パーキンソン病遺伝子治療臨床研究における安全性評価とpositron emission tomography(PET)による有効性の評価

文献情報

文献番号
200807010A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキンソン病遺伝子治療臨床研究における安全性評価とpositron emission tomography(PET)による有効性の評価
課題番号
H18-遺伝子・一般-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
中野 今治(自治医科大学 医学部 内科学 神経内科学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 小澤敬也(自治医科大学 医学部 遺伝子治療研究部)
  • 村松慎一(自治医科大学 医学部 内科学 神経内科学部門)
  • 加藤正哉(自治医科大学 医学部 脳神経外科学・救急医学)
  • 佐藤俊彦(医療法人DIC 宇都宮セントラルクリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
45,143,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行したパーキンソン病(PD)患者の被殻に、芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素(AADC)の遺伝子(AADC) を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(AAV-hAADC-2)を注入して、その安全性を確認することを第一目的とし、有効性の評価を第二目的とする。
研究方法
進行したPD患者6例の両側被殻の左右2箇所ずつにGMPレベルのAAV-hAADC-2  3e11 vector genome (200μl)を1箇所当たり50μl、1μl/分の速度で全身麻酔下にて定位脳手術的に投与した。
全例で手術前後の臨床評価をUPDRS、Hoehn-Yahrの重症度、症状日誌等で、手術後の安全性評価を患者の症候と頻回の脳画像(MRIとCT)にて判定した。
導入した遺伝子の発現は新に構築したFMT-PET計測システムにて経時的に確認した。       ベクターの拡散を検するために術後3日間患者血液のPCRを行った。
結果と考察
2007年5月から2008年9月の間にPD 6例の遺伝子治療を実施した。
1)ベクター自体による有害事象は無く、その注入部位には出血やMRI上の信号変化は見られなかった。 2)ほぼ全例で"off" stateでの明らかな改善が認められ、6カ月の評価を終えた4例では概ねこの改善がL-DOPA服用を増やすことなく維持された。3) FMT-PETでは、6か月後でも術ベクター注入箇所にAADC発現の明らかな増加が認められた。4) 血液PCRではベクターDNAは陰性/極軽度陽性であったが、術後3日目には陰性化した。
我々のPD6例および同じベクターを使用したUCSFの10例ではベクターによる有害事象は見られず、本法の安全性は高いと考えられる。
患者血液のPCRではいずれも陰性であり、注入ベクターの有意の拡散は生じないものと考えられた。
多くの症例では6か月後にも運動機能の改善が認められ、有効性を示唆しているが、今回は非盲検化かつ少数例での研究であり、有効性の判定には慎重を要する。
一方、PET検索では、注入6か月後でも導入遺伝子の発現増加が注入部位で認められ、遺伝子発現の点からは本手法の有効性が示された。
結論
進行したPD6例に対して、その両側被殻に定位脳手術的にAAV-hAADC-2を導入する遺伝子治療を安全に実施した。有効性に関しては、慎重な判断を要するものの運動機能の明らかな改善が見られ、FMT-PETにて導入遺伝子の長期発現が確認されたことから、本手法は有望な治療法と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-08-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200807010B
報告書区分
総合
研究課題名
パーキンソン病遺伝子治療臨床研究における安全性評価とpositron emission tomography(PET)による有効性の評価
課題番号
H18-遺伝子・一般-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
中野 今治(自治医科大学 医学部 内科学 神経内科学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 小澤敬也(自治医科大学 医学部 遺伝子治療研究部)
  • 村松慎一(自治医科大学 医学部 内科学 神経内科学部門)
  • 加藤正哉(自治医科大学 医学部 脳神経外科学・救急医学)
  • 佐藤俊彦(医療法人DIC宇都宮セントラルクリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行したパーキンソン病(PD)患者の被殻に、芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素(AADC)の遺伝子(AADC) を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(AAV-hAADC-2)を注入して、その安全性を確認することを第一目的とし、有効性の評価を第二目的とする。
研究方法
進行したPD患者6例の両側被殻の左右2箇所ずつにGMPレベルのAAV-hAADC-2  3e11 vector genome (200μl)を1箇所当たり50μl、1μl/分の速度で全身麻酔下にて定位脳手術的に投与した。
全例で手術前後の臨床評価をUPDRS、Hoehn-Yahrの重症度、症状日誌等で、手術後の安全性評価を患者の症候と頻回の脳画像(MRIとCT)にて判定した。
導入した遺伝子の発現は新に構築したFMT-PET計測システムにて経時的に確認した。       ベクターの拡散を検するために術後3日間患者血液のPCRを行った。
結果と考察
2007年5月から2008年9月の間にPD 6例の遺伝子治療を実施した。
1)ベクター自体による有害事象は無く、その注入部位には出血やMRI上の信号変化は見られなかった。 2)ほぼ全例で"off"stateでの明らかな改善が認められ、6カ月の評価を終えた4例では概ねこの改善がL-DOPA服用を増やすことなく維持された。3) FMT-PETでは、6か月後でも術ベクター注入箇所にAADC発現の明らかな増加が認められた。4) 血液PCRではベクターDNAは陰性/極軽度陽性であったが、術後3日目には陰性化した。
