HIV陽性者に対する精神・心理的支援方策および連携体制構築に資する研究

文献情報

文献番号
202020011A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV陽性者に対する精神・心理的支援方策および連携体制構築に資する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-007
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山田 富秋(学校法人 松山大学 人文学部社会学科)
研究分担者(所属機関)
  • 大山 泰宏(放送大学)
  • 安尾 利彦(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター 精神科・神経科)
  • 村井 俊哉(京都大学 医学研究科)
  • 池田 学(国立大学法人 大阪大学 医学系研究科 精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、HIV陽性者に対して、より効果的な精神・心理的支援策を開発し、HIV陽性者の精神科診療の連携体制を構築することを目的とする。上の目的を達成するため、研究1(大山泰宏)「HIV陽性者へのカウンセリング効果の検証」、研究2(安尾利彦)「HIV陽性者の心理的問題点と対策の検討」、研究3 (村井俊哉)「MRI画像による、神経認知障害の神経基盤の解明」、 研究4(池田学) 「HIV陽性者の精神疾患医療体制の構築-HIV陽性者における精神疾患の実態と精神科医療機関が抱える課題-」、研究5(山田富秋)「薬害被害者の心理的支援方法の検討」の5つの分担研究を実施する。以下分担毎に説明する。
 研究1(大山) HIV陽性者に対する心理カウンセリングの効果を実証的に検証し、心理的支援について具体的提言を行う。研究2(安尾) HIV陽性者の行動面の障害を伴う心理学的問題、特に受診中断に至る心理力動を明らかにし、それに基づいた受診継続のための適切な心理学的介入方法を明らかにする。研究3(村井) ADLやQOLに影響を与えるHIV関連神経認知障害(HAND)はHIV感染者の心理的ストレスの背景になっている。しかし、HANDの神経基盤は未だ明らかにされていない。よって、MRI画像と最新の画像解析技術によってこれを明らかにし、陽性者の心理的支援の基礎情報を提示する。研究4(池田) 大阪府内のHIV陽性者の精神疾患合併症の実態および診療の課題を現らかにし,HIV陽性者に対する精神科医療機関の連携体制を構築するための基礎資料とする。研究5 (山田) 薬害被害者はHIV/AIDSのスティグマを抱えることによって、様々な「生きづらさ」に直面してきた。このような「生きづらさ」に対する心理的支援を、被害当事者のライフストーリーから読み解く。
研究方法
研究1(大山)エイズ治療拠点病院と連携し、HIV陽性者に合計で25回のカウンセリングをおこない、事前・事後、および中間において、心理学的アセスメントをおこなう。研究2(安尾)大阪医療センターのHIV陽性者から受診中断群と受診継続群を抽出し、欲求不満状況への反応を査定するP-Fスタディを実施し、その結果を標準スコアと比較する。研究3(村井) 神経認知課題の患者群と対照群の比較、患者群の課題成績と脳灰白質体積の相関等についての画像統計解析を行う。 研究4(池田)大阪府のHIV陽性者に調査を実施し、精神科の受診のしづらさや、メンタルヘルスの問題での受診希望についての実態を明らかにする。研究5 (山田)この間に蓄積した薬害被害者のインタビューを歴史的文脈に位置づけ、ライフストーリー研究法を通して分析する。
結果と考察
研究1(大山)中断事例の分析から、カウンセリングにおいて関係性が変化していくときに、不安が大きくなり、これが治療抵抗に結びつきやすい。研究2(安尾)受診中断者は自分に攻撃を向けやすい傾向があり、継続受診には自罰傾向の緩和および問題解決に向けた方法の提示などの援助が重要である。研究3(村井)報酬を伴う意思決定課題、意思決定に先立つ情報収集課題で患者群に障害がみられた。情報収集課題と灰白質体積との相関領域について、患者群の前帯状皮質に有意な相関がみられた。研究4(池田)調査で回答が得られたHIV陽性者28名のうち、50%に精神症状があり、21%が精神科通院中であった。精神科への抵抗感は64.3%がもっていた。精神科病院の選定基準で大切な要件として、LGBTに対する配慮(75.0%)やHIVへの理解(71.4%)を求めていた。研究5 (山田) 感染の意味をライフストーリーから分析すると、薬害被害者はHIV感染した自分をネガティヴなものとして捉え、孤立する傾向があった。しかし、同じ感染者(ピア)との接触をきっかけに人間関係を再構築した例も見出された。
結論
研究1(大山)カウンセリングの4~5回目の面接あたりで、自己の意味づけの枠に収まりきれない他者性に関する態度が、その後の展開と支援をアセスメントする鍵となる。研究2(安尾)受診継続のためには、自責傾向の緩和および問題解決方法の明示が重要であり、具体的方策を臨床現場に提示する必要性が示唆された。研究3(村井)HIV患者群では情報が十分に収集される前の段階で、意思決定が衝動的に行われていること、その神経基盤が前帯状皮質であることが示唆された。研究4(池田)HIV陽性者に対する精神科診療は通常診療と同様に実施できる。今回の調査結果に基づいた精神科医向けに特化した研修会の実施により、連携体制の構築が可能である。研究5(山田)HIV感染がスティグマとなって薬害被害者に「生きづらさ」をもたらしている。スティグマ軽減のために、医療者自身も薬害被害者の生活の文脈に踏み込んだ理解が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202020011B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV陽性者に対する精神・心理的支援方策および連携体制構築に資する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-007
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山田 富秋(学校法人 松山大学 人文学部社会学科)
