地域においてMSMのHIV感染・薬物使用を予防する支援策の研究

文献情報

文献番号
202020007A
報告書区分
総括
研究課題名
地域においてMSMのHIV感染・薬物使用を予防する支援策の研究
課題番号
H30-エイズ-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人 ぷれいす東京 研究・研修部門)
研究分担者(所属機関)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぶれいす東京 研究・研修部門)
  • 大木 幸子(杏林大学 保健学部)
  • 若林チヒロ (埼玉県立大学 保健医療福祉学部 健康開発学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、MSMのHIV感染と薬物使用の予防およびHIV陽性者の支援を促進することを目的に、4つの分担研究を行った。
(1) HIV陽性者の生活と社会参加に関する研究(若林)
(2) 精神保健福祉センターにおけるMSM・HIV陽性者支援の調査(大木)
(3) ダルクにおけるMSM・HIV陽性者支援の調査(樽井)
(4) MSMにおける薬物使用に対処する啓発・支援方策に関する研究(生島)
研究方法
(1) HIV陽性者調査を、これまでの拠点病院に加えて都内診療所の外来患者にも拡げた。質問紙には高齢化への備え等の事項を加え、これを外来患者に来院順に医療者より配布(回答は無記名、謝礼に500円クオカード)、回答者が調査事務局に郵送、回答の集計と分析をした(n=1,543)。

(2) 精神保健福祉センターの施設調査と相談担当者調査の結果を結合して、HIV陽性者からの相談に対する担当者の自己効力感について分析し、相談の背景情報となるHIV治療とセクシュアリティに関する研修用教育媒体を作成した。

(3) ダルクに性的少数者とHIV陽性者の受入の現状と課題の調査結果を還元し、ダルクと陽性者支援団体の職員に面接し、陽性者と薬物使用者の予防・支援策を検討した。陽性者を診療する医療者に向けて薬物使用への理解を促すパンフレットを作成した。

(4) 若年MSMの感染・薬物使用予防の事例集を5人の当事者の協力を得て作成した。臨床心理士とともに自分のコミュニケーションを振り返るセルフチェックシートを作成し、その使用法を紹介する動画を2人のYouTuberの出演を得て制作した。
結果と考察
(1) 陽性者調査から、CD4値が高い人の割合がこれまででもっとも大きく、服薬と通院の健康管理負担も軽減されていることが示された。しかし精神健康度が悪い人が多いことに変化はなかった。高齢者が増え、65歳以上が1割になった。高齢期の生活に備えていないという回答が4分の3を占め、介護サービス利用について費用と介護者のHIV理解への不安が見られ、対策の検討が課題となる。

(2) 精神保健福祉センターの調査結果の分析から、HIV陽性者の薬物相談において職員がもつ自己効力感は、施設に回復プログラムが有ると高く、相談経験が有るとHIVの知識が高く、セクシュアルヘルス相談への抵抗感が低いことが示された。研修用媒体にはHIVとセクシュアリティの基本的知識と支援のイメージが持てる内容を組み込んだ。調査の自由記述では、陽性者と薬物使用者への支援経験や方法の共有が要望され、双方の支援者の連携が求められる。

(3) ダルク調査結果還元時に同封した質問紙から、HIV、医療、社会的支援に関わる情報と学習機会が求められ、ダルクと陽性者支援団体の職員への面接で双方の連携が検討された。薬物事犯者の注射器共用経験とC型肝炎感染は高率であり、薬物依存離脱指導を行うダルク職員の協力でHIV感染予防情報を伝達することが考えられる。陽性者診療の医療者に向けたパンフレットには、薬物使用への理解を促すメッセージと安心して利用できる相談窓口とを掲載した。

(4) MSMへの予防啓発資材として、HIV感染に関連した依存(薬物、アルコール、共依存、ギャンブル)の身近な契機に気づかせる事例集を制作した。掲載されたwebサイトは4つのメディア紹介されて、アクセスは年間1万回を超え、事例集は計約3千回、さらには相談や支援、当事者組織に関するページにも745回の閲覧があった。コミュニケーションのセルフチェックシートを紹介する動画には、若年ゲイ男性に影響力をもつ2人のYouTuberの出演を得た。効果の評価が今後の課題となる。
結論
(1) 陽性者調査では、HIV関連の健康状態は改善されたが、精神健康度は悪く、変化は見られなかった。高齢者が増えているが、高齢期への備えは不十分で、介護サービスに不安をもつ人が多く、対策が課題となる。

(2) 精神保健福祉センターの薬物相談担当者のHIV陽性者相談における自己効力感の関連要因は、MSMとHIV関連福祉制度の知識、セクシュアリティへの抵抗感であった。これらの情報を提供する研修の機会、さらにはHIV診療機関や陽性者支援団体とのネットワーク形成が求められた。

(3) ダルクにおけるHIV感染症と診療に関する情報の共有、HIVに関わる医療者の薬物使用への理解によって、薬物使用・HIV感染の予防と陽性者・使用者の支援とを促す方策が検討された。

