文献情報
文献番号
199700451A
報告書区分
総括
研究課題名
化粧品の安全性評価ガイドラインに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 正典(国立医薬品食品衛生研究所環境衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
化粧品の安全性を確保しつつ、許認可手続き規制緩和を進めて行くのに必要な、製造業者が自ら行うべき安全性評価のためのガイドラインの考え方を提言すると同時に、化粧品原料として多用されている界面活性剤の生体膜への影響を検討するため、モルモットの剥離皮膚、ウサギの赤血球膜、チャイニーズハムスター卵胞細胞膜への影響を検討することを目的とする。
研究方法
1.化粧品の安全性評価について
我が国において、化粧品の種別許可制度が存在し、化粧品の種類ごとに成分等の基準を定め,基準の範囲内であれば包括的な許可を与えている。種別許可制度の開始後の商品クレームの件数、緒外国の化粧品の安全性評価の考え方及び化粧品の規制緩和の動きの中で、平成9年3月31日、「化粧品規制の方向性と課題について-中間とりまとめ」を中心に化粧品の安全性を評価するガイドラインを検討した。
2.界面活性剤の生体膜への影響
2-1.メチルパラベン(MP),サリチル酸(SA)及びエチルパラベン(EP)の皮膚透過実験
モルモットの剥離皮膚をFranz型拡散セルに装着し,剥離皮膚を各種界面活性剤で処理した後、donor側からreceiver側に透過してくるMP、SAあるいはEP量を測定した。
2-2.赤血球の溶血実験
各種界面活性剤で処理されたウサギの赤血球の溶血率を波長740nmにおける吸光度を変化として測定した.
2-3.培養細胞実験
CHO細胞を各種濃度の界面活性剤で処理した後、CHO細胞のviabilityを50%阻止する界面活性剤の濃度(IC50)を求めた。
我が国において、化粧品の種別許可制度が存在し、化粧品の種類ごとに成分等の基準を定め,基準の範囲内であれば包括的な許可を与えている。種別許可制度の開始後の商品クレームの件数、緒外国の化粧品の安全性評価の考え方及び化粧品の規制緩和の動きの中で、平成9年3月31日、「化粧品規制の方向性と課題について-中間とりまとめ」を中心に化粧品の安全性を評価するガイドラインを検討した。
2.界面活性剤の生体膜への影響
2-1.メチルパラベン(MP),サリチル酸(SA)及びエチルパラベン(EP)の皮膚透過実験
モルモットの剥離皮膚をFranz型拡散セルに装着し,剥離皮膚を各種界面活性剤で処理した後、donor側からreceiver側に透過してくるMP、SAあるいはEP量を測定した。
2-2.赤血球の溶血実験
各種界面活性剤で処理されたウサギの赤血球の溶血率を波長740nmにおける吸光度を変化として測定した.
2-3.培養細胞実験
CHO細胞を各種濃度の界面活性剤で処理した後、CHO細胞のviabilityを50%阻止する界面活性剤の濃度(IC50)を求めた。
結果と考察
1.安全性評価ガイドラインへの考え方
我が国の安全性評価ガイドラインとしては、新規の種別承認成分について、9項目(急性毒性、皮膚一次刺激性、連続皮膚刺激性、感作性、光毒性、眼刺激性、変異原性、ヒトパッチ試験)のデータの提出が原則的に義務づけられている。化粧品の安全性の評価は、配合量、使用部位、使用方法により一様に評価できるものではない。化粧品の病院被害の発生件数の横這いの状態であるという現実を考慮した場合、種別の統合から来る大きな問題がないとの考えもあるが、消費者の苦情の大部分は各企業との接触により解決されているとの現状を考えた場合、化粧品の訴え件数は適切な情報の収集体制と欧米で提唱されている第3者機関の安全性評価体制の設置による安全性評価の公平性・透明性の確保も重要な課題である。
化粧品の規制緩和の一環として、「化粧品規制の方向性と課題について-中間とりまとめ」の中で述べられた化粧品配合成分の承認廃止により、成分規格が取り払われた場合、表示成分が同じであっても、不純物による安全性の面でのトラブルが起こる可能性が考えられる。10年以上を費やして作成した粧原基及び粧配規を含む各種成分規格の業界団体での自主管理の方策が一法であるものと考えられる。また、ネガティブリスト及びポジティブリストに化粧品成分を収載する際、安全性に関する試験項目あるいは化粧品の許可のみになった際の製造業者自らが確認すべき安全性評価のためのガイドラインについて、現行の安全試験の9項目が緒外国の制度と比較してもガイドラインとして確立されたものであるため、それらの項目を参考に、使用部位に留意しながら、製造業者自らが安全性試験を設定すべきである。
2.界面活性剤の生体膜への影響
2-1.剥離皮膚への影響
アニオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が4~10まで透過指標物質の透過速度がSDSを100%としたときと比較して、30%以下であった。また、アニオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が12の場合が一番透過速度が大きき、14になると12に比べて小さくなった。カチオン界面活性剤は脂肪族炭化水素鎖の炭素数が14のときに一番大きな透過速度を示した。非イオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数と透過速度の間には一定の関係が見出されなかった。しかし、非イオン界面活性剤のドレーズ眼粘膜刺激性試験のドレーズスコーアとMPの透過速度の間には非常によい相関関係が得られた。また、非イオン界面活性剤のポリオキシエチレン鎖(EO鎖)の異なるPOE.NPEあるいはPOE.LEの親水性親油性バランス(HLB)とMP、EP及びSAの透過速度と間には、非常に有意な相関関係が得られた。
2-2.赤血球膜への影響
アニオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が4~10まで、カチオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が10まで赤血球の溶血を50%引き起こす界面活性剤の濃度、EP50は50mM以上であった。アニオン及びカチオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が12のものから溶血が観察され始め、炭素数の増加に依存してはEP50は低下した。アニオン界面活性剤の剥離皮膚を用いたMPの透過速度と赤血球を用いた1/EP50の間には良い相関性が得られた。非イオン界面活性剤のEO鎖の異なるPOE.NPEあるいはPOE.LEのHLBと1/EP50の間に良い相関関係が得られた。
2-3.CHO細胞の増殖への影響
アニオン界面活性剤の場合には、脂肪族炭化水素鎖の炭素数が4~10までCHO細胞のviabilityを用いた1/IC50は6.25/μM未満、赤血球の溶血を用いた1/EP50の値は0.02/mM未満と小さく、更に、モルモットの剥離皮膚に対するMP,EP及びSAを透過指標物質とした透過速度も30%未満と小さかった。このことより、脂肪族炭化水素鎖の炭素数が10以下のアニオン界面活性剤は剥離皮膚、赤血球膜あるいはCHO細胞のviabilityへの影響が小さいことが明らかになった。
次に、カチオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数とCHO細胞のviabilityを用いた1/IC50あるいは脂肪族炭化水素鎖の炭素数と赤血球の溶血を用いた1/EP50との間の関係は、炭素数の増加に伴い1/IC50あるいは1/EP50が増加することが観察された。CHO細胞のviabilityを用いた1/IC50と赤血球の溶血を用いた1/EP50との間には、y=106.4+46.6x(r=0.897, P<0.01)の回帰一次方程式で示される非常によい相関関係が成立した。
アニオン、カチオン及び非イオン界面活性剤の生体膜への影響は、皮膚表皮の角質層に対する作用と赤血球あるいは細胞膜のような脂質2重膜への作用とは分けて考える必要があることが示された。例えば、アニオンあるいはカチオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が4~10までは、皮膚の角質層あるいは赤血球膜、細胞膜への影響は非常に小さく、そのことは透過指標物質の透過速度の低下あるいは赤血球を溶血するのに必要な界面活性剤の高い濃度(50mM以上)が必要であることで示された。しかし、生体膜への影響は、脂肪族炭化水素鎖の炭素数12から観察され始め、剥離皮膚では炭素数12が一番大きな透過速度を示すが、赤血球膜あるいは細胞膜では炭素数の増加に依存してその影響が大きくなることが分かった。このことは、膜を構成する成分の違いに起因するものと考えられる。非イオン界面活性剤の場合、生体膜への影響は一部脂肪族炭化水素鎖の炭素数に支配されるが、非イオン界面活性剤の特徴であるEO鎖の影響が大きく関与していることが分かった。この場合、生体膜への影響は、HLBの数値と相関性があることが示唆されたため、ノニルフェノール基あるいはラウロイル基のような基を持つ非イオン界面活性剤の生体膜への評価としてHLBが有効に活用できることが明らかとなった。
我が国の安全性評価ガイドラインとしては、新規の種別承認成分について、9項目(急性毒性、皮膚一次刺激性、連続皮膚刺激性、感作性、光毒性、眼刺激性、変異原性、ヒトパッチ試験)のデータの提出が原則的に義務づけられている。化粧品の安全性の評価は、配合量、使用部位、使用方法により一様に評価できるものではない。化粧品の病院被害の発生件数の横這いの状態であるという現実を考慮した場合、種別の統合から来る大きな問題がないとの考えもあるが、消費者の苦情の大部分は各企業との接触により解決されているとの現状を考えた場合、化粧品の訴え件数は適切な情報の収集体制と欧米で提唱されている第3者機関の安全性評価体制の設置による安全性評価の公平性・透明性の確保も重要な課題である。
化粧品の規制緩和の一環として、「化粧品規制の方向性と課題について-中間とりまとめ」の中で述べられた化粧品配合成分の承認廃止により、成分規格が取り払われた場合、表示成分が同じであっても、不純物による安全性の面でのトラブルが起こる可能性が考えられる。10年以上を費やして作成した粧原基及び粧配規を含む各種成分規格の業界団体での自主管理の方策が一法であるものと考えられる。また、ネガティブリスト及びポジティブリストに化粧品成分を収載する際、安全性に関する試験項目あるいは化粧品の許可のみになった際の製造業者自らが確認すべき安全性評価のためのガイドラインについて、現行の安全試験の9項目が緒外国の制度と比較してもガイドラインとして確立されたものであるため、それらの項目を参考に、使用部位に留意しながら、製造業者自らが安全性試験を設定すべきである。