研究分担者(所属機関)
  • 大山 泰宏(放送大学)
  • 安尾 利彦(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター 精神科・神経科)
  • 村井 俊哉(京都大学 医学研究科)
  • 池田 学(国立大学法人 大阪大学 医学系研究科 精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
平成30年度は大阪医療センターの白阪琢磨氏が研究代表者であったが、平成31-令和元年度から松山大学の山田富秋に交代した。また、大山泰宏氏は平成31-令和元年度に、京都大学から放送大学に所属機関を変更した。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、HIV陽性者に対する効果的な精神・心理的支援策を開発し、HIV陽性者の精神科診療の連携体制を構築することを目的とする。分担研究として、研究1(大山泰宏)「HIV陽性者へのカウンセリング効果の検証」、研究2(安尾利彦)「HIV陽性者の心理的問題点と対策の検討」、研究3 (村井俊哉)「MRI画像による、神経認知障害の神経基盤の解明」、 研究4(池田学) 「HIV陽性者の精神疾患医療体制の構築-HIV陽性者における精神疾患の実態と精神科医療機関が抱える課題-」、研究5(山田富秋)「薬害被害者の心理的支援方法の検討」を実施する。
 研究1(大山) HIV陽性者に対する心理カウンセリングの効果を実証的に検証する。研究2(安尾) HIV陽性者の受診中断に至る心理力動を明らかにし、受診を継続させる理学的介入方法を明らかにする。研究3(村井) HIV感染者の心理的ストレスの背景になっているHIV関連神経認知障害(HAND)の神経基盤をMRI画像の画像解析技術によって提示する。研究4(池田) 大阪府内のHIV陽性者の精神疾患の実態および診療の課題を明らかにし,精神科医療機関の連携体制を構築する。研究5 (山田) 薬害被害者はHIV/AIDSのスティグマを抱えることによって、様々な「生きづらさ」に直面してきた。薬害被害者のライフストーリーから効果的な心理的支援方法を明らかにする。
研究方法
研究1(大山)HIV陽性者の25回のカウンセリングにおける、事前・事後、および中間において、心理学的アセスメントを3年間にかけておこなう。研究2(安尾) 平成30年度、大阪医療センターのHIV陽性者から受診中断の実態を明らかにする。令和元年度、受診中断者について糖尿病と高血圧症の患者と比較を行う。令和2年度、欲求不満状況テストの結果を中断群と継続群とで比較する。研究3(村井)平成30年度は、神経認知障害と灰白質体積減少の関連性を探求し、令和元年度には、nadir CD4と白質神経線維障害との関連性を、令和2年度においては、診断基準規定外領域への神経認知障害の広がりについて研究する。研究4(池田)平成30年度は、大阪府の精神科医療機関にHIV関連精神疾患の診療実績調査を実施する。令和元年度は、精神科医療関係者にHIV治療に関する要望について調査する。令和2年度は、HIV陽性者に精神科への診療希望ならびに受診のしづらさについて調査する。研究5 (山田)この間蓄積した薬害被害者のインタビューを歴史的文脈に位置づけ、ライフストーリー研究法を通して「生きづらさ」さを同定する。
結果と考察
研究1(大山)中断事例の分析から、カウンセリングで関係が変化する時点で不安が大きくなり、これが治療抵抗に結びつきやすい。研究2(安尾) 高血圧症と糖尿病との比較結果として、自尊感情が低い人ほど中断があった。受診中断・継続者の比較によって、受診中断者の自罰傾向の緩和および問題解決方法の提示の重要性が明らかとなった。研究3(村井) 疾患群の脳部位で平均拡散能や放射拡散係数が有意に増加しており、髄鞘の変性が示唆された。灰白質についても、認知機能と灰白質体積との相関がみられた。低いnadir CD4患者群では、認知機能が有意に低下していた。意思決定課題において、意思決定に先立つ情報収集課題で患者群に障害がみられた。研究4(池田)診療実績について偏りは見られなかった。精神科医療関係者においてHIV感染等の研修ニーズが認められた。HIV陽性者に受診のしづらさが認められたが、LGBTやHIV感染についての医療者側の理解によって、これを軽減できる。研究5 (山田)薬害被害者は、エイズパニックを境に、HIV感染した自分をネガティヴなものとして捉え、医療不信もあいまって、孤立する傾向にあった。しかし、同じ感染者(ピア)との接触をきっかけに人間関係を再構築した例も見出された。
結論
研究1(大山)4~5回目あたりの面接時の他者性に対する態度が、その後の展開と支援をアセスメントする鍵となる。研究2(安尾)受診継続のためには、自責傾向の緩和および問題解決方法の明示などの援助が重要である。研究3(村井)HIV陽性者の認知障害と脳灰白質体積に関連があることがわかった。また、衝動的な意思決定の神経基盤が前帯状皮質であることが示唆された。研究4(池田)HIV陽性者の精神科の受診状況と医療機関の受容的態度から、HIV陽性者に対する精神科診療は通常診療と同様に実施できる。LGBTやHIV感染に対する理解を提供する精神科医向けの研修会の実施により、連携体制が可能である。研究5(山田)HIV感染がスティグマとなって薬害被害者に「生きづらさ」をもたらしている。これを軽減するために、医療者自身は薬害被害者の生活の文脈に踏み込んだ理解が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202020011C

収支報告書

文献番号
202020011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,920,000円
(2)補助金確定額
9,920,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,740,336円
人件費・謝金 2,339,551円
旅費 127,400円
その他 1,792,713円
間接経費 1,920,000円
合計 9,920,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
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