マイクロアレイ技術を用いたATLのゲノムワイドな解析による新規治療標的分子の探策

文献情報

文献番号
200807004A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロアレイ技術を用いたATLのゲノムワイドな解析による新規治療標的分子の探策
課題番号
H18-ゲノム・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 俊樹(東京大学 新領域創成科学研究科 )
研究分担者(所属機関)
  • 小川 誠司(東京大学医学部附属病院 血液内科)
  • 山口 一成(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 澤 洋文(北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
33,595,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人T細胞白血病(ATL)に対する新規分子標的薬剤・診断技術開発のためのターゲット分子を探索する。そのために最新のアレイ技術を駆使して検体を解析し、成人T細胞白血病(ATL)に対する新規分子標的薬剤・診断技術開発のためのターゲット分子を探索する事を目的とした。
研究方法
解析には、全国コホート研究班JAPFADのバイオマテリアルバンクを中心に、一部は個別研究で集積された検体を利用した。更に、分担研究者らが作製したATLのモデルマウスの細胞を利用して解析を行った。具体的には以下の解析を行った。1)ATLの170検体についてゲノムコピー数異常の解析、2)HAMの全ゲノム関連解析、3)ATL51検体を用いた遺伝子発現プロファイル解析、4)ATL40検体を用いたマイクロRNA発現解析、5)ウイルスキャリア17例を用いた末梢血単核球発現プロファイル解析、6)ATLのモデルマウスを用いたがん細胞の多臓器への浸潤のメカニズムの検討。
結果と考察
ATL細胞の全ゲノム領域にわたる増幅と欠損の実態が明らかになった。CD28, BCL11Bなどの増幅、CD2やTCF8の欠失などATLに特徴的な増幅・欠失の標的となる候補遺伝子が100以上同定された。ATL細胞の詳細な発現プロファイルデータが得られ、特徴的な過剰発現遺伝子群が確認された。また、キャリアの遺伝子発現プロファイルは特異なパターンを示す事、ATL発症前の検体は特徴的な発現プロファイルを示す事が明らかになり、発症高危険群同定と発症予防法開発へ有力な情報が得られた。miRNAの発現解析ではATL細胞では特異的に発現低下を示すものが50個あった。これらのmiRNAの標的遺伝子にはシグナル伝達経路や転写などで重要なものが含まれており、その機能解析を開始した。一方、ATLのモデルマウスを用いた解析では、CXCR4の拮抗剤であるAMD3100がSDF-1αによるERKのリン酸化および走化性を阻害する事、また、NFkB経路のIKKb阻害剤Bay65-1942の作用を検討し、アポトーシス誘導能とマウスの延命効果を認めた。これらの薬剤がATL治療薬の候補となる可能性が示された。
結論
本研究で得られた情報は、ATLの分子診断技術の確立、ならびに、新規治療法の開発に向けた標的分子の同定に重要な基盤となるものあり、今後の研究に多大な貢献をするものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200807004B
報告書区分
総合
研究課題名
マイクロアレイ技術を用いたATLのゲノムワイドな解析による新規治療標的分子の探策
課題番号
H18-ゲノム・一般-004
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 俊樹(東京大学 新領域創成科学研究科 )
研究分担者(所属機関)
  • 小川 誠司(東京大学医学部附属病院 血液内科)
  • 山口 一成(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 澤 洋文(北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人T細胞白血病(ATL)に対する新規分子標的薬剤・診断技術開発のためのターゲット分子を探索する。そのために最新のアレイ技術を駆使して検体を解析し、成人T細胞白血病(ATL)に対する新規分子標的薬剤・診断技術開発のためのターゲット分子を探索する事を目的とした。
研究方法
解析には、全国コホート研究班JAPFADのバイオマテリアルバンクを中心に、一部は個別研究で集積された検体を利用した。更に、分担研究者らが作製したATLのモデルマウスの細胞を利用して解析を行った。具体的には以下の解析を行った。1)ATLの170検体についてゲノムコピー数異常の解析、2)HAMの全ゲノム関連解析、3)ATL51検体を用いた遺伝子発現プロファイル解析、4)ATL40検体を用いたマイクロRNA発現解析、5)ウイルスキャリア17例を用いた末梢血単核球発現プロファイル解析、6)ATLのモデルマウスを用いたがん細胞の多臓器への浸潤のメカニズムの検討。
結果と考察
