文献情報
文献番号
200807006A
報告書区分
総括
研究課題名
糖鎖シグナルの異常による肺気腫の発生機構の解明と治療戦略
課題番号
H18-ゲノム・一般-006
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
谷口 直之(大阪大学 微生物病研究所疾患糖鎖学(生化学工業)寄附研究部門)
研究分担者(所属機関)
- 松本 明郎(大阪大学 微生物病研究所疾患糖鎖学(生化学工業)寄附研究部門)
- 三善 英知(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断学講座)
- 顧 建国(東北薬科大学薬学部細胞制御学)
- 別役 智子(北海道大学病院第一内科)
- 前野 敏孝(群馬大学医学部附属病院呼吸器アレルギー内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
25,927,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肺気腫を主な病態とするCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、2030年までには死因の第4位になると予想されている疾患である。しかし、いまだ有効な治療法が開発されておらず、現在は対症療法に限られている。我々は、糖鎖の機能解析に関した研究において、N結合型糖タンパク質にコアフコースを付加するFut8(α1,6 fucosyltransferase)の遺伝子欠損マウスが、著明な成長障害と肺気腫様病変を示すことを明らかにしてきた。糖鎖異常を背景とした肺気腫病態の解析を行うことから、これまで見いだすことのできなかった発症・増悪機構の解明、さらには特異的な治療戦略の提案を行うことを本研究の目的とした。
研究方法
糖鎖異常を加味した肺気腫病態の解明について1.喫煙誘導型肺気腫モデルマウスにおける肺胞破壊発症機序の検討、2.新規肺気腫治療薬開発を目指したMMP活性阻害薬の探索とその作用に関する分子機構の検討、3.エラスターゼ誘導型肺気腫モデルマウスにおける糖鎖異常の関与に関する検討、4.フコシル化異常と肺気腫化に関する新たなメカニズムの検討、以上4点を検討した。
結果と考察
1.Fut8へテロノックアウトマウスは、喫煙によりFUT8活性の低下が起き、それに続いて従来の半分以下の3ヶ月暴露により気腫化が生じた。ヘテロノックアウトマウスに喫煙暴露を行うと、早期にMMP-9,12活性が特異的に上昇した。
2.副作用の回避を目指してMMP阻害活性を有する糖鎖関連物質を検討し、合成MMP阻害薬(GM6001)と同程度の阻害活性を示す4種を見いだした。これらの物質の、MMP阻害機序や生体内での作用を今回開発したモデル動物を用いてさらに検討することが望ましいであろう。
3.エラスターゼ誘発型肺気腫モデルにおいてもFUT8活性の低下が、気腫化の進展をより早期から促進することがわかった。
4.FUT8活性の低下に伴いVEGF受容体発現が低下し気腫化を引き起こす新たな経路の存在を明らかにした。
2.副作用の回避を目指してMMP阻害活性を有する糖鎖関連物質を検討し、合成MMP阻害薬(GM6001)と同程度の阻害活性を示す4種を見いだした。これらの物質の、MMP阻害機序や生体内での作用を今回開発したモデル動物を用いてさらに検討することが望ましいであろう。
3.エラスターゼ誘発型肺気腫モデルにおいてもFUT8活性の低下が、気腫化の進展をより早期から促進することがわかった。
4.FUT8活性の低下に伴いVEGF受容体発現が低下し気腫化を引き起こす新たな経路の存在を明らかにした。
結論
喫煙暴露により効率的に肺気腫を発症するモデル動物を確立し、糖鎖異常に伴いMMP活性の一過性の上昇が認められた。肺気腫治療薬を目指したMMP阻害剤を発見し、その生化学的性質を検討した。エラスターゼ暴露による肺気腫モデルにおいてもFUT8活性が肺気腫の進展に関与していることが示唆された。肺気腫形成に関わる新たな糖鎖異常のメカニズムを明らかにした。
公開日・更新日
公開日
2009-08-06
更新日
-