血液製剤によるHIV/HCV重複感染患者の肝移植に関する研究

文献情報

文献番号
202020006A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤によるHIV/HCV重複感染患者の肝移植に関する研究
課題番号
H30-エイズ-指定-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
江口 晋(国立大学法人長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 江川 裕人(東京女子医科大学 消化器外科)
  • 江口 英利(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 上平 朝子(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 免疫感染症科)
  • 遠藤 知之(北海道大学病院 血液内科)
  • 玄田 拓哉(順天堂大学医学部附属静岡病院 消化器内科)
  • 篠田 昌宏(慶應義塾大学医学部外科)
  • 嶋村 剛(北海道大学病院 臓器移植医療部)
  • 高槻 光寿(琉球大学大学院 医学系研究科)
  • 長谷川 潔(東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学 肝胆膵外科)
  • 原 哲也(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(医学系))
  • 中尾 一彦(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 消化器病態制御学分野)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター)
  • 四柳 宏(東京大学 医科学研究所先端医療研究センター感染症分野)
  • 塚田 訓久(国立国際医療センター戸山病院 エイズ治療・研究開発センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主目的は①重複感染者における肝移植適応基準の確立、②当該患者に対する速やかな肝移植登録と実施、③移植周術期のプロトコルの確立である。また、脳死肝移植適応について、重複感染者でのMELDスコアの妥当性及び肝細胞癌(HCC)についての適応も重複感染者の特徴を明らかにし、2019年より拡大された適応基準であるJapan Criteriaとの関連を検証する。同時に重複感染症例の肝細胞癌(HCC)に対する治療の特徴、HCVに対するSVR症例での肝移植適応の確立、血友病患者での肝胆膵外科手術の現況調査、肝線維化進行のメカニズムについて、現行の肝移植適応基準の妥当性、標準治療の施行率等を検証する。肝移植実施例では、周術期の凝固系、合併症を解析する。最後に2018年刊行した「ベストプラクティス」を元に症例の蓄積を行い、免疫抑制剤や抗HIV治療、移植後のHCV治療のプロトコルの更新を行う。
研究方法
①重複感染患者における肝移植適応基準の妥当性、周術期プロトコルの検証・確率:重複感染患者においてChild-Pugh Bの患者はMELD16点で、Child-Pugh Cの患者はMELD28点で登録し、半年ごとに2点加算される重症に分類された。適応症例を速やかに脳死登録し、肝移植を遂行すること、また実施した肝移植症例の蓄積にて、肝移植適応評価のエキスパートの分担研究者にデータ解析の結果を提示することで、この適応基準が適切であるかを検証する。
②エイズ診療拠点病院との連携:国内最大の拠点病院である国際国立医療研究センター/エイズ治療・研究開発センター(ACC)「救済医療室」内に『C型肝炎に対する治療(肝検診・肝移植相談)』の相談窓口が開設されており患者から直接の肝移植に関するコンサルトに対し連携して対応、研究代表者 江口 晋がACCの診療登録医となり、肝移植適応のある可能性のある症例の相談を受け入れた。
③血友病患者に対する肝胆膵外科手術の全国調査:肝移植は肝胆膵外科手術の中でも最も高侵襲手術であり、大量出血のリスクは高く術中出血の制御が特に重要である。一方、血友病症例における凝固因子の補充法について、一般的な消化器手術に関するガイドラインはあるが、肝移植を含めた肝胆膵外科に特化したものはない。本邦における血友病症例に対する肝胆膵外科手術の全国調査を行い、肝移植におけるプロトコルの参考とする。
④HIV/HCV重複感染者における肝細胞癌(HCC)対する肝移植(脳死、生体)の検討、HCCに対する治療成績(全国調査):2019年より肝細胞癌の脳死肝移植適応基準が更新された。現在までに本邦での血友病を背景とした症例のデータはなく、重複感染者のHCC合併例の特徴及び従来のミラノ基準を適用するのが妥当か否かを明らかにし、新規基準が必要か策定する。肝予備能Child -Pugh Aに発生したHCCの本邦での生体肝移植適応を検討するため、HIV/HCV重複感染者のHCCに対する適切な肝移植時期、腫瘍条件を検討する。
