新規センダイウイルスベクターを用いた臍帯血幹細胞増幅法の開発

文献情報

文献番号
200807011A
報告書区分
総括
研究課題名
新規センダイウイルスベクターを用いた臍帯血幹細胞増幅法の開発
課題番号
H18-遺伝子・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
花園 豊(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 誠(ディナベック(株))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
25,769,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臍帯血造血幹細胞の増幅技術を確立する.そのために,造血幹細胞の増幅能が明らかなHoxB4遺伝子を用いて,本遺伝子が必要な期間だけ発現した後は消滅する,新しい概念の遺伝子導入技術を開発する.これを,遺伝毒性のない細胞質型RNAベクターであるセンダイウイルス(SeV)ベクターの利用によって実現した上で,本法の有効性と安全性に関して大型動物を用いて明らかにする.
研究方法
(1) 導入遺伝子: HoxB4遺伝子を用いた. HoxB4は,造血幹細胞の増幅効果が明らかな上,ES・iPS細胞から造血幹細胞を誘導する作用を併せ持つ.
(2) 細胞: ヒト臍帯血CD34+細胞を用いた.
(3) ベクター: SeVベクターを利用した.SeVベクターは,ヒトへの病原性がなく,DNAを介さない細胞質型RNAベクターである.
(4) 評価系:ヒツジの子宮内胎仔への幹細胞移植の系を利用した.動物胎仔へ移植するのは,移植細胞に対する免疫拒絶を避けるためである.

結果と考察
本年度は,HoxB4遺伝子搭載P欠損型SeVベクターの有効性を安全性について,以下の通り期待のもてる結果が得られた.
(1) 有効性:本ベクターによるヒト臍帯血幹細胞の増幅効果(3.5倍)をヒツジを用いて確認した.これは,レトロウイルスベクターを用いた場合とほぼ同等の成績である.
(2) 安全性:本ベクターの安全性をヒツジを用いて確認した.今のところ腫瘍形成はない(0/4頭).レトロウイルスベクターでHoxB4遺伝子を導入した場合,サル1/2頭,イヌ2/2頭で白血病が発症していることに比べ格段に安全性が高いと考えられた.
結論
導入遺伝子が必要な期間だけ発現した後は消滅する,新しいSeVベクターの開発と大量生産に成功した.HoxB4遺伝子を搭載する本ベクターを用いて,ヒト臍帯血幹細胞の増幅効果と安全性に関して大型動物を用いて確認した.本法は,国産技術および発ガン問題回避の点から実用化が望まれる.

公開日・更新日

公開日
2009-08-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200807011B
報告書区分
総合
研究課題名
新規センダイウイルスベクターを用いた臍帯血幹細胞増幅法の開発
課題番号
H18-遺伝子・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
花園 豊(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 誠(ディナベック(株))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臍帯血造血幹細胞の増幅技術を開発する.そのために,造血幹細胞の増幅能が明らかなHoxB4遺伝子を用いて,本遺伝子が必要な期間だけ発現した後は消滅する,新しい概念の遺伝子導入技術を確立する.これを,遺伝毒性のない細胞質型RNAベクターであるセンダイウイルス(SeV)ベクターの利用によって実現した上で,本法の有効性と安全性に関して大型動物を用いて明らかにする.
研究方法
(1) 導入遺伝子: HoxB4遺伝子を用いた.HoxB4は,造血幹細胞の増幅効果が明らかな上,ES・iPS細胞から造血幹細胞を誘導する作用を併せ持つ.
(2) 細胞: ヒト臍帯血およびサルES細胞を用いた.
(3) ベクター: SeVベクターを利用した.SeVベクターは,ヒトへの病原性がなく,DNAを介さない細胞質型RNAベクターである.
(4) 評価系:サルとヒツジの子宮内胎仔への細胞移植の系を利用した.動物胎仔へ移植するのは,移植細胞に対する免疫拒絶を避けるためである.
結果と考察
(1) HoxB4遺伝子が必要な期間だけ発現した後は消滅する,新しい「期間限定発現」型SeVベクターを開発し,その大量生産に成功した.
(2) SeVベクターの薬剤による除去技術を開発し,安全性のいっそうの向上を可能にした.
(3)サルやヒツジの胎仔を用いる有効性・安全性の評価系を確立した.これによってベクターの安全性評価をマウスに比べてより的確に行なうことができる.
(4) HoxB4遺伝子搭載P欠損型SeVベクターによるサルES細胞の造血分化促進効果,およびヒト臍帯血造血前駆細胞の増殖促進効果をin vitroで確認した.
(5) 本ベクターを用いて,ヒト臍帯血幹細胞の増幅効果(3.5倍)をヒツジin vivo実験で確認した.これはレトロウイルスベクターを用いた場合とほぼ同等の成績である.
(6) 本ベクターの安全性をヒツジin vivo実験で確認した.今のところ腫瘍形成はない.レトロウイルスベクターでHoxB4遺伝子を導入した場合,サルやイヌで高率に白血病が発症していることに比べ格段に安全性が高いと考えられた.
結論
導入遺伝子が必要な期間だけ発現した後は消滅する,新しいSeVベクターの開発と大量生産に成功した.HoxB4遺伝子を搭載する本ベクターを用いて,ヒト臍帯血幹細胞の増幅効果と安全性に関して大型動物を用いて確認した.本法は,国産技術および発ガン問題回避の点から実用化が望まれる.

