心不全に対しβ遮断薬療法を安全かつ有効に導入するための統合的ゲノム薬理学研究

文献情報

文献番号
200807007A
報告書区分
総括
研究課題名
心不全に対しβ遮断薬療法を安全かつ有効に導入するための統合的ゲノム薬理学研究
課題番号
H18-ファーマコ・一般-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
岩尾 洋(大阪市立大学大学院医学研究科 分子病態薬理学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本 洋(国立病院機構西札幌病院)
  • 葭山 稔(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 寺崎 文生(大阪医科大学医学部)
  • 藤尾 慈(大阪大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
37,762,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
β遮断薬が心不全患者の予後、生活活動性を改善することが大規模臨床試験で証明され、心不全治療の第一選択薬と位置づけられるに至った。しかし、同時に、β遮断薬が本来有する陰性変力作用により、投与された心不全患者の一部に、心不全の悪化をきたす症例(ノンレスポンダー)が存在する。本研究の目的は、遺伝情報に基づいて、投与前にβ遮断薬への反応性を予測し、心不全に対するβ遮断薬療法を個別適正化することである。
研究方法
昨年度までに、心不全に関連する91遺伝子210遺伝子多型とβ遮断薬に対する反応性との相関を検討した。本年度はさらなるサンプル収集および詳細な臨床データの収集を行い、長期予後の観点から、投与後1.5年以上経過観察を終えた100症例を対象に検討を加え、β遮断薬の薬効予測に有用な遺伝子多型を絞り込んだ。さらに、臨床現場で使用可能な遺伝子多型判定機器を作製するために、等温増幅の条件設定を行った。また、心不全に対するβ遮断薬療法に関する大規模臨床試験J-CHFの遺伝子多型に関するサブスタディーに参加した症例123例に関して、心不全に関連する91遺伝子210遺伝子多型の多型解析を行った。
結果と考察
1.多型判定機器で判定対象とする遺伝子多型は、その遺伝子型により薬物反応性を明確に分類可能な遺伝子型である必要があり、判定機器で同時に行う反応数には限界があるため、対象とする遺伝子多型数をa) アドレナリン受容体α2C del322-325遺伝子多型、b) トロンボスポンジン1 Thr523Ala遺伝子多型、c)ノルエピネフリントランスポーター(NET) T-182C遺伝子多型、に絞り込んだ。
2. β遮断薬の薬効予測に有効な遺伝子多型を対象に、等温増幅可能なプライマーの設計、反応条件の設定を行い、NET T-182C部の増幅が可能なプライマーの組み合わせ、増幅方法を確立した。絞り込んだ遺伝子多型について、生物学的機能が不明な遺伝子多型についての機能解析を行っている。
3. J-CHFのサブスタディーに参加した症例について91遺伝子210遺伝子多型の判定を行った。臨床データとの相関に関する解析は、臨床データの開示を待つ。
結論
遺伝子情報に基づいた心不全に対するβ遮断薬療法の個別適正化を実現するためには、遺伝子多型判定を臨床現場で行うための多型判定機器が必要である。本研究の成果は、今後は、企業とのタイアップによって飛躍的に実用化へと向うものと考えている。J-CHFのサンプルを用いたデータ解析によって本研究成果の外部妥当性と得ることとなり、企業との提携を促進するであろう。

公開日・更新日

公開日
2009-08-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200807007B
報告書区分
総合
研究課題名
心不全に対しβ遮断薬療法を安全かつ有効に導入するための統合的ゲノム薬理学研究
課題番号
H18-ファーマコ・一般-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
岩尾 洋(大阪市立大学大学院医学研究科 分子病態薬理学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本 洋(国立病院機構西札幌病院)
  • 葭山 稔(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 寺崎 文生(大阪医科大学医学部)
  • 藤尾 慈(大阪大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大規模臨床試験により、β遮断薬は心不全治療の第一選択薬となった。しかし、心不全治療におけるβ遮断薬の作用機序は依然明らかにされていない。従って、現状では、薬効を規定する因子は不明であり、β遮断薬療法に対する薬効を投与前に予見することは困難である。本研究の主目的は、β遮断薬療法の個別適正化を実現するために、β遮断薬に対する薬効を規定する遺伝的因子をゲノム疫学的アプローチにより検索し、その遺伝的因子の意義を分子薬理学的アプローチにより解明することである。
研究方法
