワンヘルス・アプローチによる薬剤耐性サーベイランス体制の構築が掲げられている。食品等から菌の分離を行っている地方衛生研究所のネットワークを活用することにより、鶏肉等の食材から分離された各菌の耐性結果をJANIS-JVARMの解析ソフトの中に取り込み、総合的に解析し比較検討できるようにする。その結果を、国内・国外へ情報発信する。国内においては、「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書」に、国外においてはWHO GLASSに報告する。
研究方法
① 地方衛生研究所を主とする食品由来菌耐性サーベイランス:サルモネラ、病原大腸菌、カンピロバクターについて、これまでに確立したプロトコルにしたがって、CLSIディスク拡散法による薬剤感受性検査を実施した。
② 家畜―食品―人由来耐性菌のデータの比較解析:上記によって分離された全食品由来菌株の耐性率データを、既に作成している相互変換ソフトを用いて、JANIS(臨床由来株)およびJVARM(家畜由来株)とのデータベースの中に取り込む。それにより動物、食品、ヒトから分離された耐性菌の動向を相互比較した。
③ 遺伝子レベルの解析:分離された人、家畜、食品由来株の薬剤耐性菌/耐性遺伝子の詳細を短鎖型シークエンサーであるMiniSeq/MiSeq/HiSeq/NovaSeqシステム、長鎖型シークエンサーであるMinION を併用して解析した。完全ゲノム配列、およびプラスミドの配列の比較解析を行った。
④ 健康者由来薬剤耐性大腸菌出現状況の把握:健康者糞便由来大腸菌について薬剤感受性試験を行い,耐性菌保持状況を把握した。
結果と考察
① 耐性菌のデータの国内・国外への発信:国内においては、「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」、国外においてはWHOのGLASSに報告した:  
② 地方衛生研究所(地研、全国23の地研が参加)を中心にした食品由来株の耐性菌サーベイランス;2020年分離のサルモネラについて血清型別の詳細な解析を行った。ヒト由来株のうち食品からも分離された血清型、S. Infantis, S. Schwarzengrund, S. Manhattanではヒト由来株と食品由来株の耐性傾向に強い類似性があり、食品由来耐性菌とヒト由来耐性菌との関連性が強く示唆された。
③ サルモネラについては、ESBL産生遺伝子では、ヒト由来株、食品由来株とも、CTX-M-1グループの保有が最も多く、TEM型が次に多かった。一方、大腸菌では、CTX-M-9グループ, CTX-M-2グループ, TEM型が多く検出された。
④ コリスチン耐性遺伝子の検出:ヒト由来サルモネラからmcr-1グループ(2株)、食品由来サルモネラからmcr-5(1株)が、それぞれ検出された。動物由来大腸菌では、mcr-1及びmcr-5遺伝子が確認された。コリスチンの家畜への飼料添加剤としての使用は我が国では止められている。すでに存在しているコリスチン耐性遺伝子が今後どのように変遷していくのかを追跡する必要がある。
⑤ 市販鶏肉由来大腸菌の薬剤耐性菌出現状況:セファロスポリン系薬剤耐性率は国産由来1.0%,外国産由来3.5%であった。
⑥ 健康者糞便由来大腸菌の薬剤耐性菌出現状況:フルオロキノロン系薬剤耐性は6.4%,セファロスポリン系薬剤耐性は4.6%、mcr保有株は0.48%であった。
結論
食品由来耐性菌の耐性動向調査体制として地方衛生研究所を中心としたネットワークを活用し、サルモネラ、カンピロバクターの耐性菌の状況を把握できるようになった。それらの結果を、「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」に、国外においてはWHO GLASSに報告し、情報発信に貢献した。

