文献情報
文献番号
199700446A
報告書区分
総括
研究課題名
新GCP普及定着総合研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中野 重行(大分医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 秋山秀樹(東京都立駒込病院)
- 小林真一(聖マリアンナ医科大学)
- 中島新一郎(山梨医科大学附属病院)
- 井部俊子(聖路加国際病院)
- 大橋京一(浜松医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1997年4月1日より改定された新GCPは、依頼者、医療機関、治験責任医師のすべてに旧GCPとは比較にならないほど厳格な責任と義務を設定しているので、新GCPを遵守した治験を円滑に行うためには、多岐にわたる支援策を講ずる必要がある。本研究の目的は、新GCPに基づいた治験を円滑に行うために必要な支援策を研究し提言することにある。
研究方法
新GCPをわが国に普及し定着させるための支援策を作成するために、下記の6つの作業班とこれらを統括する統括班を作り検討を進める。
1) インフォ-ムド・コンセントのあり方検討作業班
2) 治験審査委員会(IRB)機能充実策検討作業班
3) 治験管理・事務機能充実策検討作業班
4) 治験支援スタッフ養成策検討作業班
5) モニタリング・監査のあり方検討作業班
6) 被験者のメリット・市民への治験啓発策検討作業班
また、本研究班には、厚生省の「治験モデル事業」を行う医療機関の代表をメンバ-に加え、モデル事業との連携を図りながら研究を行う。
1) インフォ-ムド・コンセントのあり方検討作業班
2) 治験審査委員会(IRB)機能充実策検討作業班
3) 治験管理・事務機能充実策検討作業班
4) 治験支援スタッフ養成策検討作業班
5) モニタリング・監査のあり方検討作業班
6) 被験者のメリット・市民への治験啓発策検討作業班
また、本研究班には、厚生省の「治験モデル事業」を行う医療機関の代表をメンバ-に加え、モデル事業との連携を図りながら研究を行う。
結果と考察
1) インフォ-ムド・コンセントのあり方
省令GCP第50条で51条で要求される説明文書の内容は、通常の医療現場では説明困難、あるいは実行困難なものも少なくなく、実際の医療現場での説明内容との格差が問題となっている。しかし実際の治験の場においては、現状の医療環境の条件下のおいて説明を行わざるを得ない。そのため、予想される混乱を少しでも防ぎ、しかもGCPに従って治験を適正、かつ円滑に行う方法を検討した。治験におけるICの基本的な問題として、(1) 治験についての一般的ないし事前条件整備的な説明書の必要性、(2) 薬剤によるある種の副作用についての説明方法の2点を検討した。
その結果、現時点での一般的な治験の説明においては以下のような段階的な説明が適当であろうと結論した。すなわち、(a) 具体的な治験の説明の前に、治験や薬の副作用に関する簡単な簡単な説明書(仮称、事前説明書)に基づく説明がまず行われるべきである。(b) 治験の説明・同意文書(仮称、治験説明・同意文書)は分かりやすく、平易な文章で書かれなければならない。通常用いられる説明・同意文書における副作用や危険性に関する記述においては、詳細にわたる副作用の羅列が、患者にかえって混乱を招くと考えられるため、重要な副作用の記述にとどめてもよい。(c) 副作用やプロトコルについて患者がさらに高度な説明を希望する場合には、予め治験説明・同意文書よりも詳しい説明資料(仮称、補充説明資料)を作成しておき、それを利用して説明することも考えられる。(d) 治験や薬に関する説明ないし啓発のために、上記の事前説明書よりもさらに平易な説明資料(仮称、開発説明資料)を作り、来院者に配るなどして、その啓発につとめることが望ましい。
2) 治験審査委員会の機能充実策
旧GCPによって治験実施のために各医療機関に治験審査委員会(以下IRB)の設置が義務づけられた。しかし、各医療機関のIRBの機能が本来のものと異なり現状では形骸化している傾向が指摘された。新GCPでIRBは「すべての被験者の人権、安全および福祉を保護しなければならない」となっており、また治験が被験者の参加によってはじめて実施できるものであることから、被験者保護の役割を担うIRBの機能強化、機能充実を具体的に検討する必要が出てきた。
