職域での健診機会を利用した検査機会拡大のための新たなHIV検査体制の構築に向けた研究

文献情報

文献番号
202020021A
報告書区分
総括
研究課題名
職域での健診機会を利用した検査機会拡大のための新たなHIV検査体制の構築に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
20HB1004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
横幕 能行(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 秀人(国立保健医療科学院)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぶれいす東京 研究事業/支援・相談サービス)
  • 石丸 知宏(産業医科大学 産業生態科学研究所 環境疫学研究室)
  • 今橋 真弓(柳澤 真弓)(名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成30年度に開始された職域における健康診断の機会を利用したHIV感染症/エイズ及び梅毒(以下、エイズ等)の同時検査のモデル事業において、我々は適切な郵送検査キット利用と検査相談体制拡充によって「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン(以下ガイドライン)」を遵守しつつ検査機会を提供可能でエイズ等の最新で正しい知識の普及と啓発に極めて有用であることを示した。
本研究では、新型コロナウイルス感染症拡大下、啓発イベントに依存しない形でのエイズ等検査機会提供の可能性を検討した。また、健診センター契約事業所におけるHIV検診のニーズを調査し、健診センターにおけるオプション検査としての契約事業所向けHIV検診のあり方を検討する。
研究方法
愛知県が受託したモデル事業を名古屋医療センターが受託しガイドラインを遵守して行う。対象は雇用保障、プライバシー管理及び健康支援のポリシーを保証する企業及びその正規従業員とする。エイズ等検査機会は郵送検査キットにより提供する。郵送検査キットの配布と啓発は、原則としてイベント形式では行わず、研究班が啓発資材を提供し企業が独自に従業員に情報伝達を行う。受検者にはHIV感染症/エイズに関する知識確認を含むアンケート調査を実施する。職域健診のオプション検査としてエイズ等検診を実施するための課題抽出と克服策の検討のために、巡回健診契約事業所(341事業所)を対象に郵送式アンケート調査を実施する。
結果と考察
2020年11月から12月の間に4企業の1,100人にエイズ等検診機会が提供された。509人に実際に郵送検査キットが提供され307人(60%)が実際に使用した。郵送検査キットを取り寄せたにも関わらず検査実施に至らないのはランセット針による自己採血の手技の問題や心理的な抵抗感による可能性がある。受検者307人中246人(80%)がアンケートに回答し、168人(68%)が初めての利用で、そのうちの67%が生涯初のHIV検査であった。本研究での取り組みがプライバシーに配慮された利便性の高い無料検査の機会提供になっていることを示している可能性がある。一方、受検者の28%が保健所において無料でHIV検査を受けられることを知らなかった。
巡回健診契約事業所(341事業所)を対象に郵送式アンケート調査を行なったところ、245事業所がアンケートに回答した。(有効回答率75%)。健診の際にオプション検査として他の血液検査と同時にHIV検査を行える無償でのサービスがあった際に、実施できると思うかの問いに対して、「はい」と回答した事業所が56事業所22.9%だった。「いいえ」・「わからない」を選択した主な理由は「検査結果のプライバシーの保護が難しいから」、「陽性だった場合の職場の受け入れ環境・支援環境が整っていないから」、「事業所内での導入に向けた合意形成が難しいから(説明にあたるスタッフがいないなど)」であった。また、健康診断の未受診者や健康診断の代わりに人間ドック等を受診した職員に対して、本人結果の控え(コピー)の提出を求めることがあるかの問いに対して、「はい」と回答した事業所が56.7%だった。エイズ等検査に限らず、企業の健康情報に関わるプライバシー保護の課題が極めて大きいことを示している。なお、事業所での健康診断で実施している法定健診項目以外の検査では、肝炎ウイルス検査(B型肝炎ウイルス抗原検査・C型肝炎ウイルス抗体検査など)が12.7%であった。
結論
新型コロナウイルス感染拡大状況下、啓発イベントに依存しない形で職域でのHIV感染症/エイズ及び梅毒(エイズ等)の同時検査機会の提供を試みた。先行研究に参画した企業から4企業を選び、モデル事業により職域におけるエイズ等検査機会の提供を試みたところ「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」を遵守し受検者に不利益なく実施された。生涯初のHIV検査受検者と割合も高く、職域での情報提供、検査機会提供および郵送検査キットの活用は、個別施策層以外の国民一般にエイズ等検査機会を提供するのに有用であると考えられる。一方で、企業に対するアンケート調査からは、そもそも健康情報を含むプライバシー管理に課題を有することが明らかになり、残念ながら「健診(検診)結果が就業上の不利益につながる方向に利用されるかもしれない」という不安を裏付けることになった。
2021年3月末でモデル事業としては終了することとなったが、このような取り組みを進めることは、「HIVのような特殊な疾病には関わらないのが常識」とされる企業や健診センターがHIV検査の機会を提供することが普通になることの端緒になるばかりでなく、健康情報やプライバシーの管理のあり方について再考を促す機会になる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202020021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,100,000円
(2)補助金確定額
9,016,000円
差引額 [(1)-(2)]
84,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,373,658円
人件費・謝金 1,037,328円
旅費 213,160円
その他 4,292,743円
間接経費 2,100,000円
合計 9,016,889円

備考

備考
千円未満切り捨てのため。

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-