公開日・更新日

公開日
2009-08-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200807011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
造血幹細胞を増幅するためのHoxB4遺伝子は一時的な発現が望ましいことに着目して,「期間限定発現」を可能にする「P欠損型SeVベクター」を開発した.P遺伝子はSeVの自己複製を可能にするが,P欠損型を作製すれば自己複製は不能になり,遺伝子導入細胞の分裂・増幅に伴いベクターは自然希釈・消失する.P欠損型を用いれば,高い遺伝子導入効率はそのままで,しかも,患者に移植する時点でベクターは事実上,移植細胞から失われており安全性を確保できる.本法の有効性と安全性に関して,動物実験を通して明らかにした.
臨床的観点からの成果
HoxB4遺伝子搭載P欠損型SeVベクターの有効性を安全性について大型動物を用いて検討した. (1) 有効性:本ベクターによるヒト臍帯血幹細胞の増幅効果(3.5倍)をヒツジin vivo実験で確認した.これはレトロウイルスベクターを用いた場合とほぼ同等である.(2) 安全性:本ベクターの安全性をヒツジin vivo実験で確認した.今のところ腫瘍形成はない.レトロウイルスベクターでHoxB4遺伝子を導入した場合,サルやイヌで高率に白血病が発症していることに比べ格段に安全性が高い.
ガイドライン等の開発
サルES細胞をin vitroで造血細胞へ分化させてからサルの胎仔へ移植し,生まれたサルの体内で移植細胞の運命を調べた.結果は,期待通り造血系を一部再構築できたものの,移植由来キメラ率は2~5%と,マウスの成功例に比べるとそれほど高くなかった.さらに問題なのは,全例で奇形腫が見られたことで,腫瘍形成リスクは高いと言わざるを得ない.ところが,同じ細胞を免疫不全マウスに移植しても,腫瘍形成頻度は少なかった.以上から,マウス実験だけでは必ずしも有効性や安全性を担保できない.
その他行政的観点からの成果
本法によるヒト臍帯血幹細胞の増幅技術は,対費用効果,発ガン問題回避,国産技術の点から実用化が望まれる.
その他のインパクト
HoxB4は,ES細胞やiPS細胞から造血幹細胞を誘導する作用も持つので,本法はES/iPS細胞を利用する,将来の骨髄移植代替治療にそのまま応用可能である.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nagao Y, Abe T, Hasegawa H, et al.
Improved efficacy and safety of in utero cell transplantation in sheep using an ultrasound-guided method.
Cloning Stem Cells  (2009)
原著論文2
Tanaka Y, Ikeda T, Kishi Y, et al.
ERas is expressed in primate embryonic stem cells but not related to tumorigenesis.
Cell Transplant  (2009)
原著論文3
Kishi Y, Tanaka Y, Shibata H, et al.
Variation in the incidence of teratomas after the transplantation of non-human primate ES cells into immunodeficient mice.
Cell Transplant , 17 (9) , 1095-1102  (2008)
原著論文4
Kishi Y, Inoue M, Tanaka Y, et al.
Knockout Serum Replacement (KSR) has a suppressive effect on Sendai virus-mediated transduction of cynomolgus ES cells.
Cloning Stem Cells , 10 (3) , 307-312  (2008)
原著論文5
Tanaka Y, Nakamura S, Shibata H, et al.
Sustained macroscopic engraftment of cynomolgus embryonic stem cells in xenogeneic large animals after in utero transplantation.
Stem Cells Dev , 17 (2) , 367-382  (2008)
原著論文6
Kanzaki S, Shiotani A, Inoue M, et al.
Sendai virus vector-mediated transgene expression in the cochlea in vivo.
Audiology and Neurotology , 12 , 119-126  (2007)
原著論文7
Shibata H, Ageyama N, Tanaka Y, et al.
Improved safety of hematopoietic transplantation with monkey ES cells in the allogeneic setting.
Stem Cells , 24 (6) , 1450-1457  (2006)
原著論文8
Ageyama N, Hanazono Y, Shibata H, et al.
Prevention of immune responses to human erythropoietin in cynomolgus monkeys (Macaca fascicularis).
J Vet Med Sci , 68 (5) , 507-510  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-