HIV感染者の妊娠・出産・予後に関する疫学的・コホート的調査研究と情報の普及啓発法の開発ならびに診療体制の整備と均てん化に関する研究

文献情報

文献番号
202020009A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染者の妊娠・出産・予後に関する疫学的・コホート的調査研究と情報の普及啓発法の開発ならびに診療体制の整備と均てん化に関する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(奈良県総合医療センター 周産期母子センター / 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉野 直人(岩手医科大学 医学部)
  • 杉浦 敦(奈良県総合医療センター 産婦人科)
  • 田中 瑞恵(国立国際医療研究センター 小児科)
  • 山田 里佳(JA愛知厚生連海南病院 産婦人科)
  • 定月 みゆき(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 産婦人科)
  • 大津 洋(東京大学大学院医学系研究科 臨床試験データ管理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
32,758,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染の妊娠・出産・予後に関して全国調査によりわが国における動向を解析する。HIV感染女性とその児のコホート研究により、抗HIV治療の長期的影響を検討する。HIV等の性感染症と妊娠に関する情報を収載した国民向け小冊子を作成し、その有効な拡散方法を開発する。「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」の改訂により、わが国独自のHIV感染妊娠の診療体制を整備し均てん化する。さらに全国調査回答をウェブ化し、データベース管理やコホート研究におけるIT支援を行う。
研究方法
1)妊婦のHIV感染に関する認識度の実態調査、2) HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査等に関する全国調査、3) HIV感染妊娠に関する臨床情報のデータベースの更新、4) HIV感染女性と出生児のウェブ登録によるコホートシステムの全国展開、5) 「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」の改訂、6) HIV感染妊婦診療体制の整備と均てん化、7) HIVをはじめとする性感染症と妊娠に関する情報の普及啓発法の開発。8) HIV感染妊娠に関する全国調査とデータベース管理のIT化とコホートシステムの支援
結果と考察
1)会議はすべてウェブ会議とした。5月と12月に研究計画評価会議を、6月にデータベース統合会議を、7月と3月に全体班会議を開催。研究班ホームページ閲覧数は月間1000~3000件を推移。全国定点6施設および奈良市内5か所の有床診療所の妊婦に対し、A3折込型リーフレット「クイズでわかる性と感染症の新ジョーシキ」を事前配布し、HIV感染に関するアンケート調査を実施。HIVスクリーニング検査陽性の95%以上は偽陽性であることの認識は、定点施設で6.6%、奈良市内でも5.9%であった。検査陽性の場合、それぞれ52.9%と55.6%が非常に動揺するとした。リーフレットの事前配布の効果が見られなかったため、過去の知識を問うような設問文を修正する必要がある。
2)全国1次調査を産婦人科・小児科で実施し、産科病院から32例、小児科病院から28例のHIV感染妊娠が報告され、2次調査へ情報提供した。
3)産婦人科2次調査から26例の報告。2019年末までのデータベースは36例増加し、母子感染60例(エイズ動向委員会報告では64例)を含む1106例のHIV感染妊娠の臨床情報が蓄積された。妊娠初期スクリーニング検査が陰性例での母子感染の報告が散見される。妊娠中や授乳中の感染が推測され、HIVスクリーニング再検査など予防対策の修正が必要。
4)小児科2次調査から23例の報告。投薬された母子の長期予後を観察する多施設コホート研究が2020年9月に稼働し、国立国際医療研究センター以外からの2例を含む24例を登録。
5)「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」第2版は、要約の改訂、推奨度の決定、解説の修正、文献の最新化を行い、日本産婦人科感染症学会の監修を得て2021年3月に刊行しホームページに掲載。
6)HIV感染妊娠が受け入れ可能な109施設のうち、ホームページへの掲載に同意が得られた60施設の一覧を公開。適応基準を満たす症例の経腟分娩を実施するためには、医療スタッフ不足を解消し、母子感染リスクの正確な情報とマニュアルの周知を行う必要がある。ガイドライン第2版では、分娩取り扱い施設の現状を重視し、分娩様式の推奨は選択的帝王切開術のままとした。
7)オンサイトでの教育啓発活動は全く実施できなかった。一方Twitter(https://twitter.com/HIVboshi)で情報発信し、令和3年3月時点でコンテンツ47件、フォロワー272名と徐々に増加。A6サイズ34ページの小冊子「HIVや梅毒をはじめとする性感染症のすべてが簡単にわかる本」は令和3年3月に発刊し、ホームページで公開。
8)産婦人科と小児科の2次調査フォームをウェブ化。令和3年度からの2次調査は、回答率確保の観点から紙面回答とウェブ回答のハイブリッド形式となる。システム支援では、REDCapを用いて複数の診療科から母子の情報を取得するフローをモデル化し、多施設コホート研究を開始した。
結論
