重篤な皮膚有害事象の診断・治療と遺伝子マーカーに関する研究

文献情報

文献番号
200807008A
報告書区分
総括
研究課題名
重篤な皮膚有害事象の診断・治療と遺伝子マーカーに関する研究
課題番号
H18-ファーマコ・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
鹿庭 なほ子(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 頭金正博(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
  • 黒瀬光一(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
  • 斎藤嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 機能生化学部)
  • 高橋幸利(国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部小児科)
  • 古谷博和(国立病院機構大牟田病院  臨床研究部)
  • 松永佳世子(藤田保健衛生大学医 皮膚科学講座)
  • 池澤善郎(横浜市立大学大学院医学研究科 環境免疫病態皮膚科学教室)
  • 村松正明(東京医科歯科大学難治疾患研究所 分子疫学講座)
  • 木下茂(京都府立医科大学 眼科)
  • 小菅治彦(練馬総合病院 皮膚科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
13,843,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)及び中毒性表皮壊死症(TEN)は、致死率の高い重篤副作用である。SJS/TENは、発症率こそ低いが、非常に多くの医薬品で発症することが指摘されている。本研究では、重篤副作用を回避するために、日本人患者を対象としたケース・コントロール研究により、SJS/TENを発症しやすい体質や視力障害と関連する遺伝子マーカーを探索・同定し、そのマーカーの検査キットを開発することとした。
研究方法
研究班の皮膚科専門医によってSJS/TENと診断された新規発症症例90例について、PCR-SBT法によりHLA領域の解析を行った。また、上記症例及び健常人対照群157例について、DNAマイクロアレイによりゲノムワイドの多型解析を行った。一方、眼合併症を伴う症例76例と別の健常人対照群160例について、IL13、IL4, IL4R及びFasL遺伝子の幾つかのSNPsについて多型解析を行った。遺伝子マーカーの検査キットの開発では、融解曲線分析法の適用を試みた。
結果と考察
新規発症症例に関するHLA解析において、原因医薬品を特定せずに解析した場合には、SJS/TEN発症群と日本人母集団値との間で頻度が有意に異なるHLA型を1個同定し、医薬品別の解析では、アロプリノール服用症例でHLA-B*5801が有意に相関することを見いだした(多重性調整済み)。一方、芳香族系抗てんかん薬服用症例では、漢民族においてSJS/TENの発症と強い相関が認められたHLA-B*1502は検出されなかった。網羅的遺伝子多型関連解析では、多重性の補正後も有意に関連性のあるSNPが、カルバマゼピン服用発症群及びロキソプロフェン服用発症群で、それぞれ4個見いだされた。眼合併症を伴うSJS/TEN患者を対象としたケース・コントロール研究においては、IL13遺伝子多型R110Qについて有意な相関を認め、また、これと昨年度に報告したIL4R遺伝子多型Q551Qの両方をもつ割合が、SJS/TEN患者で有意に増加していた。以上より、SJS/TENの発症には、自然免疫応答を含む免疫系が関与する可能性が高いことが示唆された。遺伝子マーカーの検査キットの開発では、HLA-B*5801の検出法を検討した。
結論
日本人においても、HLA-B*5801がアロプリノール誘因性のSJS/TENの発症と強く関連することが認められたが、芳香族系抗てんかん薬誘因性のSJS/TENの発症とHLA-B*1502との関連は全く認められなかった。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200807008B
報告書区分
総合
研究課題名
重篤な皮膚有害事象の診断・治療と遺伝子マーカーに関する研究
課題番号
H18-ファーマコ・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
鹿庭 なほ子(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 頭金正博(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部 )
  • 黒瀬光一(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部 )
  • 斎藤嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 機能生化学部)
  • 高橋幸利(国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部小児科)
  • 古谷博和(国立病院機構大牟田病院 臨床研究部)
  • 松永佳世子(藤田保健衛生大学医 皮膚科学教室)
  • 池澤善郎(横浜市立大学大学院医学研究科 環境免疫病態皮膚科学教室)
  • 村松正明(東京医科歯科大学難治疾患研究所 分子疫学講座)
  • 木下 茂(京都府立医科大学 眼科)
  • 小菅治彦(練馬総合病院 皮膚科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
皮膚・粘膜の障害を主症状とするスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)及び中毒性表皮壊死症(TEN)は、発症率は低いが致死率は高く、また、100以上の医薬品が原因となることが指摘されている。本研究では、重篤な副作用を回避するために、日本人の患者を対象としたケース・コントロール研究により、SJS/TENを発症しやすい体質や視力障害と関連する遺伝子マーカーを探索・同定することとした。また、発生頻度の低い重篤副作用の症例集積システムの構築を試みた。
研究方法
研究班の皮膚科専門医によってSJS/TENと診断された新規発症症例について、HLA領域の解析を行った。また、上記症例及び健常人対照群(n=157)について、DNAマイクロアレイによりゲノムワイドの多型解析を行った。一方、眼合併症を伴う症例(n=76)と別の健常人対照群(n=160)について、HLA領域の他に、TLR3、IL13、IL4, IL4R及びFasL遺伝子の幾つかのSNPsについて多型解析を行った。
結果と考察
新規発症症例によるケース・コントロール研究では、原因医薬品を特定せずに解析した場合には、多重性補正後もSJS/TEN発症群(n=90)で頻度が有意に高いHLA型を1個同定し、医薬品別の解析では、アロプリノール服用症例(n=15)でHLA-B*5801が多重性補正後も有意に相関することを見いだした。一方、芳香族系抗てんかん薬服用症例(n=26)では、漢民族においてSJS/TENの発症と強い相関が認められたHLA-B*1502は検出されなかった。網羅的遺伝子多型関連解析では、多重性の補正後も有意に関連性のあるSNPsが、カルバマゼピン服用発症群及びロキソプロフェン服用発症群で、複数個検出された。眼合併症を伴う症例を対象としたケース・コントロール研究においては、HLA-A*0206、TLR3、IL13及びIL4Rの特定のSNPsの頻度が、患者群で有意に増加していた。
