文献情報
文献番号
202020014A
報告書区分
総括
研究課題名
2020年五輪大会に向けた東京都内のHIV・性感染症対策に関する研究
課題番号
19HB2001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
田沼 順子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
研究分担者(所属機関)
- 佐々木 亮(国立国際医療研究センター 救命救急センター 救急科)
- Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(聖路加国際大学公衆衛生大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
9,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
五輪大会のような国際的マスギャザリングは、性感染症を含む様々な感染症拡大のリスクと考えられている。梅毒の国内届出数や訪日外国人の増加など、新たな課題が浮上する中、五輪大会前後のケア需要を経時的に評価しつつ適切な医療資源の配置につなげる取り組みは必要である。本研究では、過去の五輪大会におけるHIV・性感染症対策を調査し、東京五輪大会前後の性感染症ケア資源と需要を経時的に調査・検討する。最終的に、首都圏における性感染症対策ネットワークの整備・強化に貢献するとともに、構築したネットワークを通じて2030年までのHIV流行制圧に向けて必要なエビデンスを収集し、政策提言を行うことを目的とする。
研究方法
2020年度は2019年度の成果をもとに、1)首都圏セクシャル・ヘルスケア・ネットワークの構築と活用に関する研究、2)インターネットを活用した性感染症啓発広告のインパクトに関する研究、3)五輪大会の性感染症流行への影響把握とHIV関連政策に貢献するエビデンス構築に関する研究、の3つの課題に取り組む。
結果と考察
1)首都圏セクシャル・ヘルスケア・ネットワークの構築と活用に関する研究
COVID-19流行とそれによるオリンピック延期により、医療機関を対象とした実装研究は実施できなかった。そのため性感染症予防やLGBTQなどセクシャルヘルス課題に取り組む非営利団体との連携構築に注力した。具体的には、セクシャルヘルスに関する動画を共同作成し、日本エイズ学会学術集会シンポジウム(オンライン開催)や研究班のウェブサイトへの掲載など、インターネットを通じ情報発信した。作成された動画は、将来の啓発活動に役立てることができるようSNSの拡散を想定した編集を加えアーカイブ化した。
2)インターネットを活用した性感染症啓発広告のインパクトに関する研究
多言語によるセクシャルヘルスに関する情報発信サイトTokyo Sexual Healthを2020年11月26日に公開し(www.tsh.ncgm.go.jp/en/index.html)、東京2020公認プログラムとしての認証を受けた。更に2020年11月26日、オリンピック競技大会を契機としたセクシャルヘルス推進と2030年までのエイズ流行終結およびHIV感染者への差別偏見撤廃に向けた取り組みへの協力について、UNAIDSと覚書を調印した。
日本最大のコミュニケーションアプリであるLINEを使ってセクシャルヘルスに関する意識調査を行った。LINEアプリユーザー約8000万人のうちLINEリサーチモニターに482万人が登録されている18歳から49歳のうち、各都道府県の人口比率と男女比率を鑑みつつ全体で1万人を上限とし、LINE株式会社がLINEリサーチモニターについて定める関連規則に従って協力者を募り、回答を回収した。2020年10月11日までに9604人の回答が得られた。81.6%がこれまでに性交経験があると答えた。「性に関する悩みや疑問を誰に相談したらよいか悩んだことがある」と答えたのは42.3%、性感染症に関する知識の情報源としては、インターネットが62.7%と最も多く、次いで学校の授業と回答した者が34.7%と多かった。
3)五輪大会のSTI流行への影響把握とHIV関連政策に貢献するエビデンス構築に関する研究
オリンピック競技大会前後のセクシャル・ヘルスケアの利用者数を調査する予定であったが、競技大会の延期により実施できなかった。一方、UNAIDSよりHIVケアの継続性に関する世界的なモニタリング調査(HIV Service Tracking Tool)に参加するよう厚生労働省を通じて要請を受け、HIV疫学に関する一般的な調査(Global AIDS Monitoring)とあわせ報告データをまとめた。UNAIDSの SPECTRUMというソフトウエアを用いた推計では、日本のHIV新規感染は近年減少傾向にあり、特に過去5年間で減少が加速していること、2019年時点の推計では、いわゆる90-90-90と呼ばれるケアカスケードのうち、最初の目標値であるHIV感染者における診断割合は94%で、治療割合も93%と高いことが示された。
COVID-19流行とそれによるオリンピック延期により、医療機関を対象とした実装研究は実施できなかった。そのため性感染症予防やLGBTQなどセクシャルヘルス課題に取り組む非営利団体との連携構築に注力した。具体的には、セクシャルヘルスに関する動画を共同作成し、日本エイズ学会学術集会シンポジウム(オンライン開催)や研究班のウェブサイトへの掲載など、インターネットを通じ情報発信した。作成された動画は、将来の啓発活動に役立てることができるようSNSの拡散を想定した編集を加えアーカイブ化した。
2)インターネットを活用した性感染症啓発広告のインパクトに関する研究
多言語によるセクシャルヘルスに関する情報発信サイトTokyo Sexual Healthを2020年11月26日に公開し(www.tsh.ncgm.go.jp/en/index.html)、東京2020公認プログラムとしての認証を受けた。更に2020年11月26日、オリンピック競技大会を契機としたセクシャルヘルス推進と2030年までのエイズ流行終結およびHIV感染者への差別偏見撤廃に向けた取り組みへの協力について、UNAIDSと覚書を調印した。
日本最大のコミュニケーションアプリであるLINEを使ってセクシャルヘルスに関する意識調査を行った。LINEアプリユーザー約8000万人のうちLINEリサーチモニターに482万人が登録されている18歳から49歳のうち、各都道府県の人口比率と男女比率を鑑みつつ全体で1万人を上限とし、LINE株式会社がLINEリサーチモニターについて定める関連規則に従って協力者を募り、回答を回収した。2020年10月11日までに9604人の回答が得られた。81.6%がこれまでに性交経験があると答えた。「性に関する悩みや疑問を誰に相談したらよいか悩んだことがある」と答えたのは42.3%、性感染症に関する知識の情報源としては、インターネットが62.7%と最も多く、次いで学校の授業と回答した者が34.7%と多かった。
3)五輪大会のSTI流行への影響把握とHIV関連政策に貢献するエビデンス構築に関する研究
オリンピック競技大会前後のセクシャル・ヘルスケアの利用者数を調査する予定であったが、競技大会の延期により実施できなかった。一方、UNAIDSよりHIVケアの継続性に関する世界的なモニタリング調査(HIV Service Tracking Tool)に参加するよう厚生労働省を通じて要請を受け、HIV疫学に関する一般的な調査(Global AIDS Monitoring)とあわせ報告データをまとめた。UNAIDSの SPECTRUMというソフトウエアを用いた推計では、日本のHIV新規感染は近年減少傾向にあり、特に過去5年間で減少が加速していること、2019年時点の推計では、いわゆる90-90-90と呼ばれるケアカスケードのうち、最初の目標値であるHIV感染者における診断割合は94%で、治療割合も93%と高いことが示された。
結論
オリンピック・パラリンピック競技大会東京大会までに取り組むべき課題を明らかにした。本研究で構築されたオンラインでの情報発信や調査の基盤、UNAIDS等の国際機関との連携関係は、オリンピック競技大会や万国博覧会等の国際的イベント開催に向けた性感染症対策のみならず、2030年までのHIV流行制圧に向けた政策立案に必要なエビデンス収集の目的で、積極的に活用されることが期待できる。
公開日・更新日
公開日
2021-07-05
更新日
-