結果と考察
本邦で最多数のHIV症例を診療、データ豊富なACCの救済医療室と連携し、全国の症例について肝移植適応や肝硬変診療についての相談を受け入れた。現在までに6例を対応し、うち2例は脳死肝移植を施行した。脳死肝移植は全例生存、良好な成績である。今後は生体肝移植症例の長期フォローも追加する。新しい脳死登録ポイントのランクアップにより、今後の適応症例、登録症例の全国展開を進めて行く。また、HCCの合併についての文献的報告はあるが、国内の血液製剤による感染者のデータは不明であった。今回、アンケートの回収率は31%と十分とはいえず、正確な実態が明らかになったとは言い難い。少ない症例解析から、本邦の肝癌診療ガイドラインに沿った標準治療が適切に施行されていない可能性が明らかになった。血友病症例における肝胆膵外科の手術について全国調査を行った結果、血友病を背景としているためか縮小手術が選択された可能性が示唆された。術後合併症に関しては、NCDと比較しても遜色なく、術後30日以内の死亡症例も認めなかった。専門施設での肝胆膵手術は比較的安全に施行されていることが示唆された。
結論
血液製剤によるHIV/HCV重複感染者の脳死肝移植登録基準や周術期管理を確立、肝移植適応のある患者に対し、速やかに脳死登録及び脳死肝移植を実行し、良好な経過を得た。班研究の進捗を社会に発信することで、肝移植適応症例を多く拾い上げ、薬害被害者の救済を継続していく。また、AIDSの治療が確立されたことにより、HIVは長期的治療疾患と捉えられるため、藤谷班との連携を十分に行い、肝不全の予防、啓発活動にも努める。また、COVID-19感染拡大の現状でも、救済が必要な方を的確に拾い上げ、治療を行っていくことを継続したい。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202020006B
報告書区分
総合
研究課題名
血液製剤によるHIV/HCV重複感染患者の肝移植に関する研究
課題番号
H30-エイズ-指定-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
江口 晋(国立大学法人長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 江川 裕人(東京女子医科大学 消化器外科)
  • 江口 英利(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 上平 朝子(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 免疫感染症科)
  • 遠藤 知之(北海道大学病院 血液内科)
  • 玄田 拓哉(順天堂大学医学部附属静岡病院 消化器内科)
  • 篠田 昌宏(慶應義塾大学医学部外科)
  • 嶋村 剛(北海道大学病院 臓器移植医療部)
  • 高槻 光寿(琉球大学大学院 医学系研究科)
  • 塚田 訓久(国立国際医療センター戸山病院 エイズ治療・研究開発センター)
  • 長谷川 潔(東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学 肝胆膵外科)
  • 原 哲也(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(医学系))
  • 中尾 一彦(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 消化器病態制御学分野)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター)
  • 四柳 宏(東京大学 医科学研究所先端医療研究センター感染症分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤によるHIV/HCV重複感染(以下重複感染)が社会問題である本邦で、肝不全に対する治療の選択肢として肝移植治療を安定させ供給することは患者救済のため急務である。本研究の主目的は、HIV/HCV重複感染者における肝移植適応基準の確立、迅速な肝移植登録と実施、移植周術期のプロトコルを確立することである。
研究方法
