労働災害防止を目的とした高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム開発と実装検証

文献情報

文献番号
202023013A
報告書区分
総括
研究課題名
労働災害防止を目的とした高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラム開発と実装検証
課題番号
20JA1001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
岡 敬之(東京大学 医学部附属病院 22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
研究分担者(所属機関)
  • 大須賀 洋祐(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 梶木 繁之(産業保健コンサルティング アルク)
  • 村上 遥(東京大学 工学部)
  • 高野 賢一郎(独立行政法人労働者健康安全機構 関西労災病院)
  • 野村 卓生(関西福祉科学大学 保健医療学部)
  • 吉村 典子(東京大学 医学部附属病院)
  • 小山 善子(金城大学 医療健康学部)
  • 松平 浩(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
10,889,000円
研究者交替、所属機関変更
該当せず

研究報告書(概要版)

研究目的
休業4日以上の労働災害による死傷者において、高年齢労働者(60歳以上)が占める割合も増加傾向にあり、その対策は喫緊の課題である。
中央労働災害防止協会の「高年齢労働者の身体的特性の変化による災害リスク低減推進事業」(2010年)にて、身体機能面(筋力=2ステップテスト、敏捷性=座位ステッピングテスト、平衡性= ファンクショナルリーチ・閉眼/開眼片足立ち)から転倒等労働災害リスクを評価するチェックリストが公表されているが、この10年間で高齢者の運動能力の向上傾向は鮮明であり、チェックリストで利用される基準値のアップデートが必要である。
また近年、情報インフラが拡充し、高齢者の約5割がスマートフォン所持しており、これをウェアラブル端末として身体機能を評価することも現実のものとなっている。
本研究の目的は、縦断的なコホートデータベース+産業衛生のフィールドよりサンプリングしたデータに基づき、最新技術を駆使して高年齢労働者の身体機能を簡易に測定するためのプログラムを作成することである。
研究方法
運動機能の自然史を解明するため2005年(ベースライン調査)に開始されたコホートの実績のある大規模データベースを利用した。2005年、2008年、2012年、2015年、2019年の計5回の検診にて、14年に渡る1,690名(20-80歳代)のデータの蓄積があり、詳細な問診にて就労状況、職種、過去の転倒経験、転倒に関するヒヤリハット、服薬状況、健康関連QOLを聴取しており、運動機能は歩行速度、歩幅、歩行時の動揺性と足把持力、立位時の不安定性(重心動揺計)、ファンクショナルリーチ、閉眼/開眼片足立ち、椅子立ち上がりテスト、握力、下肢筋力、体組成計による筋量などを実施、運動機能以外の身体機能の低下(視力)、認知機能も併せて基礎的身体機能を網羅している。このデータベースから高年齢労働者を抽出し、安全な労働=ヒヤリハット無を目的変数、問診項目・身体機能説明変数としてロジスティック回帰分析を行い、安全な労働との相関性の高い身体機能を抽出した。またヒヤリハット例において転倒の有無を目的変数に、抽出された身体機能を説明変数に同様の解析を行い、転倒災害を防止するために必要な身体機能を抽出した。
さらに、埼玉県内のシルバー人材センター会員約1000名を対象に、簡便な運動機能や認知機能測定からなる就業安全調査を実施した。
 上述したデータ解析に基づいて、身体機能を簡易に測定するプログラムとして個々の背景にあわせ最小限の質問・運動機能計測をカスタマイズするCAT(Computerized Adaptive Testing)を開発した。
結果と考察
データベース1,510名を対象に解析を実施した。ヒヤリハット無・低・中・高は47.1,40.0,7.0, 5.9%で、過去1年間の転倒経験は18.6%:281名であった。身体機能として視力、片脚立位、椅子5回立ち上がり、6m歩行、握力、ロコモ25を評価した。
 ヒヤリハットと相関係数(Spearman)0.5以上の関連があるのは2ステップ値/片脚立位時間/歩行速度であった。
 転倒の有無を目的変数、身体機能を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った結果、片脚立位時間/2ステップ値/ロコモ25が転倒と有意な関連があった。安全な労働と関連するのは、2ステップ値/片脚立位時間/歩行速度であり、転倒災害防止の評価に必要な身体機能は2ステップ値/片脚立位時間/ロコモ25であることが示唆された。
 さらにデータベース113項目のデータを用いて、CATシステムを構築した。
 解析の結果運動機能と労働災害との相互の関連を予測する以下の4つのカテゴリの質問に分類されることが明らかになった。これら4つのカテゴリのうち、身体計測機能ともっとも関連が高いのが「1)不安定な活動状態での習慣的行動」で、運動機能計測が実施できない状況でも、この設問項目から10-15問の設問を聴取すれば、転倒リスクを予想できた。「2)活動能力の知覚錯誤に伴う行動」、「3)安全ではない方法で物品などを使用する行動」、「4)正確な判断ができない状況での行動」に分類される質問カテゴリは、2-4問の聴取でリスクを予想できた。したがって最小16問、最大27問の設問でリスクを予測できる見込みである。
 このCATシステムがクラウド上での運用が可能となるよう、システムを構築中で協力企業と調整を進めている。
結論
次年度には、本年に開発したプログラムを用いて産業衛生フィールドにおけるプログラムの実証を行う予定である。本研究の成果により、高年齢労働者の労働災害が減少、高齢者雇用の人材確保をはじめとする社会・医療経済面、ひいては労災補償面でも大きく貢献するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2022-05-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202023013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,155,000円
(2)補助金確定額
14,153,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,799,648円
人件費・謝金 4,481,009円
旅費 132,819円
その他 4,474,178円
間接経費 3,266,000円
合計 14,153,654円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2022-03-14
更新日
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