小胞体ストレスによるインスリン分泌障害と糖尿病治療法開発

文献情報

文献番号
200807018A
報告書区分
総括
研究課題名
小胞体ストレスによるインスリン分泌障害と糖尿病治療法開発
課題番号
H19-ゲノム・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
岡 芳知(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 片桐 秀樹(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 谷澤 幸生(山口大学 大学院医学系研究科 )
  • 浅野 知一郎(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
35,303,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 糖尿病は増え続けている。糖尿病は年余の末に血管合併症をきたす。網膜症による失明は年間3000人以上、腎症のための新規2型血液透析導入は年間13,500人以上となり、血液透析だけでも年間 600万円x13,500人=810億円の医療費の増加となる。糖尿病の予防と優れた治療法開発は国民の健康・医療における緊急の課題である。本研究では、膵β細胞の生存・増殖機構とストレス応答とくに小胞体ストレスに焦点をあて、新規治療法の開発を目的とする。
研究方法
 小胞体ストレス下で翻訳抑制因子4E-BP1の発現を制御している転写因子の同定と制御の分子機構を解明する。さらに、4E-BP1についての第1人者であるカナダ、Sonenberg教授との共同研究を進め、4E-BP1KOマウスも用いて4E-BP1が膵β細胞へどのような効果を及ぼすかを明らかにする。4E-BP1の創薬ターゲットとしての可能性に着目する。また、我々が見出した自律神経を介した臓器間ネットワークに基づき、アデノウィルスを用いてマウスの肝臓のERK経路を活性化し、膵β細胞を増殖させ糖尿病の治療を試みる。
結果と考察
 wfs1欠損マウスの膵β細胞では、翻訳抑制因子4E-BP1の発現が著増しており、4E-BP1遺伝子に転写因子ATF4認識部位が2箇所あり、4E-BP1発現がATF4の制御下にあることを見出した。さらに、4E-BP1は、慢性の小胞体ストレス下で発現が誘導され、膵細胞のオーバーワークを防ぎ、膵細胞を保護していることを世界で初めて見出した (Yamaguchi S, Oka Y et al. Cell Metabolism 2008)。また、肝へ活性型MEK遺伝子を導入してインスリンシグナル経路のひとつであるERK経路を活性化することにより、糖に対する反応性のインスリンの分泌の著明な亢進、および膵β細胞に選択的な著明な増殖が認められた。
結論
 2008年度の研究で、翻訳抑制因子4EBP1が転写因子ATF4の制御によって慢性小胞体ストレス下で誘導され、膵β細胞を守っていると考えられる。4EBP1は全く新しい糖尿病治療薬のターゲットであり、さらに研究を進めている。また、我々は神経系による臓器間ネットワークにより、各臓器の代謝が調節されていることを2006年に発見したが、本年度はこの機構を利用して肝臓刺激により膵β細胞を増加させることができるという、きわめて斬新な糖尿病治療法を見出し世界の注目を浴びている (Science 2008)。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
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