文献情報
文献番号
202024008A
報告書区分
総括
研究課題名
住肉胞子虫による国産ジビエの食中毒リスク評価に関する研究
課題番号
H30-食品-若手-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 朗子(岩手大学 農学部)
研究分担者(所属機関)
- 入江 隆夫(宮崎大学 農学部 獣医学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
4,833,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、害獣を食肉利用する地域振興事業が盛んである。これまでの疫学調査で、E型肝炎ウイルス、志賀毒素産生大腸菌、サルモネラ、肝蛭、住肉胞子虫等の保有が認められたが、細菌および寄生虫については内臓の廃棄により食中毒リスクを回避でき、E型肝炎は遺伝子検出率(イノシシ2.4%、シカ0.1%)を考慮すると深刻な食中毒危害や経済損害には直結しない。しかし住肉胞子虫は可食部位に寄生し、シカでの陽性率が100%であること、シカ肉の生食で食中毒が発生したことから、ジビエ産業振興への障害となる。はっきりと食中毒事例が認められたウマのS.fayeriと異なり、ジビエの住肉胞子虫は詳細が不明なため届出指定対象外であるが、馬肉に似た赤身のシカ肉は半生や生食が好まれ、食中毒リスクの高い状態で流通・提供されている。そのためこれらの毒性の解析は、食中毒発生予防のためにも、本虫による食中毒様症状発生時に正確に対応するためにも早急な解決が求められる。ジビエの中でも特に消費量の多いエゾシカ肉については、寄生する住肉胞子虫種の同定をほぼ完了し、またホンシュウジカ寄生種については共同研究により新種を含む7種を同定した。今年度は、九州産ジビエ(キュウシュウジカ、イノシシ、およびアナグマ)を対象に、住肉胞子虫の流行状況の把握を研究目的とした。
研究方法
馬肉およびシカ肉からSarcocysits属原虫を分離して分子量依存的に分画し、ウサギの腸管ループ試験に供試した。また、各種かのブラディゾイトを遊離させ、U937 ヒトマクロファージ細胞と共培養し、産生サイトカインをアレイにて網羅的に検出した。
結果と考察
馬肉由来のS. fayeri由来のタンパク質分画を用いたウサギ腸管ループ試験において,>25 kDa分画投与ループで出血を認めた。他の分画を投与したループ全てで液体貯留を認めなかったことから、S. fayeriの出血因子は>25 kDa分画に含まれており、下痢誘導因子とは別の因子であることが示唆された。
シカ肉由来のS. japonicaおよびS. cf. tarandiのタンパク質分画を用いたウサギ腸管ループ試験において, 17~50 kDa分画および15~37 kDa分画投与ループに非出血性液体貯留がみられた。15~37 kDa分画にはS. fayeriの腸管毒性候補因子であるADF、17~50 kDa分画には本研究課題にて昨年度に報告した19kDaタンパク質(pHRF)が含まれることから,S. japonicaおよびS. cf. tarandiにもS. fayeri同様にADF、19kDaタンパク質が存在する可能性が示された。
S. japonicaおよびS. cf. tarandiを用いたウサギ腸管ループ試験において,106、10⁷ ブラディゾイト投与ループで液体貯留を示した。本研究課題昨年度報告にて示したウマ寄生S. fayeriの液体貯留発現投与量10³ ブラディゾイトと比較すると、S. japonicaおよびS. cf. tarandiの下痢毒性はS. fayeriより低いことが推察される。
S. fayeriブラディゾイト刺激によりヒトマクロファージ細胞からMCP-1,MIP-1α,MMP-9,RANTES,VEGFの分泌増加を認めたが,IFN-γ,IL-6,IL-12,TNF-αは検出されなかった。一方,シカ寄生Sarcocystis属でも同様のケモカイン産生であったが、産生量はS. fayeriの二倍以上だった。S. fayeriの腸管毒性因子ADFがRAW264細胞のTNF-α遺伝子発現を誘導するとの報告があったが[Irikura et al.,2017],本研究では認められなかった。RANTES,MIP-1α,VEGFはアレルギー指標でもあることから,Sarcocystis属の腸管毒性は,アレルギーと炎症反応が相互に関与する可能性がある。
シカ肉由来のS. japonicaおよびS. cf. tarandiのタンパク質分画を用いたウサギ腸管ループ試験において, 17~50 kDa分画および15~37 kDa分画投与ループに非出血性液体貯留がみられた。15~37 kDa分画にはS. fayeriの腸管毒性候補因子であるADF、17~50 kDa分画には本研究課題にて昨年度に報告した19kDaタンパク質(pHRF)が含まれることから,S. japonicaおよびS. cf. tarandiにもS. fayeri同様にADF、19kDaタンパク質が存在する可能性が示された。
S. japonicaおよびS. cf. tarandiを用いたウサギ腸管ループ試験において,106、10⁷ ブラディゾイト投与ループで液体貯留を示した。本研究課題昨年度報告にて示したウマ寄生S. fayeriの液体貯留発現投与量10³ ブラディゾイトと比較すると、S. japonicaおよびS. cf. tarandiの下痢毒性はS. fayeriより低いことが推察される。
S. fayeriブラディゾイト刺激によりヒトマクロファージ細胞からMCP-1,MIP-1α,MMP-9,RANTES,VEGFの分泌増加を認めたが,IFN-γ,IL-6,IL-12,TNF-αは検出されなかった。一方,シカ寄生Sarcocystis属でも同様のケモカイン産生であったが、産生量はS. fayeriの二倍以上だった。S. fayeriの腸管毒性因子ADFがRAW264細胞のTNF-α遺伝子発現を誘導するとの報告があったが[Irikura et al.,2017],本研究では認められなかった。RANTES,MIP-1α,VEGFはアレルギー指標でもあることから,Sarcocystis属の腸管毒性は,アレルギーと炎症反応が相互に関与する可能性がある。
結論
ウマ由来S. fayeriとシカ由来S. japonicaおよびS. cf. tarandiは類似した分子量の腸管毒性候補因子を保有しているが、その作用の大きさは異なっている。また、in vivo試験の結果から想定していた炎症反応はin vitro試験の結果と合致せず、Sarcocystis属が起こす腸管毒性の機序の複雑さが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2023-05-01
更新日
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