厚労省医薬食品局安全対策課及び日本製薬団体連合会の協力を得て、SJS/TENの症例を登録するためのシステムを構築した。本システムは、全国で散発する発生頻度の低い副作用症例を把握・集積するシステムとして、十分に機能することが判明した。
結論
日本人においても、HLA-B*5801がアロプリノール誘因性のSJS/TENの発症と強く関連することが認められた。眼合併症を伴うSJS/TENでは、HLA-A*0206の他に自然免疫応答に関与する遺伝子の多型が有意に相関していた。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200807008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
近年の諸外国の研究より、SJS/TEN(重症薬疹)の発症と関連する遺伝子マーカーは、薬物特異的・民族特異的であることが示されてきた。日本人においては、重症薬疹の発症と関連するマーカーが不明であったが、本研究により、アロプリノール誘因性の重症薬疹では、日本人の場合も、漢民族や白人のマーカーと同一のマーカーと強い関連があることが示唆された。一方、カルバマゼピン誘因性(CBZ)の重症薬疹では、日本人の場合は白人と同様に、漢民族のマーカーとの関連が認められないことが明らかになったことの意義は大きい。
臨床的観点からの成果
日本人においても、漢民族や白人等と同様に、アロプリノール誘因性の重症薬疹の発症とHLA-B*5801との間に強い関連が認められ、アロプリノールで治療を開始する前に、HLA-B*5801のスクリーニングを実施することにより、アロプリノールが原因の重症薬疹の発症を減らせる可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
米国では、重症薬疹の発症を防ぐために、添付文書において、CBZによる治療の開始前に必要に応じてHLA-B*1502によるスクリーニングの実施を求めている。しかし、本研究班の成果より日本人ではその必要性がないことが判明したため、CBZ製剤の添付文書改訂の際には、重症薬疹とマーカーとの関連の情報提供だけに止めた。また、2008年2月に、アロプリノール誘因性の重症薬疹の発症とHLA-B*5801との間に強い関連が認められることを、厚生労働省健康危機管理対策室に報告した。
その他のインパクト
平成18年9月4日付日経新聞朝刊に、「副作用で起きる皮膚障害、遺伝子レベルで研究へ」という見出しの下、本研究が紹介された。第4回医薬品レギュラトリーサイエンスフォーラム(2007年10月、大阪)において、当研究班が構築した症例集積システムを紹介し、重篤副作用研究における症例集積についての提言を行った。第11回日本医薬品情報学会(2008年7月、東京)、及び、第三回医薬品評価フォーラム(2008年9月、東京)にて、医薬品の開発及び安全性に関連して、当研究班の取組を紹介し、多くの関心を集めた。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kaniwa N, Saito Y, Aihara M et al.
HLA-B locus in Japanese patients with anti-epileptics and allopurinol-associated Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermal necrolysis
Pharmacogenomics , 9 , 1617-1622  (2008)
原著論文2
Ichiyama T, Shoji H, Takahashi Y et al.
Cerebrospinal fluid levels of cytokines in non-herpetic acute limbic encephalitis: Comparison with herpes simplex encephalitis
Cytokine , 4 , 149-153  (2008)
原著論文3
Furuya H, Ikezoe K, Wang L et al.
A unique case of fibrodysplasia ossificans progressiva with an ACVR1 mutation, G356D, other than the common mutation (R206H)
Am J Med Genet Part A , 146 , 459-463  (2008)
原著論文4
Ueta M, Sotozono C, Tokunaga K et al.
Strong association between HLA-A*0206 and Stevens-Johnson syndrome in the Japanese
Am J Ophthalmol , 143 , 367-368  (2007)
原著論文5
Sotozono C, Ang LPK, Koizumi N et al.
A new grading system for the evaluation of chronic ocular manifestations in patients with Stevens-Johnson syndrome
Ophthalmology , 114 , 1294-1302  (2007)
原著論文6
Ueta M, Sotozono C, Inatomi T et al.
Toll like receptor 3 gene polymorphisms in Japanese patients with Stevens-Johnson syndrome
Br J Ophthalmol , 91 , 962-965  (2007)
原著論文7
Ueta M, Sotozono C, Inatomi T et al.
Association of IL4R polymorphisms with Stevens-Johnson syndrome
J Allergy Clin Immunol , 120 , 1457-1459  (2007)
原著論文8
Ueta M, Sotozono C, Inatomi T et al.
Association of combined IL-13/IL4R signaling pathway gene polymorphism with Stevens-Johnson syndrome with ocular surface complications
Investigative Ophthalmology & Visual and Ophthalmology , 49 , 1809-1813  (2008)
原著論文9
Ueta M, Tokunaga K, Sotozono C et al.
HLA class I and II gene polymorphisms in Stevens-Johnson syndrome with ocular complications in Japanese
Molecular Vision , 14 , 550-555  (2008)
原著論文10
Ueta M, Sotozono C, Inatomi T et al.
Association of Fas Ligand gene polymorphism with Stevens-Johnson syndrome
Br J Ophthalmol , 92 , 989-991  (2008)
原著論文11
Sotozono C, Ueta M, Koizumi N et al.
Diagnosis and Treatment of Stevens-Johnson Syndrome and Toxic Epidermal Necrolysis with Ocular Complications
Ophthalmology  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-