文献情報
文献番号
202023007A
報告書区分
総括
研究課題名
芳香族アミンの膀胱に対する傷害性および発がん性における構造特性の影響
課題番号
H30-労働-一般-010
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・病理部)
研究分担者(所属機関)
- 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
芳香族アミンは染料・顔料の製造原料として汎用されるが、発がん性への懸念から各国で規制が進められている。我々は先行研究として、互いに類似した構造を持つ5種の芳香族アミンをラットに28日間経口投与し、膀胱粘膜における細胞・遺伝子動態への影響を検索した。その結果、膀胱発がん性が報告されているオルト-トルイジンおよびオルト-アニシジンの2種のみが、DNA損傷マーカーであるγ-H2AX形成の増加を誘導し、膀胱粘膜にDNA損傷を引き起こすことが示唆された。遺伝子発現解析では、両物質はともに細胞周期・DNA損傷・分化関連遺伝子を特徴的に変動させることが明らかとなり、短期間の投与によって膀胱への傷害性および発がん性を検出し得る可能性が示された。5種の投与物質はいずれも芳香族アミンとして基本的な構造を有することから、包括的リスク評価における基礎データとして活用し得ると考えられる。本研究では、オルト-トルイジンと類似構造を有する複数の芳香族アミンをラットに投与し、膀胱における細胞・遺伝子動態に及ぼす影響を、病理組織学的解析およびγ-H2AXをはじめとするDNA損傷・分化関連因子等の発現解析を通じて明らかにし、当該解析手法による包括的評価への応用について検討することを目的とする。
研究方法
令和2年度の検討として、6週齢の雄F344ラット(各群5匹)に、オルト-トルイジンに類似した構造を持つ芳香族アミン6種:0.01% 5-ニトロ-オルト-トルイジン(PNOT)、0.1% 3,3'-ジクロロベンジジン(DCB)、0.5% 4-アミノアゾベンゼン(AAB)、0.08% 4,4'-メチレンジアニリン(MDA)、0.1% 4,4'-メチレンビス-2-クロロアニリン(MOCA)、1%アントラニル酸(AA)を4週間混餌(MDAのみ飲水)投与した。各物質の投与濃度は、4週間の最大耐量として設定した。投与開始後2日、1週、2週および4週時点で解剖し、膀胱を採材した。ホルマリン固定パラフィン包埋標本を作製し、膀胱粘膜の病理組織学的検索および免疫組織化学的手法によるγ-H2AX形成の定量解析を実施した。膀胱尿路上皮におけるγ-H2AX陽性細胞をカウントし、陽性率を対照群と比較した。
結果と考察
採材した膀胱組織を用いた病理組織学的検索の結果、被験物質のうちAAB・MDAは尿路上皮における空胞変性および単純過形成等の膀胱傷害を誘発することが明らかとなった。γ-H2AX免疫染色の結果、AABは2週目以降、膀胱尿路上皮におけるγ-H2AX陽性細胞の有意な増加を引き起こした。MDA投与群においても、γ-H2AX陽性細胞の一過性の増加傾向が認められた。PNOT・DCB・MOCA・AA(いずれもラット膀胱に対して非発がん性)投与群には、膀胱病変およびγ-H2AX形成増加は認められなかった。以上の結果から、γ-H2AX免疫染色によって芳香族アミンの潜在的な膀胱傷害性・発がん性を早期に検出し得ることが示された。
結論
本研究の結果から、検索した6種の芳香族アミンのうちAABおよびMDAが、ラットに対して膀胱傷害性およびγ-H2AX形成の増加を示すことが明らかとなった。以上より、γ-H2AX免疫染色によって芳香族アミンの潜在的な膀胱傷害性・発がん性を早期に検出し得る可能性が示された。
公開日・更新日
公開日
2022-06-09
更新日
2023-05-25