ATL細胞の全ゲノム領域にわたる増幅と欠損の実態が明らかになった。CD28, BCL11Bなどの増幅、CD2やTCF8の欠失などATLに特徴的な増幅・欠失の標的となる候補遺伝子が100以上同定された。ATL細胞の詳細な発現プロファイルデータが得られ、特徴的な過剰発現遺伝子群が確認された。また、キャリアの遺伝子発現プロファイルは特異なパターンを示す事、ATL発症前の検体は特徴的な発現プロファイルを示す事が明らかになり、発症高危険群同定と発症予防法開発へ有力な情報が得られた。miRNAの発現解析ではATL細胞では特異的に発現低下を示すものが50個あった。これらのmiRNAの標的遺伝子にはシグナル伝達経路や転写などで重要なものが含まれており、その機能解析を開始した。HAMの全ゲノム関連解析を行ったが、検体数が不十分で結論的な結果は得られなかった。ATLのモデルマウスの解析では、CXCR4の拮抗剤であるAMD3100がSDF-1αによるERKのリン酸化および走化性を阻害する事、また、NFkB経路のIKKb阻害剤Bay65-1942がアポトーシス誘導とマウスの延命効果を認めた。
結論
本研究で得られた情報は、ATLの分子診断技術の確立、ならびに、新規治療法の開発に向けた標的分子の同定に重要な基盤となるものあり、今後の研究に多大な貢献をするものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200807004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国共同研究体制によるマテリアルバンクを基盤として初めて可能になった研究であり、先進的なアレイ技術を駆使して成果が得られた。このような条件を備えている国は他に無く、我が国のみで実施可能な研究である。得られた研究結果は、Tリンパ球のみならず一般の細胞の腫瘍化機構を理解する上で極めて重要な知見である。ゲノム異常と発現異常の関係が同一検体で詳細に解析された意義は大きい。
臨床的観点からの成果
ATLやHAM患者の治療標的候補分子の解明は、画期的分子標的治療法開発へつながる事が期待される。また、キャリアの遺伝子発現プロファイル情報から、ATL発症者が特異なパターンを示す事が明らかになった。この情報は、人口の1%を占めるHTLV-1感染者の疾患発症を早期診断あるいは発症予測法の開発につながる。
ガイドライン等の開発
本研究は、基礎研究であり、その結果によって直接何らかのガイドライン開発につながる事は無い。しかし、本研究成果が、ATLや関連疾患発症危険群の同定法の開発につながる可能性が出て来ており、将来的には、HTLV-1キャリアの経過観察ガイドライン作製に大きく寄与する事が期待される。
その他行政的観点からの成果
本研究が基礎研究である性質上、本研究期間内の成果が直接行政的観点からの成果にはつながっていない。しかし、長崎や鹿児島で行われて来た、妊婦検診と感染予防対策の今後の全国展開の有無によっては、本研究で得られたキャリアの末梢血遺伝子プロファイルに基づいて感染高危険妊婦を同定する診断法が開発される事は意義のあることとなるであろう。
その他のインパクト
平成21年3月5日に開催された、厚生労働科学研究費補助金研究成果発表会において、優れた成果を上げた研究課題として選定されて成果発表を行った。科学技術振興財団主催の「地域間連携シンポジウム2009in鹿児島」「ATL研究の推進に向けて」に、基調講演を依頼され、本研究成果の一部を発表した。その様子は新聞においても報道された(南日本新聞(平成21年3月1日付け)、宮崎日日新聞(平成21年3月13日付け)南日本新聞(平成21年3月17日付け)など)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
研究成果は基本的に英文で発表されるため、原著和文論文は無い。
原著論文(英文等)
30件
その他論文(和文)
5件
関連の和文総説を挙げた。
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
34件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
10件
HTLV-1の連続公開講座、教科書の出版、国際会議の開催、HTLV-1研究会の設立等を通じて、当該分野の啓発と普及活動を行った。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hosoya N, Sanada M, Nannya Y, et al
Genomewide screening of DNA copy number changes in chronic myelogenous leukemia with the use of high-resolution array-based comparative genomic hybridization.
Genes Chrom Cancer , 45 , 482-494  (2006)
原著論文2
Jacobs S, Thompson ER, Nannya Y, et al
Genome-wide, high-resolution detection of copy number, loss of heterozygosity, and genotypes from formalin-fixed, paraffin-embedded tumor tissue using microarrays.