そこで、検討した内容は、(1) IRBの役割と責任:IRBの承認は当該医療機関における治験実施を社会に保証、医療機関内でIRBは新GCP普及定着の役割を担う役割、(2) 専門外委員と外部委員として適当な委員、(3) IRBの成立要件と意思決定方法:委員会成立には専門外委員と外部委員の出席が必要、委員会の成立には定足数の過半数以上が必要、意思決定は多数決原理が基本となる。(4) 非営利団体(学会)等のIRB活用、(5)IRBの審査基準、「治験責任医師・分担医師」「同意説明文書中の補償」「迅速審査のカテゴリ-」など、(6) 多施設共同治験IRB審査で問題が生じた場合:他のIRBへの連絡
方法、各IRBの審査基準をある程度統一することが必要、(7) 治験審査委員会標準業務手順書について。
3) 治験管理・事務機能充実策
現況を把握するために特定機能病院を対象としてアンケ-ト調査を実施した。治験審査委員会事務局の業務は、治験審査委員会での審査を効率的に行う上で重要である。そこで、その行うべき業務の洗い出しを行った。特に、申請書類のチェックと事前ヒアリングは必要であり、審査に使用する資料やデータで不足していると思われる事項、疑問点などに関しては、治験審査委員会以前に追加、訂正、回答させる事務処理が必要である。
治験事務局は当該医療機関の長が設置してその業務を行うが、治験審査委員会事務局も兼ねることができる。治験事務局は治験の受付から終了に至るまで、治験全般にわたって、被験者の人権、安全性などの保護とともに、治験の倫理的、科学的および医学的妥当性の観点から治験の質を保証するための業務を行う。そこで治験事務局における業務の流れのモデル案を作成した。
治験薬の管理は、当該治験が「治験の原則」に基づき、治験薬の受け入れから終了まで、実施計画書にしたがって確実に実施され、評価を受ける上で重要であり、質の高い治験が行われるための前提条件である。治験薬の適正な管理・保管は薬剤部で行い、治験薬管理責任者は薬剤師とすることが望ましい。
治験に関わる記録は、当該治験の質を保証する上で非常に重要であるので、保存責任者を決め、確実に保管しなければならない。そこで、保存責任者、直接閲覧への対応、記録の保存期間などについて検討した。
治験の実施にあたっては、被験者に対し同意説明文によって十分な説明と被験者からの納得と同意を得たうえで行われることが大前提である。しかし、治験責任医師または分担医師が十分に説明したつもりでも被験者は不安や疑問を持つことが多い。そのような場合、治験相談窓口を設置し、当該医師以外の治験担当薬剤師または治験コ-ディネ-タ-(CRC/SC)が相談に応ずることが必要である。なお、この相談窓口は治験事務局の中に置くことが望ましいが、各施設の状況によって定めればよい。
省令GCPでは、「医療期間の長は、治験に関わる業務に関する手順書を作成しなければならない」と規定されている。本作業班では、治験受諾規定及び標準手順書作成の留意点について検討しモデル案を作成した。
4) 治験支援スタッフ養成策
(1) CRC/SC の役割:直接的には治験責任医師を支援する業務を行なう。つまり、治験の実施過程において、とりわけ被験者と治験の調整を行ない、治験の倫理性、科学性を保証するための活動を行なうものとし、CRC/SC の業務とその有用性を検討した。(2) CRC/SC の位置づけと確保:治験責任医師等および治験事務局との協働について検討し、CRC/SC の確保をどのように行なうかを検討した。(3) CRC/SC の養成:CRC/SC の条件、教育プログラムの骨子および養成機関について検討し、資格の認定について言及した。
5) モニタリング・監査のあり方
モニタリング並びに監査は従来のわが国における治験体制にとってまったく新しいシステムであるため、治験依頼者側はもちろんのこと、医療機関側も受け入れ体制作りが急務となっている。