(4) 「STAY HEALTHY and be Happy」というwebサイトを、クリエイター、インフルエンサー、メディアの協力を得て作成し、MSMの薬物使用とHIV感染の予防、相談、支援に関する情報へのアクセスを促すことができた。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202020007B
報告書区分
総合
研究課題名
地域においてMSMのHIV感染・薬物使用を予防する支援策の研究
課題番号
H30-エイズ-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人 ぷれいす東京 研究・研修部門)
研究分担者(所属機関)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぶれいす東京 研究・研修部門)
  • 大木 幸子(杏林大学 保健学部)
  • 若林チヒロ (埼玉県立大学 保健医療福祉学部 健康開発学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、MSMのHIV感染と薬物使用の予防およびHIV陽性者の支援を促進することを目的に、4つの分担研究を行った。
(1) HIV陽性者の生活と社会参加に関する研究(若林)
(2) 精神保健福祉センターにおけるMSM・HIV陽性者支援の調査(大木)
(3) ダルクにおけるMSM・HIV陽性者支援の調査(樽井)
(4) MSMにおける薬物使用に対処する啓発・支援方策に関する研究(生島)
研究方法
(1) 2003年以降5年毎に実施したHIV陽性者調査を継承し、高齢化への備え等の事項を加えて質問紙を作成、ブロック拠点8病院の外来患者に、医療者より質問紙を来院順に配布(回答は無記名、謝礼に500 円クオカード)、回答者が調査事務局に郵送、回答の集計と分析をした。今回初めて、都内2診療所に通う陽性者も、同様の方法で調査した。

(2) 精神保健福祉センターの薬物相談担当者と利用者のHIV陽性MSMに面接し、施設に対しては薬物対策事業の内容、担当者対しては陽性者薬物相談に関する経験と準備性に関して質問紙を作成し、全国69施設に郵送、回答を分析し、陽性者からの相談に対する担当者の自己効力感等を検討した。これを踏まえ、相談担当者研修用の教育媒体を作成した。

(3) 薬物依存症回復支援施設ダルクの職員に面接し、各施設におけるMSM とHIV 陽性者受け入れの現状と課題に関する質問紙を作成し、全国54施設に郵送、調査結果をダルクに還元して意見を求めた。これを踏まえて薬物使用者のHIV感染とMSMの薬物使用の予防策と支援策を検討し、陽性者を診療する医療者に向けて、薬物使用への理解を促すパンフレットを作成した。

(4) MSMコミュニティのインフルエンサーの助言を得て若年層を対象にwebサイトを開設し、若年ピア・サポーター養成講座を実施した。感染・薬物使用予防の事例集を5人の当事者の協力により作成し、自分の日常のコミュニケーションを振り返るセルフチェックシートを臨床心理士と共に作成し、その使用法を紹介する動画を2人のYouTuberの出演を得て制作した。
結果と考察
(1) 陽性者調査から、CD4値が高い人の割合がこれまででもっとも大きく、服薬と通院の健康管理負担も軽減されていることが示された。しかし精神健康度が悪い人が多いことに変わりはなかった。高齢者が増え、65歳以上が1割になった。高齢期の生活に備えていないという回答が4分の3を占め、介護サービス利用について費用と介護者のHIV理解への不安が見られ、対策の検討が課題となる。

(2) 精神保健福祉センターの調査から、依存回復プログラムは64%の施設が実施し、相談担当者の22%が性的少数者、14%がHIV陽性者への対応経験をもっていた。陽性者相談で職員がもつ自己効力感は、施設に回復プログラムが有ると高く、相談経験が有るとHIVの知識が高く、セクシュアルヘルス相談への抵抗感が低いことが示された。教育媒体には疾患と性の知識と支援のイメージが持てる内容を加えた。

(3) ダルク調査では、回答施設の93%が性的少数者を、74%がHIV陽性者を受け入れており、その過半でHIVとセクシュアリティの理解をはかる勉強会等の準備をしていた。HIVの新知識と医療福祉情報は十分ではなく、情報提供が求められた。また薬物使用者に感染予防情報を届けるために、ダルクとの連携を検討した。

(4) 若年MSMを対象とするwebサイトには、HIV感染に関連する薬物や共依存等の身近な契機に気づかせる事例集等を掲載した。webサイトはメディアに紹介され、アクセスは年間1万回を超え、相談や支援、当事者組織に関するページの閲覧も確認された。コミュニケーション・セルフチェックシートの効果評価が今後の課題となる。
結論
(1) 陽性者調査では、HIV関連の健康状態は改善されたが、精神健康度は悪く、変化は見られなかった。高齢者が増えているが、高齢期への備えは不十分で、介護サービスに不安をもつ人が多く、対策が課題となる。

(2) 精神保健福祉センターにおける薬物対策事業の内容と相談担当者の陽性者からの相談の経験と準備性を明らかにし、相談担当者の自己効力感に関連するHIV関連福祉制度とセクシュアリティの情報共有をはかる教育媒体を作成した。

(3) ダルクにおける性的少数者とHIV陽性者の受入の現状と課題を明らかにし、ダルクにおける陽性者の支援、HIV診療機関における薬物使用者の理解、使用者の感染予防を促す方策を検討した。

(4) 「STAY HEALTHY and be Happy」というwebサイトをMSMコミュニティの情報発信者の協力により作成して、若年層に身近な事例と相談や支援の情報を提供し、多数のアクセスを得て薬物使用とHIV感染の予防を促すことができた。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202020007C

収支報告書

文献番号
202020007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,200,000円
(2)補助金確定額
7,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 706,396円
人件費・謝金 1,861,471円
旅費 61,202円
その他 2,910,931円
間接経費 1,660,000円
合計 7,200,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-