Cancer Research , 67 , 2544-2551  (2007)
原著論文3
Ohsugi T, Kumasaka T, Okada S, et al
Dehydroxy- methylepoxyquinomicin (DHMEQ) therapy reduces tumor formation in mice inoculated with Tax-deficient adult T-cell leukemia–derived cell lines.
Cancer Let. , 257 , 206-215  (2007)
原著論文4
Matsuoka M, Watanabe T, Kannagi M, et al
Meeting report on the 13th International Conference on Human Retrovirology:Human T-cell leukemia virus research-30 years after Adult T-cell leukemia.
Cancer Res. , 67 , 10638-10641  (2007)
原著論文5
Kawazu M, Yamamoto G, Yoshimi M, et al
Expression profiling of immature thymocytes revealed a novel homeobox gene that regulates double-negative thymocyte development.
J Immunol. , 179 , 5335-5345  (2007)
原著論文6
Nannya Y, Taura K, Kurokawa M, et al
Evaluation of genome-wide power of genetic association studies based on empirical data from the HapMap project.
Hum Mol Genet. , 16 , 3494-3505  (2007)
原著論文7
Yamamoto G, Nannya Y, Kato M, et al
Highly sensitive method for genome-wide detection of allelic composition in nonpaired, primary tumor specimens by use of affymetrix single-nucleotide-polymorphism genotyping microarrays.
Am J Hum Genet. , 81 , 114-126  (2007)
原著論文8
Tsuji T, Sheehy N, Gautier VW, et al
The nuclear import of the human T lymphotropic virus typeI (HTLV-1) Tax protein is carrier and energyindependent.
J Biol Chem. , 282 , 13875-13883  (2007)
原著論文9
Saitoh Y, Yamamoto N, Dewan MDZ, et al
Overexpressed NF-κB inducing kinase contributes to the tumorigenesis of adult T-cell leukemia and Hodgkin Reed-Sternberg cells
Blood , 111 , 5118-5129  (2008)
原著論文10
Uchimaru K, Nakamura Y, Tojo A, et al
Factor spredisposing to HTLV-1 infection in residents of the greater Tokyo area
Int J Hematol. , 88 , 565-570  (2008)
原著論文11
Kawamata N, Ogawa S, Zimmermann M, et al
Molecular allelo-karyotyping of pediatric acute lymphoblastic leukemias by high-resolution single nucleotide polymorphism oligonucleotide genomic microarray.
Blood , 111 , 776-784  (2008)
原著論文12
Lehmann S, Ogawa S, Raynaud SD, et al
Molecular allelo-karyotyping of early-stage, untreated chronic lymphocytic leukemia.
Cancer , 112 , 1296-1305  (2008)
原著論文13
Kawase T, Nanya Y, Torikai H, et al
Identification of human minor histocompatibility antigens based on genetic association with highly parallel genotyping of pooled DNA.
Blood , 111 , 3286-3294  (2008)
原著論文14
Akagi T, Ogawa S, Dugas M, et al
Frequent genomic abnormalities in acute myeloid leukemia/myelodysplastic syndrome with normal karyotype.
Haematologica , 94 , 213-223  (2008)
原著論文15
Chen Y, Takita J, Choi YL, et al
Oncogenic mutations of ALK kinase in neuroblastoma.
Nature , 455 , 971-974  (2008)
原著論文16
Kawamata N, Ogawa S, Zimmermann M, et al
Cloning of genes involved in chromosomal translocations by high-resolution single nucleotide polymorphism genomic microarray.
Proc Natl Acad Sci USA , 105 , 11921-11926  (2008)
原著論文17
Otsubo H, Yamaguchi K.
Current risks in blood transfusion in Japan.
Jpn J Infect Dis , 61 , 427-433  (2008)
原著論文18
Walsh CS, Ogawa S, Karahashi H, et al
ERCC5 is a novel biomarker of ovarian cancer prognosis.
J Clin Oncol. , 26 , 2952-2958  (2008)
原著論文19
Shimizu Y, Takamori A, Utsunomiya A, et al
Impaired Tax-specific T-cell responses with insufficient control of HTLV-1 in a subgroup of individuals at asymptomatic and smoldering stages
Cancer Sci , 100 , 481-489  (2009)
原著論文20
Tsukasaki K, Hermine O, Bazarbachi A, et al
Definition, prognostic factors, treatment and response criteria of adult T-cell leukemia-lymphoma: A proposal from an International Consensus Meeting
J Clin Oncol. , 27 , 453-459  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-