①重複感染患者における肝移植適応の評価、適応基準の妥当性、周術期プロトコルの検証・確立:従来のChild-Pugh分類からMELDスコアを基盤としたものに変更、重複感染患者は半年毎に2点加算される重症に分類された。適応症例を早急に脳死登録・肝移植を遂行、また適応評価の専門家である分担研究者にデータ解析の結果を提示し、本適応基準が妥当であるかを検証する。②エイズ診療拠点病院との連携:国際国立医療研究センター/エイズ治療・研究開発センター(ACC)「救済医療室」内『C型肝炎に対する治療(肝検診・肝移植相談)』の相談窓口の照会に対し、研究代表者 江口晋が診療登録医として、肝移植適応の可能性がある症例の相談に応じた。③血友病患者に対する肝胆膵外科手術の全国調査:当該症例の凝固因子補充法は、一般的な消化器手術のガイドラインはあるが、肝移植を含めた肝胆膵外科に特化したものはない。上記の全国調査を行い、肝移植におけるプロトコルの参考とする。④HIV/HCV重複感染者における肝細胞癌(HCC)対する肝移植(脳死/生体)の検討、HCCに対する治療成績(全国調査):時下、本邦での血友病を背景とした症例のデータはない。重複感染者のHCC合併例の特徴及び従来のミラノ基準の適用が妥当なのか、新規基準が必要であれば策定する。⑤肝線維化メカニズムの解明:先行研究より発見した肝移植後のmiRNAの発現を重複感染症例の肝移植経験が豊富なイタリアUdine大学と共同で、術後肝生検の組織を用い解析した。⑥重複感染者におけるHCV SVR後の肝機能推移:肝機能スクリーニングのため当院受診した47 例内で、初診時に肝硬変へ進展していた 9 症例、抗ウイルス療法により陰性化した3症例を対象とし解析を行った。肝予備能推移について MELDスコア・ Child-Pugh grade・ICGR15 およびアシアロ肝シンチ LHL15 を用い後方視的に解析、HCV 排除が肝予備能に与える影響を検討した。
結果と考察
①現在までに5例脳死肝移植を行い、特に北海道大学の症例は門脈圧亢進症で血小板低値かつ広汎な抗HLA抗体により製剤確保が困難だったが、ロミプレート®(トロンボポエチン受容体作動薬)を投与、血小板数を概ね正常化し移植に臨んだ。肝機能検診より肝機能と肝線維化・食道静脈瘤の関係を精査すると、APRI・FIB4が食道静脈瘤との相関を示し、線維化マーカー(m2bp)はHCV単独と比較、重複感染者で有意差が見られた。以前の研究成果と周術期管理を基に『血液製剤によるHIV/HCV重複感染症例に対する肝移植のベストプラクティス』を発刊した。②ACC救済医療室と連携し脳死肝移植登録と肝硬変症例支援の個別相談6例中、3例を肝移植適応と判断し登録、2例肝機能検査後、脳死移植を施行。時下1例は肝移植適応なく、HCCの重粒子線治療を行うこととなった。現在、COVID19下であるため、患者の移動も困難であり,重複感染患者に対するオンライン診療による肝機能評価を今後推進する。③血友病患者に対する肝胆膵外科の全国調査より、回答ありの48例を解析し、術式は肝切除が一番多く28例であった。合併症は9例(31%)、うち2例は術後出血していた。全国データ(NCD)と比較し、合併症発症に差を認めなかった。④HCCの全国調査から、『Child-Aかつ単発』でも肝切除が為されていない症例が往々存在することが明白となり、診療ガイドラインに則った適切な治療が遂行されていない可能性が示唆された。⑤イタリアUdine大学の症例を、肝生検した22例とHCV単独感染で肝移植を行った19例でmiRNAの発現を比較、移植後6か月で組織学的に線維化していない時点でも、miRNA101(肝線維化に関連)/122/192(共に感染・HIV/HCVのreplicationに関連)が重複感染症例において有意差が見られた。⑥MELD スコア、Child-Pugh grade、肝予備能試験であるICGR15 およびアシアロ肝シンチ LHL15 推移から、SVR 症例は経過中に不変/改善していたが、非SVR 症例では不変/悪化していた。
結論
AIDSの治療が確立されたため、HIVは長期的治療疾患と捉えられる。藤谷班との連携も十分に行い、肝不全の予防、啓発活動にも努め、COVID-19感染拡大の現状でも、救済が必要な方を的確に拾い上げ、治療を継続したい。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202020006C

収支報告書

文献番号
202020006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
24,000,000円
(2)補助金確定額
24,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 17,418,820円
人件費・謝金 3,121,359円
旅費 1,130,130円
その他 2,333,926円
間接経費 0円
合計 24,004,235円

備考

備考
分担研究者が各研究項目に沿って購入した試薬等の消耗品にて端数が発生している。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-