HIV感染妊娠に関する全国調査とデータベースの更新、ガイドラインの改訂、性感染症に関する若者向け小冊子の刊行などが予定通り実施できた。妊娠中や授乳中のHIV感染による母子感染予防対策の必要性が明確になった。医療レベルや医療経済事情および国民性などのわが国の特徴に沿ったHIV感染妊娠への診療体制の構築が必要である。同時にHIVをはじめとする性感染症に関する医療従事者や一般国民の知識の向上が不可欠であり、これによりHIV感染妊婦の受け入れや経腟分娩などへの対応が可能となり、妊婦の利益と医療従事者の安全性が担保された診療体制が整備できる。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202020009B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染者の妊娠・出産・予後に関する疫学的・コホート的調査研究と情報の普及啓発法の開発ならびに診療体制の整備と均てん化に関する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(奈良県総合医療センター 周産期母子センター / 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉野 直人(岩手医科大学 医学部)
  • 杉浦 敦(奈良県総合医療センター 産婦人科)
  • 田中 瑞恵(国立国際医療研究センター 小児科)
  • 山田 里佳(JA愛知厚生連海南病院 産婦人科)
  • 定月 みゆき(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 産婦人科)
  • 桃原 祥人(東京都立大塚病院 産婦人科)
  • 大津 洋(東京大学大学院医学系研究科 臨床試験データ管理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染の妊娠・出産・予後に関して全国調査によりHIV感染妊娠例のデータベースを更新し動向を解析。HIV感染女性と児のコホート研究により、抗HIV治療の長期的影響を検討。HIV等の性感染症と妊娠に関する情報を収載した国民向けリーフレットや小冊子を作成し、有効な拡散方法を開発。「HIV母子感染予防対策マニュアル」や「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」を改訂し、わが国独自のHIV感染妊娠の診療体制を整備し均てん化。全国調査回答をウェブ化し、データベース管理やコホート研究をIT支援。
研究方法
1)HIV感染妊娠に関する研究の統括と成績の評価および妊婦のHIV感染に関する認識度の実態調査、2)HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査等に関する全国調査、3)HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析およびデータベースの更新、4)HIV感染女性と出生児の臨床情報の集積と解析およびウェブ登録によるコホートシステムの全国展開、5)HIV感染妊娠に関する診療ガイドラインの改訂とHIV母子感染予防対策マニュアルの改訂、6)HIV感染妊婦の分娩様式を中心とした診療体制の整備と均てん化、7)HIVをはじめとする性感染症と妊娠に関する情報の普及啓発法の開発、8)HIV感染妊娠に関する全国調査とデータベース管理のIT化とコホートシステムの支援。
結果と考察
HIV感染妊婦とその出生児に関する全国1次調査(産婦人科約1,150病院の約40万分娩、2018年のみは産婦人科診療所3091施設の約26万分娩、小児科約2,250病院)を3年間継続して行った。産婦人科および小児科への2次調査の結果、2019年末までに転帰が判明したのは前年から36例増加し、データベースは1,106例となった。分担研究8課題において着実な進捗が得られた。すなわち1)研究計画を適切に軌道修正し、ホームページ運営によりHIV母子感染に関する最新情報を提供し、HIV感染に関する妊婦の知識レベルの低さを広域的・経時的に検証し、教育啓発資料の提供による介入効果を推測した。2)妊娠初期におけるHIVスクリーニング検査率100%を岐阜県以外で達成した。2017年の未受診妊婦数は、314施設(37.1%)で946例であった。また2017年の梅毒感染妊婦数は199病院から313例、169診療所から243例が報告された。頻度は0.085%で、都道府県別では0%~0.29%と、人口とは無関係と思われる地域差があった。トキソプラズマとサイトメガロウイルスのスクリーニング率は46.6%と12.4%のみであった。新型コロナウイルス感染症拡大によるHIV母子感染予防対策への影響はないことを確認した。3)HIV感染妊娠報告数の減少傾向の兆しがみられた。妊娠中や授乳中の母体のHIV感染に対しては、ハイリスク例での再検査など母子感染予防対策の修正が必要性である。4)HIV感染妊婦と出生児の長期フォローアップのための多施設コホート研究には24例が登録された。5)「HIV母子感染予防対策マニュアル」改訂第8版と「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」の改訂第2版を刊行した。6)医療スタッフ数や知識と経験の不足から、HIV感染妊娠の経腟分娩の導入は困難であることが判明し、わが国に適切な分娩様式を中心とする診療体制を提案した。7)HIVや梅毒をはじめとする性感染症に関して、若者を対象とした教育啓発活動として、A3折込型リーフレット「クイズでわかる性と感染症の新ジョーシキ―あなたはどこまで理解しているか!?」を発刊し、妊娠初期妊婦へ配布した。さらにA6サイズ34ページの小冊子「HIVや梅毒をはじめとする性感染症のすべてが簡単にわかる本」を発刊した。8)産婦人科・小児科の全国2次調査回答のウェブ化とデータベースのIT化により、情報を共有化した。さらにHIV感染女性とその児の多施設コホート研究のシステムを構築し、登録を開始した。
