レポーター遺伝子導入動物を用いたクロロプロパノール類の発がん機序の解明

文献情報

文献番号
202024002A
報告書区分
総括
研究課題名
レポーター遺伝子導入動物を用いたクロロプロパノール類の発がん機序の解明
課題番号
H30-食品-若手-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
高須 伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 松下 幸平(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,140,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1,3-dichloro-2-propanol (1,3-DCP)は主に酸加水分解植物性たん白を原材料としたしょうゆ等の調味料の原材料やチーズ,穀物加工品など種々の食品に含まれる汚染物質である.1,3-DCPは肝臓および腎臓等に明確な発がん性を示すものの,遺伝毒性を含む発がん機序に関する情報は限定的である.本研究では,レポーター遺伝子導入動物であるgpt deltaラットを用いた遺伝毒性・発がん性包括的検索モデル及び中期発がん評価系を用いて,1,3-DCPの発がん機序の解明を目指す.また,本研究において明らかになった1,3-DCPの突然変異誘発性について,その機序の解明を目的として突然変異の原因となるDNA損傷の検索を行った.
研究方法
遺伝毒性・発がん性包括的検索モデルでは, gpt deltaラットに1,3-DCPを27, 80及び240 mg/Lの用量で13週間飲水投与し,発がん標的臓器である肝臓および腎臓のgpt assayおよび肝前がん病変マーカーであるGST-P陽性細胞巣の検索を実施した.gpt deltaラットを用いた中期発がん評価系による検索では,残存肝組織を用いてGST-P陽性細胞巣の定量的解析を行った.さらに,腎臓における中期試験法を実施した.網羅的DNA損傷解析を用いた1,3-DCPの遺伝毒性機序の検索では,遺伝毒性・発がん性包括試験における対照群及び1,3-DCP 240 mg/L投与群のラット肝臓について,液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計を用いた網羅的DNA損傷解析を行った.また,in vitroにおける1,3-DCPとdeoxyguanosineの反応およびin vivoにおける同付加体の形成を検討した.
結果と考察
遺伝毒性・発がん性包括的検索モデルを用いた解析の結果,肝臓および腎臓のgpt変異体頻度は低用量群から有意な高値を示し,用量依存的に増加した.一方,何れの投与群においてもGST-P陽性細胞巣の数および面積に統計学的に有意な変化は見られなかった.以上より,1,3-DCPのラット肝および腎発がん性は遺伝毒性機序によるものと考えられた.また,本実験条件下において,1,3-DCPの肝発がんプロモーション作用は乏しい可能性が示唆され,肝前がん病変の形成に影響する因子の検索が必要であると考えられた.gpt deltaラットを用いた中期発がん評価系による解析の結果,1,3-DCP投与群におけるGST-P陽性細胞巣の数および面積に対照群との差はみられなかった.腎臓における中期試験法を実施した結果,1,3-DCP投与により切除腎組織におけるgpt変異体頻度が上昇し,さらに残存腎組織における尿細管異型過形成の形成が促進されていた.また1,3-DCP投与群の残存腎組織では,糸球体障害を示唆する所見や尿細管上皮におけるKi67陽性細胞の増加が認められた.以上より,1,3-DCPによる肝および腎発がん機序には遺伝毒性が関与していることが示唆された.また,1,3-DCPの肝臓における発がんプロモーション作用は限定的であることに対し,腎臓では糸球体障害に続発する尿細管の細胞増殖活性の亢進により発がんプロモーション作用を示すことが示唆された.網羅的DNA損傷解析を用いた1,3-DCPの遺伝毒性機序の検索では,DNAアダクトームマップにおいて1,3-DCPに特異的なDNA付加体に由来するスポットは検出されなかった.in vitroにおいて1,3-DCPとdeoxyguanosineの反応を検討した結果,1,3-DCPの代謝物と考えられているepichlorohydrinから生じる7-(3-chloro-2-hydroxypropyl) guanine(CHP-N7-Gua)の生成が確認されたが,in vivoにおける同付加体の形成を検討した結果,同付加体のピークは検出されなかった.以上より,1,3-DCPの突然変異誘発機序においてepichlorohydrinを介して生じるCHP-N7-Guaの関与は乏しいと考えられた.
結論
gpt deltaラットを用いた遺伝毒性・発がん性包括的検索モデルおよび中期発がん評価系の検討から,1,3-DCPのラット肝および腎発がん性には遺伝毒性機序が関与していることが示唆された.肝臓における1,3-DCPの発がんプロモーション作用は限定的であるものの,腎臓においては発がんプロモーション作用を発揮するものと考えられた.また,1,3-DCPの突然変異誘発機序においてepichlorohydrinを介して生じるCHP-N7-Guaの関与は乏しいと考えられた.