1. 文献的あるいは心不全モデル動物で心不全と関連のある遺伝子から、日本人における多型頻度が10%以上である遺伝子多型を選出した。2. β遮断薬治療をうけている患者に関し、β遮断薬治療の結果、左室内径短縮率が3%以上改善した患者をレスポンダー(responder)、3%未満の患者をノンレスポンダー(nonresponder)に分類し、これら遺伝子多型との相関を検討した。3. 企業との共同研究として、等温増幅法を用いた、遺伝子多型判定機器の作製に着手した。4. 心不全におけるβ遮断薬療法の分子メカニズムを解明するため、カニクイザルを用いたエピネフリン心不全モデルを作製した。この心不全モデルに対し、β遮断薬の有効性について検討した。
結果と考察
心不全モデルにおいて発現変動する遺伝子群の遺伝子多型とβ遮断薬の薬効の相関の検討、心不全に関連する遺伝子多型とβ遮断薬に対する反応性との相関を検討した。相関を示した遺伝子多型に関し、独立した新たな患者集団を対象に相関の再現性を検討した。その結果から心不全患者に対するβ遮断薬の反応性を予測するアルゴリズムを作成した。臨床的検討から見出し遺伝子多型の中から、NET T-182C、ADRα2C Del322-325、TSP1 Thr523Alaの遺伝子多型を臨床現場で判定するために、等温増幅法を用いた遺伝子判定機器の作製に着手した。また、カニクイザルを用いた検討において、β遮断薬は正常心筋と不全心筋では作用が異なる、エピネフリン心不全においては心機能低下部位と心機能正常部位で発現する遺伝子が異なる、ことを見出した。
結論
心不全に対するβ遮断薬療法の効果予測に有用な遺伝子多型を見出した。これら遺伝子多型の判定機器作製のための基盤技術を確立しつつある。遺伝子情報に基づいた心不全に対するβ遮断薬療法の個別適正化を実現するためには、遺伝子多型判定を臨床現場で行うための多型判定機器が必要であり、本研究の成果は、今後は、企業とのタイアップによって飛躍的に実用化へと向うものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-08-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200807007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
心不全治療に対するβ遮断薬の薬理機序は不明である。本研究では、心不全心筋と正常心筋とでβ遮断薬に対する反応性が異なることを、霊長類心不全モデルを用いて示した。さらに、β遮断薬療法感受性遺伝子群を臨床ゲノム薬理学的に抽出したが、その中のいくつかの遺伝子は、ノルエピネフリン心不全モデルの心機能低下部で発現増強しており、β遮断薬療法の薬理作用は、cell autonomousなβ受容体シグナル制御のみならず、心筋リモデリングのreprogrammingにあることが示唆された。
臨床的観点からの成果
心不全治療におけるβ遮断薬療法に対する反応性に、ノルエピネフリンのturnoverを制御する遺伝子、炎症関連遺伝子、血管機能制御遺伝子の遺伝子多型が関与することが明らかになった。心不全患者の診療において、β遮断薬投与前にこれらの遺伝子多型を判定することにより、心不全薬物治療の個別適正化を行い、安全でかつ有効なβ遮断薬の導入を行うことが可能になろう。このようなゲノム情報に基づいたβ遮断薬療法の個別適正化を実現するため、遺伝子判定機器の作製のための基盤技術を確立しつつある。
ガイドライン等の開発
日本循環器学会の心不全治療ガイドラインでは、β遮断薬は、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬)と並んで心不全治療の第一選択薬とされるにいたっているが、使い分けに関する基準はない。本研究成果により、遺伝子情報に基づいてβ遮断薬の反応性を予測し、個々の患者に対してβ遮断薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬のいずれを選択するかを提案することが可能となる。すなわち、上記ガイドラインの弱点を補強するものと位置づけられる。
その他行政的観点からの成果
本研究は、心不全に対するβ遮断薬療法に関する大規模臨床試験J-CHFのサブスタディをサポートしている。J-CHFは、わが国で最初の医師主導型大規模臨床試験であり、本研究は、わが国の医師主導型臨床試験におけるゲノム薬理学研究の嚆矢となるものである。患者同意の取得方法、サンプルの匿名化など、本研究過程で行った一連の個人情報の管理方法は、ゲノム倫理に関する基準となり、医師主導型治験の推進に貢献するであろう。
その他のインパクト
ゲノム情報に基づいた個別化適正医療を実現するためには、学会で研究成果を発表するだけでは不十分で、現場で活躍する臨床医・コメディカルおよび患者のゲノム科学に関する認容性を高める必要がある。臨床医に対しては、J-CHFの全国会議を通じて研究成果を公表しゲノム科学の有用性を啓発した。また、患者やコメディカルに対しては、市民公開講座や薬剤師卒後研修を通じてゲノム薬理学の意義と、個人情報管理の方法を説明する機会を得た。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Izumi Y, Okatani H, Shiota M et al.