結論
HIV感染妊娠に関する全国調査とデータベースの更新、マニュアルやガイドラインの改訂、性感染症に関する若者向けリーフレットや小冊子の刊行などが予定通り実施できた。今後はHIV感染妊娠の減少が期待される。妊娠中や授乳中のHIV感染による母子感染予防対策の必要性が明確になった。医療レベルや医療経済事情および国民性などのわが国の特徴に沿ったHIV感染妊娠への診療体制の構築が必要である。同時にHIV感染をはじめとする性感染症に関する医療従事者や一般国民の知識の向上が不可欠であり、この向上によりHIV感染妊婦の受け入れや経腟分娩などへの対応が可能となり、妊婦の利益と医療従事者の安全性が担保された診療体制が整備できると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202020009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV感染妊婦とその出生児に関する全国1次調査(産婦人科約1150病院の約40万分娩、2018年のみは産婦人科診療所3091施設の約26万分娩を追加、小児科約2250病院)を3年間継続して行った。産婦人科および小児科への2次調査の結果、2019年末までに転帰が判明したHIV感染妊娠のデータベースは1106例となった。妊娠初期におけるHIVスクリーニング検査率100%を岐阜県以外で達成した。2017年の未受診妊婦数は、314施設(37.1%)で946例であったが、HIV母子感染の要因ではなかった。
臨床的観点からの成果
HIV感染に関する妊婦の知識レベルの低さを広域的・経時的に確認した。HIV感染妊娠報告数の減少傾向がみられた。妊娠初期スクリーニング検査が陰性で、妊娠中や授乳中の母体のHIV感染による母子感染が散発し、ハイリスク例での再検査など母子感染予防対策の修正が必要性である。2017年の梅毒感染妊婦数は556例報告された。頻度は0.085%で、都道府県別では0%~0.29%と、人口とは無関係な地域差があった。トキソプラズマとサイトメガロウイルスのスクリーニング率は46.6%と12.4%で低率であった。
ガイドライン等の開発
「HIV母子感染予防対策マニュアル」第8版と「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」第2版を刊行し、医療・行政機関へ配布し、研究班や関連団体のホームページ上で公開した。わが国の医療体制と医療経済事情から、帝王切開術による分娩を推奨し、経腟分娩の適応基準も確立した。教育啓発資料として、リーフレット「クイズでわかる性と感染症の新ジョーシキ―あなたはどこまで理解しているか!?」と小冊子「HIVや梅毒をはじめとする性感染症のすべてが簡単にわかる本」を発刊した。
その他行政的観点からの成果
わが国のエイズ診療拠点病院や周産期センターにおいては、産婦人科医師不足が深刻な課題である。HIV感染妊娠の経腟分娩が可能であるのは全国6施設のみで、HIV感染妊娠への診療体制は不十分である。医療スタッフの確保と正確な情報提供や教育が必要である。全国調査回答のウェブ化とデータベースのIT化により情報を共有化し、HIV感染女性とその児の多施設コホート研究システムへの登録を開始した。関連学会や行政との共同によるHIV等の感染妊娠のレジストリーシステム構築が期待される。
その他のインパクト
エイズ文化フォーラムや市民公開講座、地域でのHIV講習会や学会シンポジウム、研究班ホームページやツイッターの運営、全国調査報告書・マニュアル・ガイドライン・リーフレット・小冊子の刊行などにより教育啓発活動を行った。しかし報道機関やSNSの利用など、よりインパクトの強い教育啓発法の開発が必要である。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
57件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
日本産科婦人科学会、日本産婦人科感染症学会、日本周産期・新生児医学会、日本エイズ学会等
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
「HIV母子感染予防対策マニュアル第8版」及び「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン第2版」発刊、「HIV感染女性と児のウェブ登録コホートシステム」の全国展開
その他成果(普及・啓発活動)
18件
ホームページ(http://hivboshi.org)・ツイッター(HIVboshi)の運営、エイズ文化フォーラム・学園祭への参加、市民公開講座等の開催、一般向け啓発冊子等の発刊、新聞掲載等   

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
2024-06-05

収支報告書

文献番号
202020009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
38,400,000円
(2)補助金確定額
32,332,000円
差引額 [(1)-(2)]
6,068,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,961,320円
人件費・謝金 6,000,163円
旅費 0円
その他 17,675,039円
間接経費 4,696,000円
合計 32,332,522円

備考

備考
自己資金:522円

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-