2.界面活性剤の生体膜への影響
2-1.剥離皮膚への影響
アニオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が4~10まで透過指標物質の透過速度がSDSを100%としたときと比較して、30%以下であった。また、アニオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が12の場合が一番透過速度が大きき、14になると12に比べて小さくなった。カチオン界面活性剤は脂肪族炭化水素鎖の炭素数が14のときに一番大きな透過速度を示した。非イオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数と透過速度の間には一定の関係が見出されなかった。しかし、非イオン界面活性剤のドレーズ眼粘膜刺激性試験のドレーズスコーアとMPの透過速度の間には非常によい相関関係が得られた。また、非イオン界面活性剤のポリオキシエチレン鎖(EO鎖)の異なるPOE.NPEあるいはPOE.LEの親水性親油性バランス(HLB)とMP、EP及びSAの透過速度と間には、非常に有意な相関関係が得られた。
2-2.赤血球膜への影響
アニオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が4~10まで、カチオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が10まで赤血球の溶血を50%引き起こす界面活性剤の濃度、EP50は50mM以上であった。アニオン及びカチオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が12のものから溶血が観察され始め、炭素数の増加に依存してはEP50は低下した。アニオン界面活性剤の剥離皮膚を用いたMPの透過速度と赤血球を用いた1/EP50の間には良い相関性が得られた。非イオン界面活性剤のEO鎖の異なるPOE.NPEあるいはPOE.LEのHLBと1/EP50の間に良い相関関係が得られた。
2-3.CHO細胞の増殖への影響
アニオン界面活性剤の場合には、脂肪族炭化水素鎖の炭素数が4~10までCHO細胞のviabilityを用いた1/IC50は6.25/μM未満、赤血球の溶血を用いた1/EP50の値は0.02/mM未満と小さく、更に、モルモットの剥離皮膚に対するMP,EP及びSAを透過指標物質とした透過速度も30%未満と小さかった。このことより、脂肪族炭化水素鎖の炭素数が10以下のアニオン界面活性剤は剥離皮膚、赤血球膜あるいはCHO細胞のviabilityへの影響が小さいことが明らかになった。
次に、カチオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数とCHO細胞のviabilityを用いた1/IC50あるいは脂肪族炭化水素鎖の炭素数と赤血球の溶血を用いた1/EP50との間の関係は、炭素数の増加に伴い1/IC50あるいは1/EP50が増加することが観察された。CHO細胞のviabilityを用いた1/IC50と赤血球の溶血を用いた1/EP50との間には、y=106.4+46.6x(r=0.897, P<0.01)の回帰一次方程式で示される非常によい相関関係が成立した。
アニオン、カチオン及び非イオン界面活性剤の生体膜への影響は、皮膚表皮の角質層に対する作用と赤血球あるいは細胞膜のような脂質2重膜への作用とは分けて考える必要があることが示された。例えば、アニオンあるいはカチオン界面活性剤の脂肪族炭化水素鎖の炭素数が4~10までは、皮膚の角質層あるいは赤血球膜、細胞膜への影響は非常に小さく、そのことは透過指標物質の透過速度の低下あるいは赤血球を溶血するのに必要な界面活性剤の高い濃度(50mM以上)が必要であることで示された。しかし、生体膜への影響は、脂肪族炭化水素鎖の炭素数12から観察され始め、剥離皮膚では炭素数12が一番大きな透過速度を示すが、赤血球膜あるいは細胞膜では炭素数の増加に依存してその影響が大きくなることが分かった。このことは、膜を構成する成分の違いに起因するものと考えられる。非イオン界面活性剤の場合、生体膜への影響は一部脂肪族炭化水素鎖の炭素数に支配されるが、非イオン界面活性剤の特徴であるEO鎖の影響が大きく関与していることが分かった。この場合、生体膜への影響は、HLBの数値と相関性があることが示唆されたため、ノニルフェノール基あるいはラウロイル基のような基を持つ非イオン界面活性剤の生体膜への評価としてHLBが有効に活用できることが明らかとなった。
結論
公開日・更新日
公開日
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更新日
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