Effects of metoprolol on epinephrine-induced takotsubo-like left ventricular dysfunction in non-human primates.
Hypertension Research  (2009)
原著論文2
Otsuka K, Terasaki F, Ikemoto M et al.
Suppression of inflammation in rat autoimmune myocarditis by S100A8/A9 through modulation of the proinflammatory cytokine network.
European Journal of Heart Failure , 11 (3) , 229-237  (2009)
原著論文3
Hayata N, Fujio Y, Yamamoto Y et al.
Connective tissue growth factor induces cardiac hypertrophy through Akt signaling.
Biochemical and Biophysical Research Communications , 370 (2) , 274-278  (2008)
原著論文4
Nonen S, Yamamoto I, Liu J et al.
Adrenergic beta1 receptor polymorphism (Ser49Gly) is associated with obesity in type II diabetic patients.
Biological & Pharmaceutical Bulletin , 31 (2) , 295-298  (2008)
原著論文5
Xu Z, Okamoto H, Akino M et al.
Pravastatin attenuates left ventricular remodeling and diastolic dysfunction in angiotensin II-induced hypertensive mice.
Journal of Cardiovascular Pharmacology , 51 (1) , 62-70  (2008)
原著論文6
Nonen S, Okamoto H, Fujio Y et al.
Polymorphisms of norepinephrine transporter and adrenergic receptor alpha1D are associated with the response to beta-blockers in dilated cardiomyopathy.
The Pharmacogenomics Journal , 8 (1) , 78-84  (2008)
原著論文7
Terasaki F, Fujita M, Shimomura H et al.
Enhanced expression of myeloid-related protein complex (MRP8/14) in macrophages and multinucleated giant cells in granulomas of patients with active cardiac sarcoidosis.
Circulation Journal , 71 (10) , 1545-1550  (2007)
原著論文8
Okamoto H.
Osteopontin and cardiovascular system.
Molecular and Cellular Biochemistry , 300 , 1-7  (2007)
原著論文9
Terasaki F ,Okamoto H, Onishi K et al.
Higher serum tenascin-C levels reflect the severity of heart failure, left ventricular dysfunction and remodeling in patients with dilated cardiomyopathy.
Circulation Journal , 71 (3) , 327-330  (2007)
原著論文10
Takekuma Y, Takenaka T, Kiyokawa M et al.
Evaluation of effects of polymorphism for metabolic enzymes on pharmacokinetics of carvedilol by population pharmacokinetic analysis.
Biological & Pharmaceutical Bulletin , 30 (3) , 537-542  (2007)
原著論文11
Okamoto H, Nonen S, Fujio Y et al.
Adrenoceptor Alpha 1B and norepinephrine transporter polymorphisms are associated with the beta-blocker response in patients with dilated cardiomyopathy.
Circulation , 114 (2) , 443-  (2006)
原著論文12
Takekuma Y, Takenaka T, Kiyokawa M et al.
Contribution of polymorphisms in UDP- glucuronosyltransferase and CYP2D6 to the individual variation in disposition of carvedilol.
Journal of Pharmacy & Pharmaceutical Sciences , 9 (1) , 101-112  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-