検討内容としては、(1) モニタリング並びに監査の区別及び役割の明確化:モニタリングとは、治験の進行に応じて随時被験者の人権を保護し、医療機関から重要な情報を得るとともに、治験依頼者の情報を医療機関に提供するという活動を行い、治験の品質を管理する(Quality control)ために治験依頼者が行う重要な活動の一つである。一方、監査とは、実施された治験の品質保証(Quality assuarance)の一環として、治験が治験実施計画書、GCP等を遵守して行われていたか否かを、通常のモニタリング及び治験の品質管理業務とは独立して評価することである。このため、治験依頼者は、治験を実施する部署と独立した監査部門を設置しなくてはならない。(2) モニタリング並びに監査に関する医療機関の意識調査:4医療機関の治験責任医師・分担医師にアンケ-ト調査をおこなった。(3) モニタ-並びに監査担当者の望ましい要件:治験依頼者が要件、教育、訓練等についての基準を満たすものを指名することとした。(4) 守秘義務の注意点:被験者の秘密保持に関する法的規制に薬事法(30万円以下の罰金)が加わり、さらにインフォ-ムド・コンセントにおいて患者の承諾が得られ違法性が阻却されることにより、直接閲覧は法的にはカバーされていると考えられる。しかし、患者の秘密漏示防止について、治験依頼者、医療機関ともに対策をたてる必要がある。(4) 直接閲覧の意義と実施方法:直接閲覧は治験の質と信頼性の確保及び保証のために、症例報告書への転記が省令 GCP に則って適法かつ正確に行われたことをモニタリング並びに監査によって確認することである。このためモニタ-並びに監査担当者による直接閲覧は治験体制の中で極めて重要な役割を担う。直接閲覧の実施に際して考慮すべき点は、直接閲覧の時間的負担を軽減する症例報告書の形式、モニタリング並びに監査受け入れに対応する標準手順書(POS)の整備、直接閲覧の対象記録類の明確化、立会人制度の導入、治験管理部門の充実、CRC/SC の必要性。(6) 模擬モニタリング並びに監査の実施を通した問題点:原資料を明確化して原資料の保管及び準備の効率化、直接閲覧に要する時間の短縮と症例報告書の改善、立会人不在での直接閲覧の問題点、良好なコミュニケーションがとれるモニター並びに監査担当者。(7) モニタリング並びに監査受け入れに対応する医療機関の業務手順書の例
6) 被験者のメリット・市民への治験啓発策
国際的に受け入れられる規約としての新GCPは整ったが、わが国には治験を実施するための環境がまだ整備されていない。特に、治験の成功のために必要な一般市民の共通理解に基づく協力体制が整っていない。
そこで検討した事項は以下のごとくである。(1) 一般市民から見た日本の治験の印象は著しくネガティブである。治験に関わるすべての関係者が納得して新薬開発に携わっているとは言い難い現状である。(2) 一般診療でも十分なインフォ-ムド・コンセントが行われて来なかったわが国の医療現場の中で、治験についても被験者に対する十分なインフォ-ムド・コンセントも行われないままに、製薬企業と医師の間で実施されてきた結果、治験という言葉や仕組が広く一般市民のコンセンサスになっていない。「治験」という言葉は医薬業界の専門用語であり、被験者として参加する一般市民の立場に立った名称が必要である。今後「創薬ボランティア」という名称を提案する、(4) 治験に関する一般市民の理解を得るための方策:(a) 治験に関する分かりやすいパンフレットあるいは小冊子の作成と配布、(b) ビデオ等の映像によるPR、(c) インタ-ネット等による治験情報の提供、(c) 市民講座・市民講演会の開催、(d) 市民(患者)団体の講演会等への参加協力、(e) マス・メディアに対するアプロ-チ。(5) 治験に参加することにより生ずる被験者の負担の解消に関する提言:例えば、次のような事項(そのための対策)があげられる。? 通院回数の増加(交通費・食費の支給)、? 検査回数の増加(検査費用の支払い)、? その他の医療費の増加(医療費の支払い)。(6) 被験者のメリットに関する提言:? 治験を取り巻く医療環境の整備(治験のための外来の設置、