公開日・更新日

公開日
2021-11-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-11-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202024002B
報告書区分
総合
研究課題名
レポーター遺伝子導入動物を用いたクロロプロパノール類の発がん機序の解明
課題番号
H30-食品-若手-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
高須 伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 松下 幸平(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1,3-dichloro-2-propanol (1,3-DCP)は主に酸加水分解植物性たん白を原材料としたしょうゆ等の調味料の原材料やチーズ,穀物加工品など種々の食品に含まれる汚染物質である.1,3-DCPは肝臓および腎臓等に明確な発がん性を示すものの,遺伝毒性を含む発がん機序に関する情報は限定的である.本研究では,レポーター遺伝子導入動物であるgpt deltaラットを用いた遺伝毒性・発がん性包括的検索モデル及び中期発がん評価系を用いて,1,3-DCPの発がん機序の解明を目指す.また,1,3-DCPの突然変異誘発性について,その機序の解明を目的として突然変異の原因となるDNA損傷の検索を行った.
研究方法
遺伝毒性・発がん性包括的検索モデルでは,gpt deltaラットに1,3-DCPを27, 80及び240 mg/Lの用量で13週間飲水投与し,発がん標的臓器である肝臓および腎臓のgpt assayおよび肝前がん病変マーカーであるGST-P陽性細胞巣の検索を実施した.gpt deltaラットを用いた中期発がん評価系による検索では,用量設定のための28日間反復経口投与実験を実施したのち,F344系gpt deltaラットを用いた肝臓および腎臓における中期遺伝毒性・発がん性試験法を実施した.網羅的DNA損傷解析を用いた1,3-DCPの遺伝毒性機序の検索では,1,3-DCP投与群のラット肝臓について,液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計を用いた網羅的DNA損傷解析を行った.また,in vitroにおける1,3-DCPとdeoxyguanosineの反応およびin vivoにおける同付加体の形成を検討した.
結果と考察
遺伝毒性・発がん性包括的検索モデルを用いた解析の結果,肝臓および腎臓のgpt変異体頻度は低用量群から有意な高値を示し,用量依存的に増加した.一方,何れの投与群においてもGST-P陽性細胞巣の数および面積に統計学的に有意な変化は見られなかった.以上より,1,3-DCPのラット肝および腎発がん性は遺伝毒性機序によるものと考えられた.また,本実験条件下において,1,3-DCPの肝発がんプロモーション作用は乏しい可能性が示唆され,肝前がん病変の形成に影響する因子の検索が必要であると考えられた.gpt deltaラットを用いた中期発がん評価系による解析の結果,切除した肝および腎組織を用いたgpt assayでは,1,3-DCP投与群のgpt変異体頻度が増加し,シークエンス解析ではAT:GCおよびGC:TA transitionが顕著に増加した.1,3-DCP投与群の残存肝組織におけるGST-P陽性細胞巣の数および面積は対照群と同程度であった.残存腎組織では1,3-DCP投与により尿細管異型過形成の数が増加した.また,残存腎組織では糸球体および尿細管障害を示唆する所見がみられ,さらに尿細管におけるKi67陽性細胞の増加が認められた.以上より,1,3-DCPによる肝および腎発がん機序には遺伝毒性が関与していることが示唆された.また,1,3-DCPの肝臓における発がんプロモーション作用は限定的であることに対し,腎臓では糸球体障害に続発する尿細管の細胞増殖活性の亢進により発がんプロモーション作用を示すことが示唆された.網羅的DNA損傷解析を用いた1,3-DCPの遺伝毒性機序の検索では,DNAアダクトームマップにおいて1,3-DCPに特異的なDNA付加体に由来するスポットは検出されなかった.in vitroにおいて1,3-DCPとdeoxyguanosineの反応を検討した結果,1,3-DCPの代謝物と考えられているepichlorohydrinから生じる7-(3-chloro-2-hydroxypropyl) guanine(CHP-N7-Gua)の生成が確認されたが,in vivoにおける同付加体の形成を検討した結果,同付加体のピークは検出されなかった.以上より,1,3-DCPの突然変異誘発機序においてepichlorohydrinを介して生じるCHP-N7-Guaの関与は乏しいと考えられた.
結論
gpt deltaラットを用いた遺伝毒性・発がん性包括的検索モデルおよび中期発がん評価系の検討から,1,3-DCPのラット肝および腎発がん性には遺伝毒性機序が関与していることが示唆された.また,肝臓における1,3-DCPの発がんプロモーション作用は限定的であるものの,腎臓においては発がんプロモーション作用を発揮するものと考えられた.また,1,3-DCPの突然変異誘発機序においてepichlorohydrinを介して生じるCHP-N7-Guaの関与は乏しいと考えられた.本研究結果は1,3-DCPの安全性評価における重要な知見になると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2021-11-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-11-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202024002C

収支報告書

文献番号
202024002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,140,000円
(2)補助金確定額
10,140,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,939,601円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,200,719円
間接経費 0円
合計 10,140,320円

備考

備考
320円は自己資金

公開日・更新日

公開日
2022-06-20
更新日
-