公開日・更新日

公開日
2021-10-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-10-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202024015B
報告書区分
総合
研究課題名
食品由来薬剤耐性菌のサーベイランスのための研究
課題番号
H30-食品-一般-006
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国立感染所研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 菅井 基行(国立感染症研究所薬剤耐性研究センター)
  • 大西 真(国立感染症研究所)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 川西 路子(農林水産省動物医薬品検査所 検査第二部)
  • 小澤 真名緒(農林水産省 動物医薬品検査所 検査第二部)
  • 小西 典子(東京都健康安全研究センター 微生物部 食品微生物研究科)
  • 富田 治芳(群馬大学大学院医学系研究科 生体防御機構学 細菌学分野)
  • 浅井 鉄夫(岐阜大学大学院連合獣医学研究科)
  • 石井 良和(東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AMR National Action Planでは、ヒト、動物、食品、環境を含めたワンヘルス・アプローチによる薬剤耐性サーベイランス体制の構築が掲げられている。地方衛生研究所のネットワークを活用することにより、鶏肉等の食材から分離された各菌の薬剤耐性結果をJANIS-JVARMの解析ソフトの中に取り込み、総合的に解析・比較検討できるようにする。
研究方法
① 地方衛生研究所を主とする食品由来菌薬剤耐性サーベイランス:サルモネラ、病原大腸菌、カンピロバクターについて、精度管理されたCLSIディスク拡散法による薬剤感受性検査を実施した。
② 家畜―食品―人由来耐性菌のデータの比較解析:食品由来菌株の耐性率データを、既に作成している相互変換ソフトを用いて、JANISおよびJVARMとのデータベースの中に取り込む。それにより動物、食品、ヒトから分離された耐性菌の動向を比較・解析した。
③ 遺伝子レベルの解析:人、家畜、食品由来菌株の薬剤耐性菌/耐性遺伝子をDNAシークエンサーにより解析した。
④ 健康者由来薬剤耐性大腸菌出現状況の把握:健康者糞便由来大腸菌について薬剤感受性試験を行い,耐性菌保持状況を把握した。
結果と考察
3年間の研究により以下の成果を得た。 
1) 全国23の地方衛生研究所の協力のもと食品由来のサルモネラ、カンピロバクター、大腸菌の耐性菌のモニタリング体制を構築した。 
2)国内外への情報発信:得られたデータを、「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2018-2020」、およびWHO GLASSに報告した。
3) 食品由来細菌の薬剤耐性データをJANISやJVARMなど既存の薬剤耐性データベースと統合し、動物―食品―ヒトを包括するワンヘルス・アプローチに基づき把握ができるようになった。
4)サルモネラ(S. Infantis, S. Schwarzengrund, S. Manhattanに関して)、カンピロバクターに関しては、鶏、食品、ヒトから分離される菌の薬剤耐性プロファイルが相互に類似していることから、耐性菌の伝播が鶏―食肉―人の経路を取っていることが強く示唆された。
5) 我が国においてセフチオフルのブロイラーへの飼料添加物としての使用が自主規制されてから、鶏由来大腸菌のCTX耐性率が激減してきており、それは鶏肉から分離される大腸菌のCTX耐性率の低下にも反映していた。
6) 健康人由来の大腸菌のCTX耐性率は毎年約5%と減ってはいない。鶏肉を汚染している鶏由来の大腸菌がそのままヒトの大腸菌として腸管に定着しているわけではないが、今後も健康人の大腸菌のCTX耐性率の変動を調査して、食品由来菌の耐性率との関連性をみていくことは重要である。
7) 市販肉の薬剤耐性菌汚染は、家畜の腸内に存在する細菌が食肉処理工程で枝肉に付着することに起因するが、それは菌の遺伝型解析から、同一個体由来の菌による汚染、および異なる個体由来の細菌による交差汚染の両方があること、また一方、食肉処理業施設の環境に存在する菌による食肉への汚染も認められことが分かった。制御には、食肉処理施設全体の衛生管理が重要である。
8) コリスチン耐性株が家畜、食品、ヒト由来菌、および健康人の大腸菌からも分離された。平成30年にコリスチンの家畜への飼料添加物としての使用が禁止されたが、依然としてコリスチン耐性遺伝子保有株が分離されており、今後の動向に注意が必要である。
結論
耐性菌サーベイランスのデータを「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2018-2020」、およびWHO GLASSに報告した。JANIS、 JVARMと同様な食品由来細菌の薬剤耐性の動向を恒常的に調査・解析する体制の構築が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-10-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-10-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202024015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国23の地方衛生研究所の協力のもと食品由来のサルモネラ、カンピロバクター、大腸菌の耐性菌のモニタリング体制を構築した。その結果得られたデータを、「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2018-2020」、およびWHO GLASSに提供し、国内。国外に我が国の耐性菌情報を発信できた。食品由来細菌の薬剤耐性データをJANISやJVARMなど既存の薬剤耐性データベースと統合し、動物―食品―ヒトを包括するワンヘルス・アプローチに基づく把握ができるようになった。
臨床的観点からの成果
「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2018-2020」に我が国の薬剤耐性の動向を定期的に報告できるようになった。臨床家がそのデータを参考に患者の治療に役立てることができるようになった
ガイドライン等の開発
「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2018-2020」をもとに AMR National Action Planの作成に利用できる。厚労省「薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会」(2020.11.6)において2020年度版の報告書に利用された。
その他行政的観点からの成果
厚労省「薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会」(2020.11.6)において2020年度版の報告書に利用された。WHO GLASSに報告された。https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/332081/9789240005587-eng.pdf?ua=1
その他のインパクト
第12回 日本医師会・日本獣医師会による連携シンポジウム
薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの成果と次期の展望(2020.12.3)で研究成果が発表された。NAP2023-2027の改訂に当該研究成果が参考にされた

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
26件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件
研修会等で講師を務め啓発に貢献した

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki, K., Yossapol, M., Sugiyama, M.,at.al.
Effects of antimicrobial administration on the prevalence of antimicrobial-resistant Escherichia coli in broiler flocks.
Jpn. J. Infect. Dis , 72 (3) , 179-184  (2019)
原著論文2
Kitagawa H, Ohge H, Yu L,et al.
Aeromonas dhakensis is not a rare cause of Aeromonas bacteremia in Hiroshima, Japan
J Infect Chemother , 26 , 316-320  (2020)
原著論文3
Hashimoto Y, Kita I, Suzuki M,et. al
First Report of the Local Spread of Vancomycin-Resistant Enterococci Ascribed to the Interspecies Transmission of a vanA Gene Cluster-Carrying Linear Plasmid.
mSphere , 5 (2) , e00102-20-  (2020)
doi: 10.1128/mSphere.00102-20.

公開日・更新日

公開日
2021-10-18
更新日
2023-06-22

収支報告書

文献番号
202024015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
40,934,000円
(2)補助金確定額
40,786,000円
差引額 [(1)-(2)]
148,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 29,654,091円
人件費・謝金 3,645,253円
旅費 3,626円
その他 3,050,252円
間接経費 4,433,000円
合計 40,786,222円

備考

備考
補助金交付額の算定方法が千円未満の端数切捨であることにより生じる自己負担等。

公開日・更新日

公開日
2022-07-01
更新日
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