優秀な医師による治験の担当、CRC/SCの養成とヘルスケア-、? より有効・より安全な医薬品の開発、? 治験に参加した被験者への医療上のメリットの提供、? 24時間体制による健康管理、? 被験者にとって効果が見られた場合の治験薬の提供、? 治験に参加した被験者への結果の報告(感謝の意の表明)、? 経済的な面での援助・謝金:治験に被験者として参加した患者に対して、直接金銭による謝礼を行うことには、賛否両論があり、慎重な取り扱いが必要である。(7) 公益財団(臨床試験推進財団)の設立または既存財団の活用、(8) 「思いやりプラン」の制度化:わが国の文化風土に馴染む臨床試験システムの試案として、被験者のメリットを重視した「思いやりプラン」が既に発表されている。この「思いやりプラン」の骨子は、次の3点に要約される(被験者として参加する際に規定の点数を取得できる、将来必要になれば(例えば65歳以降になれば)取得点数に相当するメリット(無料介護や年金等)を受けられる、自分の取得点数を自分の親や他の老年者にプレゼントすることも可能)。つまり、即時的な謝金ではなく、被験者として参加していただいた方の善意に対して社会からのお返しをしようという提案である。(9) 治験を促進するためのVTR用モデルシナリオの作成を行なった。
省令GCP第50条で51条で要求される説明文書の内容は、通常の医療現場では説明困難、あるいは実行困難なものも少なくなく、実際の医療現場での説明内容との格差が問題となっている。しかし実際の治験の場においては、現状の医療環境の条件下のおいて説明を行わざるを得ない。そのため、予想される混乱を少しでも防ぎ、しかもGCPに従って治験を適正、かつ円滑に行う方法を検討した。治験におけるICの基本的な問題として、(1) 治験についての一般的ないし事前条件整備的な説明書の必要性、(2) 薬剤によるある種の副作用についての説明方法の2点を検討した。
その結果、現時点での一般的な治験の説明においては以下のような段階的な説明が適当であろうと結論した。すなわち、(a) 具体的な治験の説明の前に、治験や薬の副作用に関する簡単な簡単な説明書(仮称、事前説明書)に基づく説明がまず行われるべきである。(b) 治験の説明・同意文書(仮称、治験説明・同意文書)は分かりやすく、平易な文章で書かれなければならない。通常用いられる説明・同意文書における副作用や危険性に関する記述においては、詳細にわたる副作用の羅列が、患者にかえって混乱を招くと考えられるため、重要な副作用の記述にとどめてもよい。(c) 副作用やプロトコルについて患者がさらに高度な説明を希望する場合には、予め治験説明・同意文書よりも詳しい説明資料(仮称、補充説明資料)を作成しておき、それを利用して説明することも考えられる。(d) 治験や薬に関する説明ないし啓発のために、上記の事前説明書よりもさらに平易な説明資料(仮称、開発説明資料)を作り、来院者に配るなどして、その啓発につとめることが望ましい。
2) 治験審査委員会の機能充実策
旧GCPによって治験実施のために各医療機関に治験審査委員会(以下IRB)の設置が義務づけられた。しかし、各医療機関のIRBの機能が本来のものと異なり現状では形骸化している傾向が指摘された。新GCPでIRBは「すべての被験者の人権、安全および福祉を保護しなければならない」となっており、また治験が被験者の参加によってはじめて実施できるものであることから、被験者保護の役割を担うIRBの機能強化、機能充実を具体的に検討する必要が出てきた。
そこで、検討した内容は、(1) IRBの役割と責任:IRBの承認は当該医療機関における治験実施を社会に保証、医療機関内でIRBは新GCP普及定着の役割を担う役割、(2) 専門外委員と外部委員として適当な委員、(3) IRBの成立要件と意思決定方法:委員会成立には専門外委員と外部委員の出席が必要、委員会の成立には定足数の過半数以上が必要、意思決定は多数決原理が基本となる。(4) 非営利団体(学会)等のIRB活用、(5)IRBの審査基準、「治験責任医師・分担医師」「同意説明文書中の補償」「迅速審査のカテゴリ-」など、(6) 多施設共同治験IRB審査で問題が生じた場合:他のIRBへの連絡
方法、各IRBの審査基準をある程度統一することが必要、(7) 治験審査委員会標準業務手順書について。
3) 治験管理・事務機能充実策
現況を把握するために特定機能病院を対象としてアンケ-ト調査を実施した。治験審査委員会事務局の業務は、治験審査委員会での審査を効率的に行う上で重要である。そこで、その行うべき業務の洗い出しを行った。特に、申請書類のチェックと事前ヒアリングは必要であり、審査に使用する資料やデータで不足していると思われる事項、疑問点などに関しては、治験審査委員会以前に追加、訂正、回答させる事務処理が必要である。