我々のPD6例および同じベクターを使用したUCSFの10例ではベクターによる有害事象は見られず、本法の安全性は高いと考えられる。
患者血液のPCRではいずれも陰性であり、注入ベクターの有意の拡散は生じないものと考えられた。
多くの症例では6か月後にも運動機能の改善が認められ、有効性を示唆しているが、今回は非盲検化かつ少数例での研究であり、有効性の判定には慎重を要する。
一方、PET検索では、注入6か月後でも導入遺伝子の発現増加が注入部位で認められ、遺伝子発現の点からは本手法の有効性が示された。
結論
進行したPD6例に対して、その両側被殻に定位脳手術的にAAV-hAADC-2を導入する遺伝子治療を安全に実施した。有効性に関しては、慎重な判断を要するものの運動機能の明らかな改善が見られ、FMT-PETにて導入遺伝子の長期発現が確認されたことから、本手法は有望な治療法と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-08-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200807010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
今回実施した遺伝子治療ではベクターによる有害事象は無く、線条体のドパミン合成能の回復がPETにて示され、ほぼ全例で運動機能の改善がみられた。注入ベクターは線条体固有の神経細胞に侵入して発現し、AADCを産生したことが推測される。即ち、ドパミンは異所性に産生されても本来の機能を発揮することが予想され、本手法からドパミン作用機序の一面が示されたものと思われる。
臨床的観点からの成果
パーキンソン病(PD)は線条体でドパミンが不足することで発症する。PD治療の基本薬はL-DOPAであるが、その長期服用により効果の減弱、運動症状の日内変動、ジスキネジア、精神症状などの不都合が生じる。今回実施した遺伝子治療ではベクターによる有害事象は無く、線条体のドパミン合成能の回復がPETにて示され、ほぼ全例で運動機能の改善がみられた。また、注入ベクターの環境内への有意味な拡散は認められなかった。今後はチロシン水酸化酵素遺伝子などとの混合注入により、更なる効能向上が期待される。
ガイドライン等の開発
 特になし。
その他行政的観点からの成果
 特になし。
その他のインパクト
我々のパーキンソン病遺伝子治療が本邦で最初に実施された2007年5月7日には、自治医大にて記者会見が開かれて複数の新聞全国紙と地元新聞に掲載され、NHKを初めとする複数の放送局にてニュースとして放映された。
また、2008年9月20日発刊の科学雑誌「Newton」の「脳のしくみ」特集号では「国内初 パーキンソン病の遺伝子治療」として掲載された。
さらに、2009年1月18日の朝日新聞の科学欄「患者を生きる」に我々の遺伝子治療が取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
37件
神経内科、脳神経外科、薬剤師の集まりに於いて自治医大で実施したパーキンソン病遺伝子治療臨床研究の現況と将来性について概説した。自治医大にて月1回パーキンソン病治療説明会を開催し説明している。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
石原健司、河村満、塩田純一 他
Parkinson病の臨床診断におけるL-dopa効果の意義について
神経内科 , 64 (5) , 533-537  (2006)
原著論文2
WakamatsuM,IshiiA,Iwata S etal
Selectiv loss of nigral dopamine neurons induced by overexpression of truncated human a-synuclein in mice.
Neurobiol.Aging. , 29 (4) , 574-585  (2008)
原著論文3
Liu Y,Okada T,Shimazaki K etal
Protection against aminoglycoside-induced ototoxicity by regulated AAV vector-mediated GDNF gene transfer into the cochlea.
Mol.Ther. , 16 (3) , 474-480  (2008)
原著論文4
Hasegawa M,Arai T,Nonaka T etal
Phosphorylated TDP-43 in fronto temporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis.
Ann Neurol , 64 , 60-70  (2008)
原著論文5
Sawada H,Hishida R,Hirata Y etal
Activated microglia affect the nigro-striatal dopamine neurons differently in neonatal and aged mice treated with 1-methy1-4-pheny1-1,2,3,6-tetrahydropyridine.
J.Neurosci.Res. , 85 (8) , 1752-1761  (2007)
原著論文6
LiXG,Okada T,Kodera M etal
Viral-mediated temporally controlled dopamine production in rat model of Parkinson disease.
Mol.Ther. , 13 (1) , 160-166  (2006)
原著論文7
Ouyang Y,Takiyama Y,Sakoe K etal
Sacsin-relate ataxia(ARSACS):Expanding the genotype upstream from the gigantic exon.
Neurology , 66 , 1103-1104  (2006)
原著論文8
Muramatsu S,Okuno T,Suzuki Y etal
Multitracer assessment of dopamine function after transplantation of embryonic stem cell-derived neural stem cells in a primate model of Parkinson's disease.
Synapse , 27 (63) , 541-548  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-