周産期医療の質の向上に寄与するための、妊産婦及び新生児の管理と診療連携体制

文献情報

文献番号
202022008A
報告書区分
総括
研究課題名
周産期医療の質の向上に寄与するための、妊産婦及び新生児の管理と診療連携体制
課題番号
H30-医療-一般-014
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
池田 智明(国立大学法人三重大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石渡 勇(石渡産婦人科病院)
  • 海野 信也(北里大学 医学部産婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,410,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の分娩施設数は約3000、一施設あたりの常勤医師数は約2.5人であり、欧米に比べて分散している。受診アクセスが良い反面、母児の安全を図るには人と物が分散している点は不利である。周産期センター化などの医療行政、そして現場の努力によって、周産期死亡率の低さは世界的にトップである。これに対して妊産婦死亡率は近年、低下しているものの、いまだ改善の余地がある。本研究は、日本における妊産婦死亡減少を目的に継続している妊産婦死亡報告事業について報告し、よりよい周産期医療体制と多領域との連携を死亡事例分析から検討することを目的とする。
研究方法
全国で起こった妊産婦死亡は、日本産婦人科医会へ報告される。このことは、産婦人科診療ガイドライン(産科編)2020では推奨レベル(A)となっている。報告された内容は施設情報(都道府県、施設名等)や個人情報を匿名化した上で、妊産婦死亡症例検討評価委員会に提供され、それに基づいて事例検討を行い、死亡原因、死亡に至った過程、行われた医療との関わり、および再発予防策などを評価している。
 具体的には、毎月開催される「妊産婦死亡症例検討評価小委員会」において報告書案が作成された後、年に4回開催される「妊産婦死亡症例検討評価委員会」を経て、最終的な症例検討評価報告書が作成され、日本産婦人科医会に戻されている。この報告書は報告医療機関と所属の都道府県産婦人科医会に送付され、各施設での事例検討などに活用されている。
 妊産婦死亡症例数は、2010年:45例、2011年:40例、2012年:61例、2013年:43例、2014年:40例、2015年:50例、2016年:43例、2017年:47例、2018年:36例、2019年:39例、2020年6月末までに11例が報告され(計457例)、そのうち解析を終了した428例について検討した。
結果と考察
妊産婦死亡のうち、妊娠や分娩などの産科的合併症によって死亡したと考えられる直接産科的死亡は60%を占め、妊娠前から存在した疾患又は妊娠中に発症した疾患により死亡した間接産科的死亡は28%であった。原因で最も多かったのが産科危機的出血で20%を占めていた。次いで、脳出血・脳梗塞が15%、心肺虚脱型羊水塞栓症が12%、周産期心筋症などの心疾患と大動脈解離を合わせた心・大血管疾患が9%、肺血栓塞栓症などの肺疾患が8%、感染症(劇症型A群溶連菌感染症など)が9%であった。年次推移でみると、2010年に30%であった産科危機的出血の割合が、2017年には約10%まで低下してきていた。また、これらの統計結果ならびに事例解析から得られた提言を「母体安全への提言」として毎年発刊した。
 妊産婦死亡原因で最も多かったのが産科危機的出血で20%を占めていた。次いで、脳出血・脳梗塞が15%、心肺虚脱型羊水塞栓症が12%、周産期心筋症などの心疾患と大動脈解離を合わせた心血管疾患が9%、肺血栓塞栓症などの肺疾患が8%、感染症(劇症型A群溶連菌感染症など)が9%であった。妊産婦死亡原因で産科危機的出血が最多原因であるが、年次推移でみると、2010年に約30%あった産科危機的出血の割合が、約10%まで低下してきていることがわかる。近年の産科危機的出血による妊産婦死亡の減少傾向は、母体安全への提言の発刊、その啓発活動、診療ガイドラインに沿った診療の励行、母体急変対応の普及(J-CIMELS)などの効果である可能性は高いと考えられる。一方で、脳出血・脳梗塞、心血管疾患、感染症、肺疾患などの間接妊産婦死亡原因に関連した妊産婦死亡は減少しておらず、死亡原因の上位を占めるようになった。
結論
今後、間接妊産婦死亡原因について、特に心血管疾患、脳出血、感染症、肺血栓塞栓症に関して、予防対策を立てていくことが重要である。これら4疾患を対象中心とした生存例を含めた前向き登録制度の設立が必要であると考え、2021年1月に妊産婦重篤合併症報告事業を設立した。

公開日・更新日

公開日
2023-05-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-06-19
更新日
2023-11-15

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202022008B
報告書区分
総合
研究課題名
周産期医療の質の向上に寄与するための、妊産婦及び新生児の管理と診療連携体制
課題番号
H30-医療-一般-014
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
池田 智明(国立大学法人三重大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
-
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202022008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
妊産婦死亡登録事業の継続によって、日本における妊産婦死亡の現状を詳細に把握することが持続的に可能となり、同事業から得られた情報を分析し、「母体安全への提言」としてアウトプットすることで、周産期医療従事者へ広く妊産婦死亡に関する現状・予防・対策が周知され、妊産婦死亡の予防への貢献が期待される。J-CIMELS公認講習会(母体蘇生法)の開催、母体蘇生ガイドライン(日本蘇生協議会)の作成などにより、母体急変時における医療の質の標準化が期待される。
臨床的観点からの成果
妊産婦死亡に繋がるハイリスク疾患の後ろ向き観察研究、同疾患に関する前向き登録事業の設立によって、妊産婦死亡に対する対策を講ずることが可能となり、安全な周産期医療体制の構築が実現される。
ガイドライン等の開発
発刊した「母体安全への提言」は、産婦人科診療ガイドライン2020などの各種ガイドラインに引用されている。
その他行政的観点からの成果
妊産婦死亡に繋がるハイリスク疾患の後ろ向き観察研究、同疾患に関する前向き登録事業の設立によって、妊産婦死亡に対する対策を講ずることが可能となり、安全な周産期医療体制の構築が実現される。
将来的な総合・地域周産期母子医療センターの役割の選定をおこない、母体及び新生児搬送に関する医療体制の再整備によって、地域の実情に合わせた効率的な周産期医療システム構築が来される。そして、総合的に有効で効率的な連携システムを検討し、検証していくことができ、次の周産期医療整備指針改定へのデータベースが構築できる。

その他のインパクト
将来的な総合・地域周産期母子医療センターの役割の選定をおこない、母体及び新生児搬送に関する医療体制の再整備によって、地域の実情に合わせた効率的な周産期医療システム構築が来される。そして、総合的に有効で効率的な連携システムを検討し、検証していくことができ、次の周産期医療整備指針改定へのデータベースが構築できる。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-19
更新日
-

収支報告書

文献番号
202022008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,532,000円
(2)補助金確定額
12,854,000円
差引額 [(1)-(2)]
678,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 100,010円
人件費・謝金 2,288,303円
旅費 17,480円
その他 7,326,403円
間接経費 3,122,000円
合計 12,854,196円

備考

備考
予定外の委託費が発生したため、予算を上回る結果となった。

公開日・更新日

公開日
2021-12-21
更新日
-