治験事務局は当該医療機関の長が設置してその業務を行うが、治験審査委員会事務局も兼ねることができる。治験事務局は治験の受付から終了に至るまで、治験全般にわたって、被験者の人権、安全性などの保護とともに、治験の倫理的、科学的および医学的妥当性の観点から治験の質を保証するための業務を行う。そこで治験事務局における業務の流れのモデル案を作成した。
治験薬の管理は、当該治験が「治験の原則」に基づき、治験薬の受け入れから終了まで、実施計画書にしたがって確実に実施され、評価を受ける上で重要であり、質の高い治験が行われるための前提条件である。治験薬の適正な管理・保管は薬剤部で行い、治験薬管理責任者は薬剤師とすることが望ましい。
治験に関わる記録は、当該治験の質を保証する上で非常に重要であるので、保存責任者を決め、確実に保管しなければならない。そこで、保存責任者、直接閲覧への対応、記録の保存期間などについて検討した。
治験の実施にあたっては、被験者に対し同意説明文によって十分な説明と被験者からの納得と同意を得たうえで行われることが大前提である。しかし、治験責任医師または分担医師が十分に説明したつもりでも被験者は不安や疑問を持つことが多い。そのような場合、治験相談窓口を設置し、当該医師以外の治験担当薬剤師または治験コ-ディネ-タ-(CRC/SC)が相談に応ずることが必要である。なお、この相談窓口は治験事務局の中に置くことが望ましいが、各施設の状況によって定めればよい。
省令GCPでは、「医療期間の長は、治験に関わる業務に関する手順書を作成しなければならない」と規定されている。本作業班では、治験受諾規定及び標準手順書作成の留意点について検討しモデル案を作成した。
4) 治験支援スタッフ養成策
(1) CRC/SC の役割:直接的には治験責任医師を支援する業務を行なう。つまり、治験の実施過程において、とりわけ被験者と治験の調整を行ない、治験の倫理性、科学性を保証するための活動を行なうものとし、CRC/SC の業務とその有用性を検討した。(2) CRC/SC の位置づけと確保:治験責任医師等および治験事務局との協働について検討し、CRC/SC の確保をどのように行なうかを検討した。(3) CRC/SC の養成:CRC/SC の条件、教育プログラムの骨子および養成機関について検討し、資格の認定について言及した。
5) モニタリング・監査のあり方
モニタリング並びに監査は従来のわが国における治験体制にとってまったく新しいシステムであるため、治験依頼者側はもちろんのこと、医療機関側も受け入れ体制作りが急務となっている。
検討内容としては、(1) モニタリング並びに監査の区別及び役割の明確化:モニタリングとは、治験の進行に応じて随時被験者の人権を保護し、医療機関から重要な情報を得るとともに、治験依頼者の情報を医療機関に提供するという活動を行い、治験の品質を管理する(Quality control)ために治験依頼者が行う重要な活動の一つである。一方、監査とは、実施された治験の品質保証(Quality assuarance)の一環として、治験が治験実施計画書、GCP等を遵守して行われていたか否かを、通常のモニタリング及び治験の品質管理業務とは独立して評価することである。このため、治験依頼者は、治験を実施する部署と独立した監査部門を設置しなくてはならない。(2) モニタリング並びに監査に関する医療機関の意識調査:4医療機関の治験責任医師・分担医師にアンケ-ト調査をおこなった。(3) モニタ-並びに監査担当者の望ましい要件:治験依頼者が要件、教育、訓練等についての基準を満たすものを指名することとした。(4) 守秘義務の注意点:被験者の秘密保持に関する法的規制に薬事法(30万円以下の罰金)が加わり、さらにインフォ-ムド・コンセントにおいて患者の承諾が得られ違法性が阻却されることにより、直接閲覧は法的にはカバーされていると考えられる。しかし、患者の秘密漏示防止について、治験依頼者、医療機関ともに対策をたてる必要がある。(4) 直接閲覧の意義と実施方法:直接閲覧は治験の質と信頼性の確保及び保証のために、症例報告書への転記が省令 GCP に則って適法かつ正確に行われたことをモニタリング並びに監査によって確認することである。このためモニタ-並びに監査担当者による直接閲覧は治験体制の中で極めて重要な役割を担う。直接閲覧の実施に際して考慮すべき点は、直接閲覧の時間的負担を軽減する症例報告書の形式、モニタリング並びに監査受け入れに対応する標準手順書(POS)の整備、直接閲覧の対象記録類の明確化、立会人制度の導入、治験管理部門の充実、CRC/SC の必要性。(6) 模擬モニタリング並びに監査の実施を通した問題点:原資料を明確化して原資料の保管及び準備の効率化、直接閲覧に要する時間の短縮と症例報告書の改善、立会人不在での直接閲覧の問題点、良好なコミュニケーションがとれるモニター並びに監査担当者。(7) モニタリング並びに監査受け入れに対応する医療機関の業務手順書の例
