日本におけるHIV感染症の発生動向に関する研究

文献情報

文献番号
202020019A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるHIV感染症の発生動向に関する研究
課題番号
20HB1002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 佐織(国立感染症研究所エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
18,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本国内におけるHIV感染拡大抑制に向け、精度の高いHIV発生動向の把握が重要である。WHOはHIV感染後の早期診断・早期治療を推進し、その数値目標としてケアカスケードに基づく90-90-90戦略を発表した。これは、HIV陽性者(未診断者を含む)が診断を受け自らの感染の事実を知り(診断率)、診断者の治療率(治療率)、治療者のウイルス複製抑制を達成率(治療成功率)のすべてを90%に達成し、集団における感染拡大防止に結びつけることを目標としている。日本のエイズ発生動向調査では新規報告数の約3割がエイズ発症により見出されており、上記3項目のうち特に診断率が90%に達していない可能性が高い。診断率の把握のためは精度の高いHIV感染者数の推定が極めて重要である。我々は先行研究において新規HIV診断者にしめる早期診断者割合の把握に向けた地域別血清学的調査を実施する連携体制を構築し、この早期診断率を指標に我が国において診断率が90%に達していないことを示した(PRM, 2019.)。この報告はバイオマーカーを指標とした国内初のHIV感染者数の推定値である。本研究ではこの高い独創性を維持・活用し、血清学的調査を基盤とした早期診断率の評価を継続し、更に精度の高い国内感染者数を推定する。
研究方法
3カ年計画1年目の令和2年度は次の4点を中心に研究を進めた。
(1)血清学的手法を用いた大都市圏における早期診断率の推定 東京都、大阪府、福岡県を対象とし自治体が実施するHIV行政検査にてHIV陽性が同定された全検体を解析対象としHIV-1 Limiting Antigen Avidity EIAを用いてHIV感染後半年以内と推定される検体数の割合を調査した。
(2)診断時CD数の把握、および情報収集体制の強化に対する研究
2019年よりエイズ動向調査の調査項目として追加された診断時CD数について、2020年6月1日時点NESIDに診断時CD数の報告がない例について、その属性を解析した。また協力が得られた関係者(保健所、医療機関、自治体の感染症疫学センターなど)に対し、CD4数の情報収集、届け出方法に対し聞き取り調査を実施し、改善案について意見交換を行った。
(3)診断時CD4数と早期診断率の関連分析
診断時CD4の分布とその報告率を比較解析し、地方における早期診断率の推定にむけ、基盤データを整備した。
(4)国内HIV感染者数推定における数理モデルの活用に関する研究
HIV感染症の流行動態を明らかにするための流行ベースラインの定量化を実現するために、具体的なモデルの定式化の検討および自然史の文献情報をまとめた。


結果と考察
(1)血清学的手法を用いた大都市圏における早期診断率の推定 東京都、大阪府に関しては2019年までに採取された検体を用いた実験データを取得した。現在解析を進めている。
(2)診断時CD数の把握、および情報収集体制の強化に対する研究
エイズ発生動向調査に診断時CD4数の登録がなかった自治体関係者からの聞き取りにより、登録システム上の不便性の指摘があった。意見を取りまとめ、研究班として厚生労働省に改善案を提示した。
(3)診断時CD4数と早期診断率の関連分析
本解析を行うにより診断時CD4数の情報が充分でないことが判明したため、情報の追加収集を行い基盤データを強化した。
(4)国内HIV感染者数推定における数理モデルの活用に関する研究
競合リスクモデルに類するデータ生成過程をマッケンドリック偏微分方程式系モデルを利用した逆計算法について数理的な再検討を行った。今後、この系を支配するパラメータ推定を実施していくところである。

2020年、日本国内で新型コロナ肺炎(COVID-19)の蔓延により、HIV検査へのアクセスが悪くなることから、医療機関、行政検査へのアクセスの悪さに起因する検査総数数の減少、診断数の減少、診断への遅れ等につながることが懸念されている。その一方で検査総数の減少がどの程度診断数に影響しているのか、明確な科学的根拠は示されていない。本研究で実施する血清学的調査はより直接的にHIV急性期感染者を同定できるため、特定の地域におけるHIV発生数の把握、診断率の変動をより鋭敏に評価することが可能である。更に診断時CD4数などの異なるバイオマーカーを指標とした発生動向分析の実施体制を強化、併用することでより多角的な発生動向分析に結びつくと考えられる。
 
結論
本研究は血清学的調査を基盤とした早期診断率の評価を活用し、精度の高い日本国内のHIV感染症の発生動向分析を目指した。今年度は来年度以降実際に着手するHIV感染者推計に向けた基幹データの収集、具体的な推定モデルを定式化した。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202020019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,000,000円
(2)補助金確定額
19,561,000円
差引額 [(1)-(2)]
439,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 13,743,470円
人件費・謝金 4,277,578円
旅費 3,772円
その他 487,281円
間接経費 1,049,975円
合計 19,562,076円

備考

備考
自己資金額 1,076円

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-