総合診療が地域医療における専門医や多職種連携等に与える効果についての研究

文献情報

文献番号
202022011A
報告書区分
総括
研究課題名
総合診療が地域医療における専門医や多職種連携等に与える効果についての研究
課題番号
H30-医療-指定-018
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
前野 哲博(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 原田 昌範(山口県立総合医療センター)
  • 森 正樹(九州大学大学院消化器・総合外科)
  • 西崎 祐史(順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
7,045,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国において、総合診療医の概念は十分に浸透しておらず、診療範囲も曖昧で、総合診療医の養成が我が国の医療に与える影響は明らかになっていない。そこで本研究では、総合診療医の位置づけを明らかにした上で、その存在が与える影響についてのエビデンスを蓄積するとともに、専門医から総合診療医、総合診療医から他職種、それぞれにおいてタスクシフティング、タスクシェアリングを行った場合の政策効果を含めて、その効果分析を行うことを目的とした。
研究方法
1) 総合診療医の「必要医師数」の算出方法の検討
将来推計人口と、医療の利用状況を実測し2017年度の患者調査および医療施設調査の個票を用いて①総合医の外来患者診療比率および②都道府県別訪問診療医当たり訪問診療患者数の算出を行った。
2) 地域医療における総合診療医の役割や周囲への影響に関するフィールド調査
前年度までの調査結果をもとに、総合診療医の役割について医療従事者および一般住民に紹介するアニメーション動画を制作した。
3) 総合診療医の診療範囲・行動に関する調査
家庭医療専門医、総合診療医が診療を行った外来患者(初診、再診)の診療録調査を行い、主訴、診断についてプライマリ・ケア国際疾病分類ICPC-2(International Classification of Primary Care Second Edition)を用いたコード化およびレセプトデータを用いた解析を行った。
4) タスクシフティングプログラムの開発と検証
プライマリ・ケアに必要なスキルに関する研修プログラムの開発を行った。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、オンライン形式の研修プログラムを新たに開発した。
結果と考察
1) 総合診療医の「必要医師数」の算出方法の検討
傷病分類別に、病床数200床で小規模病院と大規模病院に分けた場合、38.5%が小規模病院の外来を、残りの61.5%が大規模病院を受診していた。病床規模の閾値を変化させて感度分析を行うと、閾値を減少させれば小規模病院を受診する患者の割合は減少した。
在宅療養支援診療所の診療所数、医師数、訪問診療患者数から医師一人当たりの訪問診療患者数を算出すると、25.5人であった。
今回の結果と、令和元年度に開発した外来・病院・訪問診療における必要総合診療医数を推計するモデルと合わせば、より詳細な推計を行うことができると考えられた。
2) 地域医療における総合診療医の役割や周囲への影響に関するフィールド調査
動画は、You Tubeチャンネルで公開(https://youtu.be/gtq918g-th4)した。総合診療医のコアとなる視点や役割を紹介した内容であり、少しでも総合診療医の役割理解を高めるものになることが期待される。
3) 総合診療医の診療範囲・行動に関する調査
対象者は延べ1312名で、新患75名、再来1237名、平均年齢 54.7歳であった。新患、再診ともに、総合診療医が対象とする主訴は多くの領域に及んでいた。また、予防や社会問題まで含む幅広い領域の健康問題をカバーしていることが示された。地域住民の健康な暮らしを支える総合診療医の養成には、臓器別の横断的な知識のみならず、幅広い領域に対応するためのトレーニングが必要であると考えられた。
4) タスクシフティングプログラムの開発と検証
専門医→総合診療医、総合診療医→地域医療福祉職のいずれもオンライン形式のプログラムを開発・実施した。今回得られたノウハウは、近い将来、新型コロナウイルス感染症が収束しても、地域医療の第一線で働く医療者に対して、十分活用できるものと考えられた。
結論
統計調査結果などに基づく日本の医療受給状況に、総合診療医に係るパラメータの仮定を加えて、外来診療、入院診療、在宅診療それぞれを担当する総合診療医の必要数を推計するモデルを構築した。
地域医療における総合診療医の役割や周囲への影響に関するフィールド調査の成果に基づくアニメーション動画の制作では、医療従事者向け・一般住民向けに、インターネットを通して視覚的にわかりやすい資料を提供することで、総合診療医の役割理解に資する情報発信ができた。
総合診療医の診療範囲・行動に関する調査では、総合診療医がカバーすべき領域は極めて広範囲に及んでおり、地域住民の健康な暮らしを支える総合診療医を養成するためには、これらの領域についてまんべんなく修得できる体系的なトレーニングが必要であると考えられた。
タスクシフティング研修プログラムについては、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、研修のオンライン化が進められた。プログラムの工夫により、能動学習の要素を残すことで、教育効果を担保しつつ、感染状況や場所を選ばず参加できるオンライン研修のメリットを生かせることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2021-09-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-09-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202022011B
報告書区分
総合
研究課題名
総合診療が地域医療における専門医や多職種連携等に与える効果についての研究
課題番号
H30-医療-指定-018
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
前野 哲博(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 原田 昌範(山口県立総合医療センター)
  • 森 正樹(九州大学大学院消化器・総合外科)
  • 西崎 祐史(順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
総合診療医の位置づけを明らかにした上で、総合診療が地域医療における専門医や他職種連携等に与える効果について研究を行った。
また、地域医療における総合診療医の診療範囲を広げることを支援するためのオンライン診療体制・遠隔手術の実施体制の構築、および総合診療医の養成にあたって、基盤となる臨床能力を評価する方法を確立するための検討を行った。