6) 被験者のメリット・市民への治験啓発策
国際的に受け入れられる規約としての新GCPは整ったが、わが国には治験を実施するための環境がまだ整備されていない。特に、治験の成功のために必要な一般市民の共通理解に基づく協力体制が整っていない。
そこで検討した事項は以下のごとくである。(1) 一般市民から見た日本の治験の印象は著しくネガティブである。治験に関わるすべての関係者が納得して新薬開発に携わっているとは言い難い現状である。(2) 一般診療でも十分なインフォ-ムド・コンセントが行われて来なかったわが国の医療現場の中で、治験についても被験者に対する十分なインフォ-ムド・コンセントも行われないままに、製薬企業と医師の間で実施されてきた結果、治験という言葉や仕組が広く一般市民のコンセンサスになっていない。「治験」という言葉は医薬業界の専門用語であり、被験者として参加する一般市民の立場に立った名称が必要である。今後「創薬ボランティア」という名称を提案する、(4) 治験に関する一般市民の理解を得るための方策:(a) 治験に関する分かりやすいパンフレットあるいは小冊子の作成と配布、(b) ビデオ等の映像によるPR、(c) インタ-ネット等による治験情報の提供、(c) 市民講座・市民講演会の開催、(d) 市民(患者)団体の講演会等への参加協力、(e) マス・メディアに対するアプロ-チ。(5) 治験に参加することにより生ずる被験者の負担の解消に関する提言:例えば、次のような事項(そのための対策)があげられる。? 通院回数の増加(交通費・食費の支給)、? 検査回数の増加(検査費用の支払い)、? その他の医療費の増加(医療費の支払い)。(6) 被験者のメリットに関する提言:? 治験を取り巻く医療環境の整備(治験のための外来の設置、
優秀な医師による治験の担当、CRC/SCの養成とヘルスケア-、? より有効・より安全な医薬品の開発、? 治験に参加した被験者への医療上のメリットの提供、? 24時間体制による健康管理、? 被験者にとって効果が見られた場合の治験薬の提供、? 治験に参加した被験者への結果の報告(感謝の意の表明)、? 経済的な面での援助・謝金:治験に被験者として参加した患者に対して、直接金銭による謝礼を行うことには、賛否両論があり、慎重な取り扱いが必要である。(7) 公益財団(臨床試験推進財団)の設立または既存財団の活用、(8) 「思いやりプラン」の制度化:わが国の文化風土に馴染む臨床試験システムの試案として、被験者のメリットを重視した「思いやりプラン」が既に発表されている。この「思いやりプラン」の骨子は、次の3点に要約される(被験者として参加する際に規定の点数を取得できる、将来必要になれば(例えば65歳以降になれば)取得点数に相当するメリット(無料介護や年金等)を受けられる、自分の取得点数を自分の親や他の老年者にプレゼントすることも可能)。つまり、即時的な謝金ではなく、被験者として参加していただいた方の善意に対して社会からのお返しをしようという提案である。(9) 治験を促進するためのVTR用モデルシナリオの作成を行なった。
結論
新GCPとして国際的に認められるル-ルは出来たが、わが国には適正な治験を実施するための基盤整備がまだ不備である。そこで本研究班では、基盤整備に必須となるインフォ-ムド・コンセントのあり方、治験審査委員会の機能充実策、治験管理・事務機能充実策、治験支援スタッフ養成策、モニタリング・監査のあり方、被験者のメリット・市民への治験啓発策を検討し提案をした。今後、行政も含めた治験に関与する多くの人達の協力により、国際的に貢献できる医薬品の開発のための基盤整備をおこなうことが、急務となっている。
公開日・更新日
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