薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究

文献情報

文献番号
202022025A
報告書区分
総括
研究課題名
薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究
課題番号
19IA2020
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
成川 衛(北里大学 薬学部 臨床医学(医薬開発学))
研究分担者(所属機関)
  • 三浦 俊彦(中央大学商学部)
  • 小林 江梨子(千葉大学大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
3,052,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、革新的で高額な医薬品が相次いで上市され、今後の医療保険財政や国民負担に与える影響が危惧される中、平成30 年(2018 年)4 月の診療報酬改定では、薬価制度について新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出等加算)制度の見直しをはじめとする抜本改革が行われた。医薬品流通についても、薬価制度改革の議論を踏まえて改善に向けた取組を更に加速するために「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」が示された。このような改革を受け、産業界からは、日本の医薬品市場の魅力が低下し、今後、企業が国民のニーズに応えて我が国での新薬の研究開発を積極的に行い、安定に供給し続けることに悪影響が生じるおそれがあるとの懸念が示された。その後、2020 年4 月には令和2 年度の薬価制度改革が行われ、この間、2019年10 月に消費税引上げに伴う市場実勢価格を踏まえた薬価改定があり、また2021 年4 月にはいわゆる毎年薬価調査の結果に基づいた薬価改定が行われるなど、薬価制度を取り巻く状況は目まぐるしく変化している。薬価制度は、(1)薬剤費のコントロール、(2)医薬品へのアクセス確保を通じた国民の健康の向上、(3)イノベーションの評価等による産業の育成といった多様な役割を有している。本研究では、薬価制度改革が我が国における医薬品の開発環境及び流通環境に与えてきた影響を多角的に評価し、薬価制度が有する多様な役割のバランスに配慮しながら、中長期的な視点も交えてそのあり方に係る基礎資料を整備し、今後の医薬品関連産業のあり方の視座から課題の整理と提言を行うことを目的とした。
研究方法
本研究は、医薬品開発環境に関する研究及び医薬品流通環境に関する研究からなる。医薬品開発環境に関しては、日本の製薬企業による臨床試験の実施状況、新薬の国際的な開発タイミング、新薬の効能追加承認の状況、国際共同臨床試験への日本の参加状況、製薬企業の業績、並びに新薬の国別承認順位を経時的に分析した。医薬品流通環境に関しては、医薬品卸売業者の経営分析 、消費者(患者)へのグループインタビュー及びアンケートに基づくインターネット調査を行い、さらに、流通改善に向けた施策の検討・提案のための比較研究(家電流通との比較研究)を実施した。
結果と考察
医薬品開発環境に関して、近年は日本に加えて北米、欧州、アジア等を含む国際共同臨床試験の割合が大きく増加していることが確認できた。日米及び日 EU 間の新薬承認申請ラグ、承認ラグともに経時的に短くなっていることが示され、また、多くの新薬は、米国で承認された後に先ず
EU で承認され、次いでカナダ、日本、豪州の 3 カ国で承認され、韓国、中国で承認されているという全体的な傾向が確認できた。近年承認された新有効成分の 1/3 強において効能追加の開発が行われ、承認に至っていた。外資系グローバル企業が企画・実施する国際共同臨床試験 への日本の参加は、過去 10 年余の間に数・割合ともに着実に増加した。製薬企業の業績は、大中規模の内資系企業における海外売上高及び海外売上高比率の着実な増加が示され、研究開発費も着実に増加している一方、研究開発費率はほぼ横ばいで推移した。
医薬品流通環境に関しては、医薬品卸売業者の経営状況について、実販売額は若干増加したが、大規模な薬局チェーンや病院との取引が重要な影響要因であることが示された。消費者へのインタビュー調査では、医療制度や薬の処方制度、病院・薬局、医師・薬剤師への率直な意見が得られた。それら調査結果は現在精査中である。家電流通との比較研究では、価格決定メカニズムや消費者のブランド選択行動は医薬品流通とは大きく異なっていることが理解された。
結論
本研究では、平成30年度薬価制度抜本改革を含む近年の薬価制度の見直しが我が国における医薬品の開発及び流通の環境に与えてきた影響を多面的に評価した。医薬品開発に関しては、過去10年程度の間に、日本を含む国際共同臨床試験は増加し、日米及び日EU間での新薬承認申請ラグ、承認ラグともに経時的に短くなるなど、日本における新薬研究開発の好環境が整備されてきたことが示された。また、ひとたび承認された新薬に係る活発な効能追加開発、内資系企業による積極的な海外展開の状況も確認できた。これには、2010年度から試行的に導入された新薬創出等加算制度を含む薬価制度の見直し、各種薬事制度の改善、それに付随する関係者の努力など、複数の要因が影響しているものと考えられる。一方で、近年の薬価制度改革の影響を受けこのような好循環が止まることを危惧する声も聞かれており、仮にそのような事態が生じるのであれば、早期にその兆候をつかみ、対応策を講じていくことが必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2021-06-02

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202022025Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,845,000円
(2)補助金確定額
3,538,000円
差引額 [(1)-(2)]
307,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 399,247円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 2,346,377円
間接経費 793,000円
合計 3,538,624円

備考

備考
実績報告にあたり、支出合計の1,000円未満の端数は切り捨て処理を行ったため

公開日・更新日

公開日
2021-12-01
更新日
2021-12-07