研究方法
以下の4つから構成される研究を実施した。
I. 総合診療が地域医療における専門医や多職種連携等に与える効果についての研究
II. へき地医療の推進に向けたオンライン診療体制の構築についての研究
III. 遠隔手術ガイドラインの検討
JAMEP 基本的臨床能力評価試験の質向上についての研究
結果と考察
Ⅰ:住民調査データを用いた解析では、50 歳以上、女性、かかりつけ医師がなく、重複診療の経験があることが総合診療専門医への受診意向に有意に関連していた。事例集については、新たな事例を加えたうえで広く情報発信を行った。
総合診療医と人類学者が協働してチーム・エスノグラフィを用いたフィールド調査において、総合診療医の役割浸透、メディカル・ジェネラリズムの浸透、総合診療医の複雑系に対する秩序の安定化について明らかにした。その成果は、アニメーション動画を作成して広く公開した。
役割期待理論を基盤にした質的探索的研究において、医師以外の保健医療福祉介護福祉専門職を対象として、他職種が総合診療医に期待している役割を明らかにした。
総合診療医の診療範囲・行動に関する調査について、総合診療医が対象とする主訴は多くの領域に及んでおり、予防や社会問題まで含む幅広い領域の健康問題をカバーしていた。
総合診療専攻医を対象としたweb アンケート調査では、専攻医は、診療科としての発展性や尊敬できる指導医の存在から総合診療を選択している一方で、総合診療の専門性に対する疑問や懸念があり、選択をためらった経験があることがわかった。また、専門医制度に関して不安を抱いていることが明らかになった。
総合診療医の「必要医師数」の算出方法の検討については、統計調査などに基づく日本の医療受給状況に、総合診療医に係るパラメータの仮定を加えて、外来診療、入院診療、在宅診療それぞれを担当する総合診療医の必要数を推計するモデルを構築した。
プライマリ・ケアに関するタスクシフティング研修プログラムを開発・実施した。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、オンライン研修プログラムを開発・実施した。
II:国内外でのオンライン診療の先進事例を参考に、へき地でどのようなオンライン診療体制の構築が有効かを明らかにした。
令和元年度に、国内および諸外国の好事例を視察して情報を収集し、へき地医療を支えるためのオンライン診療モデルを検討した。令和2 年度、山口県内のへき地に実際にオンライン診療を導入し、普及・促進に資する具体的方策を検討した。医師が常駐しないへき地において、医師不在時にオンライン診療を適切に組み合わせることで、遠方への受診を減らし、へき地に継続的な医療を確保できることが確認できた。
安全性と信頼性の高いオンライン診療をへき地に普及させるためには、患者と地域をよく知る「かかりつけ医」や診療支援者(主に看護師)による実施と対面診療との適切な組み合わせが重要である。
III:情報通信機器を利用した遠隔医療は、医師不足、医師の偏在が問題となっている地域における有用な手段となり得る。遠隔医療の中でも、ロボットを利用したオンライン手術、遠隔手術については実現のハードルが高く、その安全性を確実に担保する必要がある。オンライン手術、遠隔手術ガイドラインを作成するための準備を行った。
IV: GM-ITE の参加施設および受験者数は、2019 年度539 施設、6,869 名、2020 年度は、593 施設、7,669 名であった。2020 年度においては、動画問題担当者を専属に配置し、動画問題の増加を実現した。さらに、英国の臨床能力評価試験PLAB(Professional and Linguistic Assessments Board)を活用し実施したGM-ITE バリデーションを実施し、2020 年度に研究結果をまとめ論文投稿した。CBT導入状況については、2021 度からの本格的な導入に向けて、2019 年度、2020 年度ともに、0 年次(新臨床研修医)を対象とした試験(2019 年度GM-ITE)で、パイロット的にCBT を導入した。
結論
本研究により、総合診療医の位置づけ、総合診療が地域医療における専門医や他職種連携等に与える効果が明らかになった。
また、オンライン診療体制、遠隔手術の実施体制の構築、臨床能力を評価する方法の確立などに関する重要な知見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2021-09-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202022011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで、総合診療医の位置づけや有用性、タスクシフティングに関する議論の多くは個人的な見解や限られた経験に基づくものであった。本研究により、科学的手法に基づき、網羅的・体系的にエビデンスを明らかにできた意義は大きい。また、へき地医療におけるオンライン診療や遠隔手術に関する知見が得られたことは、地理的にハードルがある地域での医療の充実に極めて有用である。さらに、基本的臨床能力評価試験の質向上を測ることができたことは、すべての医師が総合診療能力を修得する上で大きく役立つものである。
臨床的観点からの成果
総合診療医に対する社会の期待は年々高まる一方で、総合診療医の養成は十分に進んでいるとは言えず、地域偏在も依然残っており、医療の質の担保も今後の課題である。本研究で取り上げたテーマは、今後の地域医療・総合診療の発展に極めて重要なものであり、この領域における研究のさらなる発展に大いに役立つことが期待される。
ガイドライン等の開発
遠隔手術ガイドラインの検討については、ガイドライン作成に向けて具体的な検討項目を整理し、検討が開始された。適応となる手術や運用方法には、実証研究の成果や通信環境の整備状況、さらにはロボットの技術的側面が大きく影響することから、実証研究と並行してガイドライン作成を進める必要性が確認された。
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
90件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-09-13
更新日
2023-05-12

収支報告書

文献番号
202022011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,158,000円
(2)補助金確定額
6,224,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,934,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,302,196円
人件費・謝金 469,200円
旅費 30,800円
その他 2,309,175円
間接経費 2,113,000円
合計 6,224,371円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-09-13
更新日
2021-12-01